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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    サイコパスパロ 完結
    ⚠恋愛要素は無い(つもり)ですが、若様⇔登場人物の大きすぎる感情が飛び交っているのでご注意ください。
    ※本家のキャラは出てきません。
    ※元ネタの方も色々捏造してるので注意です。
    ▼登場人物
    🦩/監視官/免罪体質
    🐯/監視官
    👒/執行官
    🌷/執行官
    🕶/執行官(退院)
    💋/執行官(休職中)
    友情出演:🐊💐

    Repaint  完結カタカタと、キーボードを打つ音だけが響いている。
    青白く光るモニターに照らされた、金色の睫毛の縁取る瞳が忙しなく揺れた。

    (……研究所内に簡易スキャナーは15台。少なくは無いが、多くも無ェ。)

    次々とモニターに映し出される情報は、全てあの、"鰐野郎"の"城"に関する物だ。
    提出された訳では無いが、監視官の権限があれば、探り出すのは割と簡単。人権問題を視野に入れればアウトだが、バレなければ問題では無い。

    自室のデスクに置かれたノートパソコンに、クロコダイルの色相データがズラリと並ぶ。
    クリアカラー一色の、視覚的にも、本質的にも平和なその光景にドフラミンゴの口角がゆっくりと上がった。

    『……呑み込まれ、瓦解する未来が来ない保証は無ェよなァ?』

    『……テメェ、"本当"は、"何色"だ?……なァ?"フラミンゴ野郎"。』

    母が死んでも、父親を殺しても、曇りを見せなかった"それ"は、神の"正気"を否定する。
    そんな、得体の知れない有象無象に支配される事だけは許されないのだ。

    (……お前も、おれと、"同じ"か。はたまた、"まがい物"か。)

    その違和感を、共有できる"同胞"が、やっと目の前に現れたのか。
    "最適"で"幸福"な社会の裏で、息を引き取る"分不相応"。思考を止めた街。積み上がる価値観。

    合う"辻褄"を、ずっと、探していた。

    「なァ、お前は、"何色"だ。……鰐野郎。」

    ######

    「オーライ!オーライ!!」
    「麦わら!もう少し右だ!ソファにぶつかる。」
    「おう!」

    「……お前らマジブッ殺すぞ。」

    クロコダイルの元を訪れてから、何も進展せず三日が経った。
    今日も今日とて、虱潰しの聞き込みが始まると、些かうんざりとしたドフラミンゴは、相変わらず松葉杖でヨタヨタと刑事課のフロアに足を踏み入れる。
    その瞬間、目に飛び込んで来たのは、ファミリーサイズの冷蔵庫を運び入れるルフィとキッドだった。

    「おれ達、この休憩所に足りない物を考えたんだがな。」
    「仕事をしろ。」
    「ここに足りないのは、冷蔵庫だったんだ!!なっ!ミンゴ!!これでアイスを常備できるぞ!!」
    「常備する必要性をできるだけ分かりやすく教えてくれ。」

    どこからか拾ってきたのか、古びて破れが目立つ革張りのソファ、ヒビ割れだらけのローテーブル。明らかに、厚生省の認可を受けていないであろうパンキッシュな風情のバンドと、骨董品に位置づけられそうな、ビールジョッキを握る、グラビアアイドルのポスター。
    明らかに、そこだけ異彩を放っている三馬鹿お手製の一角が、不釣り合いな馬鹿でかい冷蔵庫のせいで更に混沌とした雰囲気を醸し出していた。

    「……お前らなァ。"三件目"が起きてみろ。責任を取るのは誰だ。」
    「「お前。」」
    「そうだ。おれだ。マジで勘弁してくれ。」

    "一件目"の発生から、既に一週間。
    分かっているのはシビュラシステムを欺く装置があるという事実のみだ。

    「……呑気な奴らだ。羨ましいぜ。……ローはどうした。」
    「トラ男は今日休みだぞ。」
    「"中央公園"の水族館で"コラさん"とデートだとよ。」
    「……圧倒的人手不足。」

    ガランとしてしまった、三人だけのフロアでドフラミンゴが大袈裟に肩を落としてデスクへ向かう。
    いい加減、煩わしくなってきた松葉杖を乱雑に立て掛けてから席に着いた。

    「現場検証の結果はどうなんだよ。何か新しい情報ねェのか。」

    冷蔵庫を休憩スペースに設置したキッドは、そのままソファにドカリと腰を下ろしてドフラミンゴを見上げる。
    ドフラミンゴはゆっくりと息を吐いてから、ガリガリと後頭部を掻いた。

    「……ねェよ。義手に付けられた装置の破片は採取できたらしいが……。砂漠の"砂"と同じくらいのサイズらしいからな。復元は、」

    自分で言った台詞に、自分で躓く。
    何故か、思い当たった言葉と、顔の中心を走る傷跡が連想され、ドフラミンゴの瞳が僅かに揺れた。

    『……"砂"に、呑まれた街を見たことがあるか。ドフラミンゴ君。』

    得体の知れない躓きと、あの男の瞳で燃えた炎が脳裏を過る。
    あの男は、シビュラの"天敵"を、"砂"に例えていた。

    (……こじつけ過ぎか。)

    馬鹿げた思考を振り払い、ドフラミンゴは重たいため息を吐いて、手持ち無沙汰に額を撫でる。
    その、揺れた瞳を、野生染みた"麦わら帽子"は見逃さなかった。

    「……行くぞ!ミンゴ!!」
    「……あ?」
    「あ、オイ!バカザル!」

    ギラリと、その眼球に光が走ったと思った瞬間、ドフラミンゴの体がふわりと宙に浮く。
    呆気に取られるドフラミンゴを肩に担ぎ、フロアの出口へ走り出したルフィを呆れたように見たキッドは、放置された松葉杖を二本掴んでその後を追った。

    ######

    「……おれは、シビュラの判断を、そう疑ってはいない。」

    久しぶりに袖を通したワイシャツを、少しだけ窮屈だと思う。
    黒いネクタイを締めながら、ヴェルゴは入口に立つローに視線を向けた。

    『コラさんの色相が、曇った理由を知りたい。』

    その青年は、いつでも"あの男"に囚われていた。
    ドフラミンゴの弟でありながら、シビュラシステムに"弾かれた男"。
    その存在に、ヴェルゴが殆ど興味を示さないのは、ただ、この男にとって"人間"は、ドフラミンゴと、"それ以外"のたった"二種類"だけだからだ。

    「……お前はドフラミンゴとコラさんの幼馴染みだ。何か知っているんだろ。ヴェルゴ。」

    色相スキャナーを掻い潜る日々。"廃棄区画"のバラックで飲んだ泥水。"最適"で、"幸福"な生活を送ることができる社会の裏で、廃棄されていく存在。

    (ドフィはそれでも、"気高い"ままだった。)

    廃棄区画で育ったヴェルゴと、弟の犯罪係数を危惧し、色相スキャナーの設置されていないその区画に潜り込んだドフラミンゴ達が出会ったのは、もう、三十年も前の話だ。
    廃棄されたその街で、這いずり回るように生きてきたのに、ドフラミンゴだけはクリアカラーを維持し、いつしか厚生省にまで入り込んだのである。

    「ロシナンテが色相を曇らせたのは、あの男が何も、"受け入れて"はいないからだ。」

    ヴェルゴの言葉に合わせて、その唇がゆっくりと動く様を、ローの瞳が訝しげに捉えた。
    そもそも、"何故"と、思うその価値観こそが、この時代にそぐわぬ代物。

    「ドフィを見出し、おれ達を弾くシビュラの判断を、おれは疑ってはいない。」

    都合よく、ロシナンテとヴェルゴを"執行官"へ就かせたのは、シビュラの判断では無いと、聞かされるまでも無く、ヴェルゴは既に知っていた。
    厚生省は明らかに、ドフラミンゴの存在を持て余している。
    永遠と、保証される"正気"に反して、危うく巣食う、腹の底の"凶弾"。
    それが、公になるのを恐れ、厚生省の目の届かないところへ出ていく事を許さない。
    その結果、"監視官"の権限を超越した特権を、ドフラミンゴに与えていることは事実だ。

    (それすらも、シビュラが下した"判断"ならば、)

    皆口を揃えてドフラミンゴをシビュラの範疇外に居ると言うが、それは違う。
    この世の神は、ドフラミンゴを"愛して"いる。
    神の寵愛を受けたあの男こそ、この世を操るに相応しい。

    「理由はどうあれ、シビュラはドフィ"だけ"を見出した。それが、この世の真実なんだ。」

    そして、その"牙"でいることは"最適"で"幸福"な、人生なのだ。

    ######

    「麦わら、お前何で、あの男に執着するんだ。」
    「……何となくだ!」
    「こいつのやることに意味なんてねーだろ。いい加減諦めろよ、監視官。」

    再び、その仰々しい門の前に立ったドフラミンゴ達三人の隣を、コトコトとついてくるドミネーター運搬用ドローン。
    口ではルフィを疑う台詞を吐いてはいるが、その"玩具"を、引っ張り出してきたのはドフラミンゴの指示だ。
    三人がそれぞれドミネーターを抜き、門の端に付けられたインターホンを押す。

    (……興味が無いと言えば、嘘になる。)

    あの男に、ドミネーターを向けた事はまだ無いのだ。
    簡易スキャナーとは違い、犯罪係数をリアルタイムで解析、計測できる機器はシビュラシステムに直結したドミネーターだけである。
    その審判を、あの男は回避するのだろうか。
    何の応答も無く、ゆっくりと開いた門を見上げ、ドフラミンゴは一歩、大きく足を踏み出した。







    「ロシナンテさん?さっきロー君が迎えに来たからって、出ていったけど……。もしかして、すれ違っちゃったかしら。」

    ロシナンテの入院する、潜在犯隔離施設の受付で、のんびりと言った看護師の言葉にローの胸の内がざわりと揺れた。
    さっき顔を出した病室はもぬけの殻で、また隠れて喫煙中かと屋上や裏庭を探したが見つからない。

    「……いや、大丈夫だ。集合場所は決めてある。」
    「そう。門限は9時よ。気をつけていってらっしゃい。」
    「……ああ。」

    騒動を大きくしたくないローの口から、違和感の無い嘘が滑り出て、それを隠すように踵を返した。
    今までに、ロシナンテがローとの約束を反故にした事は無い。
    何かの前触れのように姿を消したロシナンテに、ローは足早に施設を出た。

    (……嫌な、予感がする。)

    『おれの色相が濁っているのは……、"見ている"だけの自分が、嫌いだからだと思うんだ。』

    『ロシナンテが色相を曇らせたのは、あの男が何も、"受け入れて"はいないからだ。』

    シビュラが導くはずの世界で、都合良く"弟"と"相棒"を部下にした男。まるで、その男の"凶暴"を背負うようなヴェルゴと、犯罪係数を背負う"コラさん"の、歪で病的な関係。
    考え出せばキリが無い、あの三人を取り巻く全ての背景がこの世の道理に反している。

    いつか、その報いを、奴らが受ける日が来るのではないかと、ずっと危惧していた。

    (……おれは、ただ、コラさんが、)

    笑って、頭を撫でてくれるだけで、それだけで、良かったのに。

    ######

    「……できればアポイントを取って欲しいのだが。」
    「そりゃァ、すまねェなァ。だが、あんたもシビュラの犬なら、公安局の要請は絶対だろう。"サー"・クロコダイル。」

    再び足を踏み入れたクロコダイルの"城"は、あの時と何も変わらず、平静なままだった。
    豪華なデスクに着いたクロコダイルは、物騒な玩具を手にしたシビュラの"犬共"に、大袈裟なため息を吐く。

    「……生憎、おれはそう暇では無くてね。」
    「……ッ!!!」

    ギラリと赤い光を放った眼球に見惚れた瞬間、クロコダイルの手のひらが伸びて、ドフラミンゴの握るドミネーターの銃身を掴んだ。

    『犯罪係数"アンダー70"、執行対象ではありません。トリガーをロックします。』
    「……。」
    「テメェらの"親玉"は、一体何と言っている。」

    自分の額に銃口を押し付けて、クロコダイルは爬虫類のような目を向ける。
    それを、眺めたドフラミンゴの口元が場違いに歪んだ。

    「世間がおれを、何と呼ぶか知っているのか?このおれを、"英雄"と持て囃し、有り難がる奴らの目が、節穴だとでも言いたいのか。」

    犯罪係数の低さによって裏付けられた、善良で健全な精神と模範的な社会性。
    それに、違和感を抱くのは、何も、弾かれた者達だけではない。

    「ゴチャゴチャうるせーな。」

    妙な空気を打ち破るように、動いた"麦わら帽子"と、バキリと、硬いものが砕ける音がして、クロコダイルの視界に青いネオンが線を描いた。
    ルフィが振り上げたドミネーターの銃身が、クロコダイルの左手を砕き、その"義手"が外れて地に落ちる。
    証拠も無い、シビュラも彼の善意を保証した。それを無視するルフィの行動に、ドフラミンゴの頭の中では"責任問題"という単語が走馬灯のように駆け巡った。

    「……む、麦わらァアアア!!!!お前本当はおれの事嫌いなんだろ?!?!おれをクビにしたくてそういう事してるんだろ?!?!」
    「なははは。まァ。確かに、おれお前みたいな面倒くせー奴あんま好きじゃねーな!!」
    「おれだってお前の事なんか嫌いだ……、」

    『犯罪係数"オーバー250"、執行対象です。セーフティを解除します。執行モード、ノンリーサル"パラライザー"。落ち着いて照準を定め、対象を制圧して下さい。』

    「……ッ!!!!」

    唐突に手のひらを返した神の"審判"に、ドフラミンゴの瞳が大きく開いた。
    呆気に取られていたクロコダイルの奥歯がギリ、と音を立て、椅子を蹴って立ち上がる。
    それを後目に、今度はドフラミンゴがキッドのドミネーターを掴み、自分の頭に向けた。

    「……おれの、犯罪係数は幾つだ。ユースタス。」
    「……アンダー"70"。……どういう事だ。」

    またしても、"消えた"、"同胞"の希望。相変わらず、この世界はドフラミンゴに"優しくは無い"。
    その現実を、押し殺すように瞳を閉じた。

    「……ッチ!!!どうやって嗅ぎ付けやがった……犬共…ッ!!」

    忌々しげに歪む、クロコダイルの相貌を眺めたルフィの瞳が凶暴に光り、その口元がニヤリと歪む。
    そもそも、この少年の"判断基準"に、シビュラの意思は介在しない。

    「……勘!!!」

    それが、この世で最も危険な、神の"天敵"の姿だ。

    ######

    「……"反シビュラ派"の組織、"オハラ"は、公安局が滅ぼしたと聞いたが。」
    「ええ。……言ったでしょう。わたしは、"残党"よ。」

    "中央公園"の、カフェのテラス席で、相対した女は相変わらず美しく、謎めいていた。
    平和過ぎる子供の歓声と、この女の落ち着き払った声が交差して、どうにも平静では居られない。

    (……ロー、ごめんな。)

    約束を、すっぽかしてしまった彼の、不機嫌な顔が脳裏を過ぎった。
    それでも、同行者の判が無ければ外出届けが出せないロシナンテが、この場所に来ることは、この日以外叶わない。

    「……公安局の立ち入り捜査があったあの日、"オハラ"は、シビュラシステムの"欠陥"に辿り着いた。」
    「……それを、おれに話して、あんたどうするつもりなんだ。」

    どうしても、この女の怪しすぎる誘いを無視できなかった理由は二つ。
    数あるアンチシビュラ派の組織の中で、"オハラ"だけが公安局により"全員"射殺された事実には、執行官だった頃から疑問に思っていた事と、"兄"の、本当の色を知りたいという、浅はかな興味。

    「……"オハラ"が何故、"反シビュラ"のレッテルを貼られたのか、貴方は、知ってる?」

    ロシナンテの疑問を返すように、問いかけた女の鎖骨あたりで揺れる黒髪。
    口元はずっと、柔らかな弧を描いていた。

    「元々オハラは、ただの、"考古学者"の集まりだった。遺跡の発掘や化石の研究をしていただけ。それがいつしか、この国では歴史教育が禁止され、緩やかな思想統制が行われるようになり、わたし達が歴史を紐解く事まで禁止されたのよ。」
    「……それで、反シビュラ派に転向したのか。」
    「いいえ。わたし達はただ、知りたかっただけ。シビュラシステムが考古学を禁止したのなら、そのシステムの有効性を知る必要があるじゃない。別に、シビュラシステムを批判するつもりなんて、誰にも無かったわ。それでも、厚生省はわたし達をアンチシビュラに位置付けた。」

    肌寒い風が、手元のコーヒーを少しずつ冷ましていく。
    幸福な社会に、踏み躙られた二人の男女の脇を、楽しそうに子供達が走り抜けて行った。

    「シビュラシステムを独自に研究していく中で、オハラはある一つの存在に辿り着いた。」

    ゆっくりとした仕草で、女の手のひらがコートのポケットに入る。
    ロシナンテはそれを目で追ってから、女の顔を見た。

    「……本来なら、犯罪係数が上昇する筈の状況下で、規定値を超える犯罪係数が計測されない人間。」

    その台詞に、ロシナンテの瞳が大きく揺れ動き、それを満足そうに見た女は頬杖をつく。

    「そういった人間の存在を認めざるを得ない事象は、この国の歴史には数多くあるわ。そして、その存在に厚生省も気が付いていながら、機密事項として隠してきた事実も、わたし達は掴んでいた。」

    テーブルの下で、女の細い手のひらが伸び、ロシナンテの太腿に何かを押し付けた。
    隙間から見えた、その黒光りする"銃口"に、ロシナンテは思わず息を呑む。

    「……公安局に、復讐でもしようってのか。」
    「言ったでしょう。わたしはただ、知りたいだけよ。」

    公園内にも、このカフェにも、設置されている筈の、街頭スキャナーはこの女の"正気"を保証した。
    その事実に、少し、安堵したのは、孤独な兄の、"同胞"を見つけたからか。

    「……シビュラが"要らない"と判断した物は、わたしにとっては"大切"な物だった。その"価値観"が、本当に"正しい"ものなのか、知りたいの。」

    その時初めて、女の瞳がまるで、泣き出すように歪んで、ロシナンテは少しだけ焦燥を抱く。
    それも、一瞬後には消え去って、ロシナンテの太腿に当たる銃口が更に押し込まれた。

    「……お兄さんを、ここへ呼んでくれる?別に、居なくても"わたし達"の計画は狂わないけど、彼がここへ来てくれたら、より一層成功率が上がるのよ。」

    ######

    「フフフフ……ッ!!残念だ。……残念だぜ、"鰐野郎"。お前と仲良くこの世の破壊の算段をしたかったが……とんだ器違いだったな。」
    「そうか、お前は"算段"だけか。とんだ腰抜けだぜ、"フラミンゴ野郎"。おれァ、まだ、シビュラの首を刎ねるつもりだぜ。」

    クロコダイルにドミネーターを突き付けたまま、ドフラミンゴは喉の奥で笑う。
    その銃口の先で、ギラつく視線がぶつかった。

    「おれの義手や、これまでに捕らえた二人の義手に仕込まれていた装置は……その場にいる半径500m以内の人間から、最も低い犯罪係数を選び出し、それをサイマティックスキャンへ自分の犯罪係数として送信する事ができる。」

    はらりと、落ちた髪がクロコダイルの傷跡にかかる。
    未だ燃え尽きない、その眼球の奥で燃える炎に、ドフラミンゴの瞳が訝しげに歪んだ。

    「……同じ装置を付けた人間が五名、"中央公園"で無差別殺人を行うぞ。そろそろ移動を開始する頃だ。"作戦名"は、"理想郷"。」
    「……!!!」

    そこで初めて、この男が仕出かした一連の事件は、長い年月を掛けて用意された物の一端だと悟る。
    シビュラへの信頼と、刷り込まれた"最適"が崩れる気配。
    この足元が、崩れたら、自分の色への興味は、失せるのだろうか。

    「犯罪係数により計測された善悪の信用度は急落し、その数値はただの、目安となる。古き良き時代へ逆戻りだ。テメェもそれを、望んでいるよなァ?」

    犯罪係数に囚われ、死んだ両親。曇る弟の色相と、綺麗なままの自分。公安局刑事課二係。
    思えば、"色"に翻弄され続けていた人生だった。

    「ああ、そうだな。……だが、鰐野郎。お前の器じゃァ、到底無理だ。……本当、残念だぜ。」
    「……おれはただ、自分に分がある世界を、作りたいだけさ。」

    絞り出すように言ったドフラミンゴの銃口は、未だクロコダイルの額を狙っている。
    それを物ともしない悪党は、サングラスの隙間からその瞳を覗いた。
    薄く笑う口元が、別の場所で鳴った音に反応し、ドフラミンゴから視線を移す。
    クロコダイルの左右でドミネーターを構えるキッドとルフィは、世界が定めた悪党らしい、凶暴な目つきをしていた。

    「"悪そうな顔"、だったか?正解だ、小僧。」

    クロコダイルが口を開いた瞬間、ルフィの握るドミネーターの銃身が、青い光を上げる。
    その光を反射して、同じ色を含んだ"麦わら帽子"を、クロコダイルは覗き込んだ。

    「お前ら愚民共はおれのような悪党を、長年"英雄"と持て囃してきたんだぜ……。そのツケが、今日回ってきた。……その玩具で計測出来ない悪人を、テメェらどうやって裁くんだ。」
    「……だから、ゴチャゴチャうるせーんだよ。馬鹿かお前。"コイツ"が言った数字で、良い奴か、悪い奴かなんて、判断した事ねーよ。」

    その、公安局にあるまじき発言を聞いたクロコダイルは、諦めにも似た何かを思い、ドフラミンゴに視線を戻す。
    耳障りな機械音の中で、気の毒そうに瞳を細めた。

    「残念だったな、"フラミンゴ野郎"。おれァ、テメェの、"同胞"じゃァねェよ。」

    一度大きくクロコダイルの肩が震えた後、その広い背中がグラリと傾く。
    そして、"善意"無き"英雄"は、呆気なく地面へと落ちたのだった。

    ######

    「ミンゴ!!ちゅーおーこーえんだろ!!!さっさと行くぞ!!」
    「うるせェ!!少し黙ってろ!!!犯罪係数の低いおれが居ると、ドミネーターが使えねェんだよ!!」
    「じゃあどうすんだよ。エリアストレスが上昇すんのを待つのか。」
    「そうなれば、それこそ見分けが付かなくなるだろうが……!!とりあえず中央公園は封鎖だ。客も全員外へ出す。」
    「オイオイ、その中に犯人グループが居たらどうなる?それこそ見分けがつかなくなるぞ。」

    "頭"は潰したのに、それとは別の場所で動き出す事態に、ドフラミンゴはガリ、と親指の爪を噛んだ。
    懐から取り出したスマートフォンで、呼び出したのは休暇中のローの番号である。

    「……ロー。休暇は終わりだ。中央公園で無差別殺人が起きる。"サー"・クロコダイルのサイバネティクス研究所まですぐに来い。」
    『……"中央公園"?!ちょっと待て、コラさんが居ねェんだ!連絡もつかねェ!!今日中央公園の水族館に行く約束をしていた!!もしかしたら、中央公園に居るのかも知れねェ!!』
    「……何だと?!」

    畳み掛ける事態に、ドフラミンゴが通話口に怒鳴った。
    展開が、"出来すぎている"。全ては"奴"の、計画の内か。
    ドフラミンゴを炙り出せれば、その低い犯罪係数を反映できるのだ。

    『兎に角おれは中央公園へ行く!そっちはどうにかしてくれ!!』
    「待て!奴ら、低い犯罪係数を読み取り、反映する装置を使っている。規定値より低い人間が居ると、ドミネーターが使えん。お前は中央公園へ行くな……!!」
    『あ?!コラさんを放っておけるかよ……!』

    (そんなの、おれだって。)

    ロシナンテが、自分を恐れている事は知っている。許して欲しいと、思った事も無い。
    ただ、血の繋がりに、求めた"理解"を、ドフラミンゴが諦められないだけだ。

    (……別に、おれの助けを、待っている訳じゃねェか。)

    頭に昇った血が、妙に冷めていくのを感じる。
    ドフラミンゴは一度息を吐き出して、スマートフォンを握り直した。

    「……ロー。お前は中央公園に入るな。……フフフフッ。その"代わり"、刑事課で"最高得点"の奴を出してやるよ。」
    『ハァ……?!どういう意味だよ。』

    戸惑うローを無視して、一方的に通話を切ったドフラミンゴを見つめたルフィは、珍しく不機嫌そうな顔をして、その大きな体を慣れたように肩に担ぐ。
    流石に驚きが少なくなってきたドフラミンゴは、じとりと嫌そうな顔を向けた。

    「……何だよ。」
    「よく分かんねーけど、とりあえず公園に行く!!!」
    「は?!いや、待て、クロコダイルを放置する気か!!」
    「頼んだぞギザ男!!」
    「おれに指図してんじゃねーよ!!!」

    憎まれ口を叩きながらも、ドフラミンゴに松葉杖を渡したキッドは懐から手錠を取り出す。
    随分と聞き分けの良い同僚へ、ニカッ!と笑顔を見せたルフィは、ドフラミンゴを担いで走り出した。

    「お前な……。奴らが付けてる装置の事、ちゃんと理解してるか?」
    「ドミネーター使えねェだけだろ?別にいーじゃんかよ。」
    「……お前が羨ましいぜ。」

    研究所の長い廊下を走る少年の肩で、ため息を吐き出したドフラミンゴは、既に運ばれる事は諦め、スマートフォンを耳に当てる。

    「……おれからすれば、お前ら"健常"の方が、よっぽど不自由だ。」

    妙に、静かに言ったルフィの言葉に、ドフラミンゴは呼び出し音が突然遠くなったように感じた。
    シビュラの意思を汲まない、この時代にそぐわない存在。
    その眼球に、一体、この世は、どう映っているのだろうか。

    (お前にとって、おれは、何色だ。)

    ######

    ヴーッ!!ヴーッ!!と、自室のデスクに置いたスマートフォンが振動し、大きな音を立てた。
    まるで、その時を待っていたかのように、ヴェルゴの瞳がサングラスの奥で細くなる。

    『……よォ、ヴェルゴ。"踊る"は見終わったか?』
    「全部見るには、少し軽症過ぎたようだ。……ドフィ。」
    「フフフフッ……すまねェが、"出番"だぜ。」

    流れるように立ち上がり、窓の外を眺めれば、謀ったように執行官の輸送車が現れた。

    『病み上がりのところ悪いが、シビュラはおれに、"凶気"を認めん。……それは、お前が請け負ってくれるよなァ?相棒。』
    「ああ、勿論さ。……おれは、」

    黒いネクタイを一度締め直し、同じく黒いジャケットを羽織ると、颯爽と扉を開けて、大股で歩き出す。
    自分が、"潜在犯"たる理由は、たった"一つ"。

    「……おれは、"神"の"代理人"だ。」

    そう有りたいと、思っているからだ。








    「……本当に呼んではくれないのね。……残念だわ。」

    公園内は、相変わらず平和な喧騒に包まれている。
    しかし、その端では、公安局のマスコットキャラクターやドローンが妙に統率の取れた動きで走り回っていた。
    それを眺めたニコ・ロビンは、テーブルの下で突き付けている小銃をコートに仕舞う。

    「本当は、ドフィの色相が曇りにくい理由を、おれは、知ってるんだ。」

    唐突に、口を開いた目の前の男は、ポケットから取り出した煙草を咥えた。
    別に、ロシナンテが自らドフラミンゴを呼び出さなくとも、既に人質としての役割は果たしていた。
    ロビンはその世間話に付き合うように、その先の台詞を待つ。

    「それは、"免罪体質"という言葉以外の話かしら。」
    「ああ。そういう体質ってのも勿論あるだろうが。……あいつは、」

    シュッ、と、ライターが火花を散らして、その瞬間だけ、花が開くように照らされた。
    ロシナンテは困ったように眉を下げて、それでもロビンに笑って見せる。

    「……ドフィは、昔から、"不器用"なんだ。……大変でも、傷ついても、それを、ちゃんとアピール出来ない。」

    色相以外のところで、擦り減り、消耗する不器用な"兄"。
    この世すら、兄にその"甘え"を許さなかった。
    毎夜極彩色の悪夢に魘され、"凶行"を実行せざるを得なかったと、この世のシステムを逆恨みしている。
    それを、遠くで見ていた自分は、被害者面を許されて、呆気なくその隣を去ったのだ。

    「今日、ここに来て良かったぜ。あいつの色相が曇らないのは、ただ、そういう体質だってだけの話なんだろ。それが分かって、おれも、やっと諦めが付きそうだ。」

    「……それは良かったけど。大丈夫?貴方、燃えてるわよ。」
    「エ?!ギャァァァ!!!助けてくれ……!おれはドジっ子なんだ!!!!」
    「その歳で恥ずかしくないの?」

    ライターの火が、どういう因果かロシナンテの肩に燃え移り、まるで焚き火のように燃え上がる。
    理解できない光景に、ロビンはとりあえず、コップの水を掛けてあげた。

    (……呆れた。)

    感情や、気持ちの話では無い筈なのに。

    『しししし!お前いーやつだな!!』

    最近出会う"潜在犯"達は、"それ"でしか、何かを判断しようとしない。
    いつか、その感性に、この世の神が下す判定は、あの日のオハラと、同じものなのか。

    「……うわ、」

    気の抜けた瞬間を狙ったように、ロシナンテの頭が何かに引かれて椅子ごと仰向けに倒れた。
    空いたその場所を超えて、黒い塊がカフェのテーブルに乗り上げた刹那、ロビンの鼻先を何かが通り抜ける。
    倒れるように床に転がり、避けたそれが、一度バチリと電光のような光を上げた。

    「……ヴェルゴ?!?!何でここに?!」
    「ロシナンテ。デートを邪魔して悪いが、すぐに隔離施設へ戻れ。緊急事態だ。」

    しゃがみこんだまま小銃を向けたロビンから目を逸らさずに、強打した後頭部を擦るロシナンテに、突然現れたヴェルゴが言う。
    その手に握られたスタンバトンが、バチバチと火花を散らしていた。

    「……サーったら、捕まっちゃったのかしら。残念だわ。でも、どうするつもり?もう実行犯は公園内に入ってる。民間人を避難させれば、それに紛れて彼らも外へ逃れ、街中で無差別殺人が起きるわよ。」

    「あ!!!いた!!!!"コラソン"!!!無事か?!?!?!」
    「コラさん!!なんで一人で出歩くんだよ!!!」

    睨み合った二人の間に、喧しい声が割り込んで、思わず目を向けると、ドフラミンゴを担いだルフィと、ローがこちらに走り寄るのが見える。

    「あ!ヴェルゴ!ちょうど良かった!!ヘイ!!パス!!!」
    「……ハッ?!?!?!」
    「……え、ちょっと待て、オイまさか、」

    ヴェルゴの顔を見た瞬間、ルフィが担いだドフラミンゴをヒョイと持ち上げた。
    嫌な予感を感じたヴェルゴとドフラミンゴの戸惑う声も無視して、ルフィはドフラミンゴをヴェルゴへ投げ付ける。

    「麦わらァアアア!!!!テメェマジでクビにするからなァアアア!!!!!」
    「……ドフィ!!」

    自分よりも背の高いドフラミンゴを、それでもしっかりと受け止めたヴェルゴは、横抱きで抱えたドフラミンゴと束の間無言で見つめ合った。

    「……ドフィ……怒りで犯罪係数ブッチギリそうだ。」
    「いやでも安定感が凄い。やっぱおれにはお前だけだぜ、相棒。」
    「マジでキモいぞお前ら。」
    「じゃ!おれ犯人探してくる!!」
    「この女は犯人グループの一人じゃないのか。」

    全ての"元凶"が元気良く手を振って、走り去ろうと踵を返すのを見たヴェルゴが、ロビンを顎で指して言う。
    その時に初めてロビンの存在に気が付いたルフィは、それでも足は止めなかった。

    「コイツは大丈夫だ!良い奴だから!!」

    しゃがんだロビンの脇を走り抜ける瞬間、放たれた言葉に揺れた瞳を、やっぱりルフィは見過ごして、あっという間に走り去る。

    「ロー!ロシーを連れて公園から出ろ!!ヴェルゴ!民間人は出口で金属探知と手荷物検査を行ってから外へ出す。その間に容疑者を探すぞ。一係に応援も頼んだ。」
    「分かった!!コラさん……大丈夫か?!たんこぶ出来てるぞ!!クソ!誰がこんな酷い事を……ッ!!」
    「ウン、ヴェルゴなんだな。」

    ヴェルゴの腕から降りたドフラミンゴは、松葉杖をつきながらロシナンテとローを公園の出口へと促した。
    公安局から与えられたのは、高性能金属探知機とX線による手荷物検査装置のみ。
    時代にそぐわぬアナログさだが、黙っていれば、この世の根幹を揺るがす事件へと発展するのだ。

    「あ!おい、ネーチャン!!」

    ローに連れられて、出口へと向かうロシナンテが唐突に振り向きロビンを呼ぶ。
    その、大きな瞳が艷やかな黒髪を映した。

    「シビュラシステムが正しいかどうか、知りたいと言ったよな?!あれは神でも何でも無い、ただの"福祉支援システム"だぜ!昔も今も、ツールは違えど仕組みは同じだ。かつての刑法は善悪の判断基準じゃなくて、罰則を定めていただけ。シビュラは犯罪係数を算出しているだけ。……それの、"善悪"を判断するのは、いつだって人間だ!あんたが"問う"べき"矛先"は、シビュラじゃねーとおれは思う!!」
    「おい、コラさん!時間ねーんだ!!行くぞ!!」

    (……そんなの、)

    ずっと昔から、分かっている。
    シビュラはただの計測機械。別に、誰かを守るものでも、傷つけるものでも無い筈だ。

    (……酷い人ね。)

    それならば、自分が噛み付くべきは、人間の方。
    そんな、途方も無い敵に、立ち向かえとでも言うのだろうか。

    ロビンは震える手のひらで、コートのポケットからスマートフォンを取り出した。
    永遠と起動し続けるそれは、各自、身に付けている装置で読み取った"低い"犯罪係数をサイマティックスキャンへ送信する媒体。

    『コイツは大丈夫だ!良い奴だから!!』

    一つ、言えるのは、"亡くせない""価値観"を保有する、たった一人の小さな少年。
    彼は、この酷く薄暗い世界で唯一、太陽の形をしていた。

    「……オイ、あんた、」

    ロビンの手のひらに乗ったスマートフォンを警戒したドフラミンゴが、小さく声を上げる。
    それを無視したその手元で、スマートフォンの画面が息絶えるように落ちた。
    その電源に比例するように、長い睫毛に縁取られた瞳がゆっくりと閉じる。

    (疲れたわ……。はやく、眠りたい。)

    その瞬間、今まで沈黙を守っていた街頭スキャナーが一斉に、大きながなり声を上げた。

    ######

    「お手柄だったなァ。ドフィ。そろそろ厚生省高官も見えてきたんじゃね。」
    「あんな魑魅魍魎蔓延る上層部なんざ、こっちから願い下げだぜ。」

    中央公園内は、走り回る公安局職員達やドローンのせいで妙に騒がしかった。
    それをベンチに腰掛けて眺めたドフラミンゴとロシナンテは、手にした缶コーヒーが徐々に冷たくなるのを防ぐように、大きな手のひらで包む。

    突然役目を果たし始めた街頭スキャナーのおかげで、実行犯達は呆気なくお縄となった。
    聞けば、彼らは今日まで、クロコダイルがボスだとは知らなかったそうで、あの男の周到さにうんざりとしたものだ。

    「……ドフィ。おれ、刑事課に戻ろうと思う。」

    隣で、煙草の匂いを感じた瞬間、ぽつりと呟かれた台詞に、ドフラミンゴは返事をしない。
    ゆっくりと、昇っていく紫煙を目で追って、ロシナンテの丸い瞳がくるりと動いた。

    「……別に、無理に戻る必要は無ェだろう。」
    「……無理してんのは、お前だろ。……ドフィ。ガキの頃から、今までずっと。」

    身を削り、血反吐を吐いている様を、表に出せない難儀な男。
    背後の暗いこの社会に、食われ続ける哀れな化物。
    "あの日"少なからず"安堵"した気持ちは、明らかな"共犯"の証だ。

    「……"化物同士"、仲良くしよーぜ、ドフィ。」

    突然、降って湧いた"同胞"に、ドフラミンゴの瞳がサングラスの奥で僅かに開く。
    腹の底に溜まった、重たい何かが消える感覚を、確かに覚えて、その口元が何かに耐えるように歪んだ。

    「何でも良いが……、燃えてるぞ、ロシー。」
    「ウワァアア!!!ドフィ!!!水!!!!!」
    「あ!!!トラ男!!!コラソンまた燃えてるぞ!!!」
    「コラさん!!!何してんだよ!!」
    「ドフィ……!燃え移ると危険だ!はやく離れろ!!」
    「オイオイ、お前ら何してんだよ……。」

    クロコダイルの処理をしていたキッドも現れ、久しぶりに、二係が全員揃う。
    あまりにも、ガラクタ過ぎるその集団を、ドフラミンゴは呆れたように眺めた。

    「よっしゃ!!解決したよな!?!?焼肉行こうぜ!!ミンゴ!!!」

    今回の解決への"糸口"は、シビュラの意思を無視したこの"麦わら帽子"が掴んだ。

    『あれは神でも何でも無い、ただの"福祉支援システム"だぜ!』

    『……おれからすれば、お前ら"健常"の方が、よっぽど不自由だ。』

    呆気なく、偽装された犯罪係数。それを暴いた"野生"の"勘"。
    ただのツールに、翻弄され続けた人生。
    この一件は、その盲目にも似た価値観を、容易く揺るがし、崩してしまった。

    「この事件はァー……ッ、」

    輪の中心で、大きく拳を振り上げた少年は、息を吸い込んで一度、止める。
    その、明るい"光"を、ドフラミンゴは眩しそうに見た。

    「おれ達の"勝ち"だッ!!!!」

    ######epilogue

    「アー……。今日は、テメェらに良いニュースと悪いニュースがある。」

    珍しく、穏やかな午後。
    特段事件も起こらず、のんびりとした刑事課フロアに入ってきたドフラミンゴは、うんざりしたように重々しい口調で言った。
    キョトンとした面子を置き去りに、そのフロアの入口がゆっくりと開く。

    「「「「……ゲ。」」」」

    「クハハハ!ごきげんよう。シビュラの犬共。このおれが仕事をするには大分手狭だが……おれも同じ犬だ、我慢をしよう。」
    「ハイ、まず悪いニュース。むさ苦しいこのフロアに、オジサンが追加されます。」
    「「「……おおう。」」」

    黒いスーツにネクタイを身に着け、肩で風を切って入ってきたのは、先日逮捕した筈の、"容疑者"、"サー"・クロコダイル。
    その後を付いてきたのは、ニコ・ロビンだった。

    「良いニュースは、このむさ苦しい二係専属の"分析官"が、美人なネーチャンになりました。セクハラに注意しろ。」
    「フフフ。よろしくね。」
    「「「ウオオオ!!!」」」

    ぞんざいに言ったドフラミンゴの言葉で、一喜一憂するメンバーにもため息を吐き、やっと包帯の取れた足でデスクに戻る。
    ロシナンテが帰ってくるまでの"欠員補充"として配属された"執行官"は、ズカズカと元々ロシナンテの使っていたデスクへと歩み寄る途中、ドフラミンゴの前で止まり、そのデスクに右手をついた。

    『残念だ。……残念だぜ、"鰐野郎"。お前と仲良くこの世の破壊の算段をしたかったが……とんだ器違いだったな。』

    「あの台詞、忘れちゃいねェよな。フラミンゴ野郎。楽しみにしていてくれたまえ。」

    その目に不穏な光は健在で、疑問の宿るシビュラの真意は、未だ不明。
    ただ、その、"数値の外"で測るべき物もあるのだ。
    ドフラミンゴはその台詞に答えはせずに、まっすぐと、その燃える瞳を眺めるのだった。
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    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202