「くしゅん」
思わず身体を震わせる。やはり服を間違えた。四月は気温の変化が読みづらい。昨日は半袖でも問題ないくらい温暖だったのにと蔵内はため息を吐く。今日は日中ですら少し肌寒かったから、夜は一段と冷えを感じる。
「今日は冷えるからね」
苦笑している王子自身、少し寒そうにしている。お互いに長袖とはいえ薄手のシャツは心許ない。蔵内もつられて苦笑した。
「先月までは基本制服だったからな」
「服を毎日考えるの、意外と大変だよね……っ」
王子は立ち止まって蔵内から顔を背けた。その背中が気持ち上がって強張っている。数秒。はあ、と背中の強張りをときながら王子もため息を吐いた。
「出そうで出なかったよ」
「案外辛いよな」
顔を見合わせて再び苦笑しあう。それから、再び数秒の沈黙。今度は別に何も我慢していなかったけれど、僅かに冷えた指先同士が絡み合う気配がして、何事もなかったかのように歩き出す。
「明日は暖かくなるといいけど」
「しばらくはもう少し厚めの上着がいいかもな」
「代わりに中は半袖でも……流石に気が早いか」
「ゴールデンウィークくらいまでは長袖がいいんじゃないか?」
春の夜の冷えた空気を感じながら家路を急ぐ。それでも先程までより少し暖かい気がするのは、決して取り留めのない会話だけが理由ではない。
冷たい風につられて指先の力を強めると、ふふ、と小さな王子の笑い声がして同じ力で握り返された。