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    owl47etc

    @owl47etc

    🦉。呪の文字置き場。

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    owl47etc

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    呪専夏七のバレンタイン。夏←七。そして七は一切出てこない。🌼はスノードロップで、正式名はゲッケブレウ。

    夏油傑は絶不調だった。
    朝は肘で味噌汁の入ったお椀を倒してズボンを濡らし、座学で行われたテストでは解答欄をずらして答えを書いてしまい、訓練では五条に1勝すらあげることができなかった。なお、勝ち星がゼロではあるが引き分けに持ち込めたことだけは強く主張しておく。0勝2敗2分だ。五条に見事なまでに投げ飛ばされ、芝生の上で仰向けに転がったまま、ぼんやりと空を眺める。雲一つない青空が広がっていた。

    「傑、何。やる気ねぇの?」

    青く晴れやかな空から一変、太陽の光を浴びて白く輝く髪と、真っ黒なサングラスから覗くきらきらしくも刺すような蒼が視界を塞ぐ。苛立ちを一切隠しもしない五条は胸ぐらを掴み、乱暴に持ち上げる。無理矢理引き上げられ、掴まれた制服の詰め襟が首が締め付けられる。苦しさから逃れるために上半身を起こして胸にかかった腕を振り払う。咳き込む夏油を気にすることもなく、五条はポケットに手を突っ込んで見下ろし続けている。

    「ふざけんのも大概にしろよ。死にたいワケ?」
    「っ、私だって、偶には調子が悪いことだってあるんだ。」
    「気が散ってるだけだろ。今のオマエより灰原や七海相手のがまだマシなんだけど。」

    そう吐き捨てた五条は、夏油を背に、演習場の階段で待っている夜蛾と補助監督の元へとゆっくり歩いていく。五条ご指名の任務が急遽入ったらしく、メンドクセェ、と大袈裟に嫌がるそぶりを見せる五条と、それに教育的指導をする夜蛾のやりとりが続く。一級では相手にならなかった任務で、御三家絡みで五条に御鉢が回ってきたそうだ。補助監督を引き連れてこの場を去る五条を、夏油は芝生の上に座ったまま視界に入れていた。
    五条に図星を突かれ、どうも居心地が悪い。大体は人付き合いが何かとは分かっていない唯我独尊を地で行く彼を諭すのが役目なのに。歯車が噛み合わないだとか、いつもより身体の動きが良くない、体調がおかしいわけではないのだ。

    「五条キレさすなんて珍しい。今日朝から変じゃん。」

    遠巻きに二人を眺めていた家入が夏油の側までやってくる。味噌汁をぶちまけたところをばっちり目撃している家入は、熱でもあんの?と全く心のこもっていない平坦な声色で尋ねてくる。

    「別に。ただ少し気になっていることがあるだけさ。」

    夜蛾もいない、五条もいないならば多少授業をサボったところで問題ないだろう。どうせあと十分もすれば終わるのだから。やっとのことで立ち上がり、色の変わった制服を叩いて土を落とす。ご丁寧に踏みつけまでして、腹についた足跡を丹念に消していく。

    「気になるって……あーバレンタイン?モテる男は辛いな。」

    今日という日を思い出し、家入はからかうようにして夏油の肩を叩いてくる。去年、夏油はその性格と見た目、そして誕生日が近いこともあり補助監督やら窓、街でひっかけた女達から大量のチョコを手にしていた。今年も合間合間にチョコを渡されている。
    その中に気になる子でもいたのか。それともとんでもないものでももらったか。笑いのネタにするつもりの家入に、携帯を操作して写メを見せる。なんだなんだと覗き込んだ家入が、それを見て首を傾げる。

    「何コレ。」
    「朝、私の部屋の前に置いてあった。」

    写っているのは白い花が一輪と、折り目のついた白い紙だった。縦横斜めに折り目の入った紙は、丸く、ところどころ三角や四角に切り抜かれている。子供の頃に折り紙を適当に折って、折り目の部分をハサミで切って遊んだ切り紙だと思われた。切られていないスペースに、大きめの丸が4つと、その上に小さな丸が合計6つ。それ以外は何も書いていない。バレンタインの贈り物、にしては不可解な点が多く、差出人も不明。嫌がらせでもなさそうで、差出人の目的と意味が分からず、夏油はこれを見つけてから今の今まで悩んでいるのである。

    「残穢は?」
    「残ってなかった。花言葉に意味があるのかとも思ったんだけど、この花が何なのか分からなくてさ。もうお手上げ。」

    白い花、だけでは該当するものが多すぎる。白い数枚の花びら、下向きに咲いているのは特徴的かもしれない。しかし、バラやチューリップなど、誰でも知ってそうなものではなかった。現に家入も見たことない、と呟いている。

    「これだけだと呪いでもかけてるみたい。」
    「バレンタインに?」
    「モテるからな。女の嫉妬ってやつ。」

    夏油の不調にも、その原因にも興味が失せたのか、家入は授業終わったしタバコ吸ってくる、と踵を翻した。残された夏油は、もう何度目にした覚えていない携帯の画面の写真を見て息を吐いた。
    花を贈られることは多々あった。愛を綴られたメッセージカードを受け取ったこともある。妬み塗れの怪しさ満点の悍ましいものだって目にしたことがある。それは流石に受け取らなかったし、即座にゴミ箱に投げ入れたが。しかし、写真の花と切り紙からは、何も感じ取れないのだ。好意か悪意、どちらかはっきりしていれば気にも留めなかっただろう。どちらでもないから意図を計りかねている。



    捨てる気にもなれず、気付けば夜8時。あれからも気がかりで白い花、だけを手がかりに植物図鑑を眺めたり、窓や補助監督に聞いてもみたが誰も花のことも、これを置いた人物にも、意味にも心当たりがないと言う。ここまでくると逆に気になってしまって、意地でも探し出してやろうと奮起した。
    切り紙を手にし、書かれた丸をじっと睨む。残穢は何度確認しても見当たらない。書かれているのは丸のみ。大きな丸が4つ。その上の小さな丸が6つ。均等ではなく、左から大きな丸の上に2つ、1つ、2つ、1つと並んでいる。穴埋め問題にしてはヒントがなさすぎる。ただの丸では筆跡を辿ることもできず、強いて言うなら綺麗な丸が書かれている、くらいだろう。
    このままでは考えすぎて眠れなさそうだ、と幾許か不安に感じ初めた頃。転機が舞い込んできた。

    「夏油さんこんばんわー!!」

    如何にも任務を終えたばかり、といった様子の灰原が夜であることも気にせず夏油の部屋を訪ねにやってきた。頬にすっかり乾いた擦り傷を残したまま、これお土産です!と紙袋を差し出してくる。と、同時に腹の虫が鳴り、二人して笑う。食事をしてからくればいいものを。灰原に素直に告げれば、早く僕の活躍を話して、あとお土産渡したかったんです、とこれまた元気よく返ってきた。お腹が空いた後輩のために、お土産を開けて一つ手渡す。本人もそのつもりだったようで、ありがとうございま…で開けた口でおまんじゅうに齧り付いた。遠慮があるのかないのか、そこが灰原のいいところだ。

    「あ、それ!」

    二口目を齧りつこうとした灰原が、何かに気付く。彼の手はおまんじゅうを持っているので何を指しているのか分からない。灰原は手にした食べかけのおまんじゅうを口に詰め込むと、開いた手で夏油の側を指差した。

    「それってどれだい?」
    「もごっ!」

    咀嚼しながら必死に指を動かす。手を空けるためなら、机にでも置けばよかったのに。もごもごと何かを伝えようとする灰原を見ながら、周辺のものを同じように指差してみると首を横に振られる。コップ、は違う。プリントも違う。ペットボトルも違う。あとは。

    「これ?」
    「ふぁい。」

    灰原が頷いたのは、朝から夏油を悩ませている花と切り紙だった。今日初めて掴んだ手がかり。謎が解けそうな予感がする。夏油は切り紙と花を手にして、灰原の前に置いた。

    「これ、灰原が?」
    「七海です。」
    「七海が……?」

    差出人は判明した。が、そのせいでますます意図が分からなくなった。七海は悪戯をするような性格ではない。

    「僕ももらったんです。なんだったっけ…えーと、げっけぶ…ら、る?とかいうやつです。」

    自身もあまり理解をしていない灰原のふわっとした説明によると、花も手紙もデンマークでバレンタインに送るもの。送るときは匿名で、差出人をあてると別の日に何かもらえる。らしい。
    灰原と七海でバレンタインの話をしていたとき、毎年母と妹からチョコをもらっていたと語った灰原に、祖父からもらった、と七海が教えてくれたのだ。面白そうだから欲しいとねだり、匿名の意味が無いと苦笑しつつも七海は灰原に花と手紙をくれたそうだ。
    花は本来押し花にするのだとか。時間がなくてそのまま渡されて、今は灰原の部屋で押し花にしていると言う。
    用が済んだ灰原はご飯を食べに食堂へと向かった。残された夏油はもう一度、花と切り紙を手にする。
    バレンタインに渡すもので、匿名で送るもの。大きな丸4つは七海建人で、小さな丸6つはナナミケント、フリガナだ。夏油を悩ませていた謎は、いとも簡単に解けてしまった。知識があれば容易、でなければ解けるはずのない難問。つまり、七海はこれを気付かれなくていいと思って部屋の前に置いたのだろう。だが、夏油は意味を知ってしまった。放置して少し萎びた白い花を、水を入れたコップに挿して切り紙の丸を指でなぞる。
    明日、任務から戻った七海に、差出人をあてたら何がもらえるのか聞いてみよう。



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