アクスタマモ伊暇だ。暇ではないけど暇だ。兄弟達が出払っている珍しい夜で、つまり、今日の私はご飯もお風呂も全部自分で用意しなければならない日なのである。
「でも今なんにもしたくないんだよね」
誰もいないので堂々と声に出していく。人間界に来てからの共同生活の場である屋敷のリビングは天井が高い。自分一人の声であったとしてもよく響いた。しかし、音にしたところでご飯を用意してくれる人も、お風呂を沸かしてくれる人も、着替えを準備してくれる人もいない。いや、着替えはいつも自分で準備するけれども。言葉の綾というやつである。
「たで〜ま〜、伊吹、まだ飯食ってなかったらカップラ食おうぜー!」
「え、マモン?」
思ってもいなかった男の登場に、思わず普段よりも声が上擦ってしまった。ドカドカと歩いている音がリビングに流れ込んできた。右手には何やらずっしりとはいったビニール袋がぶら下がっていた。
「今日帰るの遅いって言ってなかった?」
「ケケケ!お前とふたりきりになれるチャンスだろー?逃すわけねーッて」
頬にじわりと熱が集まるのを感じた。マモンのこういうところ、本当にたちが悪いと思う。無自覚だろうなって思うから余計に。
「…ッ、何買ってきたの?」
適当に並べてくれてていいぜー、と言われたので、順番に取り出していくことにする。ジュースやらお菓子やらポテチやらは2人分あるのに、カップラーメンは1個だけだった。しかも普段彼が好んでいるよりも辛さ控えめの。
「マモン?いつもとカップラ違うけどどうしたの?間違えた?」
「……ッ、べ、べつに辛いのが苦手なおおおまえのためとかじゃねーし!」
マモンの方をじっと見つめてみると、頬がほんのりと赤く染まっている。ふふふ、かわいい。その手をとって、軽くキスをした。
「マモン、ありがとう。好きだよ」
「……ん」