13:30、伏黒と野薔薇と窓からの報告よりも遥かに等級の低かった呪霊相手の任務終わり。予定よりも手早く済んだため、そのままチェーン店のカフェで報告書を作成し、さて、提出をしに行くか、という所で見覚えのある2人組を見つけた。
相手も気付いたらしい。軽く会釈する少年と、隣に合わせてとりあえずといった形で同様に会釈した後に、少年に耳打ちする少女。そういえば、彼女とは初対面だった事を思い出す。
「お久しぶりです、七海さん。」
「こんにちは伏黒くん。……と、初めましてですね。呪術師の七海建人と申します。」
「え、あっ、釘崎野薔薇です!」
互いに自己紹介を終えたところでどうしたのか、と聞けば、早朝からの任務を終えた帰りだという。今日はまだ何も食べていないということで、補助監督の許可も得て、何か食べて帰ることにしたという。
言われてみれば少しぐったりした様子の二人。学生だろうから、ファミレスかチェーン店で済ますつもりなのだろう。彼らの今置かれている状況が、ふと、過去の自分と重なる。
「私もこれからお昼を食べるところなんです。よければ一緒にどうですか?」
「いいんですか!?」
「おい、釘崎……」
「二人とも食べたら高専に戻るのでしょう?私も用があるんです。その後の目的も一緒ですし、気にしなくていいですよ。」
遠慮する伏黒くんは口を閉じる。彼らを迎えに来る補助監督の車に、ついでに乗せてもらいたいと全く彼らに得しかない形だけの交換条件を申し出れば、それなら…と、了承してくれた。
近場によく行く店がある。そこでいいかと確認をとれば、余程お腹が空いていたのだろう、どんな店なのかも聞かずに頷かれた。
「うわっ、お洒落……」
「三人、できれば広めのテーブル席で。」
二人を連れてきたのは、夜は魚介メインのメニューにワインが豊富なバル、昼はパスタにプチビュッフェの付いたランチとデザートを提供しているイタリアン。川沿いのテラスまで付いているお店に、釘崎さんは辺りを見回して楽しそうにしている。
ピークは過ぎたのだろう。店内は半分も人がおらず、私の身長を考慮してか六人は座れそうなボックス席に案内される。
店員から渡されたメニューを開き、好きなのをどうぞ、と差し出せば、二人してメニューに釘付けになる。え、パスタにビュッフェが付いてくるの?見ろ伏黒、ウニクリームだって!七海さん、…これどんなのですか。聞き覚えのない料理名に対する質問に答えながら、何を頼むのか決める二人。店員を呼んで注文をし、この店が初めての二人のためにビュッフェの説明もしてもらう。
「あそこに並んでるの好きなだけ食べていいんだ。」
「パスタだけでも結構ボリュームありますから、気を付けて下さいね。」
「はーい!一先ずサラダと、飲み物よ。」
我先にとビュッフェコーナーへ向かう釘崎さん。彼女のはしゃぎっぷりを見て、連れてきて正解だったと思う。
「……七海さん、こういうところ来るんですね。」
「えぇ。目当てはビュッフェですけどね。」
「え、」
「おかわりし放題ですから。普段よりもお腹が空いた時によく来ます。」
意外。口には出さないが、顔に出ている伏黒くんに、君も何か取ってきたらどうですかと進めれば、少し間を置いて席を立つ。彼も気になっていたらしい。置かれた料理を前にどれを食べるか悩んでいる。そうこうしているうちにパスタが運ばれ、私も取り皿に食べたいものを取り、アイスコーヒーコーヒーをグラスに入れて席に座る。
私を待っていたらしい二人は、料理を前にして待てをしている犬のようだ。食べましょうか、と声をかければフォークを手に持ち、待ってましたとばかりに食べ始めた。
朝から何も食べていない二人に取っては物足りなかったのだろう。再度ビュッフェコーナーに行き、戻ってきた時には取り皿に前菜や重めの料理が山盛りだった。飲み物もおかわりをし、伏黒くんに至ってはパエリアまで取り皿に乗っている。
ひとしきり料理を堪能し、腹は満たされたのだろう。ゆっくりと取ってきたものを口に運びつつ、会話をする余裕が生まれてきたのか、今日の任務がどうだった、五条さんがどうだの話が弾み出す。それに相槌をうちながら、学校では何をしているのか話題を振る。
「今は交流戦に向けて、先輩に稽古つけて貰ってるところです。」
「なんだっけ。一人長期任務でいなくて、あと三年が停学中?とかで人数足りないから私ら出なきゃ行けないらしくて。」
「それは大変ですね。まだ入学して半年でしょう。」
ただでさえ彼らは特級案件に巻き込まれ、虎杖くんを亡くしたばかり(本当は生きているけれども)。学年は違えど、どうしても彼らがあの時の私を彷彿させる。私も交流戦は、同学年で独りだった。五条さんと夏油さんにしごかれ、家入さんに治され、でもそうしていると何も考えずに済んだ。最後の年は私独りでひたすらに実践場に篭っていた。
「大変ですけど、もっと強くならないといけないんで。だから、大丈夫です。」
「私も。それに伏黒も、あと真希さんっていう素敵な先輩もいるから全然平気です!」
あぁ、この子達はしっかりと前を向いている。塞ぎ込み、一度逃げた私とは違う。目の前の二人の目は、ぎらぎらと闘志が燃えている。数ヶ月とはいえ同級生が亡くなったにも関わらず、自分の弱さを憂いて、立ち上がろうとしている。
「……君たちは強いですね。」
「まだまだ、全然です。」
「とりあえず伏黒と同じ二級にはならないとね。まずはそこからだわ。」
「そうなれば、そのうち任務でご一緒するかもしれませんね。まだ食べられるようならデザートも頼みましょうか。」
デザートメニューを差し出せば、釘崎さんは目を輝かせ、伏黒くんはそんな釘崎さんに呆れつつもちらりとメニューに視線をやっていた。
余談だが、このあとデザートを食べながら、私が五条さんの後輩であることを話すと、釘崎さんはそれはもう盛大に驚き、店を出て高専へ移動するまで学生時代の五条さんの話をし、終いには私は先輩に恵まれてるんだわ、と若干同情された。