「う〜ん、二葉さん、もう一回お願いします」
「はい!」
「方向性は今の感じで問題ないので、気持ち声をはる感じが欲しいです!」
「わかりました!お願いします!」
返事をしながら、あれ、と思う。レコーディングの時にもらうディレクションは音が安定しないやらリズムが甘いやらといったことがほとんどで、もっと声を出せ、というのはライブの稽古の時くらいしか言われたことがなかったからだ。さす、と喉に手をやる。声、出てなかったのかな?そんなつもりはなかったけれども。
「それではいきます!」
「はい、お願いします!」
声をかけられていつもより大きめに返事をする。もしかしたら気持ちが切り替わりきってなかったのかもしれない。そう思い直してマイクと向き合う。一度大きく深呼吸をすると、今度は勘違いでなく頭が冴えてくるような気がした。
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