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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    サイコパスパロ②
    ⚠恋愛要素は無い(つもり)ですが、若様⇔登場人物の大きすぎる感情が飛び交っているのでご注意ください。
    ※本家のキャラは出てきません。
    ※元ネタの方も色々捏造してるので注意です。
    ▼登場人物
    🦩/監視官/免罪体質
    🐯/監視官
    👒/執行官
    🌷/執行官
    🕶/執行官(入院中)
    💋/執行官(休職中)
    友情出演:🐊💐

    Repaint ②"免罪体質"。

    "シビュラ"の恩寵を"受けられない"、ある種イレギュラーなその体質は、最適で、幸福な人生を享受することが出来ない。
    その代わりに、シビュラは永遠、彼等に"正気"の判定を下し続けるのだ。

    「"免罪体質者"なんて、都市伝説かと思っていたけど……。彼、本当にそうなのかしら。」
    「……さァなァ。」

    ガリガリと、ミルの刃がコーヒー豆を砕く音がする。
    最近ハマったらしい、その美しい女に似合いの趣味を、"サー"・クロコダイルは感慨もなく眺め、咥えた葉巻に火を付けた。

    「"そうなら"、"幸運"ね。」
    「どうだかな。"奴"も、まがい物かもしれねェぞ。」
    「……ふふ。"わたし達"みたいに?」

    湯気の立つケトルを手にした女は、律儀にもマグカップを2つ手にして振り向く
    その、皮肉じみた台詞に、クロコダイルの眉が不愉快そうに吊り上がった。

    「……本当に"免罪体質"なら、"現場"に炙り出せ。」
    「……ええ。」

    人間の"正気"を保証する"神様"。
    その神の正気を保証する物は無い。
    保証無き"正義"に縋る、この国に蔓延るその感性こそが、既に"病"だ。

    得意げに、クロコダイルは口角を上げる。
    大きな瞳を細めて口元だけで笑った女は、ポットに落ちていく黒い雫をただ、眺めていた。


    ######

    「すまん。遅くなった。」
    「……イヤイヤイヤイヤ。」

    完全に日が昇り切った、正午。
    刑事課のフロアに入ってきたドフラミンゴに、キッドは思い切り顔を顰めて言った。

    「なんだよ。」
    「いやおかしいだろ。"2日"しか経ってねェぞ。え、何。撃たれても出勤しなきゃいけねェのか。この職場。」
    「首繋がってる限りはな。」
    「……勘弁してくれ。」

    "騒動"から、2日。
    松葉杖を二本ついたドフラミンゴを上から下まで眺めたキッドは、心底気の毒そうにため息を吐く。
    それを適当にいなしたドフラミンゴは、ひょこひょこと自分のデスクへ歩を進め、その途中、空席となった"相棒"の席に、少しだけ視線をやった。

    「ドフラミンゴ……。"相棒"を少し見習ったらどうだ。ヴェルゴは軽い足取りで大量のDVD抱えながら病室に消えてったぞ。腹に穴開いてる癖に。」
    「うるせェなァ。休むとそれだけやることが溜まるんだよ。」
    「大丈夫だっつーの。たまには部下を信じて任せろよ。」
    「信じられる言動をしてから言えよ、ユースタス。」

    ドフラミンゴよりも重症だったヴェルゴには、傷病休暇を与えている。
    暫らく無人となるその席に、つまらなそうな顔をしてから、ゆっくりとチェアに凭れた。

    「お!!!ミンゴーッ!!!久しぶりだなァー!!!」
    「おいやめろ。今おれにお前の相手をする体力はねェ。」

    そういえば、嫌でも目に付く"麦わら帽子"が見当たらないと思った瞬間、フロアの入り口に"それ"は現れ、いつものように羨ましい程元気いっぱいな大声が響く。
    昼食を調達してきたのか、手には菓子パンやら、おにぎりやらカップ麺やらが大量に入ったビニール袋が握られていた。

    「ったく、呑気な男だぜ……。サイマティックスキャンをすり抜ける潜在犯は今後また、必ず出てくるぞ。」
    「あ!やべ!箸もらうの忘れた!まあいっか!!なははは!」
    「良くねェよ馬鹿。余ってる割り箸やるからそれ使え。」
    「お!サンキュー!」

    フロアの隅にある、"三馬鹿"が勝手に"作った"休憩スペースの古ぼけたソファに飛び込んだルフィは、ガサガサと大きな音を立てて袋の中身を並べていく。
    余りにも気の抜けた様子に、ドフラミンゴは全てが馬鹿らしく感じた。

    「奴は吐いたのか?」
    「吐かねェよ。"一人目"と同じ、何も知らない"アンチシビュラ派"の一個人だ。ただ、"廃棄区画"で突然現れた男に、元々着けていた義手へ、何かを組み込まれたとは言っていたそうだ。」
    「サイマティックスキャンをすり抜ける装置があるのは明確か。……そのなにかも、また"爆破"されちまったけどな。」
    「お前らが馬鹿騒ぎしてる間にな。」

    ローが生意気そうな顔で言った台詞へ、ドフラミンゴが間髪入れずに返す。
    明らかな、シビュラへの"反旗"は掴めたが、その先へは未だ殆ど進んではいないのだ。

    『バカザル!!テメェが手出すからリンチしてるみてーになったじゃねーか!!』
    『手を出してきたのはお前だろ!!!おれが捕まえるから引っ込んでろよ!!!!』
    『そもそもこの現代で、殴り合いでケリを付けようとしているところが、お前ら二人共低レベルだぞ。』
    『オイはやく義手を確保しろ馬鹿共!!!また爆破されたら、』

    "二日前"の忌々しい失態に苛つきながら、ドフラミンゴはチェアに深く沈み込む。

    ("ロシー"が"居た時"は、幾分、マシだった。)

    脳裏を過る、"元"執行官で、実の弟。
    この世で一番、ドフラミンゴを"恐れる"男。

    『犯罪係数"オーバー300"、執行対象です。セーフティを解除します。執行モード"リーサル"・エリミネーター。』

    『ドフィ!止めろ……!!』
    『なァ、ロシー。"あの時"も、そうだったよなァ。』

    『"あの時"も、お前は、"見ている"だけだった。』

    "ドミネーター"で、ドフラミンゴが"誰か"を"殺した"のは、その時が初めてだった。
    その、血に濡れた姿を見た"弟"は、まるで、ドフラミンゴの"色"を背負うように、危険な犯罪係数を叩き出し、潜在犯隔離施設へと送られた。

    『"ドフィ"。お前、"本当"は、"何色"なんだ。』

    "弟"は、三十年も前の"あの日"から、ずっと、同じ疑問を抱いている。

    (おれの、)

    色相が、何故、"曇らないのか"。
    明らかに、他人とは違う、得体の知れない"兄"を、奴は、恐れていた。

    「ミンゴ!!!!」
    「……ッ!……な、んだよ。」

    突然、大きな丸い瞳が眼前に現れる。
    思わず息を呑んだドフラミンゴの肩が揺れた。

    「メール!なんか来てるぞ!!」
    「あ?……あァ。」

    刑事課二係全員宛に届いたメールには、既に捕らえた二人の関係者の名前と住所のリストが添付されている。
    無いに等しい手掛かりを、兎に角増やせとのお達しだ。

    「オイオイ、虱潰しのローラー作戦なんざ、"青島君"の時代じゃねェんだぞ……。」

    多くはないが、少なくもない。
    そのリストをうんざりと眺めたドフラミンゴは、ゆっくりと立ち上がった。

    「全員メールは来ているな?手分けして容疑者の身辺をあたるぞ。チーム分けはおれとユースタス、ローとむ、」
    「よっしゃ!行こーぜミンゴ!!!!」
    「……は?」

    ドフラミンゴの言葉の途中で、制御不能な男が勢い良く立ち上がり、松葉杖を二本奪い去ると、その小柄な肩にドフラミンゴを担ぐ。
    自分の想定したチーム分けとは別の方向に動く事態と、自分よりも大分小さな少年が、軽々と自分を担いだ事にドフラミンゴは理解が追いつかず、あっという間に刑事課のフロアから連れ出された。

    「……いやマジで無理なんだが!!!!ロー!!!!助けてくれ……!!!足に続き、おれの胃に穴が開くぞ!!!!」
    「知らねーよ。頑張れ。」

    凄いスピードで遠ざかるドフラミンゴとルフィを見送るローとキッドは、呆れたような顔を隠しもしない。
    正直最高に気の毒だが、自分がその立場になるのは死んでも御免なローはヒラヒラと呑気に手のひらを振った。

    「……薄情者ォオオオオオ!!!!」

    松葉杖とドフラミンゴを抱えたルフィは、基本的に、"捜査"を"遠足"と勘違いしている。
    やけに嬉しそうなルフィの表情とは正反対の、悲しげなドフラミンゴの叫び声は、その日、公安局中に響き渡っていた。

    ######

    「"ワニ先生"!またねー!!」
    「ああ。安定するまで、"お転婆"はお休みだ。分かったかね、お嬢さん。」
    「ハーイ!!!」

    青い芝生の上を、軽快に走る女児のスカートが翻る。
    顔の中心に、一本の傷が走る大きな男に手を振った彼女の左足は、金属製だった。
    自分の脇を通り抜けたその少女を目だけで追って、ドフラミンゴは目当ての人物、"サー"・クロコダイルに視線を戻す。
    ルフィから奪い返した松葉杖をついて、ゆっくりと足を踏み出すが、隣の麦わら帽子は広い敷地内で義体のリハビリをする人々に夢中で付いてはこなかった。

    「……何かね。」
    「……公安局、刑事課だ。ミスター・クロコダイル。」

    "善意"無き"英雄"。"サー"・クロコダイル。
    我が国のサイバネティクス技術の第一人者。
    通信工学を用いたその義体は、この国の医療分野を飛躍的に進化させ、その貢献を"金の為だ"と一蹴する、変わり者の、超有名人だ。

    「あんたの作った義手を付けた人間が、通り魔事件を起こした。少し、話を聞きたい。」

    ざわりと、ドフラミンゴとクロコダイルの間を不穏な風が通り抜ける。
    この研究所の入口、芝生の広場、研究所内、適切に設置されている色相スキャナーは、どれも彼の正気を保証していた。

    (……違う。)

    漠然と、その"違和感"をドフラミンゴの嗅覚が掴み、反射的にそんな事を思う。
    何故、こんなにも自分と"似通った"、血の匂いがする男を、シビュラは肯定しているのだろうか。

    「悪いが多忙でね。手短に頼むよ、えーと、」
    「……ドンキホーテ・ドフラミンゴ。」

    名乗ったその瞬間に、クロコダイルの眼球が赤い光を上げるのを、ドフラミンゴは確かに、見たのだ。






    「……なァに?何か御用かしら?」
    「ん?誰だお前。ここ、スッゲー広いんだなー!」

    日本屈指のサイバネティクス研究施設。その広大な敷地は芝生の広場を有し、どこぞの庭園のようだ。
    その一角に設置された、屋根付きのテーブルセットに座る女は、突然降って湧いた"麦わら帽子"にチラリと視線を寄越す。

    「いや?"そーさ"で来たんだけどよ、迷っちまった!」
    「……捜査?公安局の人?」
    「そうだぞ!おれはルフィ!執行官だ。」
    「……まあ、そうなの。あんまりそうは見えないけど。」
    「おー?何だそれ!うまそーだな。」

    絶妙に噛み合わない会話を繰り返し、"麦わら"のルフィは彼女の手元に置かれたマドレーヌに引き寄せられた。
    クスクスと口元だけで笑う女は、それを一つ、その手のひらに乗せてやる。

    「……よかったら、どうぞ。お勤めご苦労さま。」
    「オオー!!まじか!!どうもありがとう!!!」

    読み途中の本に、再び視線を戻そうとした女は、じっと自分を見つめる少年に、再び首を傾げた。
    その丸い双眸が、突然、ニカッ、と細くなる。

    「しししし!お前いーやつだな!!」

    そして、この時代ではあるまじき"判断"で、そんなことを言った。
    女は、一度細めた視線を隠すように、活字へと視線を落とす。

    「……フフフ。わたしの色相が何色なのか、知っているの?」
    「知らねーよ!でも、それとこれとは話が別だろ?」
    「……。」

    公安局の人間にあるまじき発言を、いともたやすく吐き出して、麦わら帽子はくるりと背中を向けた。
    呆気に取られた女の瞳が、確かに揺れた瞬間を、その少年は見過ごしている。

    『……犯罪係数は、人間の"正気"を保証するものでは無いわ。』

    "知りたい"のは、君臨する"神"の面と、死んだ母が最期に"見た"もの。
    "守りたい"のは、

    (シビュラを介さない、善悪の判断。)

    この国では珍しい、その象徴のような少年はあっという間に芝生の上を駆け抜けていく。
    シビュラに"反する"その判断を、胸に仕舞うと"ニコ・ロビン"はゆっくり本を閉じた。

    ######

    「……研究所を立ち上げるまではどこに?」
    「海外だ。提携先を探していてな。」

    豪華な応接室に通されたドフラミンゴは、柔らかいソファに体を埋めて、クロコダイルの顔を見やる。
    左手だけにはめられた革製の手袋の下は、自ら設計した義手だと、何かの雑誌で読んだことがあった。

    「あんたの意見を聞きたいんだが……自分の犯罪係数を偽装するのは、可能なモンなのか。」
    「……さァなァ。……ただ、不可能では無いようにも思えるがね。」

    探り半分、興味半分で口にしたドフラミンゴの疑問を、クロコダイルは一度考える仕草をしてから返す。
    それが、嘘なのか、真実なのかは、残念ながらドフラミンゴの知識では選べなかった。

    「……"砂"に、呑まれた街を見たことがあるか。ドフラミンゴ君。」

    考え込むように、口を閉ざしたドフラミンゴを、からかうように言ったクロコダイルの口元が歪む。
    視線を上げたドフラミンゴの眼球に、さも嬉しそうに笑った。

    (……この凶暴な面で"監視官"とは、笑わせる。)

    「国外を転々とする中で、そうした街に度々出会ったが……。砂は全てを呑み込み、全てを同じ砂に変える。そうやって、街全体を枯れさせるのさ。」
    「……何が言いたい。」

    ギラギラと、妙に光る目をする男だ。
    ドフラミンゴは足元を這い回る嫌な予感をこの男の背後にも感じ、低い声で唸る。

    「"シビュラ"にも、"そういう"存在が居てもおかしくは無いって話さ。監視官殿。……呑み込まれ、瓦解する未来が来ない保証は無ェよなァ?」

    垣間見える"本性"。まるで、肉食動物のような獰猛な目つき。それを弾かぬ、盲目の神様。
    ドフラミンゴは緩む口元を手のひらで覆った。

    「……フフフフッ。"あんた"が、そうだって言いてェのか。」
    「おれは、シビュラの敬虔な犬さ。"成しうる者が為すべきを為す"。それこそがシビュラが人類にもたらした恩寵だ。それを、おれはありがたく享受しているよ。……君もそうだろう、ドフラミンゴ君。」

    ああ、仮面の下が、やっと"見えた"。
    この男は、自分と同じ類の"嘘つき"だ。
    刃の上のようなこの世界を、全て壊して、"ゼロ"にしたいと思っている。

    「……残念ながら、おれァそうじゃねェよ。"鰐野郎"。シビュラと言う名の"盲目"が、操る世界を崩す"うねり"を、ずっと、待っている。」

    爆発的に宿った凶暴を、眺めたクロコダイルの瞳に燃え移る、危険な匂いと、燻る煙。
    唐突に伸びたクロコダイルの右腕が、ドフラミンゴの胸倉を掴んだ。

    「……テメェ、"本当"は、"何色"だ?……なァ?"フラミンゴ野郎"。」

    「……サー?少し良いかしら。お客様よ。」

    ドフラミンゴが口を開こうとした瞬間、女の声がして扉が開く。
    パッと、ドフラミンゴの胸倉を離したクロコダイルは、開いた扉に視線を移した。

    「あ!!ミンゴ!!ここに居たのかー!!逸れんなよ!!」
    「……もう5億回くらい同じ事を言っているが、逸れたのはお前だ、麦わら。」

    艶やかな黒髪の美女に促され、入ってきたのは何やら紙袋を下げた、お馴染みの"麦わら帽子"。
    豪華な部屋に臆しもせずに、ズカズカと大股でドフラミンゴのソファに近寄った。

    「……お前、何を手に入れたんだ。」
    「……えーと、何だっけ、まァいいや。貰った!!!!」
    「マドレーヌよ。三丁目の交差点のところにある、お菓子屋さんで買ったの。彼、気に入ったみたいだから、一箱どうぞ。」
    「……少しは遠慮しろよ。場合によっちゃァ、収賄容疑掛けられるぞ。」

    ニコニコと笑みを絶やさない女に、心の底から申し訳無いと思ったドフラミンゴは、頭を抱えるように片手で額を覆う。
    嬉しそうに紙袋の中を見たり、部屋に飾ってある大きな鰐の剥製を見たり、終始忙しそうなルフィは、その憂鬱に気が付いては居なかった。

    「……君の連れかね。」
    「……連れ歩きたいと思った事は一度も無いがな。」

    余りにも、自由奔放な少年の登場に、クロコダイルも引いたように呟く。
    この高価な調度品だらけの部屋に、破壊神を置いておきたく無いドフラミンゴは、松葉杖を頼りにゆっくりと立ち上がった。

    「……邪魔したな。また捜査協力を依頼するかもしれん。その時はよしなに、頼むぜ。"サー"・クロコダイル。」
    「あァ。いつでもどうぞ、ドフラミンゴ君。その足も、義体化したいならサービスするよ。」
    「そりゃァ、どうも。」

    鰐の剥製に触ろうとしていたルフィの腕を掴み、"帰るぞ"と告げたドフラミンゴは扉へ向かう。
    そして、付いてこないルフィを怪訝そうに振り返った。

    「……おい、麦わら、」
    「……お前、」

    麦わら帽子の下で瞬く眼球が、クロコダイルの傷跡を映す。
    ゆっくりと開く口元に、その瞳孔が爬虫類のように細くなった。

    「……お前、悪そーな顔してんな。」
    「……あァ?」

    ニヤリと、見たことの無い笑い方をした少年に、ドフラミンゴの瞳が大きく開く。
    自分と同じ嗅覚に、ドフラミンゴはある種の絶望を感じてサングラスの下で瞳を閉じた。

    (……こいつは、)

    ドフラミンゴの"本当"の"色"を、知っているのだろうか。

    「色相データを提出しようか。刑事さん。」
    「……要らねェよ。おれが言いたいのは、"そういう事"じゃねェからよ。」
    「……アー、ミスター、気を悪くしないでくれ。こいつは"執行官"。シビュラが認めた"人格破綻者"だ。オイ麦わら。おれをクビにしてェのか。馬鹿言ってないでとっとと帰るぞ。」

    証拠もなければ、根拠もないその台詞に、思わず介入したドフラミンゴがルフィの腕を掴んだ。
    必死にルフィを引き摺って、要らぬ何かを言う前に部屋を出ようと歩き出す。

    「……その"証明"を、シビュラに聞いてきてくれたまえ。執行官殿。」

    扉が閉まる瞬間、聞こえた低い"嘲り"に、ルフィは少し、ムッとしたように視線を向けた。
    扉の隙間から見えた男の瞳で、未だ燃え続ける炎は、一体何を、焼くつもりなのか。

    ######

    「ロー!!久しぶりだなァ!!元気だったか?」
    「……ああ。忙しいが、まあ何とかやってるよ。」

    清潔な廊下。白くて綺麗な、軽い扉を開けると明るい笑顔を向ける"コラさん"。
    捜査の合間を縫って、ローが足繁く通う此処は、"潜在犯隔離施設"だ。

    「経過は順調なのか?」
    「おう!バッチリよ!!お前が付き添うんなら、外出許可も降りるぞ。」
    「そうなのか、じゃあ次の休みに水族館行きてェ。」
    「良いぞ良いぞ!お前が行きたいところ、全部行こう。」
    「……全部は無理だろ。」

    人の良さそうな笑みで、ローの頭をグシャグシャと撫でる大きな手のひらは、ずっと同じ。
    そして、優しいこの男が"潜在犯"なのも、ずっと同じだ。

    「……なんか顔色悪ィぞ。忙しいのか?」
    「……あァ、まーな。ちょっと厄介な事件が起きてる。ドフラミンゴとヴェルゴも本調子じゃねェし。人手不足なんだ。」
    「エッ?!ドフィとヴェルゴどうしたんだよ。」
    「捜査中に怪我した。まァ、命に別状はねェから安心してくれ。」
    「だからか。ホントは一昨日来るはずだったんだが……。突然"行けない"って電話してきたから、何事かと思ってたんだが。」

    手持ち無沙汰に頬を掻いたロシナンテに、分かりやすくローは不服そうな顔をした。
    ロシナンテが執行官を"休職"し、この施設でセラピーを受け始めてから既に、二年。
    生まれつき、色相が曇っているのか、はたまた、何か理由があるのか、ロシナンテが執行官になった理由は知らないが、執行官だったロシナンテの犯罪係数が悪化した"元凶"は知っている。
    その元凶であるドフラミンゴが、ロシナンテの前に現れる事を、ローは良しとはしていなかった。

    「……なァ、コラさん。あんたの色相が悪化したのは、ドフラミンゴのせいだろ。もっと良くなるまで、あいつに会うのは止めた方がいいんじゃねェのか。」
    「……。ロー。」

    二年前、シビュラの判断に従い容疑者を撃ち殺したドフラミンゴに、その場に居たロシナンテの犯罪係数は急上昇を見せたのである。
    公安局の刑事でいる以上、避けられないその"職務"の何が引き金となったのかは分からないが、"元凶"が"奴"であることに変わりは無いのだ。

    「……ドフィの、せいじゃ、ねーんだ。」

    ポツリと、呟かれた台詞に、ローの表情が曇る。
    それを眺めたロシナンテの脳裏に浮かぶ、"同じ"金髪。

    随分と前にも、"同じ"事をした。

    「おれの色相が、クリアにならないのは、」

    死んだように眠る父親、グロテスクに体に繋がる生命維持装置。薬臭い病室に差し込む月明かり。
    いつだって、"同胞無き"あの男に、寄り添う者は無かった。

    「おれの色相が濁っているのは……、"見ている"だけの自分が、嫌いだからだと思うんだ。」







    「じゃァ、"三日後"。外出届ちゃんと出しとけよ。」
    「おー、楽しみだ!お前もあんまり、無理すんなよ。」

    パタン、と、閉まった病室の扉に、ロシナンテはゆっくりと息を吐き出した。
    ドフラミンゴとローの間にある確執は、自分がこの場所にいる限り、消え去ることはない。
    それでも、刑事課に戻る決断が出来ないのは、"彼"に"寄り添う"覚悟が決まらないからだ。

    『ユーストレス欠乏性脳梗塞。彼が植物状態から抜け出す事は無いでしょう。』

    『・・・ああ、わたしのせいね。全部。わたしのせいよね。ドフィ、ロシー。』

    人が良すぎるあまり、色々な人間達の食い物にされ色相を曇らせた父親は、ストレスケアに過剰に依存し、ユーストレス欠乏性脳梗塞を発症した。
    植物状態となった父に責任を感じた母親が死体で見つかった時、ゆっくりと曇りゆく"弟"の色相に、まるでドミノ倒しのような危機感を抱いた"兄"は、父親の生命維持装置の電源を切った。

    『……ドフィ。』

    薄く開いた病室の扉から覗いたその"瞬間"、ロシナンテは兄が何をしたのか、はっきりと理解はしていなかった。
    それでも、次の日に知らされた父親の死と、笑うドフラミンゴの口元に漠然と、彼が父親を殺したと悟る。
    解せないのは、あの時も、彼の色相がクリアカラーのままだった事。

    (……ドフィ、おれは、)

    シビュラの"枷"を、与えられなかった"化物"。磨り減っていくあの男が眠ることを、この世の神は、いつだって許さない。

    (……おれは、お前が磨り減るのを、見ていられない。)

    当事者でありながら、シビュラの恩寵を受ける事が出来る自分は、彼にとって、憎むべきこのシステムの一員だ。
    ロシナンテは頭を抱えるように、ゆっくりと蹲る。

    「……"ドンキホーテ"・ロシナンテさんよね?」

    唐突に、開いた軽い扉にハッとして、顔を上げるとその入り口には、揺れる黒い髪の美人が立っていた。
    覚えの無いその美女は、白いロングコートの裾を翻し、カツカツとヒールを鳴らして病室へ入る。

    「……あんた、誰だ。」
    「……"ドンキホーテ・ドフラミンゴ"の色相が曇らない理由を、教えてあげる。」
    「……は?」

    ベッドの脇の、小さな椅子に座った女は、ニコニコと携えた笑みをロシナンテに向けた。
    その口から滑り出た長年の疑問に、ロシナンテは思わず間抜けな声を漏らす。

    「"三日後"、正午に中央公園に来て。」

    ゆっくりと動くその唇が、要件だけを紡ぎ出した。
    その様子を、取り憑かれたように眺めるロシナンテの瞳が大きく揺れる。
    その振動を、確かに見つめた女はゆっくりと立ち上がり、用は済んだとばかりに踵を返してから、一度、扉の前で立ち止まった。

    「……わたしは、」

    揺れる黒くて、細い髪。
    その、得体の知れない女の背景を前にして、サイマティックスキャンは沈黙を保ったままだった。

    「……わたしは、"オハラ"の残党よ。」
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    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202