思へどもなほぞあやしきあふことの なかりし昔いかで経つらむ平安パロ忘羨 2話
「魏無羨!」
江晩吟が激しく扉を叩く音で目が覚めた。
開けようとギシギシと鳴り響くが、鍵がそれを阻んでいるようだ。
昨夜藍忘機は自身を押し倒しながら、鍵をかけたのかと思うと用意周到さに恐れ入る。
起き上がりたいが、散々可愛がられた尻はもう少し休みたいと動いてはくれない。
ゆっくり目が覚めると、藍忘機と目があった。挨拶代わりに口づけされた後、強く抱きしめられた。
「藍湛、離せ。江澄がキレてるぞ。あっ! おい!」
「藍…忘機」
藍忘機は鍵を開け、江晩吟と対峙した。
驚いた江晩吟の表情は次第に闘気を纏い、指についた紫電が光出す。
「どういうことだ」
「そういうことだ」
藍忘機は再度扉を閉めようとするが、江晩吟は足を入れて阻んだ。
「魏嬰は私が連れて帰る」
「部外者のお前が、俺の師兄を連れて帰るだと? あいつが女だと騙していた事は心から謝るが、お前に渡すつもりなどない。貴様、都勤めはどうした? 温氏に目をつけられる前に帰った方がいいんじゃないか?」
今にも宿が崩壊しそうな気配に待ったをかけたいが、喉は痛み声は出ず、やはり身体は動かない。
「忘機」
「兄上」
「迎えに来たよ。江宗主、この事は後ほどゆっくり話しましょう。忘機、君の気持ちは分かるが、順序がある。今日は帰ろう」
「魏嬰、次こそ共に姑蘇へ帰ろう」
魏無羨の元に向かおうとする藍忘機を突き飛ばした江晩吟は、ボロボロにされた魏無羨を見て唸った後、背負った。
首元で揺れる赤く縛られた腕の痕が、江晩吟の怒りをさらに煽った。
「姑蘇に帰るだと? こいつの帰る場所は雲夢だ!」
魏無羨は2日寝込んだ後、元気に跳ね回ったが、身体中に着いた痕が、私のものだと主張しているようで江晩吟は不愉快だった。
たった2人の大事な家族をこれ以上失ってたまるものか。
江晩吟は蓮花塢の防御符を強化し、鈴を持っていない者は入れないようにした。
傷も癒え、何事もなかったような毎日を過ごしていた夜、魏無羨はふと目が覚めた。
懐かしく、心が揺さぶられるあの曲ーー
まるで自分を呼んでいるような琴音が聴こえてくる。
「藍湛」
でも、行かない。
もし、ここで自分が行けば彼は尚自身に区切りをつけられなくなるだろう。
それは魏無羨も同じ。
きっと、一度姿を見てしまえばあの時の温もりを求めてしまう。
「藍湛」
人生で最初で最後の恋
叶うことのない過ちの恋
つづく
エロパートはpixiv掲載するときに加筆する。