愛の告白突然だが、私ことジルチ=アレクサンダーはエイフェックス=ローガンのことが好きだ。
さらさらのブロンド、銅の瞳、整った目鼻立ち、豊かな表情、力強く精錬された身体、ハキハキと通る声……彼の全てが魅力的で気がつけばその姿を探し、求めるようになっていた。
彼が笑ってくれれば心は弾み、彼が悲哀に苛まれようものならその原因を排除したくなる。
この想いは日に日に膨れあがり、遂には毎夜夢にまで見る事態に陥っていた。正直幸せなのだが、やはり熟睡出来ていないのは健康によろしくない。
恋の病、となれば解決法はただ一つ。エイフェックス君にこの想いを告白する。
しかし、いざ愛の告白をするとなると躊躇してしまう私もいる。
現段階で両想いと確信出来るような証拠はない。もし失望されてしまったら、嫌悪されてしまったら……そのような不安が少しだけよぎった。
いや、私には私の寵愛を受けて喜ばない生き物など存在しないという自信がある。
大丈夫だ。必ずやエイフェックス君の心を射止め、この手で彼を幸せにしてみせよう!
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まずは告白の下準備だ。エイフェックス君の好みを把握して理想的なシチュエーションを造らねば。
公式プロフィールの好きなものは“バスケットボール”……バスケットボール? いや、知ってはいたが改めてなんだその好きなものは。競技そのものではないのか。競技も好きという解釈でいいのか?
……ダメだ。私ではその分野に明るくない。下手を打って要らないものを押し付けては意味がない。
エイフェックス君の性格的にもっと実用的な物のほうがいいだろうか。
そうだ、エイフェックス君はかなりのオシャレ好きだ。アクセサリーを贈るのはどうだろう。
幸い普段から身に付けているのもあって好みは分かりやすい。シンプルな物を複数付けるのが好きで、チョーカーは確か金メッキだったな。それならば金属アレルギーなどもないだろう。
……いきなり指輪は重たいだろうか。それにエイフェックス君は拳を使う以上邪魔になりかねないな。
待て、目的は告白、そして恋人になることだ。アクセサリーは付き合ってから贈ったほうがいい。
告白の定番は花束だが……実用性もない、エイフェックス君は好まなそうだな。贈ったら贈ったで大切にしてくれるのは知っているが、そもそも告白時に贈り物は申し訳なさを感じさせて不誠実ではないのか。
ぐるぐると考えが廻ってまとまらない。恋の迷宮に迷い込んでしまったようだ。ここまで難解だとは……
ピピピピピピ
着信? 今日は休日のはずだが、緊急の指令だろうか。発信者を確認するとメラミ君からだった。
「はい、ジルチ=アレクサンダーです」
『ジルチくん? まずは落ち着いて聞いてちょうだいね。
……エイフェックスくんがマフィア捜査の依頼で撃たれたわ』
その言葉を聞いた瞬間、私はホテルの部屋を飛び出していた。
荒事を任されることの多いエイフェックス君はその分負傷も多かったが、当人のプライドの高さから周知されることは殆どなく、まだ恋人でもなんでもない私には当然連絡なんて来るはずもない。いつも私がエイフェックス君の負傷を知るのは早くても数日は経ってからだった。
それなのに、それなのに……!
“いつも”とは違うのか、即座に他の探偵に知らされるほど重症なのか、まさか命に関わる事態なのか。
引いていく血の気とは裏腹に心臓はドクドクと跳ねて治まりそうにもなかった……
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世界探偵機構付属の病院に到着した私は、すぐさま受付へ探偵証を提示してエイフェックス君の病室へ案内してもらった。職権乱用だがそんなことに構っている暇はない。
歩みを進めた病室では、エイフェックス君がベッドに半身を起こして本を読んでいた。
「あ、ジルチ? なんでオメェが」
生きていた。生きている……!
それに目を覚ませるくらいには容態は安定しているのだな。
声を聞けた安心感から緊張の糸が切れ、彼の傍に跪いて細かい傷の絶えないその手を握る。
「好きだ」
「……はっ?」
「エイフェックス君、私は君のことが好きだ。愛している。
君を喪いたくない、だから決めたぞ……私は君と共に戦える男になってみせる。
必ず幸せにする。私と生涯のパートナーになってくれ」
真っ直ぐに彼の瞳を見つめて想いを告げると、みるみるうちにエイフェックス君の頬は朱色に染まっていった。
「てめっ、いきなり、何言って……つーか、大げさなんだよっ! この俺がちょっと腹撃たれた程度で死ぬか!」
「しかしエイフェックス君はすぐに無理をしてしまうだろう? 今だって、興奮しては傷に響いてしまうぞ」
「誰のせいだとっ……撃たれたのは一週間も前だし、もう殆ど安静にしてろって見張りの意味で入院させられてるだけだ!」
「……一週間だと? では先程の連絡は……」
「……なるほどな。テメェの仕業かバケ猫クソ女、そこに居んだろ」
能力を使ったらしいエイフェックス君が出入口のドアを睨むと、コツリとヒールを鳴らしてメラミ君が現れた。
「フフ、仕業だなんて。
ねぇジルチくん、撃たれたのが今日や昨日のことだなんてワタシ言ったかしら?」
確かに……むしろ『落ち着いて聞いて』と言われておきながら冷静さを欠いて飛び出したのは私だった。自身の至らなさに言葉を詰まらせているとエイフェックス君にデコピンされた。抗議の仕方が可愛すぎないか。
「お節介しちゃったけど、アナタたちまどろっこしいんだもの。
じゃ、なかよくね♡」
軽く手を振って立ち去るメラミ君を見送り、後には私とエイフェックス君の二人きりになった。
拗ねたように目を逸らすエイフェックス君の手をもう一度包み込み、より近くにとベッドに腰掛けた。
「どうやらメラミ君にはお見通しだったようだな。
さて、エイフェックス君の気持ちを聞きたい。君は私をどう思っている?」
「なっ……オメー分かってんだろ。言う必要あんのかよ」
「ああ、エイフェックス君の口から伝えて欲しいんだ」
「くっ……!
す、好き、だよ! ジルチのことが、好き……」
勢い任せに言ってから、改めて染み渡るように言葉を溢す姿が愛おしい。
衝動のまま、私は桃色に染まる頬に接吻を落とした……。