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    BORA99_

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    @BORA99_

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    BORA99_

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    ヴェルドフ
    ヴェルゴさんが若様の血を飲みたいお話
    ※架空の病気が出てくるのでご注意ください
    ※捏造に次ぐ捏造&オリジナル世界観
    ※血の表現があります

    VAMPIRE KNIGHT(前編)『すまない……暫く休暇を貰う事になった』

    昨晩、ドフラミンゴが取った電伝虫の受話器の先で、大層歯切れ悪く、相棒はそう言った。
    彼にしては、随分と報告が遅れている、機密情報横流しの件を訊ねるつもりだったドフラミンゴは、その原因とも取れる台詞に、素直に眉を顰めたものだ。

    「……で、休暇てェのは何だ。謹慎か?何やらかしやがった」
    「……」

    今までに無い歯切れの悪さと、隠し立てするようにはぐらかされた事に、痺れを切らしたドフラミンゴが急遽ドレスローザに呼び付けたヴェルゴはいつまで経ってもその顔を見ない。
    その事にも、苛立ちを募らせたドフラミンゴは、憮然とした表情で自室のソファに深く沈み込んだ。
    「……あのなァ、ヴェルゴ。おれも、お前も、遊びじゃァねェんだ。海軍に潜り込んだのはドンキホーテファミリーとしての任務だろうがよ。お前は不都合が起きたらトップにそれを報告する義務がある」
    淡々と、低い声で話しているのは、多少、不貞腐れているからだと分かっている。
    その子供じみた自身の行動も、ドフラミンゴの苛立ちに拍車を掛けていた。
    「……ヴェルゴ、テメェの乗る船の、船長は誰だ」
    「勿論、ドフィだ。遊びじゃ無い事も、報告の義務がある事も分かっている。ただ、」
    相変わらず、歯切れ悪く言葉を止めたヴェルゴに、ドフラミンゴはサングラスの奥で瞳を細める。
    当の本人は困ったように一度、額を撫でてため息を吐いた。
    「何だよ」
    「いや、それが……原因不明なんだ」
    「あ?」
    原因不明。それが意味するところを理解できず、ドフラミンゴが間抜けに声を上げるのを見たヴェルゴは、ひたすら、困ったように額に手のひらを当てている。
    やっと、サングラスの隙間からこちらを覗いたヴェルゴは、ゆっくりと口を開いた。
    「……妙に、喉が乾いて、どうしようも無いんだ。それと、太陽の光が異様に眩しく感じて……昼間とても行動が出来ない。一応部下達に事情を話して暫く休みを貰ったんだが……」
    「オイオイ……どっか悪ィんじゃねェのか。医者には掛かったのか?どうせ掛かってねェんだろう?明日、医者を呼ぶから診て貰えよ」
    予想もしていなかったヴェルゴの台詞に、ドフラミンゴも困ったように顎を擦る。
    体調管理に問題のある男では無いのだ。
    今までにもそう、体調を崩す事も無かった。
    唐突に現れた不穏な気配に、ドフラミンゴは怯えるように、ヴェルゴの瞳を盗み見るのだった。

    ******

    (……参ったな)
    揺れるカーテンの隙間から見える月の光すら、サングラス越しでも眩しい。
    チカチカと明滅を繰り返す瞳をうんざりと閉じ、ヴェルゴは思った。
    代わる代わる現れた医師の診察を受けても、結局不調の原因は分からず仕舞い。
    診察の合間に、物珍しそうに現れる幹部達と一言二言会話をしていたらあっという間に夜になってしまった。
    「ヴェルゴ、大丈夫か」
    ヴェルゴに与えられた部屋の扉がノックと共に開く。
    顔を覗かせたドフラミンゴは、酒瓶とグラスを携えていた。
    「ああ、ドフィ……すまない。気を使わないでくれ。明日には支部に戻るつもりだ」
    「馬鹿野郎、帰らせる訳ねェだろう」
    「しかし、原因が分からない以上治療の術も無い。だったら、任務に戻る方が幾らか楽だ」
    僅かに、不機嫌そうに口角を下げたドフラミンゴは、それを消し去るように笑う。
    そもそも、この男に世話を焼かれているこの状況が、一番の不本意だ。
    「フフフフッ……!お前、あまりにも潔癖過ぎるぞ。少し休んで行けばいいだろうが」
    「……しかし、」
    その時、テーブルの上に置かれたワイングラスに、ドフラミンゴが赤い液体を注いだ、その瞬間。
    ヴェルゴの瞳の中で妙に明滅を繰り返す、弱い光の群れが、唐突に暴力的な強さで主張を始めた。
    「……」
    「ヴェルゴ……?」
    黙り込み、ワイングラスを凝視するヴェルゴを訝しげに呼ぶ、主人の声さえ既に遠い。
    バチ、バチ、と爆ぜるフラッシュのような光で、思考が朦朧としていた。

    (……ああ、喉が、)

    経験した事の無い、気が狂いそうな程の渇き。
    殆ど無意識に、ヴェルゴの無骨な手のひらが伸び、ワインボトルを傾けているドフラミンゴの手首を掴んだ。
    「どうした」
    「ハァー、ハァー、ァア……、」
    意味を成さない嗚咽を、抑えるようにヴェルゴは手のひらで口元を抑える。
    喉が渇いて、渇いて、もう、それ以外何も考えられない。
    追い立てられるように、ローテーブルを挟んで向かい合うドフラミンゴの襟首を掴み、引き寄せた。
    戸惑いか、観察か。抵抗も見せずに近付いたドフラミンゴの首筋に浮き出る血管。
    その下を流れる血液の存在に、ヴェルゴの心臓が痛いくらいに跳ねる。
    (……ああ、きっと、"これ"を、)
    求めていたと、初めて気が付いた。
    この渇きを、鎮める為に必要な液体を、本能が耳元でがなり続けている。
    「ド……ドフィ……、」
    「オイオイ、どうした。大丈夫か……?」
    些か、焦ったように口元を歪めたドフラミンゴの顔を見た瞬間、頭の中を通り過ぎたのは、瓦礫の上に押し上げた、小さな背中だった。

    『ドフィ、うちのボスだ』
    『それは……王の資質を持つ証!!』
    『ドフィ……おれ達は、』

    「ハァ、ハァ……ウゥ……!」

    その足元に跪く幸福を、まるで、捨て去るかのような衝動に、ヴェルゴの瞳が一度、大きく揺れる。
    「ヴェルゴ?おい、こっち見ろ。ヴェルゴ!」
    頭の中の何かが焼き切れるのを咎めるように、ヴェルゴは一度、強く目を瞑った。
    許されないのだ。彼を"求める"事など。
    震える口元は、その信仰を反故にして、ドフラミンゴの太い首元に牙を剥く。

    『おれ達は、お前の全てを肯定する……!』

    「ドフィ……、すまない」

    その時、耳元でがなり続ける本能を捩じ伏せ、僅かに残る理性の総動員を持って、ヴェルゴが噛み付いたのは、結局、自分の腕だった。
    裂けた皮膚から滲む鉄臭い血液が、口内に広がった瞬間、我に返ったヴェルゴは大層情けない顔で、引き寄せていたドフラミンゴの顔を見る。
    ゴクリと、確かに何かを飲み込んだヴェルゴの喉を見つめ、ポカンと口を開いたまま動きを止めたドフラミンゴは、いつまで経っても二の句を継がなかった。

    「……か、鏡は、」
    「う、映った!今朝、髭を剃った」
    「十字架……」
    「怖くない怖くない。多分。」
    「陽の光、」
    「眩しいだけだ!灰にはなってない!」
    「……に、ニンニク」
    「割りと好きだ!!」

    理解し難い現実に直面すると、人の頭は考える事を辞めるものだ。
    それを証明するように、意味を成さない台詞の応酬を繰り返したヴェルゴとドフラミンゴは、一度、黙り込む。

    「シ……シーザーに診てもらうか」
    「……すまん」

    ******

    「シュロロロ!なんだ、"吸血病"じゃねェか!珍しいな!どこで貰ってきやがった!!」
    「「……は?」」
    翌日、足を踏み入れたパンクハザードで、久しぶりに顔を見たシーザー・クラウンは、大層嬉しそうにヴェルゴの血液を採ったり、瞳孔に光を当てたりしながら言った。
    殆どファンタジーなその病名を、ドフラミンゴも、ヴェルゴも聞いた事は無い。
    「ウイルス性の疾患で、抑えられない吸血衝動と、光や匂いなんかの刺激に敏感になる事が主な症状だが……まぁ、一種の脳のバグみたいなモンだ!」
    「何人かの医者に診せたが……全員そんな事ァ言ってなかったぜ」
    「そりゃァ、そうだ。この病気は、世界政府が無いと結論付けた空想上の物だからな」
    「どういうことだ」
    いまいち、シーザーの説明が腑に落ちない。
    ヴェルゴとドフラミンゴは揃ってその男の台詞を待ち、シーザーは尚も面白そうに、青白い顔で笑った。
    「"吸血病"は、"政府"が"無い"と公言した病気だが、それだけの話だ。症例もあれば、治療法も存在する」
    「政府がその存在を隠したってことか」
    「ああ、そうだ。何十年も前に、ある島で血を吸う野犬が発見された。その日からその森の動物、果ては島民にまでその吸血衝動は伝染し、島は死体と血の臭いで溢れ返る大惨事。原因も、治療法も不明な中で、世界政府はウイルスの封じ込め作戦を取りやがった」
    その島で初めて確認されたそのウイルスは、本来、死に至る病では無い。
    それにも関わらず溢れた死体の死因は、全てが失血死だ。
    それを把握したこの世の神々は、人間の倫理と理性を喰らい尽くす、その悪魔的ウイルスを島外へ出さない事を、最優先事項としたのである。
    「封じ込め作戦は無事に成功。島民全員が撃ち殺され、その非人道的対応を隠すために、政府はいけしゃあしゃあと吸血病をヴァンパイアを元ネタとした空想上の病気だと宣言した。以降、その病についての情報は一切表には出ていない」
    得意気に語るシーザーの言葉は理解できた。
    政府連中の隠蔽体質も今に始まったことではない。
    しかし、今、解明されずに終わろうとしている違和感が一つ。

    「……何でお前はそんなに詳しいんだ」

    碌でも無い気配を感じたドフラミンゴが、仰々しく口を開き、それを察しないシーザーは、上機嫌に笑い声を上げた。
    裏社会でありとあらゆる非合法を取り扱うドフラミンゴですら、その病気の存在を知らなかったのにも関わらず、こんな死にかけの島に引き篭もるこの男が、何故それを知り得たのか、見当もつかない。
    「シュロロロ!オイオイ、ジョーカー!分からねェのか?罹った人間は理性と社会性を奪われ、血への渇望のみを原動力に、親だろうが親友だろうが失血死するまで血を吸う事になるんだぜ?!兵器に転用すれば……国すら自滅に追い込めるシロモノ……。阿鼻叫喚を引き起こす地獄の兵器だ!それを政府の馬鹿共が隠しやがるからいけねェのさ!海軍の科学班にいた頃から、おれはずっとその病気を調べていた」
    「つまり、お前……」
    「ああ!先日吸血病発祥の島をとうとう突き止めてな!人間は本当に全員殺されたみたいだが……見ろ!吸血病に罹った蚊を捕まえて来たんだ!このウイルスを兵器にするから、ジョーカー、またグランドライン中に売ってきてくれよ!」
    「「……」」
    嫌な予感も、碌でも無い予感も全てが"当たり"だ。
    嬉しそうに蚊が飛び回る虫かごを見せてきたシーザーを後目に、勢い良く立ち上がったヴェルゴがコートとシャツを脱ぎ捨て、ドフラミンゴがその体を見回す。
    突然男の半裸が目の前に現れたシーザーは、土偶のような顔で二人を見つめた。
    「いや、おれは何を見せられてんだ……」
    「あった!オイ、蚊に刺された跡あるぞ!」
    「……そういうことか」
    ここ最近、パンクハザードに出入りした覚えは勿論ある。
    ヴェルゴが困り果てたように額を撫でた瞬間、覇気を纏ったドフラミンゴの手のひらが、シーザーの首元を掴んだ。
    「向上心があるのは結構だが、そういう危険なモンはキチンと管理しろ……!逃げ出してんじゃねェかコラ。逃げ出しておれの相棒が犠牲になってンじゃねェか。どう落とし前を着けるつもりだ、シーザー」
    「グェエエ……落ち着けジョーカー!治す!治すから!」
    「……そういえば、」
    とても怖い顔でシーザーの首を締めていたドフラミンゴが、ふと呟いたヴェルゴに視線を向け、その手のひらを開く。
    床に落とされたシーザーがおかしな声を上げるのを無視して、ヴェルゴは深刻そうに口元を擦った。
    「伝染するんだろう、このウイルスは……。ドレスローザやG5で罹る人間が出れば、大騒ぎになるぞ」
    最もな懸念にドフラミンゴが再びシーザーを睨み付けると、大袈裟に肩を揺らしたシーザーは、言い訳をするように大きく腕を振った。
    「伝染る事ァ伝染るが……感染した動物や人間の体液が体内に入らねェ限りは伝染らねェ筈だ。ヴェルゴは蚊に刺された時に唾液が体内に入ったんだろうが……他は大丈夫だろう」
    「「……」」
    「……大丈夫だよな?」
    黙り込んだドフラミンゴと、この世の終わりのような顔をしたヴェルゴに、シーザーが恐る恐る声を掛ける。
    「……ドフィ、」
    「今朝は舌入れてねェからセーフだろ」
    「おれは何を見せられてんだ……いや、本当に」
    隠している素振りも無ければ、とやかく言う事でも無かったその関係性を、シーザーはお行儀よく無視し続けていた筈だ。
    それを、唐突に突きつけられて辟易と零す。
    「とにかく……そういう事だ、ヴェルゴ。誰彼構わず噛み付いて血を吸えば、相手にも伝染る可能性が高い。輸血用の血をやるから、それでも飲んでろ」
    「何でテメェ上から目線なんだ。殺すぞ」
    「痛い痛い痛いゴメンゴメンゴメン」
    「ドフィ、落ち着いてくれ」
    再びシーザーの首を締め始めたドフラミンゴを抑えながら、ヴェルゴはやっと判明した不調の理由にため息を吐いた。
    治るのなら、一刻も早く治療し、ドフラミンゴの駒に戻りたいのである。
    「シーザー、治せるのか?」
    「治せるぞ」
    「じゃァとっとと治せ」
    ヴェルゴよりも切羽詰まった樣子のドフラミンゴに詰め寄られ、シーザーはス、と視線を反らした。
    そして、言い辛そうにモゴモゴと口を開く。

    「治すには、吸血病に罹った猿が必要だ」
    「……あ?」

    ******

    「お前なァ……。陽の光、眩しいんだろう。ドレスローザで待っていりゃァいいものを……」
    「おれの問題をお前任せにする訳にはいかないだろう」
    波に合わせて揺れる、ヌマンシアの船長室。
    幹部数名を伴って、向かうはシーザーが発見した、"吸血病"発祥の地。
    海図から既に姿を消した島への道標は、シーザーが寄越した永久指針のみだ。

    『吸血病に罹った猿の体内で作られる抗体が人間には有効なんだ』
    『猿を連れてきて、その吸血病の蚊に食わせれば良いだろうが』
    『猿は吸血病に最も罹りにくい。ここにいる蚊は5匹だけだぞ。5匹分のウイルスを注入しても罹らない可能性が高い。だったら、既に吸血病に罹っている猿を捕獲した方が確実だ』

    半世紀程前に行われた封じ込め作戦も、その生態系を破壊し尽くす事はできなかったようで、件の島では未だ、吸血病に罹った動物達が脈々とその生命とウイルスを現代にまで残しているらしい。
    折角手に入れた吸血病の蚊を、治療に使いたく無いシーザーの口車に乗せられたような気がして、ドフラミンゴは深い溜め息を吐いた。
    「シーザーが輸血用の血液を持たせてくれたし。暫くは誰かに噛み付いたりしなくても済みそうだ」
    「……」
    呑気に言ったヴェルゴにも、溜め息を吐いてドフラミンゴは椅子に掛けたまま、壁に凭れて立つヴェルゴに体を向ける。

    『ドフィ……、すまない』

    あの時見せた、彼の目の色が何時までも頭の中に居座っていた。
    血への渇望と、服従の間で揺れる眼球。
    その奥で、光を上げた獣の本性は、病が齎した物では無いと知っている。

    「ヴェルゴ」

    その名を呼ぶ主の声に、ヴェルゴのこめかみが僅かに震えた。
    それを知ってか、知らずか、ドフラミンゴは笑いながらベッドへ移動する。
    向かい合うように座ったドフラミンゴから目を逸らすのをサングラス越しでも感じ取った。
    「お前、そんな、どこの誰とも知らねェ血で満足か?なァ、ヴェルゴ」
    この男が、ドフラミンゴを求める事は無い。
    その身をドフラミンゴに差し出し続ける事を美徳とし、足元に跪く事へ価値を見出す彼と、永遠、交わらない矢印を向け合って来た。
    「……ドフィ、」
    その腕を弱い力で引けば、まるで、抗えないようにふらりと近付くヴェルゴの眼球が朦朧と揺れる。

    (或いは、)

    病によって瓦解を見せる信仰があるとすれば、或いは。
    (この男は、おれを、)
    求めるのだろうか。

    「良いんだぜ、ヴェルゴ。おれの血を飲んだって。それを、咎めた事ァねェ筈だ」

    人差し指から伸びた細い糸が、自身の手のひらを傷付ける。
    手のひらに溜まり、滴る血液はあまりにも美しい。
    ヴェルゴの瞳が落ち着きなく揺れるその様を、ドフラミンゴは愛おしそうに眺めた。
    「ドフィ……、おれは、」
    ヴェルゴの手のひらがドフラミンゴの肩を掴み、ギシリと骨が軋む音がする。
    溢れる赤い液体から、目が離せないヴェルゴの呼吸の間隔が短くなっていくのを、ドフラミンゴは嬉しそうに見た。
    血塗れの手のひらでヴェルゴの頬を撫でると、その瞳が人間とは思えぬ光を帯びる。
    ドフラミンゴの首を掴んだ無骨な手のひらに力が掛かり、その背中は呆気なくベッドへと倒れた。
    白いシーツに赤い跡が伸び、ヴェルゴの唇がドフラミンゴの肩に触れる。
    たまらずその後頭部へ腕を回したドフラミンゴへ、ヴェルゴはやはり、大層情けない顔を向けた。
    「ハァ、は、ドフィ、すまない……、おれは、」
    「馬鹿野郎……お前一体、何に謝ってんだ」
    ああ、もう少しだ。
    もう少しで、この男はその信仰を反故にする。
    (その劣情を、)
    殺せと、言った事は無かった筈だ。
    ドフラミンゴの肌に、当たるかさついた唇の感触。
    哀しくもそれが、命じずともされた、初めてのキスだ。
    (……あァ、不毛だ)
    ドフラミンゴが無意識に手のひらで目を覆った瞬間、ガバリとヴェルゴが体を離す。
    そう、全てが思い通りに行く筈が無いと、分かっていたドフラミンゴは驚きもしなかった。
    目を覆ったまま黙っていると、覆われた視界の先で乱暴に扉が開き、人の気配が消える。
    出て行くその背中すら見なかったドフラミンゴは、血塗れの手のひらを顔の前で無意味に広げた。
    (……腑抜け野郎が)

    「……オイオイオイオイ、大惨事じゃねェか。ドフィ。なんだ。殴り合いか?ヴェルゴ、すげェ顔してたぞ」

    再び、扉の開く音がして、ドフラミンゴがベッドの上に仰向けに倒れたまま視線を向けると、そこに立っていたのはディアマンテ。
    血塗れのシーツとドフラミンゴを見て、思ってもいない台詞を吐いた。
    「フフフフッ……!おれの血を……飲むかと思ったんだが」
    呆れたように一度息を吐くと、ディアマンテは戸棚から救急箱を取り出し、ベッドの横に椅子を持ってきて座る。
    やっと半身を起こしたドフラミンゴの手のひらへ、雑に消毒液を掛けた。
    「それはお前、飲めと言やァ済む話じゃねェかよ」
    白い包帯を器用に巻きながら言うディアマンテに、ドフラミンゴは何も言わず、ただ笑うだけで誤魔化す。
    それは、そうだ。
    して欲しい事があるのなら、それは、命じれば良いだけなのは分かっている。
    それをできる場所に、立っているのだ。
    (……それを、無意味だと思うのは)
    一体何が、足りないからなのか。
    包帯の端を綺麗にテープで止めたディアマンテは、言葉を選ぶようにこめかみを掻いた。
    ディアマンテを見もしないドフラミンゴは、再び、ベッドに倒れ込む。
    「……何だって、アイツが言うなら渡すのになァ」
    腕で覆われたその瞳は、ディアマンテがどんな顔をしているのかは映さない。
    押し上げた瓦礫の上で、たった独り立つその男の背中を眺め続けているのはディアマンテも同じだ。
    「……それを、おれに言ってもしょうがねェだろ」
    それこそ、分かり切った事を言って、ディアマンテは静かに出て行く。
    唐突に訪れた沈黙に、ドフラミンゴは自分の二の腕を見た。
    まるで、誰かの執着を表すように、指の形で残る痣を撫でる。
    そして、未練がましくその跡に、唇を落とした。

    ******

    「……思うんだけど」

    目的の島は目前。
    うっすらと見えてきたその輪郭を船室から眺めたベビー5は、外から中へと視線を移した。
    ダイニングスペースで到着を待っていたディアマンテ、セニョール、グラディウスは、その視線の先を追う。
    「吸血鬼モノって……もっと、こう、耽美な感じじゃない?」
    ベビー5が煙草の煙を吐き出しながら、ジョッキに入れた輸血用の血液を一気に飲み干すヴェルゴに言った。
    逞しい首元が上下する様に、ディアマンテ達も一様に頷く。
    「……血液っつーか、プロテイン飲んでるように見える」
    「それな」
    「病人とは思えねェ健康的絵面だ」
    「いちごミルクで割ってみたんだが……大分飲みやすくなった」
    「……そうか。良かったな」
    思い詰めたような表情で船室に現れた初代"コラソン"は、病人には到底見えない逞しさで空のジョッキをテーブルに置いた。
    そして、未だチカチカと光が眩しい瞳に、現れた島の影を映す。

    (……はやく治さないと、気が狂いそうだ)

    名もなき誰かの血液で、この渇きは満たされない。
    それに、薄々勘付いていた。
    (……間違いを、起こさないように)
    あの男に、牙を剥く日が来るとは思わなかった。
    ヴェルゴは酷い自己嫌悪に目眩を感じながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
    その瞬間、ダイニングと甲板を繋ぐ扉が開いた。

    「……到着するぞ。上陸の準備に掛かれ」

    全ては、彼の求めるままに。
    ヴェルゴは現れた船長の号令に従い、ゆっくりと、席を立った。




    ----------------------------------------
    これ若様が飲む方だと、「いい子だドフィ。ゆっくり飲んで良いんだぞ。全部、お前のだ」というヨシヨシ吸血パーリナイになって、治らなくて良いんじゃねってなる。
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202