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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    サイコパスパロ
    ⚠恋愛要素は無い(つもり)ですが、若様⇔登場人物の大きすぎる感情が飛び交っているのでご注意ください。
    ※本家のキャラは出てきません。
    ※元ネタの方も色々捏造してるので注意です。
    ▼登場人物
    🦩/監視官/免罪体質
    🐯/監視官
    👒/執行官
    🌷/執行官
    🕶/執行官
    💋/執行官(休職中)
    友情出演:🐊💐(今回は殆ど出ません)

    Repaint  ①「・・・ハァッ、ハァ、は、」

    一歩表に出ればきっと、眩しい程のネオンサインと街灯に照らされ、あっという間に目が眩む筈なのに、必死に長い両足で駆け抜ける路地裏は一寸先も見えない程に暗い。
    少し先を走る男の翻るシャツの裾を見失わないように、ドフラミンゴは細い道をひたすら進んだ。

    『・・・おいバカザルがいねェぞ!!!トラファルガー!!!』
    『何だと?!麦わら屋!!お前今どこにいる???』
    『え?居るぞ。』
    『『・・・だからどこにだよ!!!』』

    無線から垂れ流される"三馬鹿"の大きな声に、ドフラミンゴは重々しいため息を吐く。
    結局、頼れるのは自分だけだ。
    両手で握り締めた"玩具"が、やけに重たく感じる。

    「・・・おいロー!誘導先にお前らちゃんと居るんだろうなァ?!」
    『居るぞ。おれとユースタス屋は。』
    「"問題児"はどうした・・・。」
    『シラネ。』

    音質の悪い無線機から響く、ノイズ混じりの台詞をドフラミンゴはうんざりと聞いた。
    "奴"を、乗りこなすのはもう無理だ。ドフラミンゴは珍しく、そんな風に泣き言を思う。

    「あいつを連れてきたのが間違いだった。お前ら2人でどうにかしろ。」
    『ハハッ・・・!充分だろ。お前もその辺で遊んでて良いぞ。トラファルガー。』
    『おれに命令するな。』
    「・・・オイオイ、喧嘩すんな、」

    相変わらず、低レベルな奴らに口を開いた瞬間、ドフラミンゴの視界で蠢く"何か"。

    「・・・お!見っけた!!!」

    ズダァン!!と、人間離れした運動神経で降ってきた"問題児"は、派手な音を立ててアスファルトへ着地した。
    脱げた"麦わら帽子"を被り直して顔を上げた少年は、こんな場所に似つかわしくない、随分と晴れやかな笑顔を見せる。

    「・・・麦わら!!お前、何故ここに居る?!」
    「何でって・・・犯人見えたからよ。」
    「研修からやり直してくれ。」

    追っていた男を挟んで向かい合った"問題児"、"麦わら"のルフィを怒鳴りつけると、ドフラミンゴは右往左往する男にドミネーターを向けた。
    ルフィも倣うように、その美しく光る銃口を上げる。

    『犯罪係数"アンダー70"、執行対象ではありません。トリガーをロックします。』

    その時、この世の"神"が下した"判断"に、ドフラミンゴの瞳が揺れた。
    同じ音声を聞いたのか、目の前の"麦わら"も、一瞬、キョトンと間抜けに首を傾げる。

    (・・・馬鹿な、)

    『犯罪係数"アンダー40"、執行対象ではありません。トリガーをロックします。』

    この世から"失せた"、"選択ミス"と、"分不相応"。
    全員に与えられた"最適"が、妙な音を立てて崩れる気配を感じた。
    その"根幹"を揺るがす判断に、ドフラミンゴは思わず眉根を寄せる。

    『犯罪係数"アンダー30"、執行対象ではありま、』

    唐突に地面を蹴る音がして、凍り付いたドフラミンゴの瞳が前を向く。
    気が付いた時には既に、ルフィが身軽な動作で未だアタフタとする男の眼前に飛び掛かっていた。

    「・・・む、」

    ドフラミンゴが口を開くよりもはやく、ルフィは握り締めたドミネーターを大きく振り上げる。
    青いネオンが残像として残った瞬間、少年の振り抜く銃身が男の横っ面に食い込んだ。

    『犯罪係数"オーバー190"、刑事課登録執行官、任意執行対象です。セーフティを解除します。』

    倒れる男の代わりに、射程内へと収まった少年を、この世の"神"は"悪"だと言う。
    ドフラミンゴは小さく息を吐き出して、その"玩具"をゆっくりと下ろした。

    「・・・ドミネーターは、"鈍器"じゃねェぞ。"麦わら"。」

    ######

    「・・・いいか。これは、由々しき事態だぜ。」

    「何でお前はいつもいつも持ち場を離れるんだ!!麦わら屋!!!」
    「ほっとけよ、トラファルガー。好きにさせとけば良いじゃねェか。」
    「しししし!今回もおれが捕まえたな!!!」
    「「・・・あ?」」

    公安局"刑事課"二係。
    事務所のデスクに座った"監視官"、ドンキホーテ・ドフラミンゴは小さな声で言うが、目の前のデスクに座る"三馬鹿"は、"上司"の憂鬱など知りもせず、大きな声で掴み合っている。

    「・・・話ぐらい聞け。」
    「おれは聞いているぞ。ドフィ。確かにこれは、由々しき事態だ。」
    「・・・執行官はもうお前だけで良いな。ヴェルゴ・・・。」

    ドフラミンゴに一番近いデスクで低く言ったヴェルゴは、立ち上がるとその目の前に書類を置いた。
    お互い、サングラスの奥で一度視線を交差させ、ドフラミンゴの指がそれを捲る。

    「・・・"ホシ"が着けていた"義手"の解析が終わったそうだ。」

    ついさっきまで、暗い路地裏で追いかけ回していたのは、繁華街で通行人を3人刺傷した男だった。
    それにも関わらず、街頭スキャナーは奴の色相を"クリア"だと宣い、最終的に、エリアストレスの上昇で異変に気が付いた公安局が駆け付けるという始末。

    (・・・しかも、)

    ドミネーターすら、奴を"善人"だと保証した。
    その、この世の根幹を揺るがす事態に、ドフラミンゴは痛むこめかみを無造作に掻く。

    「・・・なんだ、"部品"が足りねェのか。」
    「どうやらそうらしい。」

    ペラペラと捲った書類には、犯人の右腕に装着されていた義手の"復元イメージ"が載っていた。
    "あの時"、ルフィの強烈な一撃を顔面に浴びた男が地面に崩れた瞬間、その右腕が小さな爆発を起こしたのである。
    サイバネティクスが進んだ現代で、義手を着けている事に疑問は無いが、爆破される前の姿を3Dで再現されたその"義手"には、不自然な"空洞"があった。

    「その空洞に、何が入っていたのかは分からないが、意図的なら・・・犯罪係数の"偽造"に一役買っていたのかもしれない。」

    義手が起因しているのかは未だ不明だが、捕らえた男の犯罪係数を再計測したところ、オーバー200の"クロ"が出たのである。
    シビュラの審判を、偽造できる"何か"など、出回ればそれこそ事だ。

    「ミンゴ!!!おれ、今日"かつやく"したよな?!」
    「あー?」

    唐突に、割って入ったルフィはドフラミンゴの顔を覗き込む。
    ニンマリと笑ったその顔に、ドフラミンゴは嫌そうに口角を下げた。

    「"ラーメン"食いに行こう!!!」
    「・・・。」

    "活躍"したら、また、奢ってやる。

    いつだったか、古びたラーメン屋で口走った台詞を何年も、この少年は反故にさせない。
    ドフラミンゴは諦めにも似た何かをため息と共に吐き出して、額を撫でた。

    「お前だけズリーぞ麦わら!!おれも行く!!」
    「何でだよ!!ギザ男は"かつやく"してねーだろ!!!」
    「・・・んだとバカザル!!テメェが勝手に離れた持ち場を誰が守ってやったんだ!!!」
    「・・・こんな時間に開いてるとこあんのか。」

    突然舞い降りた"由々しき事態"。この世の根幹を揺るがす"兆し"。
    その"危機"は、ドフラミンゴが延々、待ち望んでいた大きな"うねり"だ。

    『怖いの。彼、ずっと、"クリア"じゃない。』
    『・・・あいつの"犯罪係数"は、"弟"の方に"反映"されてるのさ。』
    『"ドフィ"。お前、"本当"は、"何色"なんだ。』

    自分の"色"と、"神"の"審判"に怯える馬鹿共。

    ("おれ"を、)

    弾きはしない"盲目"が、この世を牛耳る違和感。
    やっと、それを、崩す者が現れた"幸運"に、ドフラミンゴは手のひらで隠した口角を上げた。

    「バーミヤン!!バーミヤン行こう!!な!ミンゴ!!」

    ぐるりと振り返った麦わら帽子に、ドフラミンゴの笑みが消える。
    "弾かれた""彼ら"は、その"うねり"を、喜ぶのだろうか。
    その時脳裏を過ぎった"同じ"金髪に、ドフラミンゴは僅かに瞳を細めた。


    「・・・一時間だけだからな。」
    「よっしゃ!!準備してくる!!!」

    #######

    「担々麺!!大盛りで!あと、ワンタン麺だろー。あ、これも大盛り。あと餃子だろー、お、火鍋しゃぶしゃぶうまそー。トラ男は?」
    「蟹レタスチャーハン・・・大盛りで。」
    「おれもそれ食う!!」
    「おれも。あと青椒肉絲と酢豚と担々麺大盛り。」
    「真似すんなよギザ男!!」
    「別に真似してねーよ!!」
    「仲良くしないか。他の客に迷惑だぞ。あ、おれは麻婆豆腐定食を。ドフィは?」
    「・・・野菜たっぷりタンメン。・・・半盛で。」

    深夜とも呼べる時間帯に、テーブルに乗り切らない程の注文。
    ドフラミンゴは既に胸焼けを起こしそうな状況を嘆くように額に手を当てた。

    「つーかよ、ドミネーター、故障でもしてたのか?」
    「知らん。一応技術部に点検を要請しているが目立った故障箇所は無いらしい。・・・麦わら、テメェのドミネーターは外傷が酷いがな。」
    「ヤベェ!!杏仁豆腐頼むの忘れてた!!!」
    「クビにするぞ。」

    "三馬鹿"の中で、何だかんだ一番仕事熱心なのは、"執行官"ユースタス・キッドである。
    あっという間にチャーハンを食べ切ると、担々麺に手を伸ばしながらドフラミンゴに言った。

    「・・・ドミネーターが使えないのは痛いな。同じ事があったらスタンバトンで対応するのか?」
    「おれは別にそれでも良い。」
    「おれも!」
    「おれもどちらかと言えばそっちの方が良いが・・・。」
    「・・・脳筋共め。」

    ローがもぐもぐと咀嚼しながら言った言葉に、キッド、ルフィ、ヴェルゴの執行官3人が続け、ドフラミンゴとローの監視官2人はうんざりと呟く。

    「そもそも、ドミネーターはただの"審判"システム。"犯罪係数"だけを"証拠"に対象を裁く、現代の"裁判"だ。さっきの通り魔みてェに確実に犯罪犯してりゃ別に、シビュラにいちいちお伺いを立てる必要は無ェだろうが。」
    「フフフフッ。馬鹿言うな。そもそも、"人間"を"裁く"権利はシビュラにしかねェんだよ。目の前で誰かが誰かを殺しても、それを"罪"と判断する権利を、おれ達は持ってねェだろうが。」
    「アーアー、そうだったな。忘れてたよ。」

    キッドが鼻を鳴らして、うんざりと言った瞬間、テーブルの上でドフラミンゴのスマートフォンが震えだした。
    ロック画面に映し出された"上司"の名前に、思い切り口角を下げると通話ボタンをタップする。

    『ドフラミンゴ貴様・・・!!何で二係はもぬけの殻なんだ!!!』

    挨拶も無しに響いたがなり声に、ドフラミンゴの首が勢い良く傾いた。
    "仏"の名も泣くその体たらくに、ドフラミンゴは態とらしく大げさなため息をつく。

    「・・・ラーメン食ってるから。」
    『それでも公安局の刑事かバカタレ!!!!至急戻れ!!事件だ!!』
    「あ?」
    『駅前ビルで立て籠もりが発生した。帰宅途中の二十代女性が一人人質にされている。』
    「オイオイ、街頭スキャナーはどうした。シビュラは休暇取ってバカンスか?羨ましいぜ。」
    『残念ながら貴様よりも真面目に勤務している。"また"、ドミネーターが使えないかもしれん。』

    言われなくても、分かっている。
    まさかの"2件目"に、ドフラミンゴの口元が歪んだ。
    それを、ローはぼんやりと眺めている。

    (・・・ずっと、)

    シビュラの"ミス"を、この男は"喜んで"いた。
    "監視官"の立場で、シビュラの判断が揺らぐ事は、喜ぶべきことではない。
    犯罪係数の低さによって保証された"正気"を、否定されるその時を、この男は、もしかして、待っているのか。

    「駅前で立て籠もりらしい。ロー。お前はユースタスと麦わらを連れて一度公安局へ戻れ。使えるか分からねェが、ドミネーターを持ってきてくれ。・・・"相棒"。おれたちはとりあえず現場へ急行だ。」

    通話を終えたドフラミンゴが、椅子に掛けていた公安局のレイドジャケットを羽織り、口を開いた。
    執行官だけで出歩く事は出来ない為、チーム分けをする時は大体こうなる。
    慣れたように返事をして、ロー達も立ち上がった。

    「・・・ドフラミンゴ。お前、随分と嬉しそうだな。」

    先を行くキッドとルフィの背中を追わずに、振り返ったローは瞳だけをドフラミンゴに向ける。
    相変わらず歪んだその口元に、ローの眼球が怪しく光を上げた。

    『ごめんなー、ロー。ホントは、ずっとお前の下で執行官やるつもりだったんだが。』

    『もう、おれは、』

    "同じ"金髪の、優しい"潜在犯"。ガラス越しの大きな手のひら。タバコの煙。

    『おれは、もう、駄目みたいだ。』

    ずっと、ずっと分からないのは、"あの人"を、"弾いた"シビュラの"基準"。

    「・・・そう見えるか、ロー。・・・そうだなァ、嬉しいと言うよりも、興味が有るだけだ。」

    こんなにも、ハードな仕事に就いているのに、この男の色相は延々と、"クリア"なままだ。
    目の前の男と、ガラス越しの"彼"の間に一体、何の隔てがあるのだろうか。

    「おれァ、ただ、自分が今、"何色"なのか、知りたいだけだ。」

    ######

    『・・・ああ、わたしのせいね。全部。わたしのせいよね。ドフィ、ロシー。』

    『ユーストレス欠乏性脳梗塞。彼が植物状態から抜け出す事は無いでしょう。』

    『ドフィ・・・ッ!どうしよう・・・おれ、潜在犯に、』

    「・・・ドフィ?」
    「・・・ッ!!」

    拾ったタクシーの後部座席で、呼び掛けに応じないドフラミンゴを心配そうに眺める相棒と目が合った。
    律儀に助手席に座ったヴェルゴは、首だけで振り返り、その名前を呼ぶ。

    「どうした。大丈夫か?」
    「あァ。なんだ。」
    「いや、この先は一般車が入れない。降りるぞ。」

    ヴェルゴが顎で指した先には、平和なナリの公安局マスコットキャラクターが、狂ったように"危険です"、"離れてください"、と繰り返していた。
    現場の雑居ビルは、ホログラムによって隠され、その中の凶事は伺えない。
    ホログラムの中では公安局の職員達がバタバタと対応に追われていた。

    「・・・刑事課二係だ。人質は三階だったな?おれたちは状況を確認しにビルへ入る。ドミネーターの運搬用ドローンが到着したらすぐにビルの中へ運べ。」
    「・・・は、はい!」
    「行くぞ、ヴェルゴ。」
    「・・・ああ。」

    状況はタクシーの中で把握している。
    特に現場の職員に確認することも無いとばかりに、ドフラミンゴはヴェルゴを伴って裏口へと回り込んだ。

    「・・・組織的な犯罪だと思うか?相棒。」
    「"2件目"が出た以上、そうと考えるのが普通だろう。ロー達を待った方が良いんじゃないのか。」
    「ビル内の生体反応は2人だけだぜ?まァ、それも、"偽造"されているのかもしれねェが・・・。いずれにしろ、ドミネーターを待っても使える保証がねェ。そして何より、あの三馬鹿を人質がいるような繊細なミッションに関わらせたくねェ。」
    「・・・分かるよ、ドフィ。」
    「ありがとよ。」

    同じタイミングで息を吸って、吐いた。
    呼吸を止めた瞬間、スタンバトンを抜いて扉を開く。
    がらんとした暗いロビーには、人の気配が無かった。
    タクシーの中で覚えた図面を頭の中で思い描き、ドフラミンゴとヴェルゴは階段へと向かう。

    「誰も居ねェな・・・。立て籠もり犯の要求は"アンチシビュラ"。・・・レジスタンス組織の犯行じゃねェとしたら、立て籠もり犯は根暗のコミュ障だぜ。革命は普通、賛同者を集めてからするもんだ。」
    「・・・本当に単独犯なのか?信じられん。」
    「いや、犯罪係数を偽装する"何か"をばら撒く"黒幕"が居るんだろ。どうせ。1件目の犯人はまだ吐かないようだが・・・このホシはすぐに吐いてくれるかもしれねェ。」

    三階まで無人の階段を駆け上ると、目の前には事務的で、質素なドアがあった。
    ドアの上半分に付いているガラス窓からゆっくりと中を覗けば、確かに、男女が一組、テナントの入っていないだだっ広い部屋に入り口の方を向いて座り込んでいる。

    「配置が良くないな。正面から入ればすぐに気付かれる。」
    「・・・麦わらにホシの背後の窓から突入させる。あいつなら屋上から行けるだろ。」
    「・・・ふふ。些か、"妬ける"な。」
    「あァ?」
    「"良い"部下が入ったと・・・思っているだろう。ドフィ。」

    ニヤニヤと、"悪友"の顔で笑うヴェルゴは、ドアの脇でしゃがみ込んだままドフラミンゴの顔を見た。
    それに、嫌そうな顔を隠しもせずに、ドフラミンゴはため息を吐く。

    「そーだな。"部下枠"ン中じゃァ、まァ、良い方だ。」
    「他にも"枠"があるのか。」
    「バーカ。"相棒枠"に決まってんだろォが。今んところ、"一人"しかその枠にゃァ居ねェが、充分だぜ。」
    「・・・なんだ、妬く必要は無かったな。」

    『ドフラミンゴ。もうすぐ現場に到着する。お前らどこに居るんだ?』

    余りにも平和ボケした空気を一喝するかのように、ドフラミンゴの耳に嵌まったイヤホンからローの声がした。
    後ろの方でギャーギャーと何やら怒鳴り合う声が響き、心底ここに連れてこなくて良かったと思う。

    「おれたちは三階のドア前だ。正面突入は難しい。麦わらを西側の窓から突入させ、」

    ドフラミンゴの低い声が途切れた瞬間、総毛立つような"嫌な予感"と、視界の端にチカチカと、妙な光を感じた。
    動いたのはヴェルゴの方が早く、ドフラミンゴの襟首を掴むとドアを開けて部屋の中へ転がり込む。

    「・・・ぐ、ゥ、」

    劈くような女の悲鳴と、男の怒鳴り声を掻き消す"銃声"。
    連射された弾丸が一発、ドフラミンゴのふくらはぎを撃ち抜き、くぐもったうめき声が漏れた。

    (・・・やられた!!)

    振り返った先では、ドア前の監視カメラから煙が上がっている。
    割れたカメラのレンズから、銃口らしき物が覗いていた。

    「ヴェルゴ!!!」

    自分に覆いかぶさるヴェルゴが、微動だにしないことにゾッとしたドフラミンゴの手のひらがズルリと滑る。
    目の前に持ってきた手のひらが、予想外に真っ赤だった事に背筋が凍った。

    「・・・大丈夫、だ。問題ない、」

    ボタボタと口から垂れる血と、赤く滲む、ワイシャツの白い色に目眩がする。

    「・・・こ、公安局か?!」

    立て籠もり犯の男は、包丁のようなものを前に向け困惑したように怒鳴っていた。
    この場で、"全員"が状況を把握していない事に、ドフラミンゴは怪訝そうに顔を顰める。

    ヴェルゴの下でスタンバトンを構えたドフラミンゴに、気圧された男が持っていた包丁を振り上げた。
    思わず奥歯を噛み締めて、ヴェルゴの下から這い出ようと身を捩る。
    自分の顔面を狙うその刃物に反射した光がやけに、スローモーションに見えた。
    手にした得物のリーチでは、到底間に合わないと悟った刹那、ドフラミンゴの上でヴェルゴの瞳が獰猛に開く。

    「・・・ヴェ、」

    目にも留まらぬ速さで伸びた手のひらが、抜き身の刃を掴んだ。
    パタパタと、雨のように落ちた血と、ヴェルゴの瞳が放つ赤い光を呆然と眺める。

    「・・・ド、フィに・・・触るなよ。」

    喉の奥から絞り出された台詞に、怖気付いたのは、男の方だ。
    カタカタと震える刃先に、ヴェルゴの手のひらが真っ赤に染まる。

    「・・・公安局だ!!大人しくしろ!!」

    膠着した空間を破るように、ドミネーター運搬用ドローンがドフラミンゴの目の前に滑り込んだ。
    呆けていたその瞳が一瞬で光を含み、ドローンの影にヴェルゴを引っ張り込んでドミネーターを抜く。

    「外の監視カメラに小銃が仕込んである!ドア閉めろ!」
    「・・・オイオイ、大丈夫かよ。ドフラミンゴ。ヴェルゴまで。死んでないよな?!」

    ドフラミンゴの足と、ヴェルゴの脇腹を見たローが、眉を顰めた瞬間、目の前の窓ガラスが割れて、ルフィとキッドが飛び込んで来た。
    飛び込んだ勢いのまま、男に飛び掛かる2人に、ドフラミンゴとヴェルゴは重症という事も忘れて、能面のような顔をする。

    「ホラな!トラファルガー!!麦わらに出来ておれに出来ねェ事は無ェんだよ!!分かったか!!」
    「何でギザ男もこっちから来んだよ!!おれだけの方が絶対はやかったぞ!!!」
    「・・・張り合うのやめろ。人の命が掛かってるんだぞ。」

    登場した三馬鹿がいつも通りに騒ぐのを、呆れたように眺めたドフラミンゴは、ドミネーターを犯人に向けた。
    やはり、犯罪係数は"アンダー50"。

    「オラオラオラァアアア!どうせドミネーター使えねェんだろ!!タイマンでやったらァアアア!!」
    「ちょ、やめろ、犯人死ぬから。マジで。そしてそれはタイマンじゃねェ。袋叩きだ。」

    ルフィとキッドが男に殴り掛かるのを、歩けないドフラミンゴが止めようと必死に腕を伸ばしたが、哀れにもキッドの右ストレートが男の顔面に飛んだ。
    キッドの拳がガードした男の左腕に当たり、バキリと音を立てて"落ちる"。

    「・・・ッ!!」

    『犯罪係数"オーバー200"、執行対象です。セーフティを解除します。執行モード、ノンリーサル"パラライザー"。落ち着いて照準を定め、対象を制圧して下さい。』

    "落ちた"、その"義手"に、殆ど本能的にドミネーターを向けた。
    その"本能"が当たりを引いて、ドミネーターの銃身が青いネオンを描く。

    「・・・何だよ。"つまんねェ"なァ。」

    脆く、崩れた"同胞"への希望を、ドフラミンゴは思わず口にして、崩れ落ちたその"紛い物"を白けたように見つめていた。

    ######

    「・・・ヴェルゴ!お前、大丈夫か?!」
    「あァ、ドフィ、すまないな。"盾"に、なれなかった、」

    立て籠もり犯の男が床に落ちたのを確認もせず、ドフラミンゴはか細い呼吸を繰り返すヴェルゴの肩を揺する。
    緩慢な動作で視線を向けるヴェルゴは、譫言のように呟いた。
    白かったワイシャツが、赤黒く染まっていくのを見ながら、ドフラミンゴはドミネーターを、その手のひらに握らせる。

    (・・・あァ、きっと、)

    永遠に、自分と相棒の間を隔てる高い壁は、今も、きっと、そこに聳え立っている筈だ。
    怪訝そうに眉を顰めるヴェルゴの手のひらごと、ドミネーターの銃口を自分の額に当てたドフラミンゴは、サングラスの奥で瞳を細める。

    「なァ、"相棒"。今、おれは、"何色"だ。」

    曇ることの無いその色は、"あの時"だって、曇りはしなかった。
    その、"違和感"を、ずっと殺して生きている。

    「大丈夫だ。犯罪係数は安定している。・・・お前は、シビュラに選ばれた人間なんだ。ドフィ。」
    「・・・あァ、そうだな。」

    冷たい銃口が、自分に牙を剥く事は無い。
    それを、証明するように"審判"は沈黙したままだった。








    「・・・"サー"。彼、凄いのよ。あんな状況で、犯罪係数は"アンダー50"。」

    真っ暗な部屋で、何台も設置されたモニターだけが、青い光を上げている。
    その光に照らされた美しい女は嬉しそうに口を開いた。
    その背後で、ゆっくりと煙る、葉巻から上がる紫煙。
    その太い指に嵌まった指輪が、モニターの光を反射して輝いた。

    「・・・どこのどいつだ。」

    チェアごと、回転して振り返った女はテーブルに置いたマグカップを手に取って、くすりと口元だけで笑う。
    彼を、"クリア"なままで居させているのは、シビュラの"祝福"か。
    はたまた、ただの、"選択ミス"か。

    「公安局、刑事課二係。"監視官"。
    ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202