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    BORA99_

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    @BORA99_

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    BORA99_

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    ゴムドフ(乗船if)
    若様と一味と不老不死と死者の集まる島
    ※モブと言うには主張の激しいモブがいます
    ※オリジナル設定過多
    ※捏造注意

    SLEEP NOW IN THE NIGHTMARE揺らめく、常夜灯の名を持つ夥しい数の赤い提灯が、一斉に火を灯す。
    石畳を行き交う大勢の島民達は、ぶつかり合わないように歩く術を心得ていた。
    赤く色付いた光を、手慣れたように白い肌へ映し、女達は、この世の悲しみなど、何も知らないかのように笑う。

    ここは、"眠らない島"。

    「なァー……ミンゴー。はやく街に行こうぜー。おれは暇だぞ……」
    「フフフフッ……。そう焦るな、"麦わら"。この不眠症の島は、夜が更けてからが本番だろォが」

    夕暮れの石畳を、赤い提灯の光が照らしていた。
    通りを行き交う大量の人間達をテラス席から眺め、ドフラミンゴは派手な花柄の陶器に注がれた、名前の知らないお茶に口を付ける。
    目の前でテーブルに突っ伏している、"船長"麦わらのルフィは、恨めしそうにドフラミンゴを見上げていた。
    「腹も減ったし……街は面白そうなのにミンゴはずーっと茶ァ飲んでるし……退屈だなァ……」
    いつにもまして、くっついて離れない"船長"をうんざりと眺めたドフラミンゴは、手元の本を閉じる。
    昼前に上陸したこの"不眠症"の島は、新世界でも随一の歓楽街を保有する"夜の島"だ。
    夕暮れから毎夜開催される、"夜市"と、島の半分を占める"風俗街"には、新世界中から"夜遊び"を求める連中が訪れ、賑わいを見せている。
    「……だったら何でおれについて来たんだ。いつもつるんでるガキ共と一緒に行けば良かったじゃねェか」
    島に上陸した麦わらの一味は、各々、必要物資の調達に向かい、夜市で集合することになっていた。
    "よりによって"、ペンのインクと本を買いに出たドフラミンゴの前に現れたルフィは、あまりにも身勝手にグダグダと管を巻く。
    その、"らしくない"言動に、ドフラミンゴは"悪いものでも食ったのか"と、心の中で思った。
    「おれはミンゴとこの島を冒険してェんだよ……」
    「……オイオイ、調子狂うぜ。お前がおれの都合を慮るとはな」
    「ムズカシイ言葉使うな」
    「……少しは本を読め。未来の海賊王だろう」
    いつもなら、ドフラミンゴの事情など考慮せず、強引に引っ張り回していた筈だ。
    だからといって、別に引っ張り回されたい訳では無いドフラミンゴは、妙な居心地の悪さに頬を掻く。

    「……!」

    突然、視界の端に翻った"黒い"羽根に、ドフラミンゴの瞳が揺れた。
    殆ど無意識に、通りの喧騒に目を向ける。
    行き交う人間の群れの中には、頭一つ飛び出た長身と、"黒い"ファーコート。
    同じ類の金髪を、ふわふわと揺らしたその広い背中にドフラミンゴは思わず立ち上がった。

    (……そんな筈は、)

    "無い"のだ。だって、自分が、"殺した"。
    空席のまま閉じた緞帳。永遠に埋まらない、心臓があった筈の空白。鉛玉。
    あの時吸い込んだ硝煙の匂いを、まさか、夢だとでも言うのだろうか。
    「……ミンゴ?どうかしたのか」
    「……いや、何でも無い」
    他人の空似に全てを賭けて、ドフラミンゴは震える喉で言う。
    "奴"が、生きているなら、"こんなこと"にはなっていないのだ。

    (……趣味が悪いぜ)

    ######

    「……"死者の集まる島"?ナニソレ」
    「ふふ。さっき聞いたの。この島は、死後の世界への入口らしいわよ」
    「怖い話ですか。やめてください。怖いです」
    「今世紀最大のお前が言うなだぞ、ブルック」

    あっという間に日は暮れてしまった。
    真っ赤な提灯が風に揺れて、グラグラと覚束ない灯りが夜市に溢れかえる人混みを照らす。
    屋台の切れ間に設置された、簡素なテーブルに集合した麦わらの一味は、未だ現れない"船長"と"居候"の姿をキョロキョロと探した。
    そんな中、面白そうに言ったロビンの言葉に、ナミとブルックは嫌そうに顔を顰める。
    「そんな曰く付きだなんて……チョッパー、大丈夫かしら」
    「そうね……怖い思いをしていなきゃ良いのだけど……」
    船番として独り残してきた、あの怖がりな生き物に、ナミとロビンはため息を吐いて目を見合わせた。
    魑魅魍魎が跋扈する新世界といえども、そうそう相対することのない類の恐怖。
    会いたいと思う、"死んだ"彼らは、この島にいるのだろうか。
    「ルフィも天夜叉さんもどこかへ行ってしまったし……心配ね……」
    あの男の口からは、あまり出てこない"会いたい"誰か。
    その"枷"が無いから、ドフラミンゴはあんな所まで登ってしまったのか。
    "悲しむ者"を持たない人間特有の、停止線無き道。
    その危うさが、ロビンは少し、怖かった。

    (……嫌な予感がするわ)






    「楽しそうな街だなー。いーなーみんなー」
    ピョコピョコと、"保健室"と甲板を行き来しては、街の灯を眺める"小動物"トニートニー・チョッパーは、運悪く引いたくじの采配に残念そうに独り呟く。
    常備薬を増やす為の、単調な作業ではどうしても、楽しそうな街の喧騒に意識が引かれてしまうのだ。
    「サンジがこの島の料理作ってくれるって言ってたし、全然イイんだけどな!!」
    自分で自分を慰めながら、小さな足が保健室へと引き返す。

    「オイ!チョッパー!!珍しい薬草を使っているな!!何だコレは?!」

    「……え」

    その扉を開けた瞬間、居るはずの無い人間の声がして、思わず小さな声が漏れた。
    特徴的な銀髪。古びたトランク。あの国の病を、"治せる"と信じて死んだ、優しい"ヤブ医者"。
    忘れるはずも無いその呼び名は、存外呆気なく口から滑り出た。

    「……ドクター」

    ######

    「……あ!ドフィー?!こっちこっち!!」
    「……ああ」

    辺りの喧騒が一際大きくなった頃、やっと現れたドフラミンゴは人混みを嫌そうに掻き分けながら、手を振るオレンジ髪を目印に簡素なテーブルの前に立つ。
    熱気のせいで肌に張り付くシャツが、どうにも不快だ。
    「オイオイ、ルフィは一緒じゃねーのか」
    「あ?麦わらならここに……」
    「「「「……」」」」
    解せない台詞を吐いたウソップに、ドフラミンゴが後ろを振り向くと、ついさっきまで一緒だった筈の麦わら帽子が目に入らない。
    土偶のような顔で一味を振り返ったドフラミンゴは、パチ、と額を一度撫でた。
    「……すまん。逸れた」
    「イヤ、ウン、いつもルフィを任せてごめんね」
    「お前のせいじゃねェから、そんな顔すんな。ドフラミンゴ」

    「お!!いたいた!!皆ぁああ!!」

    「ホラ見ろ、噂をすれば、だ」
    ナミとサンジに慰められながら、ドフラミンゴが席に着いた瞬間、後ろの方で懐かしい大声が響く。
    人混みを押し分けながら、相変わらずの上機嫌で現れた"船長"は、既に何かをモグモグしながらドフラミンゴのコートにしがみついた。
    「何でテメェはすぐに逸れるんだ!麦わら!」
    「ん?逸れた………?逸れた?」
    「アー、ハイハイ。そうだな。逸れたのはおれだな」
    麦わら帽子の下で、キョトンと瞳を丸くしたルフィに、諦めとも、呆れともつかない顔で言ったドフラミンゴは、既に温くなっている酒瓶を取る。
    随分と湿気の多い島だ。ジワリと湧き出る汗に、ドフラミンゴは辟易とため息を吐いた。

    「……こんばんは。麦わらの一味の皆さん」

    「「「「……あ?」」」」

    唐突に、一味が屯するテーブルに近寄ってきたのは、見知らぬ女。
    あまり派手ではない、透ける程肌の白い女は、臆する事も無くドフラミンゴ達に笑顔を向けた。
    「この島の夜市と、風俗街を仕切っている者です。"麦わら"のルフィさん。有名な海賊の方には特別なおもてなしをしています。どうぞ、わたしの経営する"ホテル"で過ごして頂けませんか」
    「おー?おう!いいぞ!」
    「ちょっと待て!怪しすぎるでしょーが!海賊がもてなされる訳無いでしょ!!」
    「え?!あ!!それもそうだな!やっぱだめだ!」
    あまりにも素直な反応を示すルフィに、控えめに笑った女は、訝しげな面子を見回す。
    ドフラミンゴもその心中を探るように、サングラスの奥で瞳を細めた。
    「この島には海兵や、敵対組織の出入りもあるんです。無用なトラブルを避ける為に、こうして分かる範囲で誘導をしています。貴方達は……あまりにも有名過ぎる」
    「アー、まー、そりゃァそうだな。どうする、ルフィ」
    「そーいうことならその方がいいな!しししし!」
    「ちょ、ちょっと待ってよ!」
    「島の治安維持にご協力頂けるなら、当ホテルで使えるサービス券を差し上げます。宿泊代はタダで結構です。」
    「よし!行くわよー!!」
    「「「「行くのかよ!!!!」」」」
    なんやかんやと言いながら、結局航海士には逆らえない一味がゾロゾロと立ち上がる。
    ドフラミンゴは一度、突然現れた、"怪しすぎる"女に視線を向けた。
    「……フフフフッ、何企んでやがる」
    からかうつもりで発した台詞を、妙に表情の乏しい女が聞いている。
    その薄い唇がゆっくりと、異様に開いた。

    「……この島の繁栄と、平穏です。"ドンキホーテ"・ドフラミンゴさん」

    "そう"とは思えぬその眼球を、ドフラミンゴは一度眺めて、踵を返す。
    そして、背筋を這いずる"嫌な予感"を、瞳を閉じてやり過ごした。

    ######

    「そこでおれは言ってやったのさ……!オイオイゴーストプリンセス、おれの仲間に手を出すな!!」
    「……ウン、まあ、それは大体合ってるな」
    「大体合ってるのか」
    「なはははは!大体合ってる!!!」
    「オイ!酒足りねーぞ!!」
    「あら、可愛い食器。買って帰ろうかしら」

    通された畳の広間を陣取った麦わらの一味は、派手な花柄の刺繍が入ったドレスを身に着けた女達と大騒ぎの宴を繰り広げている。
    "ホテル"とは言うが、横に広い屋敷に、赤い提灯のぶら下がる瓦屋根と、漆塗りの柱が和風に見えて、航海士は"エキゾチック!"と嬉しそうな声を上げていた。
    『一応"娼館"ですが、今日は麦わらの一味の貸し切りです。好きにお過ごしください』
    そう言って消えた得体の知れない女の台詞通り、好き勝手騒ぐ連中を後目に、ドフラミンゴは端の方で先刻"他人の空似"と決めつけた後ろ姿を思い起こす。
    後ろ姿だけなら、ほぼ本人だったが、それはもう既に十年以上前の記憶なのだ。


    「"魔女の住む島"」
    「……あ?」

    突然、没頭していた思考に割り込む、見慣れてしまった頭蓋骨。
    ドフラミンゴの顔を覗き込んでいたブルックの言葉に、思わず間抜けな声を漏らしてしまった。
    「この島には、魔女が住んでいるらしいですよ」
    「あァ?魔女?」
    「この島に通っていると言う常連客から聞きました。わたし達をここへ導いたあの方、"魔女"らしいですよ!ヨホホホ!」

    『あの女は魔女だぜ……!二十年以上この島に通ってるが……初めて見た時から全く見た目が変わらねェ』

    ブルックの言葉に、あの、白い肌の女を脳裏に浮かべたドフラミンゴはひっそりと目を細める。
    それを、サングラス越しに見たのかどうかも分からない、その頭蓋骨の空洞は、ドフラミンゴを向いているだけだ。
    「……何が言いたい」
    「わたしのような白骨に、言いたい事などありませんよ。ただ、貴方は"それ"を、望んでいるように思えたので」
    飽きもせず、未だ"それ"を渇望している。
    ドフラミンゴの頭の片隅に、居座り続ける"不死"への信仰。
    この男が"死なない"事は、この世の神々にとって、最も厭うべき事態だ。
    「……望んじゃいねェよ。ただ、それが……一番"都合が良い"だけだ」
    "死ななければ"、"全て"を取り戻せる。
    体を流れていた筈の、気高い血液。全てを牛耳る事が出来る地位と、自分を傷つけない人間達。
    自分を弾いた"天翔ける竜の蹄"と、"下々民"への報復を、いつまでも夢見ていた。
    「そう、貴方は"望んでいない"のに、どうして"不死"を求めるんです」
    あっという間に溢れた書棚。膨大な背表紙の中に混じる、ある種不穏な文字面。
    それを望む者は多いが、この男からはどこか義務めいた気配しか感じないのだ。
    「フフフフッ……。望むものは手に入らねェが……奪えば掴める。この海の鉄則だろォが」
    視線を盃へ移したドフラミンゴの、"気の毒"の根底を見た気がしたブルックは、開いた口を閉じて、骨だけの指先で酒を注ぐ。
    「……それは、そうかもしれませんね。だとしたら、ただ一つ、覚えていて欲しい事があります」
    二度目の人生を手にした自分より、あらゆる物を見てきたこの男が、"一つ"だけ、知らない"盲点"。
    望みを持たないこの男が、全てを義務で片付けるのなら、本当に"一つ"、教えてやりたい事があった。

    「貴方が不老不死にならずとも、ルフィさんは海賊王になりますよ」

    それを、まるで"望んで"いるように、ドフラミンゴの動きが止まって、そのすぐ後に、いつも通りの笑みを見せる。
    ゆっくりと額を撫でた手のひらの下で歪む口元は、終ぞ、言葉を発しなかった。

    ######

    これは、"夢"か。
    ふわり、ふわりと黒い羽根が舞い、その一枚が、壁に凭れてうつらうつらとする頭に落ちる。
    何かが動く気配と、悪夢の足音から逃れるように、目を開けたドフラミンゴの視界に映る、"似たような"細長い背中。
    あっという間に覚醒した眼球が視線を上げれば、疑う余地無き、"弟"の姿が見える。
    あまりにも、理解し難い現実に、暗い室内で点々と眠るクルー達を避けて、立ち上がったドフラミンゴは去りゆくその背中を追った。

    (……何故)

    生きている筈は無いし、"此処"に化けて出る程、あの男に執着は無い。
    グルグルと巡る疑問符に、ドフラミンゴは衝動的に広間を出た。
    長い長い廊下の先で、常夜灯の大群に照らされたその影は、心許ない炎に照らされゆらゆらと揺らぐ。
    「……"ドフィ"」
    「オイオイ……死人に口はねェ筈だろう。……なァ、"コラソン"」
    平静を、保てない程の酷い目眩。
    "あの時"から寸分違わぬ容姿と声に、この世の物ではない存在を悟った。
    「一体何しに来た。腑抜けたおれを……笑いにでも来たのか」
    「……おれは、ただ、」
    ゆっくりと、見覚えのあるモーションで、ロシナンテの手のひらが懐に入る。
    それを移した眼球の中で、一度、弾けるように明るい光が宿った。
    (……おれに、)
    "牙"を剝く、愚かな"人間"の一人。
    やはり、
    (あの時、)

    「ただ、あの日の"引き金"を、引きに来ただけだ。……ドフィ」
    「フフフフッ……!そうか。あの時、殺しておいて良かったぜ……ロシー」

    いつしか姿を消した、腹の底に巣食う"衝動"が、再び燃え広がるようにその体を蝕んだ。
    自分の足を引く、掴んでは離さない、無数の手のひら。
    それを振り払うには、立ち止まらない事が最適解だと知っていた。
    「……お前は何度でも、このおれに、その銃口を向ける」
    同じ動作で懐から小さな銃を取り出したドフラミンゴは、真っ直ぐに伸ばした腕を弟の額に向ける。

    『そう、貴方は"望んでいない"のに、どうして"不死"を求めるんです』

    (……望む筈がねェだろう)

    この男が望んでいるのは、ずっと前から、たった"一つ"。
    それが細い糸のように、絡んで縺れて、一生、解けない。
    「フフフフッ!……感謝するぜ、ロシー。おれァまだ、腑抜けちゃいねェようだ」
    "まだ"引ける、その引き金に、掛けた指が震えるように動いた瞬間、揺れたのは、"麦わら帽子"だった。
    丸い瞳がドフラミンゴのサングラスを眺めた瞬間、笑うように歪んだその口元に、ドフラミンゴの目眩が酷くなる。

    「馬鹿だなー、ミンゴ。お前もう、殺せねーだろ」

    いつも、そうだ。
    この衝動を食い尽くす、この海きってのイカれ野郎。
    心の隅の"逡巡"を、目敏く見つけて炙り出す、目が潰れる程の"強い光"。
    突然現れたその男は、掴んだ小銃を握り潰し、その瞬間、まるで散るように、足元から消えていく"肉親"。
    消える刹那で歪む口元を確かに捉えたドフラミンゴの大きな背中が揺れた。
    「ハァ……ウゥ……」
    「ミンゴ?!大丈夫か?!」
    胃がひっくり返るような酷い吐き気と、目眩。
    壁に縋り付くように、背中を預けて口元を押さえた。
    (……クソが、)
    このままでは、いつか、"食い尽くされて"しまう、自分の人生全てを賭けた、長い長い報復の道。
    "引けなかった"引き金と、安心したように笑って、消えた、弟の顔に全てが、終わってしまったように思った。

    「ミンゴ、」
    「……お前が、」

    伸びてきた手のひらを払い、柔らかい頬を片手で掴んだドフラミンゴは、麦わら帽子を被った頭を漆塗りの壁に叩きつける。
    脂汗の滲む額を、キョトンと眺めた"麦わら"のルフィは、相変わらず読めない瞳で瞬いた。
    「ハァー、ハァー……お前が、居るからだ」
    長く息を吐いて、吸い込んだ。
    驚くほど静かに、ドフラミンゴを見上げたルフィの腕がゆっくりと伸びる。
    (こいつが……居るから)
    今までの全てが"否定"され、足元が瓦解するのだ。
    「お前と居ると、成りたくねェ生き物に……近付く気がする」
    「……なんだそれ」
    頭を抱えるように、伸びた手のひらが、ドフラミンゴの短髪を撫でる。
    その、得体の知れない人間は、ドフラミンゴのサングラスを勝手に外した。

    「お前の成りたくねーもんがなんなのかは知らねーけどよ、おれは今のミンゴ結構好きだぞ」

    (……だから、)
    何だというのだろうか。
    好かれたいなど思った事は無い筈なのに、明確に、"枷"が嵌る音を耳元で聞いた。
    疑わぬよう、必死に信じてきた道を、あっという間に反故にさせる。
    (……だから、おれは、)
    この男が、嫌いなのだ。
    そう思う心の中とは裏腹に、小さな背中に腕を回して縋り付く。
    ルフィの肩に額を乗せると、不思議と吐き気は収まってしまった。
    ("奴ら"、こうやって、)
    人間に"焦がれた"のか。
    その、根付く心傷が開いて、血を流す。
    失血死するように朦朧と、ドフラミンゴは瞳を閉じるのだった。

    ######

    「大丈夫ですか」

    常夜灯が揺らめく床を、音も無く歩いてきたのは、件の"魔女"。
    床に座り込むドフラミンゴと、その傍らのルフィを訳知り顔で見た。
    「……あァ、問題ねェよ。アー、あんた、個室があると言っていたな。一部屋使うぞ」
    「他の皆様はどうしますか」
    「ほっとけ……。この屋敷は、どうやら趣味の悪ィモンが住んでるらしい」
    ぐったりした様相で、やっと立ち上がったドフラミンゴは、どこまでも涼しげな女を見ずに言う。
    その時、女の瞳が一度、妖しく光を含んだような気がした。

    「安心してください。貴方が、殺した"弟"は、私が能力で作り出した"偶像"です」
    「……あ?」

    理解し難い台詞を聞いて、ドフラミンゴの口が間抜けな音を出す。
    人形のように表情の乏しいその女は、薄い唇に笑みを貼り付け、ゆっくりとドフラミンゴを見上げた。
    「他人に任意の幻覚を見せる……悪魔の実の能力です。"偉大なる航路"では珍しくもない」
    「……」
    真意の掴めぬ女の言葉に、ドフラミンゴは何も言わない。
    つまらなそうにドフラミンゴの横に立つルフィは、殆ど話を聞いていないようだった。
    それを、知ってか、知らずか、女は話すのを止めない。

    「ドンキホーテ・ドフラミンゴさん、貴方に、頼みがあります」

    浮世離れしたその風体で、まるで、人間の真似事をするかのように言った女は、得体の知れない瞳で瞬いた。
    ズルズルと、足元を這いずる"嫌な予感"と、血の匂い。
    その女の背後に見える黒い何かは果たして、幻覚や妄想の類だろうか。
    「こんな悪趣味な筋書きでおれを誘き出し……一体何を頼むつもりだ」
    恨み辛みに覚えはあるが、顔も知らない女に因縁は無い筈だ。
    ドフラミンゴは努めて冷静に、背中を丸めて女の顔を覗き込む。

    「オペオペの実を、ここへ、持ってきてください」

    滑り出た、予想外の台詞にドフラミンゴとルフィの視線が女に止まった。
    それを、物ともせずに彼女の口はよく回る。

    「わたしは……900年前"不老手術"を受け、不老不死となった人間です」

    ######

    「オペオペの実?!……とら、」
    「余計なことを言うな、馬鹿野郎」
    よく知った悪魔の実の名前に、連想された人物を容易く口にしようとしたルフィの口元を掴んで塞ぐ。
    奇想天外な方向へ向いた展開に、面倒臭そうにため息を吐いた。
    「あんたが不老不死なのは、百歩譲って理解してやるが……それ以外はレッドカードだぜ。その忌々しい話題をおれに振るな。オペオペの実を、おれは持っちゃァいない」
    「そうでしたか。しかし貴方は悪魔の実の流通に詳しい筈。"空白の百年"を知るわたしは、この島から出られない。貴方とは、本当はもっとはやく出会いたかったのですが……この島に籠もりながら情報を掴むのは難しく、何か不快な思いをさせたのなら謝りましょう。ただ、この島で巡り会えたのはほぼ奇跡に近いのです。わたしの気持ちも察しては貰えませんか」
    「口説き文句としては良い線いってるが……そもそも何故、あんたはオペオペの実を手に入れたいんだ」
    がくりと、首を擡げたその女の眼球に、人間の持つ光は見えない。
    世界が消したがる"情報"を持つ、"不死"の存在。
    ドフラミンゴの欲する全てを手にする女は、薄い唇で言葉を紡いだ。
    「"死ぬために"。オペオペの実によってもたらされた永遠の命は……オペオペの実によって終わらせられると思いました。不死であれば……悪魔の実の能力を、二つ持つ事も可能かと」
    その答えに、ある種の落胆を抱いたドフラミンゴの瞳がサングラスの奥で細められ、何となく、眼下の麦わら帽子に視線を移した。
    この男は、一体この話をどこまで理解しているのだろうか。
    「言いたい事はまァ、分かった。だが……何故おれが、あんたにそこまでしてやらなきゃならねェ」
    「御礼に、」
    既に、用意されていたかのようなスムーズさで、滑り出た女の言葉にドフラミンゴは人知れず身構える。
    どうにも、この女には話が通じないような気がしていた。

    「御礼に……オペオペの実を食べたら、貴方に不老手術を施しましょう」

    ######

    「こっちがァアアア!なんと!!なぁあああんとォオオオオ!!!!ソルジャードックシステムだ!!!!!!!」
    「たっ……!!っ……!!お前にしては随分可愛いのが納まってるじゃねェか……!」
    「へへ、女子どもが多いからな!そうだ、アクアリウムも見てくれ、ありゃァ大人の男に似合いの空間だぜ!!」

    深夜の船着き場は未だ消えない街の灯りを受けて、それなりに明るかった。
    サニー号の周りを子どものように走り回るフランキーは、目の前の"恩人"に、自慢の船を嬉しそうに見せて回っていた。
    招待したアクアリウムは、ひっそりと涼しくて、暗い。
    「良い船だ。何より……大事に乗られている」
    「あったりめーよ!!うちの航海士と操舵者は天才級!このおれのスーパー造船技術を詰め込んだサニーをちゃんと活かしてくれるぜ!!」
    冷蔵庫からコーラと、酒瓶を取り出したフランキーはアクアリウムのソファに客人を座らせる。
    そして、自身も座ると瓶ごとコーラを一気に煽った。
    「キッチンも凝ってる。ウチのコックは一流だからな。大砲もそう、保健室も、トレーニングルームも、測量室も、みんな凝ったんだ。ウチのクルーは全員、一流だからよ」
    言ってから、一度、悲しそうに瞳を閉じて、フランキーはゆっくりと立ち上がる。
    突然、降って湧いた"ご褒美"を、いつまでも享受している暇など無いのだ。
    「……まさか、あんたにサニーを見せられるとは思ってなかった。なァ、だって、あんたは……"死んだ"じゃねェか」
    世界と、自分のせいで死んだ"恩人"。
    栄えた街と引き換えに、息を引き取った大切な人。
    フランキーはぐるりと振り返ると、頭に乗せていたサングラスを掛け直した。
    「これが……敵の策略でも、おれァ感謝してるぜ。ただのおれの自己満だが……良い時間だった。じゃァな、おれは、この船を海賊王の船にしなきゃならねェ」
    懐かしい顔で笑うその目元を、一度見て、フランキーはゆっくりと足を踏み出す。
    それを、眺めているであろう優しい人を、もう、振り返りはしなかった。

    「じゃァな、"トムさん"」

    ######

    「オイオイオイオイ!夢の時間は終わりだぜジャリ共!アーンドアダルト組ィ!!!全員いるかァアアア!!」
    「ふふ。うるさいわよ」

    サニー号から戻ったフランキーが、勢い良く襖を開けて、クルー達の眠る広間へ飛び込んだ。
    広間に居たのはロビンだけで、表情とは裏腹な声音で、フランキーに言う。
    「他のはどうした?」
    「さァ?でも皆、ちゃんと戻ってくるわ。貴方みたいにね」
    意味ありげに言ったロビンを深追いせずに、小さな声で"そうだな"と呟いたフランキーの後ろが騒がしくなった。
    バタバタと走ってくる見慣れた顔を、愛しそうに見る。
    「ちょっとォ!この島なんなのよ!!」
    「テメーがフラフラどっか行っちまうから、戻ってくんのが遅くなったじゃねーか!!迷子マリモ!!!!」
    「あんだとぐるぐるまゆげ!!おれは真っ直ぐにここへ向かってただろうが!!」
    「いや、向かえてなかったぞ」
    「ええ、向かえてなかったです」
    「おお、皆無事じゃったか」
    「船番のチョッパーが心配だわ。大丈夫かしら」
    続々と集まるメンバーの中で、心配そうに言ったロビンに、フランキーは"大丈夫だろ"、とだけ返した。
    船の甲板に、ポツンと立って海を眺めていた"船医"は、アクアリウムから出てきたフランキーに言ったのだ。

    『エッエッエッ……。良い夢、見ちまった』

    結局、この手の幻覚にやられる程、囚われている人間はこの船にいない。
    そのまま船番をチョッパーに任せ、フランキーは船を後にしたのだ。
    「死者の集まる島というのは……こういう事だったのね。一体誰の仕業かしら。幻覚みたいなものよね」
    「……ねぇ、ドフィは?」
    「そういやいねーな……大丈夫か。あいつ、こういう類に弱そうじゃねェか」
    「そうかもしれませんねェ。彼は……色々なモノに囚われていますから」
    あまりにも、繊細な割に、自分に強いたシビアなルールの上で生きてきた男。
    恐れるものがある故に、人間を捨て、腹に凶暴を飼っている。
    「ヨォオオオシ!全て分かった!!テメェら!!ドフラミンゴを優しく抱きしめる準備をしろ!!!」
    「いやその前に見つけに行こうぜ」
    「ちょっと!!いつまで"寝てる"のよ!!はやく起きなさいよ!"ルフィ"!!!」
    寝転んだまま、起きる気配を見せない"麦わら帽子"に、ナミのげんこつが落ちる。
    やっと開いた瞳は、ぼんやりと一味を見回し、やがて、"よく寝た!!"と呑気に大きな伸びをするのだった。

    ######

    「駄目だ!トラ男はおれの友達だし、ミンゴが不老不死になるのも気に入らねェ!戻るぞ、ミンゴ!!」
    「おれはもうお前に何も言わん」
    一応話を聞いていたのか、ルフィがドフラミンゴの前に一歩出て、女に言い放つ。
    その眼球が妖しく揺れて、"そうですか"と、小さな声で呟いた。
    「ドフラミンゴさん、貴方は、永遠の命が欲しくはないのでしょうか」
    嫌でも耳に入る、女の台詞に動きが止まる。
    バラバラと、写真が散らばるように、頭の中を駆け巡る、積み上がったゴミの山。汚い水と、憎悪の群衆。

    『天竜人の一家だーッ!!!!』

    『生かして苦しめろ!!!』

    『捨てたものは、戻らない。』

    『若様……貴方こそが、"海賊王"になる男……!!』

    永遠の命があれば、掴めたであろう"力"。
    自分を踏み躙ってきた人間共を、支配する未来。
    "死なない"事は、長い長い報復の夢を、成就させる確実な手段だ。

    『お前の成りたくねーもんがなんなのかは知らねーけどよ、おれは今のミンゴ結構好きだぞ』

    それを、躊躇わせる強固な"枷"。
    絡まる糸を、焼き切る癖に、自分を捕らえる理解できない不思議な男。
    困ったように額を撫でて、それでも笑ったドフラミンゴは、存外しっかりと口を開いた。

    「"今は"、要らねェ。……気分じゃねェんだ」
    「そうですか、それは……、」

    女の瞳が激しく揺れて、その腕がゆらりと上がる。

    「それは、残念です」

    その背後に現れた、大きな槍が五本、ルフィとドフラミンゴに向いて飛んだ。
    幻覚か、と思った刹那、ドフラミンゴの見聞色に不穏な光が掛かる。
    ルフィの襟首を掴んで横に転がった瞬間、偶像の槍に隠れた弾丸が壁を貫いた。
    「この島は全て、わたしの幻覚。能力を酷使し続ければ、普通は命に関わりますが、わたしには削れる"寿命"がない。もはや貴方達に、夢と現実の区別は、」
    女の台詞も待たず、振り切った指先から飛んだ糸が女の腕を切り落とす。
    一瞬後、その断面から文字通り生えた腕に、ドフラミンゴは思い切り口角を下げた。
    「馬鹿だなー、ミンゴ。不老不死って言ってたじゃねーか」
    「うるせェな。ちょっとどんなもんか気になっただけだ。分が悪ィ、一旦引くぞ。奴らと合流する」
    「無駄ですよ。この島に入った人間は、"二種類"の幻覚を見る。わたしが見せている"歓楽街"と、"強く望むもの"。彼らは今、幸せな時間を過ごしています」
    いちいち、気に触る女だ。
    自分の前には"現れない"、強く望む"誰か"。
    それが、誰なのかも、ドフラミンゴには分からないのだ。
    それこそが、自分と、あの、眩しい人間達を分ける"境"。
    「そりゃァ、残念だ。おれが、幸せな夢を見ることは無いらしい」
    苦し紛れに低く呟いて、ドフラミンゴはルフィの襟首を再び掴んだ。
    煙の上がる小銃を構えた女と、一度、視線がぶつかり火花を散らす。
    「オイ!離せミンゴ!!おれがあいつぶっ飛ばせば済むじゃねーか!!……お?メシだ!!ミンゴ!肉がたくさんあるぞ!!!!」
    「相性が最悪過ぎる!!!幻覚だ馬鹿野郎!!お前……この馬鹿!!」
    「ミンゴ……お前、なんか頭悪くなったか?」
    「どう考えてもお前のせいじゃねェか!!」
    埒が明かないと、ドフラミンゴの指先から飛んだ糸が、女の体を引き裂いた。
    時間稼ぎに過ぎないその攻撃を見届けもせず、ドフラミンゴはルフィを担いでグルリと踵を返す。

    「……安心してください」

    散らばった内蔵が、ズルズルと女の腹に戻り、床に落ちた首は愉快そうに薄く笑った。
    肩越しに振り返ったドフラミンゴは、再生していく体を忌々し気に見る。

    「貴方もちゃんと、"見ています"。……強く"望む"誰かを」

    ######

    「お?オオ!!!居たぞ!!!ミンゴだ!!!」
    「あァ?!フフフフッ……!なんだ、無事か」
    「ヨォオオオシ!!野郎共ォオオオオ!!"フォーメーションA"だ!!」
    「あ?」
    「フォーメーションAの"A"は"あたたかい抱擁"の"A"だ!!」
    「ぐううう、おれはレディしか抱きたくないいい……」
    「オイ黒足、血の涙流すくらい嫌ならやめろ。おれも死ぬほど嫌なんだ」
    「ヨシヨシ、辛いことは無かったか?スーパーダイジョウブだ!!!!」
    「テメェが一番不快だ、鉄屑野郎」

    長い廊下を駆け抜ける、ドフラミンゴの向かいから現れた喧しい集団は、何故かドフラミンゴに次々と抱き着いてくる。
    土偶のような表情でことの成り行きを見守るジンベエを、"いや、止めろよ"、と言わんばかりに睨み付けた。
    「ウオオオ!ミンゴォオオオオ!!!久しぶりだなー!なははははは!行くぞ!!フォーメーションAだ!!!」
    「……は?」
    そして、クルー達と一緒に現れた麦わらの少年に、ドフラミンゴはポカンと間抜けに口を開ける。
    そして、勢い良く後ろを走っていた筈のルフィを振り返るが、そこには誰も居なかった。

    『貴方もちゃんと、"見ています"。……強く"望む"誰かを』

    ドフラミンゴの眼前に飛び込んで来た満面の笑みを、苦しそうに見たドフラミンゴは、一度、強く瞳を閉じる。
    その手を取れば、成りたくないモノに成り下がる。
    また一つ、"枷"の嵌る音を聞いたドフラミンゴの腕が、考えるよりも先に、自分より小さな体を抱きとめた。

    「お?どうしたミンゴ!なんかあったのか?!」
    「うるせェなァ……もう、疲れた」

    最初は、"そこ"に在ったから。
    その次は、この世界を破壊する駒に、お誂え向きだと思ったから。
    そして、"今"、この船に乗っている、理由は一体、何だ。

    「……もう、どうでもいいぜ。……麦わら」

    ######

    「……仲間と合流したのに、何故、一人で現れたのですか」
    「フフフフッ……。別に、デートに全員で来るこたァねェだろう」

    常夜灯の名を持つ夥しい数の提灯が、あまりにも覚束無い光で街を照らす。
    娼館の屋根の上から見た島は、真夜中にも関わらず、絶えることのない灯りがチラチラと瞬いていた。
    「ウチの船をどこへ隠した?まァ、聞いても教えちゃァくれねェか」
    「わたしの正体が、政府へバレれば事です。それを知っている貴方達を、この島の外へ出す理由がない」
    「アーアー、いちいち言われなくても分かってるよ。だが、なァ、あんたの"敗因"は、"一つ"だ」
    「何を、」
    女が訝しげに顔を顰めた瞬間、どこからともなく"飛んできた"手錠がその細い両手首に掛かる。
    突然、息絶えるように街の灯りが消え、真っ暗な闇の中、ドフラミンゴはサングラスを外した。
    月明かりに照らされた"廃墟街"をその瞳に映して、うんざりとため息を吐く。
    「本当に命中させたのか……信じられねェ男だな」
    消えた幻覚に、思わず呟き、ドフラミンゴは手のひらを前方の女へ向けて開く。
    「態々悪魔の実を食って"弱点"を作ったのが敗因だ。有り余る時間で、それを、反省しろよ」
    ドフラミンゴの指先が、順々に折れ曲がり、それに合わせるように女の足が歩き出した。
    屋根の端まで歩かされたその眼下には、蓋の開いた井戸。
    振り向かせたその顔は、どこかぼんやりとドフラミンゴを見つめていた。

    「じゃァな、不死の"魔女"。残念ながら、声を掛けるのが"遅かった"。もっと早けりゃァ、あんたの誘いに乗ってたぜ」

    ぐらりと傾く女の背中が、屋根の上から消え失せて、ドフラミンゴは人知れず、息を吐く。
    そして、サングラスを掛け直し、港に現れた間抜けな帆船を見下ろした。

    「フフフフッ……!あんたの命運は……"奴"の"気まぐれ"に賭けといてやるよ」

    ######

    『……麦わら屋』
    「トラ男か?!ひっさしぶりだなー!!元気か?!」
    ゆらゆらと揺蕩う海上に、恐ろしく不機嫌な声と、正反対に上機嫌な声が響く。
    その先に居るであろう青年を真似て、フワフワの帽子を被った電伝虫は、苦虫を噛み潰したように言った。
    『何だあの手紙は……!後半の筆跡が明らかにあいつなんだが……!!忌々しいあの男なんだが!!つーか全部お前が書けよ!!流石に噂で聞いてはいたが……せめて隠す努力はしろ!!おれはこの手紙が着いてから、三日三晩寝込んだぞ!!!!』
    「やだ、繊細ね」
    「いや、ロー、すまねェ。一応奴も全部ルフィに書かせようとしたんだが……文章力に限界が……」
    『だろうな!!前半は殆ど何が言いてェのか分からねェ……!』
    バタバタと短い手足を振りながら、大きな声を出す電伝虫は、突然口を噤むと仰々しいため息を吐く。
    『"永久指針"まで付けて……こんな得体の知れない島で不老不死の女を治せと言うのか』
    「いや?お前の好きにしろよ。治せるかも分かんねーし。ミンゴもそう言ってる」
    『ヌォオオオオ!!どっちだ?!奴が望んでいない方はどっちだァアアアア!!!』
    『ちょ、キャプテン落ち着いて』
    『ベポォオオオオ!!キャプテンがごらんしーん!!!アニマルセラピーに入るぞー!!』

    「……何か、悪い事しちゃったわね」
    「まァ、分からんでも無いが……」
    「天夜叉さん、これで良いの?」

    甲板で、ビーチチェアに寝そべっていた大きな男は、顔の上に置いていた本を手に取り、サングラスを掛ける。
    既に電伝虫が眠りについた事を確認すると、喉の奥で押し殺したように笑った。
    「さァな。これで良いかどうかなんざ、おれが決める事じゃァねェだろう」
    「お前、ふろーふしはもう良いのか」
    「良くねェよ。ただ、まァ、気分じゃなかっただけだ」
    「ふーん。まぁ、お前の好きにすりゃいいけどよ」
    眠った電伝虫をそのままに、船首まで走ったルフィは"特等席"へとよじ登る。
    そして、ぐるりと振り返って口を開いた。
    「死なねーってのも、寂しいと思うぞ、おれは」
    "それ"を、考慮に入れず歩いてきた。
    だから、今まで立ち止まる事は無かったのだ。
    ゆっくりと、額を撫でたドフラミンゴは答えずに、再び本を顔に乗せて、その下で口角を上げる。
    ぬるま湯のようなこの緩い地獄では、考え事の時間が有りすぎた。

    いつか、全てを"諦める"。
    そんな、背筋の凍る"予感"を感じて、ドフラミンゴは瞳を閉じた。
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202