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    水鳥の

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    水鳥の

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    ゆまおさ雰囲気SS

    #ゆまおさ

     遊真は“三雲修”と言う存在と出会い、信じられる存在を得た。
     修は“空閑遊真”と言う存在と出会い、自分を信じられるようになった。

     ランク戦も終盤に差し掛かる頃。
     夜明けも近い時刻、玉狛支部の屋上に二つの影が佇んでいた。遊真と修だ。修が遊真をそこに呼び出し、二人は向かい合っていた。
    「――ぼくは、空閑が好き、なんだと、思う」
     しりすぼみする修の言葉が、玉狛の夜闇に溶ける。それを聞いていた遊真は「ありがとう」と返事をした。
    「ち、違うんだ」
     遊真の言葉に修は慌てた。
    「オサム?」
    「本当に、空閑が好きなんだ……恋愛、的な意味で」
     修は目を瞑り、たどたどしく言葉を紡ぐ。
    「空閑に会って、最初は空閑の強引さや世間知らずな所に目を奪われたのかもしれない。次第に空閑の強さに惹かれて、それで……」
     オサム、と遊真が修の言葉を制止した。修は恐々と眼を細く開く。
    「それはきっと恋じゃない」
     修は遊真の言葉に目を見開いた。
    「く、が?」
    「きっと憧れだ」
     遊真は言う。強い者への、持っていないモノへの憧れ、なのだと。
    「それでも、ぼくは……」
    「オサムはどうしてそれを言おうと思ったんだ?」
    「え?」
     それは、と修は口ごもり、俯いた。そんな修を遊真は真剣に見つめた。遊真にはわかっている、“修は嘘をついていない”事を。ただ、遊真は修のその感情を受け取ることはできなかった。
     冷たい風が二人を撫で上げた。
     ぼくが、と修が顔を上げる。その眼は怯えを知らない純粋で力強く、遊真を射抜いて離さない。
    「ぼくが、そうするべきと思ったからだ」
     自らの危険を顧みない、あの時と同じ。
    「オサムはどうしたいんだ?」
     遊真は問う。好きならばその先があるのだろう。まさか、それだけで終わるとは思わない。
    「どうしたい?」
     きょとん、と返す修に、遊真は笑ってしまう。
    「キスしたいとか、その先とか」
    「そのさきって!」
    「でも考えたんだろ?」
    「ち、がく、ないけど」
     それでオサムはどうしたいんだ? と遊真は促す。
    「恋人として、付き合ってほしい」
     修の言葉に嘘はない。
     ――なぁ、レプリカ。オレは……。
    『ユウマ自身が決める事だ』、そう聞こえた気がした。

    「付き合ってもいい。――でもオサムの心には応えられないぞ?」
     その言葉に、修は安堵した。
    怖かった。気付いてしまった『空閑遊真を好き』というこの想いに、よぎってしまった『空閑遊真の命の猶予』という不安に、区切りをつけたかった。
    「今は、今はそれでいい」 
     空閑遊真という“存在”がこんな感情を持った自分を傍に置いてくれる。それ以上を望んではいけない気がした。いや、もしかしたら、もう望んでしまっているのかもしれない。
     静寂の中で夜明けの鼓動がする。
     これがスタート地点なのだと、修は思う。何も見えない闇の中で、遊真は修の心に寄り添ってくれる選択をした。『相棒』と新たに『恋人』になる事を許してくれた。
     ――今は、それで十分だ。

    『起こった事は一つの意味だけじゃ決して終わらないよ』
     大侵攻の後、失ったレプリカを探すのに付き合ってくれた迅が放った意味深の言葉が遊真の頭によぎった。
     ――オサムを理解したい。
     遊真の中でその感情が芽生えたのはこの時だった。



     それから遊真は考えた、修の考えを知りたかったから。けれども思い浮かぶのは過去の自分ばかりだ。
    遊真の心はいつだって殺風景だった。長引く近界での戦争が遊真の心を徐々に灰色に染めていった。――レプリカはわかっていたのだろうか、と思う。戦争で戦うと言う事、黒トリガーとして戦う遊真の心の行方を。
     遊真は自分が大切と思ったものを失くしてから気付く。
     近界で育った遊真の周りは、いつだってこの手から零れ落ちていく。その事に気づいてももう手遅れだ。だから、自分を納得させる言い訳を考えることは得意になった。――けれど。
     遊真は玉狛の屋上で青い空を見た。この空の青さを遊真は知っている。玄界も近界も変わらない青。
     最初はオヤジだったな、と思った。オヤジを取り戻すためにモガミさんを探して、絶望して、やっぱり、と思った。どこかで無理なんだろうという感情があったから。
    ――なのに。
     今だって目標のために走り続けている。遠征はもうすぐだ。玉狛第二は全員で近界に行く。
     よぎるのは、オヤジや仲間だった、そして敵だった奴らの死に顔。
     そして、ランク戦で緊急脱出した修の顔……。
     ――オサムの代わりはあるのか?
     この時初めて、不安がよぎる。
     流れないはずの涙が遊真の頬を撫でた気がした。



     想いを聞いたあの日と変わらない夜闇。遊真は玉狛の屋上に遠征間近だというのにあの時と同じ時間に修を呼び出した。あの時は修が呼び出したんだったか。
     ――まぁ、関係ないか。
     ここからもう一度、始めよう。あの時より僅かに温かさを含んだ風が遊真を包む。
    「どうしたんだ、空閑?」
     修の声が聞こえたのは扉の開く音、それから数歩、歩く音がした後だった。
    「オサムの心に応えようと思ったんだ」
     修を視界に入れないまま、遊真は言う。その言葉に修の息をのむ音が聞こえた。
    「――ぼくで、いいのか」
    「オサムがいい」
     間髪入れずに返された言葉に、修は時が止まった気がした。
    「泣くなよ、オサム」
     その時、遊真は視界に修を入れた。そして、優しく微笑む。
    「ないて、なんか……」
    「泣いてる」
     遊真はそっと修に近づいて、修の顔に手を差し出す。修は顔を下げ、それをそっと受け入れた。
     静寂の中で夜明けの鼓動がする。
     二人の影は柔らかく重なった。


    『起こった事は一つの意味だけじゃ決して終わらないよ』

    「サクラ?」
    「あぁ、春を告げる花だよ」
    「へぇ、ニホンにはそう言う花があるんだな」
     木洩れ日の中、遊真と修は桜の木を前にしてそんな会話をした。
     ――白くて、ふわっとしているのは、空閑にそっくりだ。
     ――おれの心に色をくれる姿はオサムみたいだ。
     二人の心にほんのりと温かい何かを残して。
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    水鳥の

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    『オサム』
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