Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍣 🍲 🍕 🍔
    POIPOI 57

    BORA99_

    ☆quiet follow

    モネシュガDQファミリー入り妄想
    こんなような捏造航海記録本をいつか出します
    ※全て捏造です。ご注意ください。

    Sugar さざなみのような歓声が、随分と遠くの方で聞こえる。
     もう既に、日は落ちているのにも関わらず、止むことの無い声援は、帰還した兵士達に向けられていた。
    (……馬鹿ばっかりだわ)
     大きな瞳が一度、ゆっくりと瞬きをして、小窓から眺めた篝火をうんざりと思う。
     誰かの哀しみを、食い物にして、この国は美しい炎を起こす。
     その呆れた構造で成り立つこの閉鎖された島は、延々それに気がつかないのだ。
     鮮やかなエメラルドグリーンを放つその細い髪が首元で揺れる。
     幾分か大人びたその台詞を聞いている者は、誰も、居なかった。

    「……みんな、誰かの玩具なのね」

     ******

    「偉大なる航路に拠点を移したのは数ヶ月前……。まだまだ新参でな」
    「謙遜を……。北の海での評判は聞いている。是非ともこの国の力になって欲しい」
    「フフフフッ……。お上手だな」
     権力者は、派手好きが多い。
     何でも手に入る力故、そうなってしまうのか。はたまた、力有る者特有の嗜好なのか。そんな事は知りもしないが、現に今通されたこの応接室も、その法則に違わず豪華絢爛を絵に描いたような空間だった。
    「武器は植民地で造らせているんだろう。態々おれから買う必要は無いように見えるが」
     突然、降って沸いた儲け話。
     それに誘われ偉大なる航路前半の海に浮かぶ大国を訪れた、天夜叉、ドンキホーテ・ドフラミンゴは、未だ解せないその心中を口にした。
    「君に頼みたいのは武器では無いんだ、ドフラミンゴ君」
     落ち着き払ったその口調は、暴力主義を微塵も感じさせず、ドフラミンゴは拍子抜けしたようにサングラスの奥で瞳を細める。
     この国は戦争で成り立つ、野蛮な国の筈だ。
     近隣諸国の武力支配と、海に蔓延る賞金首の討伐で得た金を国家予算とし、この海で世界政府非加盟国でありながら、抜群の治安と繁栄を誇る暴力国家。
     その異名を感じさせない国王の、お行儀の良い顔に、得体の知れない違和感は拭えない。
    「君は、悪魔の実の流通にも明るいと聞いたが」
    「フフフフッ。あァ。扱っている」
     予想の範疇を出なかったその発言に、ドフラミンゴはソファに身体を埋めて言った。
     帰還した兵士達の凱旋パレード。新聞で踊る、本日の戦果。街で売られる、英雄のブロマイド。
     最早ショーと化したこの国の殺し合いの形に、ドフラミンゴはゆっくりと息を吐き出した。
    「人気を取るには、派手でクールな能力は必要だもんなァ。……何だ。何の能力が欲しい」
     嫌味とも取れるその台詞にも、国王の表情は歪まない。
     自分の立ち位置に、不満の無い人間は悪意にあまり頓着しないのだ。
    「欲しい能力は数多あるが、今回は買う話ではない。売りたい物がある」
     得意げに、口元を歪めた男の顔をドフラミンゴは白けたような目つきで見る。
     サングラスに隠された、ドフラミンゴの心中など知らず、目の前の男はゆっくりと口を開いた。

    「ホビホビの実を手に入れたんだ。どうだろう。この実を目玉にしてこの島で、オークションを開催しないか」

     ******

    『完全に、国内向けだがね。しかし、この国の富裕層は軍需産業で儲けている。君にとっても良い話になるだろう。』
     
     近隣諸国に恨まれているこの島の住民は、気軽に外へは出られない。
     それを、気楽で呑気な島民が理解しているとも思えなかったが、国王は割と冷静に受け止めているようで、広大な島には娯楽施設が一通り揃っていた。
     オークションもその一つであると理解したドフラミンゴは、開催の手助けを了承し、国王が王宮内に用意した部屋に暫く宿泊することを決めたところである。
     勿論、あの実の本当の恐ろしさも知らず、客寄せとして使おうなどと考えているあの男に、余計な助言はしていなかった。
    (……最悪、殺して奪えばいい)
     この先にある計画を、確かな物にできるだけの力が、あの実にはある。
     ドフラミンゴは人知れず、口元を歪め、目当ての部屋に通じる扉の前に立った。
    「流石は、儲けているだけあるな」
     暫く滞在する事になった途端、食事や観光に誘われたが、それを断り、その代わりに王宮自慢の図書室へ足を踏み入れる許可を貰ったドフラミンゴは、幹部達を呼ぶ前に一人の時間を過ごそうと、その立派な扉を潜る。
    「……誰?」
    「……先客か。失礼、ノックをし忘れた」
     明るい日差しの差し込む、洒落た造りの書架の間に座り込んだ小さな人間。
     現れたドフラミンゴを見上げていたのは、美しいエメラルドグリーンの髪が揺れる、あまりにも華奢な少女だった。
    「……別に。貴方は許可されているんでしょう」
    「お前はされていないのか」
    「ええ、見つかったらまた、打たれるわ」
     陽の光を知らない白い肌の上に点在する、大小様々な傷跡と、頬に当てられた大きなガーゼを眺めても、ドフラミンゴは特に何の感慨も抱かない。
     この海に可哀想なガキなど、掃いて捨てるほどいるのだ。
    「打たれるなら、入らなきゃァ良いだろう。お嬢ちゃん、読書が好きなのか」 
    「……字も読めないのに、好きな訳無いじゃない」
     生意気過ぎるその台詞に、ドフラミンゴの方が負けて、小さく笑い声を上げながらその顔の前にしゃがみ込んだ。
     手にした幼児向けの絵本は、そういえば、この前デリンジャーに買ってやった物と同じである。
    「……ドンキホーテ・ドフラミンゴ」
     長い足を折りたたみ、少女の前に座ったドフラミンゴは、懐から手帳を取り出して空いたページにサラサラと文字を綴り、読み上げた。
     それを、キョトンと眺めた少女の瞳が手帳と、ドフラミンゴの顔を行き来する。
    「おれの名前だ。綴りはこうだ。どうだ。簡単だろう。教えてやるから、沢山本を読め」
    「……どうして」
    「……この世は馬鹿ばかりだと気づけるぜ」
    「……それはもう知ってるわ」
    「フフフフッ……!そうか、それァ失礼した。聡明なお嬢ちゃん」
    「あ!これは読めるのよ。シュガーでしょう。わたし、甘い物が好きなの。あんまり食べたことは無いけど」
     幾分、冷めた瞳に明るい光が宿り、膝の上で開いた絵本の文字を指差した少女は、ドフラミンゴを見て笑う。
     殺しの上に成り立つ平穏。それを、平和の姿と信じる馬鹿共。その影で息絶える、許容できる価値観。
     不意に、少女の瞳がドフラミンゴの眼球を覗いた。
     
    「……大人になっても、人生は辛い?」
     
     その時揺らいだ、瞳の中の憎悪で燃える明るい光を、ドフラミンゴは確かに捉え、歪んでしまうその口元を手のひらで隠す。
     怒りがあるなら、満点だ。
     大きな瞳を眺めたドフラミンゴの腹の中で蠢く算段は、その瞬間、一つの結末を導き出した。
    「……辛いぜ。この海は、哀しみだけが溢れている」
    「そう、良かったわ」
     どうやら、望む返答を聞けたらしい少女の瞳が悲しげに細められ、反して口元は笑うように弧を描く。
     
    「じゃあ、大人になる必要は無いわね」
     
     ******
     
    「いいか。オークションに出す前に、ホビホビの実を盗み出すぞ」
    「何だよドフィ、盗むなんざ面倒臭ェ。略奪すりゃァ良いじゃねェか」
    「ディアマンテ……この国は軍事国家。今後デカい取引に繋がるかも知れねェだろう。それに、この世に多くの戦争を起こしてくれるなら、ウチとしちゃァありがてェ限りだ。この国は、なるべく生かしておいた方が都合が良い。……まァ優先順位はホビホビの実が上だ。盗み出せねェようなら殺せ」
     午後、船で待機していた幹部達を充てがわれた部屋に集めたドフラミンゴは、その中心でゆったりと口を開いた。
     ホビホビの実の存在を聞いてから、とっくにこれは商いから、海賊稼業へシフトしている。
     
    『じゃあ、大人になる必要は無いわね』
     
     幸いなことに、器も見当がついていた。
     美しいエメラルドグリーンの髪が脳裏を過り、ドフラミンゴはゆっくりと瞳を閉じる。
     その瞬間、上品なノックの音が響き、クルー達の視線が扉へむいた。
    「……ドフラミンゴ様。船員の皆様のお部屋を用意しました。宜しければお使いください」
    (……また、) 
     緑髪だ。
     部屋に現れた使用人らしき女は、通らない声で言う。
    「今日は豪華に王宮泊か。嬉しいねェ」
    「ジョーラ、デリンジャーとベビーを頼むぞ」
    「はい。若様」
     ドフラミンゴの思考が一瞬支配され、ディアマンテの呑気な台詞で我に返った。
     ゾロゾロと部屋を出ていく幹部達の背中を眺めていたら、最後に残った女と目が合う。
    「……何か御用?」
    「……いや、随分美人を付けてくれたモンだと思ってな」
    「ふふ。貴方の望むことは何でも叶えるよう、国王から言われています。どうぞ何でもお申し付けください」
    「そりゃァ、良いな。添い寝でも頼むか」
    「あら、控えめなのね」
     何でも無いように笑う、未だ大人とは見えない彼女の口元が、釣り合いの取れない笑みを浮かべた。
    「そういう役回りなの。そうじゃなきゃ、こんな場所で暮らせる身分じゃないわ」
    「……名前は?」
     長い睫毛に縁取られた大きな瞳は、まるで、ブリキの玩具のようだ。
     一度、細められた眼球の下で、ゆっくりと唇が動く。

    「……モネと、申します」

     ******
     
    「……何の騒ぎだ」
     翌朝、賑やかな音楽に叩き起こされたドフラミンゴは、滑らかなシーツの上で不機嫌そうに呟いた。
     窓の外に視線を向けると、この国のマークが入った旗が掲げられ、遠くに見える港には大勢の人間達が集まっている。
    「おはようございます。朝食は召し上がりますか」
     昨日と同じ上品なノックが聞こえ、昨日と変わらぬ緑髪を揺らしたモネが部屋に現れる。
     面倒臭そうに髪を掻いたドフラミンゴは、ゆっくりと息を吐き出した。
    「随分と、騒がしいな」
     再び窓の外に移った視線に、モネは釣られるように外を見る。
     ゆっくり港に近づく軍艦を、手を振りながら迎える国民達に白けたような眼差しを向けた。
    「長く、戦地に赴いていた軍隊が勝利を収めて帰ってきたの。いつもこうなのよ。皆大喜びで迎える」
    「……あんたは行かなくて良いのか」
     別に、世話をしてもらいたいとも思っていないドフラミンゴがモネに言う。
     当の本人は相変わらず、空洞のような瞳でドフラミンゴを眺めていた。
    「ええ。興味無いわ」
     吐き捨てるように言った女の瞳の中で、見覚えのある光が灯る。
     何故、この女はこの場所に居て尚、怒りを抱えているのだろうか。
    「戦争に勝ち続ければ、この島は裕福で居られるじゃねェか」
     さざなみのような歓声、尽きる事の無い賞賛の言葉。片足の英雄。
     見えないどこかで踏み躙られる同じ生命を、この国の民は知らない筈だ。
    「……なァ。美人が台無しだぜ。あんた、一体何に怒っている」
     その時、確かに揺れた瞳を、ドフラミンゴは捉え、喉の奥で笑い声を上げる。
     ゆっくりと、ドフラミンゴに視線を向けた眼球で、顔に似合わぬ凶暴が目を覚ました。
    「別に、怒ってなんかいないわ。興味も無いの。不幸の上の繁栄も、それに気がつかない馬鹿な人たちも、全部、どうだっていいの」
     明らかに、何かを押し殺して言った彼女はそのまま、静かに部屋を出て行く。
     閉じた扉は沈黙を守り、ドフラミンゴは相変わらず煩い外を、忌々しく思うのだった。

     ******

    『……大佐!ヴェルゴ大佐!大変です!』
    「どうした。あまり大きな声を出すな。勘付かれるぞ」
     今にも崩れ落ちそうな、廃れた建物の一室で双眼鏡を覗くヴェルゴの胸元で、電伝虫が悲痛な叫びを上げた。
     取り出したその虫は、さっきまでの安らかな眠りなど忘れ去り、部下の顔を真似て喚く。
     双眼鏡の先、随分と立派な王宮からは目を離さずに、ヴェルゴは落ち着き払った低い声を出した。
    『み、港に……ドンキホーテファミリーのヌマンシアフラミンゴ号が停泊しているとの情報が……!』
    「……ハッ⁉︎た、確かなのか」
    『はい!港付近に待機している者からの報告です!』
    「……」
     思いもよらない名前に、ヴェルゴはとうとう無言になり、パシ、と額に手を当てる。
     今、ヴェルゴがこの島に居るのは、相棒からの任務ではないのだ。
    「……この国は世界政府非加盟国。更には、海軍の介入を拒んでいる。おれ達が忍び込んでいる事がバレるのはマズい。今は、ドンキホーテファミリーに手を出すな。任務に集中してくれ」
    『はっ!』
     再び、眠りに就いた電伝虫を仕舞い込み、ヴェルゴはゆっくりと息を吐く。
     海軍の加護を拒んでいるにも関わらず、猛者だらけの偉大なる航路で国家を存続させているこの島に、数名の部下を連れて忍び込んだのは昨日の事だった。
     その極秘任務に、まさかあの男が関わるとは、流石のヴェルゴも想定していなかったのである。
    (……商談か?この国に関わっても、ロクな事にならないぞ……ドフィ)
     確かに、他国との戦争を繰り返すこの島が取引先となれば、ファミリーの懐は潤うだろう。
     しかし、この国は、政府に目を付けられている。
     一度、瞳を閉じたヴェルゴは、諦めたようにさっきとは別の電伝虫を取り出した。

     ******

    「また書庫に入ったのね……⁉︎入ってはいけないと言ったでしょう……!」
     バチ、バチ、と、切れかけた蛍光灯のように、目の前で明滅する光に遮られ、相手の顔がよく判らない。
     いつも、そうだ。顔の無い人間達が、自分を見て酷く怒っているのに、何を言っているのかが、上手く、理解できない。
    「聞いているの⁉︎」
    「犯罪者の娘の癖に……!」
    「その絵本は王女様の物よ!返しなさい!」
     自分を見下ろす三人の人間。
     その存在は把握しているのに、ゆらゆらと揺れる影にしか見えなかった。
     影が一度、大きく動いた瞬間、頬に鋭い痛みが走って頭が大きく揺れる。
     あまりの衝撃にカーペットの引かれた廊下に倒れ込むと、臙脂色の生地の上にエメラルドグリーンが散らばった。
     倒れたまま、床に落ちた絵本が拾い上げられていくのを黙って眺める。
     その本の隙間から、ひらりと一枚紙が落ちた。
    「……‼︎何の音……?」
     突然、陶器の割れる音が響いて、顔の無い人間達は音がした方に走り去る。
    「……やだ、花瓶が、」
     遠くの方で聞こえる、その意味のないやり取りなど、少女の耳には入らなかった。
     絵本の隙間から落ちた紙切れに、小さな手のひらを伸ばす。
    『……ドンキホーテ・ドフラミンゴ』
     あの時、そう名乗った男がくれた、サイン入りの紙切れ。
     それを後生大事に抱えているのは、それしか、自分に優しくはないからだ。

    「よォ、シュガー。甘いモンでも食わねェか」

     サインが、まるで擬人化したかのような幻想を抱き、背中を丸めて自分を見下ろす大きな男を、パチパチと瞬きをしながら見つめてしまった。
     軽々と自分を立たせ、その手に握られた紙切れを一瞥し、サインの本人、ドンキホーテ・ドフラミンゴはぐい、と口角を上げる。
    「シュガーって何よ」
    「フフフフッ……!ニックネームだ」
     辛いと、そう言った割に、この男は随分と楽しそうに見えた。
     突然現れた、得体の知れない大きな男は、まるで神様みたいに、小さな体を抱き上げる。
    「お前何で、こんなところに居るんだ。親はどうした」
    「……とっくに、死んだわ」
     大股で歩き出したドフラミンゴの問に、相変わらず生意気な言葉を返し、その場に一度沈黙が落ちた。
     何も言わないドフラミンゴの腕を小さな手のひらが掴む。
    「……戦争反対を訴えて、父は、処刑されたの」

     ******

    「馬鹿な事をしたと思うわ」

     まるで、初めて見たとでも言うように、恐る恐る目の前に置かれたケーキを小さなフォークで掬ったシュガーは、一口食べてから呟く。
     ドフラミンゴに用意された部屋は、開けた窓から緩い風が吹き込み、随分と快適だった。
    「この国で国防軍の幹部だったのよ。誰でも立てる地位でもなければ、掴める職でも無い。それを、彼は呆気なく捨てた」
     いつものように、戦地から帰ってきた夜だった。
     あまりにも思い詰めた顔の父を、姉と眺めていた事だけは覚えている。
    『……おれも、人間なんだ』
     その、理解できない台詞だけ吐いて、次の日にはもう職を手放した父親は、一緒に軍を抜けた数名と反戦争を掲げ、革命紛いの活動を始めた。
     結局、古巣に追われる形となった逃亡生活の中で、母親も、仲間も撃ち殺されてしまった。
    「両親が死んでからの逃亡生活の中で、ゴミを漁りながらずっと考えていたの。幸せな人間の姿はなんだろうって」
    「フフフフッ。その答えは見つかったのか」
    「……ええ、此処で暮らすようになって、分かったわ」
     大きな瞳が、ケーキから上がり、一度瞬いてからドフラミンゴを見る。
     その眼球で怪しく輝く炎の正体は、よく、知っていた。

    「全ての人間を、玩具にするのよ」

    「誰かの玩具は、幸せになんてなれない」

    「誰かの身勝手のせいで不幸になるなら、この世の人間全てを、わたしの玩具にすれば良いんだわ」

    「そうすれば、わたしにとって幸せな世界ができる」

     可哀想なガキなど何処にでもいる。それこそ、掃いて捨てるほど。
     ただそれを、その思考回路に繋げる感性こそが悪党の素質。
    「貴方、辛いだなんて言ったけど、本当はそうじゃないわよね。……貴方は多分、操る側の人だもの」
     怯まぬ性を持って生まれた化物が二人。
     その視線を交差させた瞬間、ドフラミンゴの口角が、まるで笑うように吊り上がった。
    『プルプルプルプル……』
     突然、二人の会話に紛れた間抜けな鳴き声に、ドフラミンゴはゆっくりと立ち上がり、デスクに置いていた電伝虫を取る。
     懐かしい顔を真似た虫に、思わず口元が笑みを浮かべた。
    『……ドフィ、お前今、どこに居るんだ』
    「何だよ、相棒。藪から棒に」
    『港でヌマンシアを見た。お前、この島で一体何をしようとしているんだ』
    「何だって良いじゃねェか。フフフフッ……。どうした。この島が何かマズいのか」
     シュガーの視線を避けるように、寝室へ入り扉を閉めたドフラミンゴは、ベッドの上に腰掛けのんびりと言う。
     相棒は、一度逡巡するように口を閉じ、重たいため息を吐き出した。
    『ドフィ。おれは今、海軍の任務でこの島に潜入しているんだ』
     低い声が言葉を選ぶように重く紡ぎ、ドフラミンゴは先を促すように黙ったまま足を組む。
     ゆっくりと、頬にハンバーグを付けた奇妙な虫の口元が開いた。
    『この島は、ポーネグリフ研究及び、』
     ドフラミンゴの口元が、流れた言葉に合わせて弧を描く。
     あの馬鹿共に、歯向かう牙は、いつだって多い方が良いのだ。

    『古代兵器復活を目論んでいる疑いがある』
     
     ******

    『フフフフッ……!そりゃァ、良い。ヴェルゴ、お前はポーネグリフの研究資料を必ず奪え。おれは複写で良い。次の手土産にしてくれ』
    『お前はどうするんだ』
    『こっちも、この国から奪いたい物が一つある。おれ達はそっちだ』
    『勘付かれるなよ。上は、この国に目を付けている』
    『お前は、勘付かれても良いぜ。全部揉み消してやる』
    『お前の手を煩わせるような事はしないさ』

     夜は更けた。
     月明かりが差し込む窓の縁で、ドフラミンゴは古い新聞のスクラップを捲り、ゆっくりと口元を擦る。
     平和を謳う男の暴力行為。国防軍幹部の家に投げ込まれた火炎瓶で死んだ、十歳の少年。孤児となった姉妹を召し上げた、心優しき国王。
     あのエメラルドグリーンの髪が、その脳裏で揺れた瞬間、ドフラミンゴは溢れる笑い声を喉の奥で押し殺した。
    『全ての人間を、玩具にするのよ』
     あの少女は、見覚えのある眼球でそう言ったのだ。
     明らかに、何かを仕出かす算段が有るような物言いに、ドフラミンゴは楽しそうに口元を覆う。
    (……仕出かすとすりゃァ、たった一つ)
     見覚えがあると言えば、それは、嘘だ。
     何故なら、
    (……あの目は、)

    「居たぞ!……そっちだ!」

     ドフラミンゴがスクラップブックを閉じた瞬間、何かが割れるような音と、数人の足音が扉の前で響いた。
     その音を待っていたかのように電伝虫の受話器を上げる。
    「よォ、相棒。暇か」
    『ああ、ドフィ。張り込みは苦手でな。体を動かしている方が幾分かマシさ』
     ワンコールで途切れた呼び出し音は、あっという間に懐刀を呼び覚ました。
     唸る獰猛を抑えるように、努めて冷静なヴェルゴは静かに言う。
    「王宮が騒がしくなってきた。盗みてェ物があるなら今だぜ、大佐殿」
    『了解。あまり無茶はするな。この国の武力は偉大なる航路でも有数だ』
    「フフフフッ……!おれを、誰だと思ってやがる」
     ゆっくりと、月明かりを背に立ち上がったドフラミンゴは、掛けていたファーコートを羽織った。
     バサリ、バサリと、窓から吹いた強い風がコートを揺らし、床に落ちた影がまるで、猛鳥を思わせる羽ばたきを映す。
    「そういやァ、すまん相棒。実は、嘘を吐いた」
    『……?何の話だ』
     人間に成りたがる、その余りにも愚かな選択で、力を奪われた事がある。
     その屈辱を知る、エメラルドグリーンが眼の前でずっと揺れていた。
     きっと彼女は、この手のひらの上で、美しく踊ってくれるのだろう。

    「奪いたいモンは……一つじゃねェんだ」

     ******

     近いうちに、王宮で騒動が起こる。
     愛しき相棒の予感は見事的中し、ヴェルゴはその騒動に乗じて王宮に忍び込んでいた。
     走り回る兵士達をやり過ごし、地下へと伸びる階段を降りると、事前に海軍本部が入手していた間取り図を頼りに一つの扉の前に立つ。
    (……資料室に置いているとは思えないが)
     ヴェルゴが受けた命令は、ポーネグリフの研究資料を持ち帰ること。
     この国は、随分と前から海軍本部の監視下にあるのだ。
     以前別のスパイが作った合鍵で開いたその部屋は、資料室とされている。
     流石にそう分かりやすく機密情報を置いているとは思っていなかったが、虱潰しのローラー作戦だ。
     この行動は長い年月を掛け、確かな罪の証を焙り出す作戦の一端に過ぎない。
    「……これは、」
     灰色の石壁に囲まれた広い部屋は、スチールの書棚が並び、ファイルや紙の束が整然と並べられていた。
     その一つを取ったヴェルゴは、おもむろにページを捲り、訝しげに声を漏らす。
     売買記録のように見えるその手書きの文字に、特に変わったところは無かった。
     ただ、一つ気になるとすれば、
    (……売物は、人間か)
     身長、体重、年齢、性別、この帳簿らしき頁に踊るには、随分とキナ臭い文字面。
     時折挟まる顔写真に、ヴェルゴは何の感慨も抱かなかった。
    「……誰」
    「……」
     手元のファイルに集中していた視線が、突然開いた扉に勢い良く振り返る。
     ヴェルゴの視線の先では、エメラルドグリーンの髪を揺らした少女が怪訝そうにこちらを覗き込んでいた。
    「……こんばんは、お嬢さん。驚かせてすまないな。大丈夫だ。国王様に許可は取ってある」
    「ふーん。お客様?ドンキホーテ・ドフラミンゴの仲間の人?」
    「……いや、そことは別だ」
     長年の二重生活で作り出した外面を向けると、少女は興味も無さそうに言って猫のようにスルリと部屋へ入る。
     扉の閉まる音に、ヴェルゴは内心面倒な事になったと舌を打った。
    「オジサン、ヒューマンショップの人?」
    「……いや、そういう訳では無いが、」
    「ふーん」
     関心が無いのか、そうでないのか、イマイチ判断のつかない少女に、ヴェルゴは小さく息を吐く。
    「……この国で、人身売買が行われているのか」
     情報源になるなら、生かしておいても良いか、などと仄暗い事を思ったヴェルゴはファイルを閉じて元の場所に戻した。
     一度、エメラルドグリーンの髪が揺れて、少女の瞳が細くなる。
    「ええ。戦争孤児は尽きることなく湧いてくるのよ。それを全員、王宮に召し上げていたらあっという間に溢れてしまうわ」
    「……君もそうなのか」
    「戦争孤児の話?それとも、商品?どちらでも良いけど、どちらでも合っているわ」
     自分の運命を悟っているにしては、随分とあっけらかんと言った彼女に、ヴェルゴはまたしても息を吐いて頬を掻いた。
     どこか、浮世離れした彼女に、ヴェルゴは台詞を探すように黙る。
    「国王様に許可を取ったなんて…嘘なんでしょう?だってこの部屋の鍵は三日前に、能力者の兵士が誤って溶かしてしまったんだもの。扉を開けられないって大騒ぎだったのよ。鍵屋さんは明日来るの」
     少女の眼球が、不意に似つかわしく無い光を放ち、ヴェルゴの視線はまるで、奪われるようにその光を見つめた。
     似ている。驚くほど、この少女は、彼に似ている。
    「ねェ、貴方がどこの誰だか知らないけれど……少し、手伝ってくれない?」

     ******

    「……居たぞ囲め」
    「逃がすな」
    「……ッ」

     走り回っていた兵士達が同じ方向に向き、見上げたのは、宝物庫へ続く扉。
     その扉の前に立った女は、自分を囲む影に振り返った。
    「貴様……ホビホビの実を奪うつもりか……」
    「犯罪者の娘の分際で……!」
     がなる、顔の無い群衆。その血の種類で、自分達を蔑んだ残虐な生き物。
     その悪意の中心で、モネはゆっくりと瞳を閉じた。
    「……流石は、あの男の娘だ」
     兵士達の間から、ゆったりとした歩みで現れた国王は酷く、低い声を出す。
     親玉の登場に、モネはその長い睫毛に縁取られた瞳を開いた。
    「その実を盗んで……わたしに復讐でもしようと言うのか」
     余りにも、その感情を理解しない男の見当外れな物言いに、モネの口元が歪む。
     いともたやすく散った春と、踏み躙られる尊厳。ゴミを漁る自分達を見下ろした群衆。販売計画上の妹。
     その矛先が、たった一人に向くほど、この罪は軽く無いのだ。

    「……馬鹿ね。わたし達はただ、安全な場所に居たいだけよ」

    「操られる側に居ると、不幸になる」

    「なら、そうじゃない方へ。全員殺して、わたし達は立つわ」

     後ろ手に扉に鍵を差し込んで回す。
     軽い音がして開いた扉を一息で開けた。
    「……」
    「……ちょっと、早かったわね。……モネ」
     宝物庫の中では、開け放たれた窓の脇でカーテンが揺れ、天井付近の排気口から足を出した少女を受け止めようと、見知らぬ男が腕を伸ばした格好でこちらを見ている。
     外からしか開けられない宝物庫の扉を開ける係だったモネは、予定では既に、ホビホビの実を口にしている筈の妹をキョトンと見た。
    「……知らない人について行っては駄目よ」
    「……それはすまなかった。」
    「貴方に言ってないわ。」
    「違うわ、モネ。ついてきてもらったの。わたし一人じゃ排気口から降りられないと思って」
    「そのサイズで排気ダクトは通れないわよね」
    「……だから、窓から入った」
    「……」
     一応ここは、四階の筈だが、服の上からでも分かる、鍛えられたその体躯に何も言わずに、モネはゆっくりと部屋に入る。
     広い部屋に所狭しと置かれた、他国からの献上品や奪った品々に囲まれて、後ろに撃鉄の降りる音を聞いた。
    「……伏せろ」
    「わ!」
     少女の首根っこを掴んだ男が、そのままモネの頭も抱えて床の上に転がった瞬間、銃声が響く。
     どこぞの国の物とも知らぬ高級品が次々と割れ、無数に聳えた棚の影に隠れた男は、両脇に抱えた姉妹にうんざりとした視線を向けた。
    「貴方優しいのね。なんで手伝ってくれたの?」
    「その目で頼まれると……断れないんだ。反省してる」
    「どういう意味?」
     なだれ込んできた兵隊達の足音を聞きながら、ゆっくりと棚の間を移動する。
     その時、少女の瞳に見覚えのある漆塗りの箱が映った。
    『……これがホビホビの実か』
    『触れた人間を玩具にするとは……どうにもふざけた能力だな』
     敗戦国から持ち帰ってきた、その黒い箱を、実は盗み見ていたのである。
     お誂え向きだと思ったのだ。この小さな玩具箱を壊すのに。
     一瞬で逸れた少女の思考は、もう、その箱しか見ていなかった。
    「……駄目よ!危ないわ!」
     前触れもなく、棚の影から走り去った少女に、モネが細い腕を伸ばすが届かない。
     ヴェルゴが立ち上がった瞬間、少女の顔面に兵士の振り抜く棍棒が迫った。
    「……!」
    「やめて……!」
     モネが劈くような悲鳴を上げた瞬間、その小さな頭が大きく仰け反って、鈍い音が響き渡る。
     吹き飛ばされ、床に散らばったエメラルドグリーンの髪がじわりと血に染まった。
    「……ウゥ、」
     殴られた左目が妙に熱い。それなのに、痛いとは思わなかった。
     小さな口からうめき声を漏らして、細い腕が床に落ちた黒い箱に手を伸ばす。
    (悪魔の実があれば……、)
     武力主義のこの世界でも、操る側に行ける。
     淡い期待と甘い考えを、ずっと胸に抱いて生きてきた。
     もう、泥水を飲むことも無いし、誰かに消費される姉も、見なくて済むのだ。
    (全員、わたしの、)
     玩具になるのだ。
    「ふふふ……ふふ、あははは、」
     湧き上がる笑い声に、ボタボタと垂れる血。
     まるで、化物を見るように、一瞬、兵士達が気圧される。
    (……別に、人間じゃなくても構わないのよ)
     その瞳の輝きに、当てられたのは、棚の間から様子を伺う男。
    (……ドフィに、会わせたい)
     思った瞬間、展示されていた金色の槍を掴んだ。
     この少女は、あの男と同じ価値観で生きている。
    「……気が変わった。こんなところに居たらどやされるが、加勢しよう」
    「あ、貴方は一体……」
    「ただの、通りすがりさ」
     ニヒルな笑みを見せた男の腕が、一瞬で赤黒く染まった。
     その凶暴を請け負うように金色があっという間に侵食される。
    「ホビホビの実に触れさせるな……!」
     国王の台詞に、弾かれたように動き出した兵隊達が少女を囲んだ。
     一斉に銃口を向けられた瞬間、眼の前に落ちたのは、あの、紙切れ。

    『フフフフッ……!ニックネームだ』

     この世で初めて、優しい大人を見た。
     そのサイン入りの紙切れは、どうしたって捨てられない。
    (……ああ、きっと、神様だわ)
     名を与え、慈悲を与え、自分を抱き上げる優しい神様。
     それが例え、気まぐれだとしても、その優しい腕を知ってしまえば、焦がれるほかないのだ。
    「……助けて」

     その時、引かれた引き金に、少女はゆっくりと瞳を閉じた。

     ******

    「……何を、」
    「し、知らない……!体が勝手に……!」
     銃声が響き、倒れた兵士に騒然とした場内で、仲間を撃った兵士を中心に輪ができる。
     当の本人も理解が追いつかないように、自由の利かない自分の体に情けない叫び声を上げた。
    「……何だ。来るのか。それならおれは、失礼するよ」
    「……え、」
     よく知った足音に、ヴェルゴは自身の凶暴を抑え、戸惑うモネに一言だけ言うと窓の縁に足を掛ける。
     本来の目的はポーネグリフの研究資料なのだ。

    「フフフフッ……!よォシュガー。どうした。手を貸してやろうか」

     ダブルのスーツに、ピンク色のファーコートが揺れる。
     ゆっくりと宝物庫に入ってきたのは、船長、ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
     その姿を捉える前に、ヴェルゴは軽やかに窓から外へ飛び降りた。
    「貴様……!奴らと組んでいたのか……!」
     現れたドフラミンゴの歩みに合わせ、まるで操り人形のような動作で同士討ちを始めた兵士達の間を通り過ぎる。
     その異様な光景に国王が叫ぶと同時に、一人残らず兵隊達が床に散った。
    「……嫌なの」
     床の上に倒れたまま、小さく呟くシュガーの言葉に、ドフラミンゴは視線を向ける。
     阿鼻叫喚響き渡る場内が、一度怖いくらいに静まり返った。
    「泥水を飲むのも、地面を這いずり回るのも、もう、嫌なの」
     できるなら、誰にも脅かされない、尊厳を。
     それが無理なら、踏み躙る側へ。
     その小さな体に巣食う、余りにも凶暴な価値観は、この海で生きる為の牙だ。
     ドフラミンゴの指先が繊細に蠢き、目の前でがなる男の動きがピタリと止まる。
     そのシーンを映した瞳は漠然と、この男が操る側の人間だと悟った。
    「……あァ、おれもだ」
     低く呟くその台詞に、シュガーは一度、キョトンと目を丸くして、何度か瞬きを繰り返す。
     まるで、泥水を啜り、地面を這いずり回った事があるかのような物言いに、薄く、口元が弧を描いた。
    「……あんたは、どうだ」
     不意に振り返ったドフラミンゴが、棚の影に隠れるモネに向く。
     静かにサングラス越しの瞳を覗いた彼女は、ゆっくりと立ち上がった。
     その細い手のひらに握られた銃身が、銀色に輝き残像を残す。
     銃口の先で酷く狼狽えた国王の顔を、モネはただ、無感情に眺めていた。

    「わたしだって……嫌よ」

     ******

    「……今回ばかりは、ドンキホーテ・ファミリーに感謝しなければならないな」
    「なにを。奴らは海賊です」
     バサリと、机に新聞を投げた上司はそのまま額を撫でて、目の前に立つヴェルゴを眺めた。
     ヴェルゴの持ち帰ったポーネグリフの研究資料と、今朝の朝刊を見比べて、些かうんざりとため息を吐く。
    「お前が持ち帰った資料を証拠に、あの国にはバスターコールが掛かる筈だった。予算が浮いたよ」
    「それは、何より」
     一夜にして崩壊した王国が、今後どうなるかなど分からない。
     残った国民達の中から王を選び、再び王政を取るのか、はたまた、指導者無き吹き溜まりとなるのか。
     まるで興味も無いヴェルゴは、さっさとその思考を終わらせ、敬礼をすると踵を返した。
    「ヴェルゴ大佐」
     その後ろ姿を呼び止めた上司は、研究資料を机の引き出しに仕舞うと、湯呑に口を付ける。
     ノブに手を掛けたまま、振り返ったヴェルゴはその様子を眺めているだけだった。
    「ドンキホーテ・ドフラミンゴは何故あの国に手を出したんだ」
     ポーネグリフの研究資料、希少な悪魔の実。そして、手のひらで踊らせるには、お誂え向きな姉妹が二人。
     あの国には、奪うべき物が多かった。
     ヴェルゴはその心中をよそに、小さく笑みを浮かべ、口を開く。
    「さァ……?海賊の考える事など、おれには分かりません」






    「……あと十年くらい、待っても良いんだぜ。シュガー」
     初めて乗った船の中は、波に合わせてよく揺れるが、それにももう、慣れてしまった。
     ソファに座るドフラミンゴの膝に座ったシュガーは、その奇妙な果実の皮を剥こうと四苦八苦しているところである。
    「十年も?余裕なのね。別にいいの。だって、」
     見かねたドフラミンゴが、指を曲げるとシュガーの手の中で果実が綺麗に割れた。
     ゆっくりと、視線を上げた大きな瞳と、エメラルドグリーンの髪が揺れる。
    「だって、大人になっても、人生は辛いんでしょう」
    「フフフフッ……。あァ。辛い」
     ある種合言葉のようなそれを繰り返し、シュガーは小さな口をぱかりと開けた。
     この海は、悲しみだけが溢れている。
     それならば、

    「じゃあ、大人になる必要は無いわね……若様」

     それならば、はやく、この世界を破壊するその算段を。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭💖💖👏👏👏👏👏👏💞💯💘🙏👍💖☺💴😭💴❤❤💖💖❤💖❤💖❤❤💒💘💯👏🙏🌋😭💒🍌👍💖❤❤☺😍💘💴💯💞👍🙏🎃🎃❤💖😭👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202