Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍣 🍲 🍕 🍔
    POIPOI 57

    BORA99_

    ☆quiet follow

    ドフ鰐
    ドフ鰐ちゃんが手錠で繋がれる話。
    ※捏造注意

    花柄ドレスの女を殺せ!!火の入る夥しい提灯の彩色。
    削った絶壁に段々と聳える横に長い、赤い屋根の屋敷の前は、人が二人並べば塞いでしまう、細い石畳。
    殆ど階段の通路を行き交う群衆は、肩が触れないように避けながら歩くのが日常だ。
    ここは、"東の海"の片隅。

    「こういうところは・・・好かねェなァ。」
    「あら、お気に召さなかった?わたしは結構好きだけど。ゴチャゴチャしていて、楽しい。」

    派手な花柄で、取手のない小さなカップに注がれた、名前のよくわからないお茶をうんざりと眺めた"サー"・クロコダイルは、密集する人混みから外れたテラスでふわりと葉巻の煙を吐き出した。
    目の前の美しい秘書は、本音か、嘘か、相変わらず口元に薄ら笑いを貼り付けている。

    「貴方があんな、"鉄屑"だらけの"島"を欲しがったからじゃない、"サー"。」
    「馬ァ鹿。"雨"を"奪う"にゃ、"鉄"がいる。」

    観光産業だけで成り立つ、この豪華絢爛な島は盛大な"オークション"が有名だ。
    名の知れた海賊、収集家、政府の要人までもが入り乱れる、大規模なオークションが月に一度開催される。
    今回出品される品の一つである"島"は、鉄の資源が豊富な無人島で、それを狙ったクロコダイルは、態々こんな、東の果てまでやってきたのだ。

    「あら、素敵。"空から舞い降りし、天使の血痕"。赤い真珠のネックレスですって。」
    「・・・なんだそりゃァ、胡散臭ェな。」
    ペラペラと、オークションの概要を捲っていたニコ・ロビンは、手を止めて面白そうに笑う。
    そのページを覗き込むと、真っ赤な真珠で作られた首飾りの写真。
    赤い真珠に興味はあるが、"飾り"の文句にセンスが無い。そういうのは駄目だ。出品者のタカが知れている。
    クロコダイルは生来の"光り物好き"な感性が疼かず、さっさと視線を前の通りへと戻した。

    「行こうか。"ミス・オールサンデー"。時間だ。」

    ######

    この海ではあまり見ない、畳の床に、襖。漆塗りの、赤い壁。
    広大なフロアは多くの提灯に照らされて、床に引かれた大量の座布団に座る観客達は出された酒や料理を摘んでいた。
    一段高いステージには、未だ誰も立っては居ない。
    開始前のオークション会場を、二階の特別席に並べられた豪華なソファに座り、眺めたクロコダイルは、ジャラジャラと鳴る右手首の"手錠"に重たいため息を吐いた。
    「あら、そんなに怖い顔をしないで、サー。招待状に書いてあったじゃない。」
    「・・・うるせェ。」

    "武器類の持ち込み厳禁"

    "悪魔の実の能力者は海楼石製の手錠を付けること"

    招待状にも、パンフレットにも、それこそこの会場の入口にも、幾度と無く書かれたそれを、見落としていたわけではない。
    鉤爪も取られたクロコダイルは、"すり抜けて"しまった、左手首に嵌るはずの手錠の輪っかを右手で掴み、面白くなさそうに葉巻の煙を吐き出した。
    隣に座る女も同じように手錠を付けて、呆れたようにクロコダイルを鼻で笑う。
    輪っかを繋ぐ鎖は充分に長く、そう拘束されている感じはしないし、海楼石もごく弱いものだ。
    それでも、誰かの"意図"に従うのが、どうにも癪なのは、性分である。

    「お?おォ・・・!!"鰐野郎"!!!お前、来るんなら言えよ!!!」
    「・・・人違いだ。」

    そして、うんざりする事態が"もう一つ"。
    先程からチラチラ、チラチラと、視界の端に映るピンクのデカい塊。
    できるだけ視界に入らないようにしていたのだが、その努力は虚しく、その"ピンクの塊"は、長い腕を振りながら、クロコダイルの元へ大股でやってきた。
    「あら、"ミスター"。久しぶりね。」
    「オーオー、秘書のネェちゃんか。相変わらず別嬪だ。鰐野郎が羨ましいぜ。」
    「ふふ。お上手ね。」
    ピンクの塊、もとい、ドンキホーテ・ドフラミンゴは、サービス精神か、いつものファーコートの下に見事な刺繍の入ったこの国の民族衣装を纏っている。
    その派手な出で立ちに、些か目眩を感じたクロコダイルは、面倒臭そうにため息を吐いた。
    「何だ。ご機嫌斜めか。」
    「そうなの。サーったら、この島に来てからずっとそう。困ったわ。少しあやしてあげてくださる?」
    「ヨシキタ。じゃ、鰐野郎、こんなオークションよりもっといいもんやるからホテル行こうぜ。」
    「行くか。くたばれ。」
    ちらりと、ドフラミンゴの"何も""嵌っていない"手首を見遣ったクロコダイルは、一層不機嫌に鼻を鳴らす。
    その視線に気が付いたドフラミンゴは、ニンマリと口角を上げた。
    「イイ眺めだぜ、鰐野郎。"お揃い"になれなくて残念だが・・・生憎おれは、"出品"側でなァ。」
    「あら、何を出品したの?」
    上機嫌なドフラミンゴに反して、ビキビキと額に筋を浮かべたクロコダイルを無視したロビンが、にこやかに返す。
    ドフラミンゴは勿体つけるようにニヤニヤとその口元を綻ばせた。
    「あァ、おれァ、」

    「いたぞーッ!!!逃がすなッ!!!」

    突然、二階席の長い廊下の先で、ドフラミンゴの台詞を遮る怒鳴り声が響く。
    その場にいた観客達が、弾かれたように、一斉にそちらに顔を向けた。

    「ドフラミンゴ様・・・ッ!!その、"花柄ドレスの女"が、」

    オークション従業員達が、縋るようにドフラミンゴに言った瞬間、フワリと、その視界の隅で、言葉通り"花柄"の"ドレス"が揺れる。

    「・・・失礼。」
    「・・・あァ?」

    その唐突に動いた状況に、ドフラミンゴが呆気に取られていると、その妙に光りのある眼球が、ぐるりとサングラスに向いた。
    視線がかち合った一瞬後、ガチャン、とおかしな音がして、突然ドフラミンゴを妙な倦怠感が襲う。

    「・・・?」

    グラリと、ドフラミンゴの背中が揺れたのを見ると、その、"花柄ドレスの女"は一目散に廊下を駆け抜けて行った。
    その瞬間、背面にずらりと並ぶ襖が一斉に開いて、銃を構えた黒スーツの男が大量に現れる。
    「オイ!!どうなってやがる?!」
    「・・・知らないわよ。」
    「なんだよ、セキュリティ甘ェな。」
    一斉に火を吹いた無数の銃口に、ドフラミンゴ達三人はさっきまで掛けていた豪華なソファの影に逃げ込んだ。
    ソファの後ろでぎゅうぎゅうになった三人が、口々に不満そうな声を上げる。

    「あら、"仲良し"ね。羨ましい。」
    「「・・・え、」」

    場違いに、ロビンが首を傾げニコニコと良い笑顔を浮かべた。
    その目線の先に釣られるように、ドフラミンゴとクロコダイルはお互いの手首に視線を落とす。

    「・・・。」
    「・・・。」

    妙な沈黙が降りたタイミングで、"花柄ドレスの女"は、人間離れした身軽さで二階の柵を蹴って、一階へ飛び降りた。
    それすら、目に入らないかのように、ドフラミンゴとクロコダイルはこれ以上無い程に顔を歪める。

    「・・・ふ、」

    視線の先では、クロコダイルの左手首を"すり抜けた"手錠の輪っかが、ドフラミンゴの手首に嵌っていた。
    同じタイミングでソファを蹴って、大きな2つの影が立ち上がる。

    「「ふざけんな小娘!!!ブッ殺す・・・!!!!」」

    「フフフ。ホラ、仲良し。」

    ######

    「おい!!手錠の鍵はどこにある?!」
    「そ・・・それが・・・さっきの"花柄ドレスの女"が金庫の鍵と一緒に持ち去ってしまいまして・・・、」
    「クソガキが・・・目にもの見せてやる・・・!!」
    「許してあげたら?大人気ないわ。」
    近くのソファに隠れていた従業員にドフラミンゴが怒鳴り声を上げると、怯え切った男が答え、クロコダイルが地を這うような声音で絞り出す。
    赤い漆塗りの低い柵に齧りついて一階のフロアを見ると、出品される予定だった品を保管している部屋にでも向かうのだろう、華奢な背中と"花柄"が見えた。
    「うおお、あぶね!!!」
    「・・・武器の持ち込み禁止と、手錠の着用を守ってたのはおれ達だけかよ!!!」
    「いいえ。"貴方だけ"よ。サー。」
    再び始まった銃撃の中、鍵で手錠を外したロビンは当たり前のようにクロコダイルを見て呟く。
    放り投げられたロビンの手錠が、床で重たい音を立てた。

    「鍵、盗んでおいて良かったわ。」
    「・・・一応聞くが。おれの手錠の鍵は。」
    「どうして私が貴方のお世話をしないといけないの。」

    にべもなく言い放ったロビンは、こちらに目も向けず、銃を乱射する黒スーツの集団にふわりと右手を差し出した。
    無数に"咲いた"腕が、まるで、風にそよぐ様にゆらりと揺れる。

    「ここは良いから・・・鍵は自分で取り返してくださる?」
    「・・・フフフッ!優秀だなァ!ほんと、羨ましいぜ。」

    骨の折れる音と、黒スーツの男達がバタバタと倒れていく中で、ロビンは薄ら笑いを浮かべてドフラミンゴを見上げた。
    その、見た目に反して凶暴そうな瞳の輝きに、思わずドフラミンゴの喉が鳴る。

    「というか、大きい図体の戦えない人間が二人もいたら・・・控えめに言ってとっても邪魔。」
    「鰐野郎。お前の秘書キツイな。おっぱいでけェけど。大丈夫か。ストレスとか。」
    「・・・最近正直とても辛い。」

    "標的"を変えた銃口に、ドフラミンゴとクロコダイルが同じタイミングで走り出した。
    この時になって初めて、何か、得体の知れない"いざこざ"に、巻き込まれたのだと悟る。

    「アーアー!折角美味しい状況なのによォ・・・!鍵取り返したらこのまま一回ヤッてみるか、鰐野郎。」
    「死ね。勃つモンも勃たねェよ。」
    「ねェ。わたしの気持ちも考えて。」

    ######

    ドタバタと、品の無い足音を立てながら、黒スーツの大群が一階フロアの中央へ繋がる大階段を降りていく。
    それを後目に、二階の廊下から"花柄ドレス"を探した。

    「いた・・・!おい、行くぞ鰐野郎!!」
    「・・・・・・は?!おい、いま、」

    自分の右腕がグイグイと引っ張られるのを感じたクロコダイルは、今、砂になれない事実を思い出して眉を顰める。
    同じく、能力が使えない筈のドフラミンゴはさっさと一階に飛び降りようと、二階席を縁取る柵に足を掛けていた。
    自分の腹にドフラミンゴの長い腕が回った瞬間、ヒョイ、と足が浮いて、そのまま降下する感覚に、クロコダイルは思わず目を見開く。
    「フラミンゴ野郎・・・!!!お前ちゃんと着地できんだろうなァ・・・?!?!」
    「痛い痛い痛い・・・!やめろ!!髪はやめろ!!」
    ドフラミンゴの肩に担がれたクロコダイルが、その金髪を無遠慮に掴んで怒鳴った。
    掴まれたドフラミンゴは涙目になりながらも、眼下に設置された大きなローテーブルを捉える。
    この大騒動に、逃げ惑う観客を無視して、そのローテーブルに突っ込んだ。

    「ドンキホーテ、ドフラミンゴ・・・ッ!!!」

    ローテーブルの上で食器や料理を踏みつけて、その巨体が立ち上がる。
    黒スーツの集団は突然現れた男に、銃口を向けた。

    「オーオー、理由は知らねェが、オークションを滅茶苦茶にしやがって・・・。今日予定してた稼ぎ分ぐれェは、体で払ってくれよ兄ィちゃん。」
    「・・・とっとと降ろせ。テメェから殺すぞ、フラミンゴ野郎。」
    未だ担がれたままのクロコダイルが、無理やりその肩から降りると、輪になってドフラミンゴ達を囲んだ黒スーツの集団が一歩下がる。
    「・・・おい、構うな!!いまは"真珠"を・・・!!」

    「・・・しかし!!"イーストヤード"に武器を売っているのは・・・この男なんだぞ!!!!」

    不意に向いた矛先に、ドフラミンゴの視線がゆっくりと上がった。
    "イーストヤード"、"イーストヤード"、その国の名前は、確かに聞き覚えがある。

    「・・・お前なァ。・・・尻尾掴まれてんじゃねェよ。」
    「フッフッフッ・・・。耳がいてェな。」

    「ドンキホーテ・ドフラミンゴ・・・!!!貴様が"ドレスローザ"の"交易港"で、」

    興奮したように怒鳴る男が引き金を引く刹那、ドフラミンゴの瞳がサングラスの隙間から覗いた。
    ギラリと一度、強い光を放つその双眸に、一人、また一人と、黒スーツの男達が倒れていく。
    その様子を隣で眺めたクロコダイルは、うんざりと瞳を細めた。

    (・・・これだから、)

    「・・・行くぞ。"鰐野郎"。」

    これだから、この男の事が"嫌い"なのだ。
    もう見えないその瞳に、クロコダイルは何も言わず、息を吐く。

    (・・・知れば、)

    自分も、この男に、消されるのだろうか。

    思わず似合わない思考が過って、クロコダイルはとうとう舌を打った。
    葉巻を咥えると、煙の先に、その広い背中が見える。
    予想外に、振り向いたドフラミンゴの、口元が奇妙に弧を描いていて、それが、笑ったのだと、気がつくのが少し、遅れた。

    ######

    「・・・困ったわ。念の為とは思ったけど、まさか本当に"こっち"にあるなんて。」

    大して、困った風でも無さそうなロビンが、細い頬に手のひらを当てて首を傾げた。
    黒スーツの男共は、ものの数分で全員戦闘不能にしてしまったし、とりあえず、"本当に"あの、花柄ドレスの彼女が手錠の鍵を持っていってしまったのか、確かめに来たのだが、案の定手錠の鍵束は元保管されていた管理室にある。
    あの従業員の勘違いだったようだ。
    「持っていってあげた方が・・・いいわよね。」
    正直、あの二人が手錠で繋がれているのはどうでも良かったが、"彼女"が怖い思いをしていたら気の毒である。
    そう思ったロビンは、ゆっくりと踵を返した。




    (・・・とうとう。)

    見上げる程大きな、黒い鉄の扉。
    堅牢な錠が嵌ったそれは、酷く冷たい。
    オークションに出品される品は、全てこの扉の向こうだ。
    足の動きに合わせて、"花柄"のドレスの裾が、揺れる。

    奪われたと"聞いた""国宝"。燃やされた街。"平和"を"知らない"歴史。

    (・・・とうとう、"見つけた"。)

    震える細い腕が、束から見つけ出したその小さな鍵を、扉に差し込む。
    積み重なった"憎悪"が、これ以上、悲劇を生み出さないように。

    (もう、誰も、)

    誰かの大切な人を、殺さないように。

    「・・・いたぞ!!!」
    「・・・ッ!!!」

    背後でした足音に、跳ねるように花柄のドレスが舞った。
    ぐるりと振り返った先には、"西側"の人間。

    「待ちなさい・・・!"こんなもの"を取り合って一体何になるというのです・・・!!!」
    ガチャガチャと響く、銃を構える音に、彼女もホルスターに吊っていた二丁の拳銃を掴んだ。
    その、宝石のような瞳に、無数の銃口が映り、膠着する。

    「黙れ・・・ッ!!!"東"の人間が・・・!よくもそんな事を、」

    引き金が引かれる瞬間、二者の間に、突然黒とピンクの塊が割って入った。
    言葉の途中で顔面を二本の足に蹴り飛ばされた黒いスーツの男が、漆塗りの壁に激突する。
    唖然と"花柄ドレスの女"は銃を向けたまま、その巨体を眺めた。

    「・・・テメェ、」
    のそりと顔を上げた黒髪の男の瞳がギラリと光る。
    腹に響く低い声に、彼女の肩が揺れた。
    その男は指輪だらけの右手で隣の男の胸ぐらを掴む。

    「だから右に曲がれと行ったんだ・・・!!!倍の時間が掛かったぞ・・・!!テメェはおれの指示に従ってりゃァ良いんだよ・・・!!フラミンゴ野郎!!!」
    「右は馬鹿共だらけだったじゃねェか!!あんなんイチイチ相手にしてりゃァ倍どころの騒ぎじゃねェぞ!!
    わかった、わかった。ほらもうお前、おれに抱っこされてろよ!!
    おいで!おいで鰐野郎!!!」
    「殺されてェのか!!!!」

    「あ、貴方達は・・・。」
    「あン?何だ、物騒だなァ。"二挺拳銃"。それにおれァ・・・もっと"イイ"のを"納めている"筈だぜ?」
    自分勝手に掴み合いを始めた男二人に、ぽかんと口を開けた女が呟くと、そのサングラスがギラリと光って、口角が上がる。
    それを押しのけた"鰐野郎"が、不機嫌そうに見下ろしてきた。

    「お嬢さん。この手錠の鍵を渡してもらおうか。もう色々と限界でな。馬鹿が移りそうだ。」
    「馬鹿って言うな!!!」
    「・・・え、と、」

    花柄ドレスの女は、一度戸惑うように瞳を揺らしてから、その小さな口を開く。

    「・・・て、手錠の鍵は、持ってないですけど。」

    「「・・・は、」」

    その時、その提灯に照らされた美しい観光島が、悲痛な二人の叫び声で少しだけ、揺れたとか、揺れなかったとか。

    ######

    「イヤイヤイヤ、もう無理ほんとに無理!!!おれは鰐野郎と四六時中一緒にイチャイチャしていたいけども!!でもさっき思ったけどトイレとかどうすればいいんだよ?!?!」
    「そこはどうでも良いだろうが・・・!!それより馬鹿が括り付けられてるおれの気持ちになってみろドピンク野郎!!!!
    おれの頭脳が退化したらどう落とし前を付けるつもりだ!!!!」

    まだ少女の面影が残る女の前で、ドフラミンゴとクロコダイルは絶望的状況に再び掴み合う。
    それを見上げた女は、さすがに呆れたように顔を歪ませた。

    「・・・貴様、ドンキホーテ・ドフラミンゴか!!!"イーストヤード"に武器を流す"仲買人"・・・!!」
    今まで律儀に黙っていた黒スーツの集団も、我慢の限界のようで、銃を握る手のひらに力を込める。
    その台詞に、驚いたのは"花柄ドレスの女"。
    「・・・あ、貴方が、"うち"に、武器を??」
    「さァなァ。そりゃァ、内緒だ。」
    適当にはぐらかしたのは、"客"が、"イーストヤード"だけでは無いからだ。
    東と西で隣り合う、二つの小国は、"イーストヤード"と"ウエストヤード"。
    500年も前から、隣同士で戦争状態にあり、それは今も尚続いている、暴力主義の野蛮な国家だ。
    実を言えば、ドフラミンゴは"ウエストヤード"にも武器を卸している。
    もっと言えば、戦況を見て二つの国へ流す武器の質も、量も変えていた。

    "戦争"は、"金"になるのだ。

    その"食い物"は、長く続けば続く程、利を生むのだから仕方がない。
    「このオークションに潜り込んだ目的は"国宝"の奪還だけではない・・・!!貴様の暗殺も国王より請け負っている・・・!!」
    「いや暗殺ならもう少し静かにしろよ。」
    予想以上に面倒な事態だ。
    ドフラミンゴはガリ、と親指の爪を噛み締める。
    ただ、永遠と、殺し合っていればそれで役に立っていたのに、馬鹿な連中だ。
    「おい、何でおれがテメェのゴタゴタに巻き込まれなきゃならねェ。鍵はここにねェんだ。戻るぞ。」
    「いやァ、でもおれたち今一心同体だろォ?おれの罪はお前の罪だぜ鰐野郎。一緒に悔い改めてくれよ。」
    興味も無いのか、深くは聞いてこないクロコダイルに、ドフラミンゴは苛つきを隠すように言う。
    それすらも、見透かしているようなその気怠げな視線に、思わず苦笑した。
    「アー、お嬢さん。その鍵で扉を開けて、一体何を、盗もうとした?」
    振り返ったクロコダイルは、肩越しにその小さな女の揺れるドレスの裾を見る。
    キョトンと、目を丸くした女は、逡巡するように視線を泳がせた。
    「"赤真珠"の、"ネックレス"を、」
    「・・・そうか。それは良かった。君とは"殺し合う"理由が無いらしい。その"赤真珠"のついでに、一緒に保管されている"島の権利書"も持って来てくれたまえ。」
    「お前、鉄の産地なんかどうするつもりだよ。つーかドサマギで盗もうとすんな。」
    ニコニコと、英雄面で笑うクロコダイルに、傍らのドフラミンゴが思わず口を挟む。
    普通に盗み出す算段をつけているが、どちらもドフラミンゴの出品物だ。
    フイ、と、視線を上げたクロコダイルの口元が笑う。
    「・・・アラバスタ国内は、"砂"に追われた難民が多く居てね。働き口にも住む場所にも難儀している。
    採掘業はその愚民共の、良い職になる。」
    「・・・あっそ!!」
    どうせ、自分も"奴"も、尻尾は出さないのだ。
    ドフラミンゴが不満げに口角を下げたのを見たクロコダイルは、再びぐるりと振り返る。

    「権利書を、後で渡してもらえるのなら、代わりに、」

    ギラリと、その気だるげな瞼の中で、獰猛な眼球が光を放った。
    その、自分とは住む場所も、倫理観も違う存在に、彼女は息を呑む。

    「代わりに、奴らの首を・・・食い千切ってやるよ。」

    グルグルと喉を震わす、身も凍る"凶暴"。
    これが、この世の"悪党"なのだと理解する。
    言葉が喉をつっかえて出てこない彼女は、一度小さく頷くと、くるりと扉に向き直った。

    「・・・一応聞くが、能力も使えねェし、海楼石の手錠も嵌ってるおれ達にできることは?」
    「・・・殴る蹴るの暴行。」
    「・・・・・・・・・・・・・そうだね。」

    ドフラミンゴはその時、生傷が増える事と、盗まれて行く出品物を静かに、諦めるのだった。

    ######

    「こんな風に放置するなんて・・・信じられない。酷いことするわ・・・。」
    ドフラミンゴとクロコダイルの姿を追うロビンは、物置らしき部屋の前を通り掛かり、抱いた"興味"に抗わず、その中へと入った。
    オークション用の備品や、スタッフの荷物が乱雑に置かれる中、出品物に値しないと判断されたガラクタが無造作に投げ込まれている箱を見つけ、その"歴史的価値"にうんざりと息を吐く。

    「・・・これは、」

    箱の中から何となく手に取った海図を眺めたロビンは、思わず小さな言葉を漏らした。
    随分と古いその地図に書かれた文字は、500年以上前の物。
    島の名前に覚えは無かったが、その東側と西側に書かれた"地名"は知っていた。

    「"イーストヤード"と・・・"ウエストヤード"・・・?今とは島の形が全然違う・・・。」

    500年の間、戦争を繰り返すその"偉大なる航路"後半に位置する"二つ"の島の間には、海が広がり、完全に別れている。
    しかし、同じ地名を持つこの"覚えのない島"は、陸続きの一つの島だ。

    「・・・元々は一つの島だったって事かしら。でも・・・島が二つに割れる事なんて・・・そうそうあるかしら。」
    呟いたロビンが海図をまじまじと見つめると、その端に真新しいインクの走り書きを見つける。
    "赤真珠"と書かれたそれは、現代の文字だ。
    出品されていた赤真珠のネックレスと元々セットだったもので、この海図は出品に値しないと判断されたのか。

    『あら、素敵。"空から舞い降りし、天使の血痕"。赤い真珠のネックレスですって。』

    "空から舞い降りし、天使の血痕"

    あの時、目にした飾り文句を思い出した。
    そういえば、"空から"とは、どういうことだろうか。

    (・・・もしかして、)

    この世には、ロマンチックな伝説も、噂も山程あった。
    その中でも、一番、馬鹿げていて、"素敵"な話。
    ロビンの口元が、少しだけ楽しそうに歪んだ。

    この海の伝説に拠れば、"空"には、"島"が、存在する。

    ######

    「キリがねェなァ・・・!!!」
    「黙ってチャキチャキ働け!でくのぼう!!!」

    手錠の鍵が、奪われる事なく元あった場所にあるとすれば、それは入口の管理室だ。
    そこへ戻るにはこの廊下を抜けて、オークション会場まで戻る必要がある。
    廊下を埋め尽くす、"彼女"曰く、"西側"の人間達は潰しても潰しても、ワラワラと湧いて出た。

    「・・・クソッ、」

    張り詰めていた糸が、疲労で緩んだ瞬間、ドフラミンゴとクロコダイルを繋ぐ鎖の上に、意識の無い黒いスーツの男が倒れ込む。
    重みで引っ張られた右手に舌打ちをしたクロコダイルの視界の端に、槍のような武器を振り上げる敵の姿が映った。
    防ごうとした左腕に、鉤爪が無いことを今更思い出す。

    (・・・躱せるか、)

    「・・・"鰐野郎"!!」

    その刃を躱す為に、身を捩ろうとした瞬間、聞こえた"声"に、クロコダイルの動きがピタリと止まった。

    避ければ、"後ろの男"に当たる。

    だから、何だと、思っている筈の頭は、いつまで経っても身体に命令を出しては来なかった。
    その、えらく"正直"な判断に、クロコダイルはうんざりとため息を吐く。

    (・・・だから、"嫌い"なんだ。)

    "捨てられない"物など、"大嫌い"だ。
    クロコダイルはゆっくりと眼前に迫るその刃物に、諦めたように瞳を閉じる。

    「・・・鰐野郎ッ!!!!」

    存外必死なその男に、クロコダイルは"だっせェ男だな"なんて、呑気に、思った。






    「・・・わにやろう。」
    ドフラミンゴのサングラスに、ぐらりと揺らぐ背中が映って、その口元から情けない声音が滑り出る。
    重たい音を立てて床に散ったクロコダイルの周辺に、真っ赤な血溜まりができた。

    「・・・一人仕留めたぞ!!!!」
    「怯むな・・・ッ!!殺せ!!!」
    「ドンキホーテ・ドフラミンゴは敵国に武器を売っている!!必ず仕留めろ!!」

    クロコダイルの腹を食い破る鋭利な刃先が血で鈍る様に、ドフラミンゴの視界が大きく揺れる。
    その、揺らいだ視界のまま、フラリと壁に掛けてある消火斧を手に取った。

    「・・・ヒュ、は、ウゥ、」

    息が、息が苦しい。
    空気を吸い込んでいるのに、肺がまるで膨らまない。
    耳元で、誰かがしきりにドフラミンゴをけしかけた。
    左手首の手錠を"外し"、"奴ら"の首を刎ねろと、煩いぐらいにがなり散らす。
    いつもいつも、折り合いの付けられないその"破壊衝動"に従って、ドフラミンゴは握った斧を振り上げた。
    ギラギラと光る双眸が捕らえたのは、手錠の嵌った自分の、手のひら。

    我慢ならない事が、"二つ"ある。

    揺らぐ"足元"と、"人間"に壊される、"大切"なもの。

    ドフラミンゴは握り締めた斧を、自分の左腕に向けて思い切り、振り下ろした。

    ######

    「・・・い、ってェ!!!!!」

    自分の膝裏に重たい衝撃を感じたドフラミンゴは、思わず場違いな悲鳴を上げる。
    手にした消火斧は見当違いに目の前の壁にめり込んで、木製の壁はいとも簡単に大穴が開いた。
    思わず振り返ると、床の上に転がったクロコダイルが自分の膝裏を蹴り飛ばして、心底呆れたように血塗れのまま、ドフラミンゴを見上げている。

    「・・・止めとけ。"勿体無ェ"だろ。」

    呟いたクロコダイルは意外にも毒の無い笑顔を見せて、仰向けに倒れたままその右掌を板張りの床に置いた。
    呆然とするドフラミンゴを無視して、ピシ、ピシ、と、辺りが不気味に軋み出す。

    「鰐野郎・・・お前ッ・・・?!」

    弾けるように触れた場所から砂に変わり、あっという間に床も、柱も砂に飲まれていった。
    全てを砂に変えるその能力が開放された事に、ドフラミンゴが驚いて見下ろすと、右手首から外れた手錠が血溜まりの中に浮かんでいる。
    ドフラミンゴの双眸が怪訝そうに細められると、タイミングを見計らったように、その腕から細くて綺麗な手のひらが"咲いた"。
    器用に鍵穴へ鍵を差し込んだ手のひらは、ドフラミンゴの手錠が外れると、役目を終えたとでも言いたげに呆気なく散ってしまう。

    「・・・お前にしては、遅かったじゃねェか。"ミス・オールサンデー"。」

    顔も向けずに低い声で言ったクロコダイルに、思わず視線を向けると黒スーツ達とは反対側の廊下から、ゆっくりと件の美しい秘書が歩いてきた。

    「あらごめんなさい。遅かったかしら。残念だわ。棺桶に入れて欲しいものは何?いつも一緒に寝ているバナナワニのぬいぐるみ?」
    「クソッ・・・!可愛げの無ェ女だぜ。死ぬ予定も、そんなものと一緒に寝た覚えも無ェよ。」
    軽口を叩き合う男女を呆然と眺めていると、砂に呑まれた前方で、免れたスーツの数名が何かを怒鳴りながら立ち上がる。
    血溜まりの中から半身を起こしたクロコダイルを、ロビンとドフラミンゴが見下ろした。

    「寝ていた方が良いんじゃない?お腹、とっても痛そう。」
    「・・・うるせェな。テメェはあの小娘を追え。島の権利書奪ってとっとと逃げるぞ。」
    その言い草にクスリと笑ったロビンは、"従います"と、からかうように言って踵を返す。
    その瞬間、ドフラミンゴと意図せずバチリと目が合った。
    「フフ。意外ね、ミスター。まるで、"人間"みたい。」
    「・・・馬鹿言うなよ。こいつは、"特別"だ。」
    「ヤダ・・・重症ね。」

    人間嫌いなこの男は、クロコダイルという"人間"を自分の隣まで押し上げたのか。
    その、人間らしい浅ましさに、この男は永遠気が付かない。
    ロビンはそれを指摘してやる事もなく、一度笑ってその大きな体の横を通り過ぎた。

    目の前では、武器を構える黒スーツの生き残り達が数名。
    ドフラミンゴはうんざりとため息を吐いた。

    「・・・まだやんのかよ。一体テメェら、何に"取り憑かれて"やがる。」
    「・・・黙れ悪党!!!貴様の出品したあの"赤真珠"は、」

    止まない戦乱、積み重なった戦う"理由"、増えていく、英雄達の墓標と棺桶。

    始まりは、"赤い宝石"だった。

    「あの赤真珠は、"500年前"、"イーストヤード"に奪われた筈の・・・我が国の宝だ・・・!!!」

    ######

    「ねェ。貴女どうして、危険を冒してまで、"そんなもの"を盗みに来たの?」

    暗い、宝物庫の役目を果たす、広い部屋。
    その片隅で赤い光を放つ首飾りを手にした"花柄ドレスの女"は、ゆっくりと振り返った。

    「戦争を、終わらせる為に。」

    律儀に、クロコダイルに言われた島の権利書も持った女は、妙に強い光で言う。
    ロビンは思い至った仮説に、壁に寄りかかって口を開いた。

    「貴女、もしかしてイーストヤードかウエストヤードの人?それなら、500年に渡る戦争のきっかけは何?」
    「・・・わたしは、イーストヤードの人間です。イーストヤードとウエストヤードは、500年前、同時期に同じ"伝説"を発見しました。」

    500年前、朽ち果てた祭壇が、イーストヤードの森の中で発見された事が、全ての始まりだった。

    元々イーストヤードとウエストヤードに住まう人間たちは、この島に住んでいた訳ではなく、どこか別の島から移り住み、そこに国を築いたという経歴がある。
    「わたしたちの先祖は、イーストヤードに元々住んでいた人達が居たことをその時知り、土地を譲り受けた事に感謝しました。そして、その祭壇を再建し、語り継ぐことにした。
    その祭壇で祀られていた筈の国宝が、この、"赤真珠"です。」
    赤い大粒の真珠が連なるその首飾りは、祭壇で大切に祀られていたと伝えられている。
    しかし、島中を探しても、その首飾りだけが"見つからない"。
    「ある日、ウエストヤードの人達が、赤真珠を渡すようにイーストヤード側へ声明を出したそうです。
    ウエストヤードにも、同じような伝説が発見されたそうですが、イーストヤードには当然、そんなものはありません。
    数億ベリーの価値がある国宝ですから、ウエストヤード側もそんな言い分では納得せず、結局奪い合いの戦争が勃発しました。・・・それが、今へと続く戦争のきっかけです。」
    「・・・呆れた。そんな根拠の無い戦争が、500年も続いているの?」
    「始まりはそうでしたが・・・一度戦争が始まってしまえば、"戦う理由"は増えていく。
    今は西側の人間に恨みの無い人は、東側には居ません。」
    誰もが西側に、大切な物を奪われた。それは、西側の人間達も同じ事。
    始まりは些細でも、ここまで長引いたその凶気を、収める事などもう、できないのだ。
    「・・・わたしも、驚きました。まさか、500年間探し求めた赤真珠が、オークションに出品されるとは。でも、これがあれば、西側と和解するきっかけになると思って、このオークションに忍び込んだんです。」

    「イテェんだよフラミンゴ野郎・・・!!!もう良い!やめろ!!!!」
    「オイ髪はやめろってば・・・!!もうちょっと!もうちょっとだから!そーっとするから!!!」

    突然響き渡った、野太い男の怒鳴り声に、ロビンの瞳が僅かに細くなる。
    困ったように扉の外を見遣る彼女を無視して、ロビンは黙って扉を開けた。

    「・・・煩いわ。何してるの。」

    扉の外の壁際で、シャツをはだけさせ、普段は見せない意外と白い肌を晒したクロコダイルと、それに覆い被さるドフラミンゴを仁王立ちして見下ろしたロビンが低い声で言う。
    ちらりと見遣った扉の前の廊下には、黒いスーツの人間達が全員倒れていた。
    同じタイミングでこちらを向いた二人が情けなく肩を震わせる。
    「あ、いや、傷、縫った方が良いかなーって、」
    「・・・ッチ。」
    「舌打ちしたいのはコッチよ。」
    あらかた縫い終わったのか、舌打ちをしたクロコダイルが覆い被さるドフラミンゴの顎を蹴飛ばして、血だらけのシャツを再び羽織る。
    テキパキとベストを羽織り、片腕と口でタイまで結んで見せた。

    「・・・着る方がエロいって逸材だよなァ。」
    「・・・死んでくださる?」

    思わず呟いたドフラミンゴを一蹴したロビンが、随分と上のサングラスを見上げる。
    「あの赤真珠、貴方が出品したもの?どこで手に入れたの?」
    「あァ?傘下の海賊が拾ったらしいぜ。何でも"空"から"降って"きた宝箱の中に入ってたそうだ。」
    赤くなった顎を擦ったドフラミンゴが、ロビンを見下ろして言うと、近付いて来た"花柄ドレスの女"は怪訝そうに瞳を揺らした。
    「空から・・・?一体国宝は500年もの間どこにあったのでしょうか。」
    「これは・・・完全にわたしの思い付きなのだけど・・・。」
    ロビンは懐から先程拝借した海図を取り出して、戸惑う彼女に差し出すと、再び壁に寄りかかる。
    途絶えた文明、後に移り住んだ人間達と、割れた島。500年の間、姿を見せなかった国宝が、今になって空から降ってきたという事実。
    ロビンはその余りに"馬鹿げた"憶測に、少しだけ笑った。

    「"ノックアップストリーム"はご存知?」

    この海が生み出す、予測不能の"災害"。
    突然空に向かって突き上げる海流は、そこにある全てを吹き飛ばす。
    それを、知っているような反応を見せたのは、ドフラミンゴとクロコダイルだ。

    「まるで海面が爆発したかのように、空高く水の柱が突き出す、通称"バケモノ海流"の事よ。
    そして、その古い海図の島の名前は"アコードウード"。街の名前は、"イーストヤード"と"ウエストヤード"。
    書かれた文字を見る限り、およそ600年前の地図ね。」
    「・・・??。元は一つの島だったって事か。」
    「そういうこと。もしかして、ノックアップストリームによって島が二つに割れて、現在のようにイーストヤードとウエストヤードに分断されてしまったんじゃないかしら。
    だから、同じ伝説が、二つの国に存在してしまった。」
    「まァ、そういうこともあるのかもなァ。」
    「・・・で?その国宝は、ノックアップストリームに突き上げられて空をずっと漂っていたとでも言いてェのか。」
    意外にも、楽しそうに語るロビンを鼻で笑ったのは、クロコダイルだ。
    壁に凭れて座り込んだまま、シニカルに口元を歪める。

    「そうよ。"空島"の伝説は、お気に召さないかしら。」

    得意気に言ったロビンは、ぐるりと彼女を振り返った。
    海図を握り締めた細い手のひらが揺れる。

    「可能性の話よ。もしかしたら、その国宝は"奪われた"訳ではなくて、災害によって喪失したものだとしたら・・・500年に渡る強烈な戦意も、或いは、収まるかもしれない。

    どうにでも、なるのかもね。・・・貴女の島は、まだ、"地図"から"消えて"いない。」

    まるで、"地図"から"消えた"島があるかのような物言いで、美しく笑う秘書にクロコダイルは何も言わなかった。
    その、何の根拠の無いロビンの言葉は、ある種の破壊力を持って、確かに、"花柄ドレスの彼女"の瞳を揺らす。

    「まァ、事情は分かったけどな、それをタダでやるかどうかはまた別問題だぜ。お嬢ちゃん。・・・テメェもだぞ鰐野郎。」
    「良いじゃない、譲ってあげれば。これであの子の国が平和になるかも知れないのよ。」
    「平和になったらおれァ食いっぱぐれるだけだぜ。」
    「見通しの甘い経営をしたテメェが悪いな。権利書も赤真珠も諦めろ。」
    「・・・だ、大丈夫ですよ!戦争が終わっても軍隊が解体される訳では無いですし・・・貴方と継続して取引するよう、"父"に話してみます。」
    赤真珠を巡る騒動の背景は分かった。
    しかし、商売目的でこの場にいるドフラミンゴは、一銭にもならず、さらには得意先が一つ無くなりそうな状況に苦い顔を見せる。
    焦ったように口を開いた彼女の、"父親"の存在に、三人は"ん?"と違和感をそのまま顔に表した。
    「・・・君のお父様に、そんな権限があるのかね。」
    「ええ!わたしの父は、」

    一度言葉を区切った彼女は、吹っ切れたような、明るい笑顔を見せる。

    「・・・わたしの父は、イーストヤードの現国王です!!」

    ######

    「何だ。"王女様"には随分と優しいじゃねェか。」
    「うるせェ。・・・・・・・・あの国には回収しなきゃならん買掛金が、1億ある。」
    あっさりと素性の割れた"花柄ドレスの女"に、武器売買の継続を条件に、赤真珠のネックレスを譲ったドフラミンゴは、これ以上無いくらいに口角を下げて、低い声で言う。
    離れた所で床に座り込んだドフラミンゴとクロコダイルは、ロビンと古い海図を片手に話し込む"王女様"に、"どうりで苦手な訳だ"、などと二人して思った。

    「・・・つーか、ピンピンしてんじゃねェかよ。」
    「このおれがそんなにヤワだと思ったのか。・・・まァ、テメェの腕一本くれてやる程の事じゃァねェな。」

    あの時、あの男が一体何に怒りを爆発させたのか、そんな事には興味も無いし、知りたいとも思わない。
    ただ、その、たまに現れる、抑えきれない"衝動"は気の毒だと思った。
    「・・・焦って止めた癖に。」
    苦し紛れに言ったドフラミンゴを見上げたクロコダイルは、珍しく、大きな口を開けて笑うと、手錠で擦れて、傷だらけになったドフラミンゴの左手首を撫でる。
    ズズズ、と壁伝いに下がったクロコダイルの頭が、ドフラミンゴの肩の上で止まった。
    眠たげな、疲れたような瞳がゆっくりと閉じる。
    「・・・焦るさ。"片腕"で、この海を歩くなァ、想像以上に難儀だぜ。」

    本当は、この、大きな手のひらが無くなってしまうのは、惜しいと思った。
    それを、クロコダイルは、態々口にはしない。

    この男と、自分は、互いに"嘘"を"吐いている"。

    本当の事は、何も言わない方が、この世は上手く、回るものだ。


    (・・・些か、疲れた。・・・歳かな、おれも。)

    ######Epilogue

    「ねェちょっと待って、ほんとほんと。ね、鰐野郎。ほんと待って。原価で良いから、まじで原価だけでも払って。」
    「みみっちい男だな。愛しのおれに、島ぐらい譲れよ。」
    「ハァ・・・。もういい加減ホテルに戻りたいのだけど。ミスター、いくらなの?」
    「オイ、この馬鹿に払う金なんぞビタイチねェぞ。」

    無人島の権利書を片方ずつ掴んだドフラミンゴとクロコダイルの間で、ロビンが心底うんざりしたようにため息を吐く。
    数十分間に渡るこの小さな諍いは、未だ終わる気配も無かった。

    「お前、こんなチンケな島すらおれに貢げねェのか?底の浅い男だ、幻滅するぜ。」
    「うるせェ!!色々改竄すんのも今は厳しくなってて大変なんだよ!しかも、出荷した記録が有るのに入金が無いと経理にチクチク言われる。」
    「現実的な話は辞めて頂戴。ここは夢とロマン溢れる"偉大なる航路"よ。」
    「わかったわかったわかった。じゃァ、手錠付けた鰐野郎暫くくれよ。それでチャラにしてやる。」
    「あァ?!何でおれが、」
    「・・・あら、それでいいの?」

    「「・・・え。」」

    ガチャンと、重たい音がして、クロコダイルとドフラミンゴの体を"懐かしい"倦怠感が襲う。
    再び、クロコダイルの右手首と、ドフラミンゴの左手首に嵌った手錠に、ロビンはにっこりと笑って、島の権利書を二人の手のひらから抜き取った。

    「ちょ、ちょっと、待て、ミス・オールサンデー・・・。」
    「あの、鍵は、」

    怒鳴る気力も削ぎ落とされた二人が、力無くその華奢な背中に手を伸ばす。
    ロビンは振り向きもせずに、心配そうにこちらを見ていた王女様の肩を抱いた。

    「お迎えが来るのは明日だったかしら?わたしの泊まっているホテルでお茶でもどうかしら。」
    「え、ええ。ぜひ。」
    「そうだ。アラバスタは香水が有名なの。戦争が無事に終結したら、一度遊びにいらっしゃい。うちの王女様と貴女、とっても気が合いそう。」
    「あ、ありがとうございます。」

    「「・・・い、いや、」」

    「「・・・ちょっと待てェエエエ!!!!!」」

    「フフフ。ほんと、仲良しね。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤❤❤❤❤💞💞💞💞💞💴❤☺💕💞💴💴💴☺❤💕💖💞💴❤💖🙏🙏❤💘💕💗💖❤❤❤💞☺😭❤💴❤❤❤❤❤❤❤❤❤❤🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202