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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    新刊DQ本サンプル③
    病気に罹ったグラディウスの治療の為に辿り着いた町で起こる、世界政府絡みのイザコザ
    ⚠モブにしては主張が激しいモブ
    ⚠捏造&捏造
    ⚠CP要素も恋愛要素もありません

    Empty「……あ?」

    みるみるうちに、下がりゆく気温。
    本格的にグランドラインを航海してから、未だ一年と少しだが、流石にこの出鱈目な気候にも驚かなくはなっていた。
    船首の麓で海図と記録指針を見比べ、双眼鏡を覗いていたドフラミンゴは、背後で何かが落ちる音を聞く。
    氷点下八度まで下がった気温に、凍りついた息が白く視界を塞いだ。
    「……おい、グラディウス?」
    いつもより厚着をしたその青年が、冷たい甲板の上に転がっている。
    その手元から離れた魔法瓶が、ゴロゴロと甲板の上を転がり、やがて縁で止まった。
    「グラディウス……!おい……!どうした!」
    転んだだけかと思えたその背中は、一向に起きる気配も無く横たわっている。
    思わず放り出した双眼鏡が、同じく冷たい甲板に転がった。
    「……お前、」
    明らかに高過ぎる体温と、合わない焦点。
    ドフラミンゴは苦しそうに息を吸うグラディウスの口元からマスクを外し、その額に触れた。
    「……あっ、ちィなァ!ジョ……ジョーラ!ジョーラ居るか」
    こういう時に、とりあえずジョーラを呼んでしまうのは誰も気付かぬ悪癖。
    ドフラミンゴはグラディウスの体を軽々と抱え、転がった魔法瓶と双眼鏡を糸で手繰り寄せながら、珍しく大きな足音を立てて船室へと消えた。

    ******

    「……もう熱が三日も引いていないざます」
    「参ったな……。次の島までどれくらいだ?」
    「もうそろそろ見えてくる筈だが……。医療機関が機能している島かどうかは分からねェ」
    「……若に迷惑を……もう、死にますんで……だ、大丈夫です……」
    「コイツ、まあまあいつも通りだな」
    「いや、テンションが全然違う」
    「そりゃ四十度も熱がありゃァな」
    グラディウスを寝かせたベッドを囲み、口々に言い合うドフラミンゴと大人達は、意識は取り戻したものの、未だ高熱に浮かされているグラディウスを困ったように見下ろした。
    原因は不明。そもそも、この船に医者は居ない。全員が応急処置を心得ているぐらいのものだった。
    「……なんだ、暗く、」
    突然、ドフラミンゴはふと違和感を感じて丸い窓から外を見遣る。
    船の進むスピードに合わせ、どんどん辺りが暗くなるのを感じたのだ。
    「まだ昼間だぞ。オイ、外はどうなっている」
    「若様ー!大変だすやーん!」
    タイミングを見計らったように飛び込んできたバッファローは、訳が分からない様子でドフラミンゴを見る。
    開いた扉から入り込んだ空気は、さっきよりも格段に冷たくなっていた。
    「外!めちゃくちゃ寒いだすやん!しかも……、」
    「落ち着けバッファロー。まずは扉を閉めろ。寒い」
    「いや、寒いってレベルじゃねェぞドフィ!バッファロー、お前、まつげ凍ってんじゃねェか」
    「……マイナス二十度んねー!マイナス二十度だぞォ」
    ジョーラを残し、バタバタと甲板に出たドフラミンゴと幹部達は、一応防寒着は着ていたのにも関わらず、凍えるような冷たい風に慄く。
    昼間の太陽はいつの間にか消え失せて、全く明かりの無い空間が広がっていた。
    「うお……!今度は何だ……」
    ヌマンシアの行く手が、それを阻む何かにぶつかり、ゴトンと重い音の後に大きく揺れる。
    ディアマンテが下を覗き込んでも、真っ暗闇の中では数メートル先も見えなかった。
    「……海面が凍結しているんだ。オイ……!帆を畳め!このまま進めば船底が傷つくかもしれねェ!」
    ランタンを糸で吊り、甲板から海面付近まで下ろしたドフラミンゴが言うと、バタバタと幹部達が走り去る。
    ドフラミンゴは双眼鏡を覗き込むが、月明かりも無いこの真っ暗闇の中では、島があるかどうか、判別は出来なかった。
    「若!浮氷の間を縫って進めるかも知れねェ!記録指針はどの方角を指している?」
    マストで帆を畳んでいたセニョールが、やっと暗闇に慣れてきた目で白く浮かぶ氷と、真っ黒い海の境目を見つけ、甲板のドフラミンゴに言う。
    ドフラミンゴは手首の記録指針と、コンパスを見比べた。
    「南東だ!ガイドを頼む!ピーカ!舵を頼むぞ」
    「ああ!」
    既に、気温はマイナス三十度を超えている。激しく動き続ければ、吸い込んだ空気で肺が凍りつく世界。
    加えて、突然姿を消した太陽の恩恵。
    明らかに、生物はこの地で生存を許されていないかのように思えた。
    (……頼むぜ)
    ゆっくりと進むヌマンシアの上で、ドフラミンゴは切に願う。
    まるで、大きな動物の腹の中にいるようで、この一寸先も見えない闇は憂鬱である。
    ドフラミンゴは掻き立てられる不安を飲み込んで、静か過ぎるその闇夜を見つめていた。

    ******

    「完全に凍りついてるな……この先は進めない」
    「記録指針はまだ先を指しているのか?」
    「ああ……次の島はもっと南東だな」
    「ここに船を残して氷の上を歩いてみるか?イチかバチか、町があるかも知れねェ」
    浮氷の合間を縫いながら、ゆっくりと進んでいたヌマンシアは、とうとう進路を無くし立ち往生を余儀なくされる。
    海は厚い氷の大地に姿を変えて、ドフラミンゴ達の前に広がっていた。
    海図には四つの島が描かれていたが、その境界線は分からない。
    ドフラミンゴ達はありったけのランタンに火を灯し、凍える甲板で海図を覗き込んだ。
    「若!おれが少し見てくるだすやん」
    「……そうだな。あまり船から離れるな。こうも暗いと殆ど視界は無い。方向を見失えば戻れなくなるぞ」
    すっぽりと暗闇に包まれたままなのは相変わらずだが、未だ午後と呼べる時間である。
    明らかに普通とは違う環境の中、バッファローを偵察に行かせるのは危険だが、島にたどり着かない限りはグラディウスの病気を治す手立てもなかった。
    一番大きなランタンをバッファローに預け、ドフラミンゴは渋々送り出す。
    「行ってくるだすやーん」
    「気をつけろよ」
    「任せるだすやん」
    子どもの頃は、あんなに臆病だったバッファローも、グランドラインで一年以上過ごすうちに、大分逞しくなっていた。
    体も倍以上に大きくなり、立派な一人の海賊である。
    ドフラミンゴは少し寂しいような、嬉しいような感慨を抱き、飛び立つその背中を眺めた。
    「すぐ戻るだすやん!」
    グルグルと回転を始めた髪に、ふわりとその体が浮き上がる。
    ドフラミンゴ達に見送られたその巨体は、ゆっくりと暗い闇の中へと飛び立ち、そして、落ちた。

    「「「「何ィイイイイ」」」
    「ぷ、プロ、プロペラが……凍っ……だすやーん!」
    「おいおいマジか!バッファロー!」

    バシャーンと、大きな音を立てて凍った海に落ちたバッファローに、全員が慌てふためき船の縁に齧り付く。
    ドフラミンゴがかろうじて光を上げる、バッファローに付けたランタンの明かりを頼りに糸を投げた。
    「掛かった……!おい、引いてくれ!」
    上手く体に絡まった糸を、ディアマンテ達が必死に引っ張りその巨体を何とか甲板に引き上げる。
    甲板に上げた傍から凍りつくバッファローを、ディアマンテとピーカが担ぎ、とりあえず風呂場へ走った。
    給湯システムに金を掛けておいて良かったと全員が思う。
    「……すまん。迂闊だった」
    「わ……若のせいじゃ、ないだすやん」
    思えば、マイナス三十度の世界に降り立つなど、今が初めての事だった。
    人体への影響も、行動の取り方も知らないのである。
    ドフラミンゴはバッファローに温かいシャワーを掛けながら、思案するように顎を擦った。
    「一度、氷の上に降りてみる。記録指針の指す方へ歩けば、町が見つかるかも知れん」
    「マジかよ、ドフィ。こんなクソ寒い中船で島を探した方が安全だろ」
    「氷に阻まれて後にも引けなくなる方が不味いだろう。船は一旦、さっきの所まで戻すぞ。船の周りが凍りつけば、氷が溶けるまで動けなくなる」
    考え得る限り、最悪なのは機動力を失う事だろう。
    こんなところで立ち往生すれば、見えているのは全員餓死の顛末だ。
    「あとは……、グラディウスをどうするかだ」
    連れて行くか、医者を呼んでくるか。
    どっちにしても、医者がいるかどうかは分からないのである。
    もし船に置いていけば、治療を受けるまでの日数は往復分掛かるが、連れて行くにはこの気候は厳しいだろう。
    (……間違いの無い、選択を)
    それができず、堕ちた男を知っている。
    ドフラミンゴは悩むように、一度、額を撫でるだけだった。

    ******

    「食料は三日分持っていくが、歩き回るのは一日だけだ。一日島を探して、見つからなければ戻る。ピーカ、ジョーラ、ラオG、おれ達が上陸している間に周りの海が凍りそうになったら東に船を進めろ。ここに戻ってきても船が無ければ、おれ達も東へ進む」
    「はい、若様」
    その夜、船室に集まったファミリーはテーブルを囲み広げた海図を見下ろしていた。
    全員持ち得る限りの防寒をしているが、船室の中も兎に角寒い。
    そして、結局太陽は顔を出さぬまま夜になってしまっていた。
    真っ暗な中、点々と揺れるランタンの灯りを頼りにドフラミンゴが海図を指し示す。
    「ワイズマン、イーグル、デッドホース、ノルヴィック……この付近には四つの島が近接して存在している。今船はワイズマンの辺りに停泊している筈だが、どこからが氷でどこからが島なのか分からねェ以上、何とも言えん。だが、記録指針はもっと南東を示しているから、恐らくこの指針が指す島はワイズマンから見て南東にある島……ノルヴィックの筈だ」
    広域を描いた海図では、殆ど島の形くらいしか分からなかったが、ノルヴィックと表記された島の上をドフラミンゴの指が撫でた。
    こうも真っ暗では、目印になる物も見つけられない。
    この海では殆ど使い物にならないコンパスが、割と安定しているのは幸いだった。
    「おれとディアマンテ、セニョールは南東に氷の上を進む。この様子じゃァ、恐らくずっと真っ暗だ。ランタンはこっちが多く持っていくぞ。……あとは、」
    言って、ドフラミンゴはゆっくりと席を立つ。
    船室と男部屋を分ける扉を一度ノックしてから、静かに開けた。
    そして、備え付けのベッドに横たわるグラディウスの頭の横に立つ。
    「グラディウス……お前、動けるか」
    「大丈夫です。何かありましたか」
    「……」
    この状態のクルーに、何か仕事をさせるような男に見えるだろうか。
    見当外れな返答をしたグラディウスに、ドフラミンゴはベッドサイドにしゃがみ込んだ。
    「馬鹿野郎。お前を医者に連れて行く話だ。だがなァ、外は見ての通りずっと真っ暗で、経験した事ねェ程の寒さになっている。海が凍り付いていて、島までの距離も分からねェが、船で進めるのはここまでだ。ここから、お前を担いで医者を探しに行くつもりだが、お前、行けるか」
    その時、逡巡するように揺れた瞳は、相変わらずぼんやりとしている。
    それでも、何か決めたのか、グラディウスはゆっくりと上半身を起こした。
    「……もう大丈夫です。明日からちゃんと仕事します。この島でログが溜められないなら、航路を変える事になるが、永久指針を使って別の島へ行った方が良いでしょう」
    真っ赤な顔で、まるで、物分りのいい大人びた事を言う。
    グラディウスの言った事は最もで、この船には取引先がいる島への永久指針が幾つかあるのだ。
    しかし、持っている永久指針の中で最も近い島でも、ここからは凡そ二週間は掛かる。
    二週間、グラディウスの体が保つのかどうか判断が出来ない為、無理をしてこの極寒の島へ上陸しようとしているのを、この青年はちゃんと、分かっているのだ。
    何度か咳き込んだグラディウスに、ドフラミンゴの肩が怯えるように僅かに揺れる。
    「お前、そんなところで死ぬつもりか」
    「……そんな、大袈裟です。若、おれは、大丈夫だ」
    グラディウスの口から溢れる乾いた咳に、ドフラミンゴの本能は危機を告げるのだ。
    (……大袈裟なもんか)
    だって、そこで、死んだ人を知っている。
    汚れたシーツの上で、眠るように死んだ女の顔を、今でもたまに、思い出すのだ。
    そんな、女々しい思考にうんざりとして、ドフラミンゴは一度小さくため息を吐く。
    「おれの、我儘だ。すまんが一日、付き合ってくれ。医者を呼んでこれるかも知れねェが、距離が分からん以上、お前を連れて行った方が効率が良い」
    ベッドの上で、死にゆくあの人を、あの男はただ、見ていただけだった。
    (おれが、納得できる死に方を)
    逃れられないその結末に、望むことはそれだけだ。

    「この上で、死ぬ事だけは許さねェ。いいな」

    ベッドに指を突き立てて、言ったドフラミンゴに、グラディウスはうん、とも、すん、とも言わなかった。

    ******

    「……北の海から偉大なる航路へ進出し、早一年。その間奴は、前半の海に浮かぶ暴力国家を滅ぼし、この海最大の悪魔の実の売買組織でトップに立ちました。数々の未解決事件や事故の裏で、奴にとって都合の良い風が吹き、懸賞金は既に三億超え……。ここで食い止めなければ、やがて奴のシンジケートはこの海を覆い尽くすでしょう」

    この部屋の、空気はいつだって重い。
    海軍本部の会議室に詰め込まれた海兵達は、全員、大佐以上の役付きだ。
    ガタイの良い連中に交じる、准将ヴェルゴは他の海兵達と同じように畳の上で静かに議長の話を聞いている。
    「丁度、奴らの選んだ航路はあの島に通じているという事が分かりました」
    貼り出された海図には、議題の海賊団が通ったとされる航路が点線で記されていた。
    相変わらず、この組織は愚かだ。
    ヴェルゴはその相容れぬ価値観と、節穴とも呼べる眼球に、こっそりとため息を吐く。
    それすら見過ごす連中は、淡々と会議を進めるだけだ。
    「極夜の島……ノルヴィックで、」
    飽くなき均衡崇拝と、肯定される支配の構造。
    悪気があるだけ、自分達の方が可愛げがある。
    (……気を付けろ。ドフィ。お前はもう、この世の均衡の一つだ)
    駆け上がるその背中を思い描き、ヴェルゴはゆっくりと瞳を閉じた。

    「我々は……ドンキホーテ・ドフラミンゴを討つ」

    ******

    「何も見えねェな……。方向は問題ねェのか、若」
    「一応な」
    「グラディウス静か過ぎねェか?オイ、死んだか?」
    「生きてまーす……」
    「ディアマンテ……寝かしといてやれよ」
    「いえ!若を歩かせて自分は眠るなど言語道断!起きてます!」
    「良いから、寝とけ」

    翌日、やはり登らなかった太陽に、辺りは相変わらず真っ暗だった。
    時間の感覚を失いつつあるドフラミンゴ達は、早朝、空き樽を改良して作った橇にグラディウスと必要物資を積み込み氷の上に降りた。
    張っている氷はどうやら相当分厚いようで、足元にあまり不安感は無い。
    「しかし寒いな……グラディウス、大丈夫か」
    「はい!大丈夫です!」
    「ホントの事言えよ。洒落にならん」
    「……寒いです」
    「セニョール、予備の毛布出してやれ」
    「はいよ」
    ひたすら記録指針の指す方向へ、何やかんやと話しながら歩いているが、数メートル先すら見えない暗闇だ。
    地形も分からなければ、そもそも、前に進んでいるのかすらあやふやになりそうである。
    「ったく、太陽はどこ行っちまったんだ……」
    「休暇取ってヴァカンスさ。働き過ぎは良くねェだろう」
    「呑気なもんだ……」
    その時、全員の琴線に触れた、肌を焼くような嫌な予感に一瞬、張り詰めるような沈黙が落ちた。
    押し黙り、視線を横に流したドフラミンゴの眼球に映ったのは、点々と揺れる、小さな光の円。
    (動物か……。距離感が分からん……)
    進行方向を塞ぐように並んだ、青白く光る無数の瞳に、ドフラミンゴがゆっくりとディアマンテを見上げた。
    言いたい事を何となく理解したようで、ディアマンテは同じく緩慢に頷き、セニョールと共に引いていた橇の本体を掴む。
    続く沈黙が、靴底が氷を削る音に掻き消えた刹那。

    「……来たぞ!走れ!」

    目の前に並ぶ光が大きく揺れて、聞いたことの無い唸り声が響いた瞬間、セニョールとディアマンテがグラディウスを乗せた橇を担ぎ上げ、一目散に前方へ走る。
    暗闇を切り裂くように現れたのは、五メートルをゆうに超える白熊だった。
    怒りとも、恐れとも取れる低い咆哮を上げ、ドフラミンゴに牙を剥く。
    (不利過ぎる……!)
    暗闇に氷の足場、更に、糸を掛ける物が見当たらない広大な平地では、地べたを走り回るしか手立てが無いのだ。
    勿論口には出さないが、ドフラミンゴはあまりにも不利な状況に奥歯を噛み締める。
    「……ゥ、」
    「ドフィ!」
    寒さにも、暗さにも、適応できない非力な生き物を嘲笑うかのように、ドフラミンゴの視界の外から鋭い爪が現れた。
    危機感だけが体を動かし、ランタンの光を反射する爪を躱すが逃げ切れ無い。
    ざっくりと胸に走った切り傷と、慣れない氷に足を取られ、ドフラミンゴの体が氷上に転がった。
    「ハァ……ハァ、ハァ、ウゥ……」
    当たり前のように、切り裂かれた胸を縫い始める己の能力。
    ドフラミンゴは自分の吐く白い息が纏わりつくのを、頭を振って払った。

    (……幾つだ)

    見開いた眼球がぐるりと回り、辺りの暗闇を見回した。
    今、殺害すべき生命は、一体、幾つある。
    「ハァ、ハァ、は……」
    いつも、自分でも不思議なのだ。
    何故、こうも、自分の中の凶暴は、怯むことが無いのだろうか。
    倒れたドフラミンゴを伺うように、ゆらゆらと闇の中で揺れる眼球は六個。
    いつでも、すぐに立ち上がれるように、殆ど無意識下で始まる縫合は既に終わっていた。
    あまりにもスムーズ過ぎるその手際に、自ら苦笑する。
    (……結局、)
    眠るのを、許さないのは、他でもない自分自身だ。
    その時ドフラミンゴは、ピリピリと痺れるような感覚を右腕に覚えた。
    そのせいで、僅かに逸れた視線を逃さなかった猛獣が、再び大きな咆哮を上げる。
    我に返ったドフラミンゴの痺れる右手のひらが、意図しない力で分厚い氷を砕いた瞬間、大きな爪を振り上げ立ち上がった猛獣の脇からヒラリと何かが入り込んだ。
    「……ドフィ!不味いぜ!風が強くなってきた」
    「……あ?おわ……!」
    一瞬で、はためく体を元に戻したディアマンテが、手にした剣で白熊の爪を弾き、ドフラミンゴを担ぐ。
    そのままセニョールと橇がある場所まで、一目散に走り出した。
    「この様子じゃブリザードになるぞ!風を防げるところを探さねェと!」
    「この平地でそんなものを見つけるのは無理だ……!あの熊共を撒いたら、雪で風よけを、」
    少し離れたところでゆらゆらと揺れるランタンの灯りを目印に、ドフラミンゴとディアマンテが言い合いながら走る。
    それを遮るように、ドン、ドン、と異様な低い音が響いた。
    「何だ……?何の音だ?」
    「……まさか、」
    後ろで鳴っているように思えたその音を、確かめるために振り返るが、相変わらず数メートル先も見えない暗闇に阻まれ、状況はよく分からない。
    それでも、遠くの方で上下に動く猛獣の瞳に、ドフラミンゴの喉が掠れた声を上げた。
    「若ァアア!大丈夫ですかァアア!」
    「じっとしてろ……具合悪いんだろ」
    「セニョール!走れ……!」
    暗闇の中では距離感が正常に働かない。
    意外と近付いていたセニョールとグラディウスに、ドフラミンゴが怒鳴った。
    「ディアマンテ……!テメェもだ!橇の荷物を能力で運べるか少しでも軽くして、全速力で走れ!」
    「あ?何だよ急に……走るって、どこに、」
    「どこでも良い!兎に角遠くにだ……!あいつら……やりやがった……!」
    鳴り止まない重たい音。揺れる氷。この、全ての生命に牙を剥く島で、餌にありつく強者。
    ドフラミンゴは倫理を持たない捕食者の無慈悲さに、忌々しく舌を打った。
    その間にも、まるで飛び跳ねているかのように揺れる、猛獣共の瞳は健在である。

    「兎に角走れ……!氷が割れるぞ……!」

    その時、足元に走った亀裂が、弾けるように足場を崩す。
    あまりにも大き過ぎる脅威の中で、小さな四人の人影は、声を上げる間もなく、氷に呑まれるのだった。

    ...Continue
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202