「……あまりじろじろみてくれるな」
現在進行形でやっていることを「変じゃない」とは決して言えないけれど。
「ごめんごめん。背中向けてもいいよ」
「……それだと添い寝の意味がないだろう」
「……きみって案外、そういうところあるよね」
「どんなところだ」
「そんなところだよ」
「……まあいい。……ただ見過ぎないでくれるとありがたい」
思わず小さく吹き出してしまった。
「この距離だと難しいと思うけど、わかった」
笑い混じりでそう返せば、蔵内は少しばかり顔をしかめたが、ため息で許してくれたらしい。そのままそっと瞼を伏せているのは、眠るためかはたまた視線を合わせるのがどこか照れくさいからか。どちらでも良かったが、王子はこれ幸いと蔵内をじいと観察する。なにせ少し動けば指先が触れる距離だ。身じろぎすれば膝小僧だって触れるし、下手したら息までかかってしまいそうな。
小さい頃、親とそうしていた以外で、同じベッドで寝る経験は王子にはなかった。知らないけれど、恐らく蔵内もそうだろう。この年になると男女の営みを覚える人も少なくないだろうが、縁もなかったし自ら進んでそういうことをする気も起きなかった。
「……触ってみてもいいかい?」
王子は思わず口に出していた。目を閉じていたはずの蔵内はいつの間にか目を見開いている。
「また突然だな……」
「ごめん。でも、なんか触ってみたいなって」
言葉は思考を通していない。気が付いたら口に出している。自分は蔵内に触ってみたいらしい。これまで友人で仲間とはいえ、そんなべたべた触るような付き合い方はしていなかったからかもしれない。物珍しさだ。蔵内は悩むように眉間に皺を寄せて小さく唸ってからゆるりと息を吐く。
「……お前の良識に任せる」
「ありがとう」
一般的な触り方ならと了承されたことに礼を言ってから王子はそっと蔵内に指先を伸ばす。
髪に触れる。額に触れる。頬に触れる。首筋に触れて、唇に触れる。やわやわと、あまり力を入れないようにしながら。蔵内はくすぐったそうに小さく目をぱちぱちと瞬かせている。年よりは大人びて見える蔵内に、珍しく幼少の頃の面影を見た。なんだか自分の指先もくすぐったくなった気がして王子は指を離す。
「気は済んだのか?」
「それなりに」
「……微妙な答えだな」
蔵内が苦笑して、王子もつられて小さく吹き出す。普段とは違う空気が確かに二人の間に流れている。そのくせ、案外心地が良いのが不思議だ。ものはついでではないけれど、王子はこれまで蔵内に尋ねたことのなかったことを口にした。
「クラウチは今好きな人とかいないのかい?」
「また突然だな」
「でもそういう話をする空気じゃないかい?」
「それはそうか……流石に好きな人がいるならこういうことはしない」
「クラウチはやっぱりそうだよね」
「自分は違うみたいな言い方だな……王子にいるなら今すぐ止める」
「いないから安心してよ」
普段のパーソナルスペースはとっくに侵犯しているしされている。それなのに不快感はなく、ただほのかに感じる体温の心地よさにゆるりと身体が解けるだけだ。