あいあむきゃっと!吾輩は猫である。名前は既にある。……とまあ、テンプレートな挨拶は横に置いておいて。俺は今、異世界とやらにいる。目の前にいる恰幅の良い男(神官、と名乗っていた)が言うには、俺はこの世界の救世主らしい。
………いやなんでだ。なんで世界の命運を1匹の猫に託そうとするんだ。バカかこの世界バカしかいないのか
こう見えても俺には下僕(飼い主)がいる。定期的に俺のふわふわの毛に顔を埋めて『ッハァ〜〜〜〜〜〜〜〜キマる〜〜〜〜〜〜』と言いながら吸ったりぷにぷにと肉球を触りながら『ほあ……とってもキュート……これは国宝……』とか言ったりするが毎日欠かさず極上の餌を与え丁寧にブラッシングをし、俺の調子が悪い時にはすぐに気が付き医者へと走る優秀で真っ当な下僕である。定期的に訳のわからないことを言うが。この間は宗教とやらの勧誘に来た人間に『うるせえ私が猫飼ってるんじゃねえ私がお猫様のお世話をさせて頂いてるんだよ口を慎め』とか熱弁してたが。相手引いてたぞ。
まあとにかく、下僕のようにその魔王とやらが猫好きならきっと取り付く島はあるはずだ。
「どうやら魔王は【ケルベロス】なる魔獣を手懐けているらしいのだ」
前言撤回。絶対なんとかならねえ。
ケルベロスなる生き物は現世の下僕(飼い主)がやっていたゲームなる薄っぺらい機械に出ていたので知っている。確か首が3つあるデカイ犬だ。魔王、犬派じゃねえか。行ったら最後、丸呑みにされる。
「というわけで救世主様…どうか、どうか魔王を倒し我らをお救いください……」
「ニャー(無理に決まってんだろ)」
「おお…了承してくださるとはなんと慈悲深いこれで世界は救われます」
「ニャブニャニャ(了承してねえよまさか俺の声聞こえてねえのか)」
なんてこった。こいつら俺の声が聞こえてない。嘘だろ。魔法なんてもんはよく知らんが召喚よりも翻訳の方が簡単なんじゃないのか。
「この扉をくぐれば魔王城へ辿り着きますさあ救世主様」
「フシャー(離せええええええええ)」
毛を逆立てる俺を男は大きな扉の前へ押す。全身で抵抗しているがびくともしない。爪を立てても分厚い服には刺さらない。
そうこうしている内に扉が開いた。
いや、内側からこじ開けられた。
「…………………………………おい」
聞き覚えのある声だった。だが、俺の猫としての本能が『逆らってはいけない』と警鐘を鳴らす。
「さっきから聞いていればなんだ魔王を倒せ誰に向かって言ってんだ」
ゆらり、と扉から人が出てくる。背後の光が眩しくて顔はよく見えない。が、声で分かる。こいつは怒っている。
「てめえ私のご主人様に何危険なことさせようとしてんだこの野郎」
(下僕ええええええええええええ)
扉から現れたのは俺の飼い主──もとい、下僕の女だった。