善の鼓動善の鼓動
「おはようマトリフ」
言いながらカーテンを開けた。太陽は既に高い位置にある。背後のベッドからは呻き声が聞こえた。マトリフは日光を遮るように手を上げてから寝返りをうった。
「もう十時を過ぎている。さっき画材屋から絵具を受け取ってきた。昼からは小雨が降るそうだ」
「二度寝日和だな」
私はベッドサイドに移動してコップに水を注ぐ。そばにあった薬と一緒にマトリフに差し出した。
「さあ飲んで」
「どうだ、お前も一緒に二度寝しないか」
マトリフは差し出した薬を無視して私を誘う。だがそれに応じては駄目だと瞬時に判断した。
「薬を飲んで」
「ふん」
マトリフはぼやきながら薬を手に取って水で流し込んだ。マトリフは長年の病気のせいで心臓が悪い。時間通りに服薬させることも私の仕事のひとつだった。
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