言われてみれば自分に似ているような気もする俳優の睦言が映し出されていた。そういう趣旨の作品ではないから上手く見えないようにはされているが、しかしその濃密な空気感は画面の外にも十分に伝播している。
ちらりと盗み見たつもりが目があった。目を逸らすと、ふふ、と吹き出す声が聞こえたから再び横目で王子を見る。
「凄い顔してる」
「……どんな顔だ」
「……わかりやすく言えば、えっちなこと考えてる顔」
思わず言葉に詰まる。そんなこと、と否定はできなかった。視線を逸らしたいのに逸らせない。楽しげな王子の表情がなんとなく悔しい。
「……それはお前もだろう」
苦し紛れに口にした。王子はそれでも表情を崩さない。
「そうかもしれないね」
否定されなかった。王子の本心はどうあれ、これはもう蔵内の負けだ。言い返せずに視線を画面に戻す。画面の中で睦言は続いていた。蔵内はそっと目を閉じる。ソファが小さく軋む音が、いやに響くような気がした。
「面白かったね」
レコーダーを止めながら王子が口を開く。
「……そうだな」
言葉に詰まる。あれから、映画の中身は頭の中に入ってこなかった。断片のストーリーをなぞるに良作であったのは間違いないが。
「……もう一回みたいな」
「今からまた流すのか?」
「違うよ、いい映画だったけど、映画の話じゃなくて」
ふに。唇に指が触れた。もう片方の手でリモコンをテレビに向けるとぷつんと画面が暗くなる。
「きみの顔、すごかったから」
王子は何かを誘うように蔵内を見つめ、指先で唇をなぞる。
「……お前もすごい顔してるぞ」
「どういう顔だい?」
「……やましい事を考えてる顔だ」
数秒、丸く大きく見開かれた目は柔らかく細められた。心なし王子の頬は紅潮しているが、おそらく人のことは言えないだろう。だってずっと、映画が終わる前から顔が熱いのだ。
「……きっとそれはそうだろうね」
唇から王子の指先が離れた。画面はもうとっくに暗転している。それなのに二人の間をを取り巻く空気は濃密なままだ。瞳は閉じない。その顔をまだみていたいから。吐息がかかるほどの距離。それからまた一センチ縮める。時間はまだ止まらない。
ぷつり。テレビの画面が消える音がした。リモコンは王子の傍にあったから王子が消したのだろう。そんなこと、今この瞬間には瑣末なことでしかなかったけれども。