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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ヴェルドフ
    ヴェルゴさんが若様の血を飲みたいお話
    ※架空の病気が出てくるのでご注意ください
    ※捏造に次ぐ捏造&オリジナル世界観
    ※血の表現があります

    VAMPIRE KNIGHT(後編)草木の匂いと、それを運ぶ湿っぽい空気。
    太陽の光を遮る、鬱蒼と茂る大樹の群れ。
    陽の光が届かない森の中は、ひんやりとした空気が立ち込めていた。
    「罠かなんか、持ってくりゃァ良かったかもなァ……ドフィ」
    「悠長に掛かるのを待つのか?冗談だろう。ドレスローザをそう何日も空けてはおけん」
    背の高い木の上を身軽に移動しながら、ドフラミンゴとディアマンテは目当ての動物の姿を探す。
    上陸した"吸血病"発祥の島は、殆どその地形を森に覆われ、シーザーの言葉通り人間の気配を感じなかった。
    「というか、おれ達罹らねーよな。大丈夫だよな」
    「……罹ったらシーザーに治してもらう」
    「ジーザス……」
    上から探索するチームと、下から探索するチーム、見つけた獲物を捕獲するチームに別れ、暫くこの森の中を飛び回っていたが、中々お目当ての動物は現れない。
    装備は網と籠。虫に食われないよう、シーザー特製の虫除けスプレーは持たされていた。
    あまりにも心許ない装備に、ディアマンテは悲しげに言う。
    「……はやく、治してやりてェんだよ。アイツは、自分に厳し過ぎる」
    まるで、鳥のように木々の間を駆けるドフラミンゴの背中を、ディアマンテは見遣る。
    (お前が、それを言うか)
    悪いのは、この男ではない。そうした、自分達だ。
    地面を這いずり回っているところに現れた、類まれなき王の器。
    自分達のちっぽけな人生を支払うだけで、手に入った夢の形。瓦礫の上に押し上げた背中。
    この男に全てを捧げる覚悟をした四人の中で、よりによってあの男が、王に抱くべきではない感情を持ってしまった。
    罹った病が脳のバグだとすれば、あの男は、もっと前から別のバグに苛まれている。
    「ドフィ、」
    「アーアー、分かってる。おれの、我儘だ」
    「違ェな。"アイツ"の、我儘さ」
    木の枝に舞い降りた長い脚が、くるりと踵を返してディアマンテを向いた。
    気の毒とも思わないが、ドフラミンゴも、些か不毛である。
    「お前の我儘なら、そうしろと言やァ済む話だぜ、ドフィ」
    (だから、それを、)
    無意味だと思うこの感情の、名前を教えてくれと言っているのだ。

    「若!居たぞ!東に一キロだ!グラディウスが見つけた!」

    ドフラミンゴが曖昧に笑みを見せた、その時、眼下の地面にセニョールが現れる。
    これ幸いと、東へと飛び立つドフラミンゴの背中を眺めたディアマンテはゆっくりと口を開いた。

    「言ってやれよ。あいつは、"棄てた"方だ」

    全て渡したいと思うその感情の動きを、そう呼ぶのなら、間違いなく彼らは互いに、恋をしている。
    それでも、この二人のベクトルが妙に合わないのは、ヴェルゴ自身がドフラミンゴに全てを捧げ続けるだけで、その逆が無いからだ。
    「おれ達は、お前を見つけて自分の生命に価値がついたと思ったが……あいつは"違う"」
    空中で器用に振り返ったドフラミンゴの瞳が、悲しげに細められるのをサングラス越しに垣間見る。
    その視線に、若干の負い目を滲ませたディアマンテは口を噤んだ。
    (あいつは、自分の生命の価値を棄てた)

    彼の為に死ねる。いつでも、そこに、躊躇を挟まずに。

    大きな背中が、あっという間に飛び去る刹那、ドフラミンゴの口元が笑うように歪んだ。
    そして、よく聞こえない小さな台詞を、ディアマンテは聞き逃す。

    「それを決めるのは……あいつじゃねェだろうが」

    ******

    「……どうする。麻酔もあるが」
    「できるだけ素人判断で余計なモンを入れない方がいいだろう。おれが捕まえる。グラディウス!籠の準備は大丈夫か」
    「いつでも大丈夫です!」
    太い木の幹の影に背の順で並び、前方に聳える大きな木を見上げたドフラミンゴ達は、その枝の上に座り込む、念願の姿を瞳に収めた。
    陽の光が殆ど届かない森の中では、ヴェルゴも問題なく行動できるようで、ドフラミンゴは静かに安堵する。
    「……噛まれないように注意しろ」
    最後に忠告を口にして、気配を消し去ったドフラミンゴが腕を振った。
    僅かに差した光を受けて、細い糸が姿を表すその瞬間、枝の上の猿が自由を奪われ甲高い鳴き声を上げる。
    「掛かった……!グラディ……、」
    喚き散らす猿を手繰り寄せた手元に妙な影が落ち、ドフラミンゴの言葉が萎む。
    弾かれたように見上げた上で、大きな羽音が響いた。
    「……な、」
    頑強そうな鉤爪に、大きく広がる厳かな両翼。
    軽やかに現れた鷲のように見える巨大な鳥が、ドフラミンゴの手繰り寄せる糸の先で猿の首元を掴んだ。

    「「「「何ィイイイ!?!?!」」」」

    規格外に大きな鳥の翼がはためいた瞬間、危機感を覚えたヴェルゴとグラディウスがドフラミンゴの腰に齧りつく。
    強い力で引かれた糸に引き摺られ、ドフラミンゴの靴底が地面に擦れて音を立てた。
    「若が持ってかれる!!!!」
    「ドフィ!一回糸を切れ!!凄い力だ!!」
    「デケェな……焼き鳥何串分だ?」
    「あんまり美味そうには見えねェが……」
    「何だその落ち着き!!!!!」
    一周回って落ち着き払っているディアマンテとセニョールを後目に、ベビー5の細い足が無機質に歪む。
    生白い太腿に、殺しの機能が備わる瞬間、そのふくらはぎが金属特有の輝きを放った。

    「いちいち騒がないで。みっともないじゃない」

    火を吹く89mm口径ががなり声を上げた一瞬後、大きな鳥の頭が弾けて落ちる。
    煙草の煙を吐き出したその女の口元が、強気な台詞を吐き出した。
    「フフフフッ……!良い女になったな、ベビー5」
    「ありがと、若様」
    地面に落ちた鳥の死骸の下敷きになった猿がモゾモゾと蠢き、その羽毛から顔を出す。
    走り寄る人間達など眼中に無いかのように、その短い牙を剥いて、血溜まりに顔を突っ込んだ。
    「……ビンゴだな。紛うことなき吸血病患者だ」
    「とっとと捕まえて戻るぞ」
    ドフラミンゴが地面に転がった籠を手繰り寄せたその時、妙に辺りの空気がざわめくのを感じる。
    足元の血溜まりでその水面が僅かに揺れ、飛沫が跳ねた。
    「……おい、なんか、」
    ドフラミンゴの掠れた声が異様に静かな空間に響く。
    一度、強い風が不穏に枝葉を揺らした瞬間、木々の間から大量の動物が唸り声を上げて飛び出してきた。

    「「「「嘘だろオオオオ?!?!?!」」」」

    血の匂いに引き寄せられたのか、およそ理性の片鱗も見せない猛獣達に、一斉に背中を向けて走り出す。
    木の根が張る悪路を全員揃って一目散に駆け抜けた。
    「どどどどどうする?!ドフィ?!噛まれたら吸血病に罹るぞ!!!」
    「一旦隠れる場所を探せ!!!!」
    「あ、イテ。うわ、切れた」
    「「「「……」」」」
    走る一行の中で、グラディウスが木の枝に手のひらを引っ掛ける。
    僅かに破れた皮膚から流れ出した血に、鳥の死骸を奪い合っていた猛獣達が、示し合わせたようにこちらを向いた。
    「馬鹿!!!お前……ほんと馬鹿!!!」
    「お前もう生贄だ!ホラ行け!!美味しく頂かれろ!!」
    「待て待て待て血の掟を忘れるな!!ベビー5!おれの代わりに行ってくれ!!」
    「……え?!私が必要なの?!分かったわ!!行ってくる!!」
    「「「「行くな馬鹿!!!!!」」」」
    その時、ドフラミンゴは視界の端で動く何かの気配に気付く。
    この場所では死に絶えた筈の"人影"が、こちらに向けて大きく腕を振っていた。

    「……こっちだ!穴に入れ!!」

    太い男の声に導かれ、その先の展開を想像する前に、ドフラミンゴ達はそちらに向かって走り出す。
    声の主が潜るように消えた先は、鉄の扉が埋まる、穴の中。

    「イチかバチかだ!飛び込め!!」

    その正誤を問う前に、ドフラミンゴ達は穴の中に滑り込んだ。

    ******

    「半世紀程前……この島は病気が蔓延し、世界から見放された」

    穴に入り込んだドフラミンゴ達は、殆ど滑り落ちるようにその終着地点へと着地した。
    よく見れば土の壁に金属の梯子が埋め込まれていて、普通はこれを使うのだと悟る。
    踊り場のようなスペースに降り立ったドフラミンゴ達を迎えたのは、見知らぬ大柄な男だった。
    導かれるまま、踊り場の先に伸びる階段を降りているが、未だそれの終わりは見えない。
    ゆらゆらと揺れるランタンの灯りが点在するその通路は、あまりにも浮世離れしているように思えた。
    「……吸血病だろう。政府にこの島は滅ぼされたと聞いたが」
    「いや、"滅ぼされた"訳でも無い。壊滅状態に変わりは無いが……。僅か百名以下にまで減ったこの島の民は、元々あった"地下"に逃げ込んで生き延びたんだ」
    「……」
    明らかに、想定とは別の方向に動き出した状況を整理するように、ドフラミンゴは瞳を細める。
    それが本当ならば、奴ら、バスターコールから逃げ遂せた事になるのだ。
    「地下ってのは何だ。穴を掘ったのか」
    頼りない、ランタンの灯りが唐突に通路の終着点を照らす。
    重たそうな鉄の扉を前に、先導していた男はゆっくりと振り返った。
    「元々、この島は地下都市を持っていたんだ。何千年も前、先祖達は地下で暮らしていた。何故、先祖達が地上へ出てきたのか、理由はまだ分かっていないが……おれ達は再び、地下へ戻ったのさ」
    見た目に違わぬ、重たそうな音がして、少しずつ鉄の扉が開く。
    ドフラミンゴ達の視線の先に、柔らかな光が漏れた瞬間、男は再び振り返り、その両目にドフラミンゴを映した。

    「"無人"のように"見える"島……、」

    不敵とも取れる笑みを見せた男の手のひらの先で扉が開く。
    太陽の光には程遠い、無数のランタンが見えた。

    「"ノーマンズランド"へようこそ。ドンキホーテ・ドフラミンゴ様」

    開かれた扉の先は、ホールのような広場。
    随分と長い事階段を降りていたように思うが、その分高い天井が地下という事を忘れさせるようだ。
    ベンチや時計台、簡素な市場などが立ち並ぶ広場は、地盤を支える石造りの柱が無数に聳えている事を除けば、地上の街と然程変わりはない。
    「驚いたな。地下にこんな都市があるなんざ……」
    「元々あった地下都市をそのまま利用しているんだ。そこまで大掛かりな事はしていないさ」
    「シャッターの先はどうなっている?」
    広場を囲む土の壁に埋め込まれた、1から10の番号が振られた大きなシャッターらしき物を指したドフラミンゴに、男は"ああ"と口を開いた。
    広場を行き交う人々が、時折シャッター横に取り付けられたボタンを押して開閉しているのが見える。
    「1番が国王の住む王宮街への扉、2番は倉庫街、3番が居住街……。全て別の区画へ繋がっているんだ」
    「へェ……」
    雑踏を抜け、"1番"のシャッターの前に立った男は、後ろをゾロゾロとついてくるドンキホーテファミリーを一度、振り返った。
    そして、再びその両目にドフラミンゴを映す。

    「……国王様がお待ちだ。どうぞ、ご案内しましょう」

    ******

    「……本来ならば、王下七武海である君をこの国に入れる事はできない」

    1番のシャッターを潜り、薄暗い通路を抜けた先は一番最初に見た広場のような広い吹き抜けの空間だった。
    その空間に建てられた王宮は小ぶりではあるが、雨や紫外線に晒されない分、新品のように小綺麗である。
    広場から階段を登り、ドフラミンゴはたった一人で王宮内に足を踏み入れた。
    既に宿泊先も用意されているようで、ヴェルゴ達は観光街へと続くシャッターの先に案内されている。
    応接室に通されたドフラミンゴを待っていたのは、この国の王を名乗る、小さな老人だった。
    「その割に……随分な高待遇だな。マズイんじゃねェのか。政府関係者を招き入れるのは」
    そこかしこで揺れるランタンの灯りに、妙に視界が覚束ない。
    一体、今何時なのか、時間の感覚すら危ういのだ。
    「本来ならば、だ。……だが、一つ、頼みたい事がある」
    「……」
    ドフラミンゴはサングラスの下でチラリと後ろに視線を流す。
    窓側に置かれたソファに座る自分の後ろには、兵士らしき人間が二人、微動だにせず立っていた。
    向かいのソファに座る国王の後ろにも、同じく兵士は二人。
    舐められていない事は理解したが、どうにも有無を言わせぬ圧力を感じた。
    「……ところで、君はこの島に何をしに来たんだ。既に海図にも載っていないだろう。どうやって見つけた」
    「……吸血病の調査だ。そういう病気があると小耳に挟んだもんでなァ。航路は……まァ……フフフフッ。企業秘密だ」
    曖昧にはぐらかすドフラミンゴを国王は多少訝しげに見るが、追求する度胸は無いようだ。
    小さく"そうか"と呟くと、皺だらけの手のひらを顎の下で組む。
    「腹の探り合いをする気はねェぞ。要求があるならとっとと言え。金になるなら考えてやらん事もない」
    相手は、世界政府に呆気なく踏み潰された非力な小国。
    主導権を握らせるつもりも無いドフラミンゴは、ぞんざいに言った。

    「要求は……一つ、」

    その瞬間、深い皺の刻まれた口元が裂けるように動く。
    笑っているにしては、あまりにも酷いその顔を眺め、ドフラミンゴは紡がれる台詞を待った。

    「……この国に、武器を売って欲しい」

    存在すら露呈しない、地中深くの敗者の国。"モグラ"の"隣人"。誰の記憶にも無い凄惨な歴史。
    そんな、既に死んだこの島が、殺しの手段を欲する理由は一体、何なのか。
    「……フフフフッ!なんだ、武器なんざ買ってどうする。戦争でも始めるつもりか?」
    冗談のつもりは無い。そもそも、"それ"の使い道などいつだってたった一つなのだ。
    それでも口をついたその台詞の真意は、勝てる算段があるのかどうかである。
    侮るようなドフラミンゴの言葉をどう受け取ったのか、はたまた、聞こえてすらいないのか。理性を感じないその相貌で、老人の唇が不穏に動いた。
    定まらない眼球の奥底に、異様な光が宿る。

    「いいや、違う。始めるのは……革命だ」

    ******

    「観光街っても……外から来る人間は居ないだろう?内部向けか?」
    「ああ、島民はほぼ全員吸血病に罹っているんだ。外にはとても出られない。できるだけ不満が溜まらないよう、娯楽は揃えているんだ」
    ドフラミンゴを国王の元へ送り出した後、ヴェルゴ達は最初に出会った男に連れられて"10番"のシャッターを潜った。
    観光街に続く筈の穴の通路を淡々と進んでいる。
    「……ほぼ全員?治療はしないのか」
    「猿の体内で作られる抗体が有効だと何年か前に判明したが……その薬では再発するんだ。完全に治す薬は未だ無い。……それに、他国と交易が出来ない以上、森の動物達を食糧にするしかないから、治ってもまたそこから感染する」
    「「「「……」」」」
    サラリと告げられた衝撃の事実に、ヴェルゴを始めとした幹部達が思わず顔を見合わせた。
    (治らないってよ。猿で)
    (……残念だ)
    (もう面倒だな……一生おれの血飲んでいいからもう帰ろうぜ)
    (わたしの血もあげるわ)
    (ああ……ありがとう……)
    (ところで若は大丈夫なんだろうな。何かお困りじゃないだろうか……)
    男の背後でヒソヒソと言い合う幹部達は、男が怪訝そうに振り返ったところで態とらしく姿勢を正す。
    わざわざこちらの弱味を晒す必要は無いというドフラミンゴの意見に添い、ヴェルゴが吸血病に感染している事は口外していないのだ。
    「どうかしたかい」
    「……いや。ほぼ全員が吸血病で……国は成り立つのか」
    「国王様の主導で、血の配給があるんだ。国民は献血の義務を負うが、吸血衝動は定期的な血液の摂取である程度は抑えられる。世界政府もこの島の監視は既に打ち切っているから、日が沈めば食糧の確保に地上へ出る事もできるんだ。派手な事をして生存さえ露呈しなければ、何とかやっていける」
    「なんだ。立派に国家として成り立ってるじゃねェか」
    政府の目を掻い潜り、太陽の光を棄てた地下の住人。
    その薄暗い歴史を払拭するかのように整えられた社会システムに、セニョールは素直に零した。
    「……そうだと良いがな」
    その時、男の瞳に僅かに暗い影が落ちるのを、その場の全員が見逃したのは、長い通路がやっと終わり、目の前に鉄の扉が現れたからである。
    先頭を歩いていた男が、ゆっくりと壁に埋め込まれたボタンに手を掛けた。

    「……すまない。"タイミング"が"悪かった"」
    「……あ?」

    男の吐いた理解し難い台詞を、ディアマンテが思わず聞き返した瞬間、男の手のひらが緑色のボタンを叩く。

    「「「「……え」」」」

    喧しいブザーが悲鳴のように響いた一瞬後、ディアマンテ達の足元の床が消えた。
    あっという間に始まる降下は、思考が追いつく前に襲い来る。

    「「「「ハァアアア?!?!?!」」」」

    穴に落とされたその視界は、パタン、と閉じた蓋を最後に暗闇に支配された。

    ******

    「……呆気なく捕まったわ」
    「……油断したな」
    「それな」
    「グゥオオオ……こんな間抜けな体たらく……若になんて言えば……」
    「皆で謝ればきっとドフィは許してくれるさ」

    10番シャッターの手前で、更に下へと落とされたドンキホーテファミリーは、鉄格子の嵌る牢屋の中へ転がり込んだ。
    薄暗い石造りの空間には同じような牢屋が並び、人の気配を僅かに感じる。
    明らかに、"観光街"ではないその様相に、全員、面倒な事になったと溜め息を吐いた。
    「……海楼石でもねェし、鍵探しに行ってくらァ」
    「そうだな。頼むぞ、ディアマンテ。ドフィが心配だ」
    「ウハハハ!あいつがやられるなら、おれ達も敵わねェよ!」
    その時、牢屋の外の暗い通路に忙しない足音が響く。
    嵌る鉄格子の隙間からそちらを覗けば、ヴェルゴ達をこの牢屋の中に落とした張本人の姿が見えた。
    「貴様……!目的は何だ!!若に指一本でも触れてみろ!!末代まで祟るぞ!!!!」
    「いや破裂させろよ。祟る前に」
    「……す、すまない。訳ありなんだ。今日一日で良い。ここに居てくれないか。鍵も渡しておくから、明日、勝手に出てくれて構わない。とにかく、部外者を巻き込みたくないんだ」
    至極、申し訳無さそうに牢屋の前まで来た男は、隙間から小さな鍵を一つ差し入れる。
    理解し難い状況に、幹部達は黙ってそれを見下ろしていた。
    「……何かあるのか」
    「……」
    言い淀むように視線を反らした男は、ゆっくりと手のひらを握る。
    次の台詞を待つように、何も言わない幹部達を、その両目が見回した。
    「……吸血病に効く、薬があるんだ」
    「……何だよ。さっきと話が違うじゃねェか」
    「猿の抗体とは別の手法で、治す薬を作る方法があるようだが……その作り方は国王が隠している」
    「どういう事だ。そんな事をして、何のメリットがある」
    「国王様は吸血病を悪いものだと思っていないんだ」
    困ったような仕草で頬を掻いた男は、その理由を深くは語らない。
    怪訝そうな視線を受け流すように、一度瞳を閉じた。
    「今日、この国の国民で組織された反乱軍はその薬を奪う為に蜂起する。この国は荒れるだろう。巻き込まれたくなかったらここで反乱が終わるのを待っていてくれ」
    「お前は国王側の人間じゃないのか」
    それだけ言って、踵を返した男の背中に、ヴェルゴはゆっくりと口を開く。
    それに、首だけで振り返った男は、同じく緩慢に言葉を紡いだ。

    「……地上に、出たい。太陽の下を、歩きたいんだ」

    他人の感慨へ、共感する器官を持たない悪党達は檻の中でただ、そんなもんか、と思案する。
    焦がれた外の世界が、ただのゴミ溜めだと、果たしてこの男は、いつ、気が付くのだろうか。

    「治るってよ。良かったな」
    「ああ、ありがとう。助かった」
    「それよりも、若は何故国王に呼ばれたんだ……。心配過ぎる。はやく王宮街へ行かねば……」
    走り去る背中を見つめた幹部達は、呑気に言って呆気なく貰った鍵で扉を開ける。
    面倒な時に来てしまったが、好機は好機だ。

    「はやく行こう。これ以上、ドフィの手を煩わせるのは苦痛だ」

    ヴェルゴの台詞に、ディアマンテは人知れず小さく溜め息を吐いた。
    (……ホラ見ろよ、ドフィ)
    合わないベクトルを、正すのは部外者には最早不可能。
    自分達の思想を変えられるのは、結局、あの男だけなのだ。

    ******

    「この国を、病に冒された哀れな国と思う者は多いが……それは少し違う」
    「……」
    時計の針が、時を刻む音が煩い。
    妙に静かな空間に、熱に浮かされたような老人の言葉が響く。
    ドフラミンゴは持ちかけられた武器調達の判断を先送りにし、その言葉を黙って聞いていた。

    「吸血病は……人類の進化だ」

    大義の為に踏み潰される、軽いと判断された生命。
    その生命の保有者達は、こうやって、被害者から加害者へと変わる。
    「社会性と倫理観を失った、情緒も感慨も抱かず人を殺せる紛れもない"人類最強種"。このウイルスは病ではない。この海で生き残る為に不要な物を排除させ、生き残る事ができる強い人間に、進化させているのだ」
    何故、この男は、未だ"人間"と"この世界"に希望を持っているのだろうか。
    人間は愚かで残虐だ。この世界はゴミ捨て場のような、酷い臭いがする。
    地下に潜ったこの国の民は、そんな事も知らずに外の世界に焦がれているのだ。

    「マリージョアへ吸血病の動物達と兵士を送り込み、世界政府に吸血病を蔓延させる」

    「猿の抗体から作られる"不完全"な薬しか持たない奴らは、完治できる薬を持つこの国を無碍にはできない」

    「この国は、世界の実権を握る事になるだろう」

    聞き捨てならない"台詞"は、"二つ"。
    猿の体内で作られる抗体が"不完全"であるという事実と、己の火炎と同じ類の炎を宿す非力な小国。
    「お前達、地上で猿を捕獲しようとしていたな?吸血病に罹ったか。武器を調達してくれるのなら、吸血病を完全に治すことができる薬を優先的に流しても良い」
    その時、ドフラミンゴの後ろに立つ兵士の腕が上がり、その銃口を金色の髪へ向ける。
    薄ら笑いを浮かべた口元で、ドフラミンゴは国王の合わない焦点を眺めた。
    「悩む理由は無いだろう。貴様らは既に、この国に従う他無い筈だ。猿の体内で作られる抗体では、吸血病は完治しない。今後、世界の実権を握る事となるこの国と太いパイプを築いておいて損も無い」
    (ああ、あまりにも、)
    あまりにも愚かだ。
    ドフラミンゴは込み上げる笑い声を喉の奥に留め、顎を撫でる。
    そして、あまりにも凶暴な光を鎮める事もせずに、ゆっくりと口を開いた。

    「交渉決裂の理由は二つだ」

    「亡国の敗者が、このおれと対等に口をきいていやがるこの状況と、おれの駒を横取りしようとしているその傲慢な算段」

    「分不相応すら理解できねェ低脳さで、おれと取引をしようとしている事自体不愉快だ」

    確実に優位だとでも思っていたのか、描いていた道筋から外れたドフラミンゴの台詞に、国王の顔から表情が消える。
    そもそもこんな、地中深くでコソコソと暮らす弱者が、同じ炎を宿す事すら既に害悪だ。
    「……治療薬は、要らないということで良いのか」
    負け惜しみとも取れる掠れた声を絞り出した老人に、ドフラミンゴはとうとう笑い声を上げる。
    その瞬間、窓の外に僅かなざわめきを感じ、ドフラミンゴはゆっくりと足を組んだ。
    「いや。お前が"差し出せ"。それが、"普通"だろうが」
    明確に、脅威と化した大きな男に、ドフラミンゴを囲んだ兵士の指が引き金に掛かる。
    それを、気にも留めないドフラミンゴの口角が異様に吊り上がった。

    「それと、もう一つ」

    『天竜人の一家だァーッ!』
    『生かして苦しめろ……!』

    あの時見た、あの顔が、奴らの本性だと知っている。
    奴らは復讐に因果応報の名を付けて、容易く他人の足元に火を放つのだ。

    「社会性も倫理観も……人間共にゃァハナから備わっちゃァいねェだろう……!」

    向けられたピストルの引き金が引かれる刹那。
    唐突に窓ガラスが割れ、光を受けた小さなガラス片が勢い良く弾けた。

    ******

    「いた!いたいたいたァァアア!!若だ!!」
    「本当か!?どこだ!?」
    「いや、こいつの言う事は信用できねェ。ピンクのふわふわした物を大体一回ドフィと見間違うからな」
    「お前は一度ドフィの事を見つめ直せ、グラディウス」
    「重症過ぎるわ……」
    一方、少し時間を戻した1番ゲートの先。
    王宮前広場に転がり込んだグラディウスは、広場を挟んで見える王宮中央棟、推定三階の窓の中にドフラミンゴの姿を見つけ出した。
    「銃を向ける人間が……四人か。どうする。乗り込むか」
    「……ベビー5」
    双眼鏡を覗くセニョールの言葉を聞いたグラディウスの額に、ビキリと筋が浮かぶ。
    低い声で呼ばれたベビー5は、ため息と共に煙草を地面に吐き捨てた。
    「……何がお望み?」
    「弾が出るなら……何でも良い」
    艶やかな、ベビー5の四肢が妙な歪みを見せた瞬間、その胴体を担いだグラディウスの足元で破裂音が響く。
    破裂の衝撃に乗ったその体が、高く飛び上がった。

    「何でも良いなんて……過信し過ぎよ」

    グラディウスの肩の上で、ベビー5の腕が長い銃身へと変わる。
    慈悲か、侮りか、スコープの付いた狙撃銃を眺めたグラディウスは、終わった上昇と始まる降下に、担いだ銃身を正面に向けた。
    (……あァ、忌々しい)
    誰に、その銃口を向けていると。
    奴ら、それを、理解しているのだろうか。
    スコープを覗くその瞳に、パッと明るい炎が揺らぐ。
    (……その男は、)
    丁度、広場を挟んだその先に、ドフラミンゴの背中を薄らと捉えたその瞬間。
    グラディウスの指先に力がこもる。

    (その男は、この海の王だ)

    「良かったのかしら。大事な話をしていたらどうするのよ」
    「……関係無いな」
    4回引いた引き金と、同じだけ飛ぶ弾丸の軌道。
    遠くでガラスの割れる音が響き渡り、棒切れのように見えていた4つの人影が崩れていく。
    あっという間に人の姿を取り戻したベビー5の苦言を一蹴し、グラディウスは未だ不愉快そうに口を開いた。

    「あの人に……牙を剥く存在を、許すような男になるつもりは無い」

    身軽に着地した視線の先がどうなっているのかは流石に見えない。
    ドフラミンゴの身を案じていると言うよりは、あの男に対して無礼な仕打ちが起きていないかを危惧しているグラディウスは、勢いよくディアマンテ達を振り返った。
    「はやく若の元へ……、」
    「いや、"必要ねェよ"」
    呆れたように肩を竦めたディアマンテの言葉に、グラディウスは"一人"足りない事を悟る。
    その頭の上を猛スピードで駆け抜けたのは、"空"を"蹴る"芸当。

    「"もう行った"。イカツイ王子様がよ」
    「おれ達は反乱軍の方だ。薬の奪取に加勢するぞ」

    小さくなる、その背中を眺めたグラディウスは、"持ってかれた"と思うのだった。

    ******

    「……この海で生き残る為に、倫理と社会性を捨てるんだったか?フフフフッ……!残念ながら、テメェら敗者がこの海を渡り歩くのに必要なのは、たった一つ」

    弾けたガラスが床の上でキラキラと光る。
    外から援護するように放たれた弾丸の発射元など、その狙いを見れば分かる。
    銃声を聞き付けたか、わらわらと湧く兵士らしき人間達が、揃ってソファに座ったままのドフラミンゴに銃口を向けた。
    何の脅威でもない、無数のマスケット銃を眺めたドフラミンゴの背後で空気が揺れる。
    (そうさ……たった、一つだ)
    "生き抜く為に"、ドフラミンゴを担ぎ上げた"四人"。
    下に増える駒と、埋まらない隣の空席。

    『ドフィ……すまない、おれは、』

    一体、奴は、何を後ろめたく思ったのか。

    「おれに……従う事だ」

    その瞬間、割れた窓から中へと転がり込んだ、大きな人影。
    ドフラミンゴが座るソファの前に置かれたローテーブルへ、滑るように乗り上げたのは、あまりにも獰猛な人間だ。
    「……」
    全ての音が息を潜めた緊迫。転がり込んで来たヴェルゴの瞳が、サングラスの奥で赤い光を上げる。
    ローテーブルを蹴って飛んだヴェルゴは、流れるように床に落ちたマスケット銃を拾い上げ振り被った。
    「……う、撃て!!来るぞ!!!」
    瞬きの間に、赤黒い硬化を纏ったヴェルゴの一振りは、怯えた顔で銃口を向けた兵士の鼻っ柱を砕く。
    ソファに深く腰掛けたまま、それを眺めるドフラミンゴの眼前で、叫ぶ間もなく兵士達が地に伏した。
    「こ、国王様……!はやくこっちへ!」
    国王を部屋から出そうと誘導する兵士に、ヴェルゴの眼球がぐるりと向く。
    視線の先へ、足を踏み出した瞬間、ヴェルゴの心臓が痛いくらいに跳ねた。
    「……う、」
    充満する血の臭いに、思考が食われる感覚。
    揺れる視界が真っ赤に染まった。
    (……こんな時に、)
    千切れた緊張の糸に、踏み出した足が着地を誤り血溜まりで滑る。
    膝を付いたヴェルゴの手のひらが血の海に沈んだ。
    (ああ……、喉が、)
    その渇きに抗えない。
    ヴェルゴは血に濡れた手のひらをゆっくりと眼前まで上げた。
    視線の先で老人の小さな背中が扉の外へと消えるのも、既にその瞳には映らない。
    震える手のひらにヴェルゴの口元が近付いた瞬間、その動きは他者の介入でピタリと止まった。

    「ヴェルゴ」

    ああ、嫌だ。
    ざわざわと、胸の内を掻き回す呼び声を、千切れる間際の理性が聞いた。
    (嫌なのは、)
    優先すべきものを塗り替える、己の欲望。
    ヴェルゴの眼前にしゃがみ込んだドフラミンゴは、その瞳を覗き込んでいた。
    「ドフィ……」
    糸が切れたように、自由を取り戻したヴェルゴの手のひらが、ドフラミンゴの腕を掴む。
    「ああ、ドフィ……すまない、おれを……、」

    「おれを……許さないでくれ」

    許されれば、きっと、全て、奪ってしまう。
    この男がそれを、咎めないのも分かっていた。
    それは、ヴェルゴの恐れる唯一の関係。

    相思相愛の齎す"悲劇"は、生命に価値が付く事だ。

    彼の為に死ねる。
    その愛の形を美徳とできない、全ての始まりを否定する情緒を、欲した瞬間からこの男の足元へ跪く事はできないのだ。

    「……馬鹿野郎。とっくに全部、許してる」

    ある種死刑宣告のような残酷さをもって、苦しげに呟いたドフラミンゴの手のひらがその頬を撫でる。
    ふわりと鼻先を擽る彼の匂いに、ヴェルゴのこめかみでゆっくりと千切れていく、張っていた何か。
    暴力的に視界を阻む、明滅を繰り返した光の粒に気を取られた瞬間、ヴェルゴの犬歯がドフラミンゴの手のひらに食い込んだ。
    「……う、」
    皮膚を破り、滲む血液を舐め取る熱い舌に、ドフラミンゴが小さなうめき声を漏らす。
    酷く、獰猛な光を宿したヴェルゴの腕がドフラミンゴの首を引き寄せ、その首筋に噛み付いた。
    「……ふ、……いてェよ。馬鹿」
    「すまない……すまない、ドフィ」
    満たされていく、喉の渇きと独占欲にも見える、後ろ暗い恋。
    食い尽くしたいとさえ思う、加虐性を煽る金色の睫毛。
    収まった喉の渇きに、明瞭な視界を取り戻しても、未だ酩酊したように揺れる二つの眼球。
    追い立てられるようにドフラミンゴの頬を掴んだヴェルゴの顔が、まるで泣き出すように歪んだ。

    「おれは、お前の、駒でいたいんだ」

    言葉とは裏腹に、噛み付くように重なった唇の端から血の交じる唾液が垂れる。
    薄く開いた歯列に捩じ込まれた舌が、いつもの紳士面を捨て、呼吸すら許さない。

    (本当に馬鹿な男だ……お前は、)

    酸欠で霞む視界を細め、ドフラミンゴはゆっくりとその後頭部を撫でた。
    身体の外に作った"心臓"。
    ドフラミンゴの薄く開いた眼球に、鼓動を止めない男が映る。
    その厚い背中に腕を回したドフラミンゴは、諦めたように笑った。

    『一種の脳のバグみたいなモンだ!』

    支配と服従に見出した活路を、棄て去るその感情の動きが既に、ドフラミンゴとヴェルゴの間に起きたバグだ。
    その不具合を、後生大事に抱えたまま、随分時が経ってしまった。
    ヴェルゴの首に縋り付き、その後頭部を抱いたドフラミンゴはゆっくりと、瞳を閉じる。
    「お前はおれの、"心臓"じゃねェか、ヴェルゴ。もう、全部、今更だ。お前の生命に価値はあるし、お前はおれの、駒にはなれねェよ」
    自分で自分の価値を計れぬ、哀れで歪な悪党達は、他人にその尺度を求めてしまう。
    ドフラミンゴはヴェルゴの顎を掴むと、そのサングラスの奥を覗いた。

    「……もう、諦めてくれ。諦めて……全部、見せろ」

    交わる視線を掻き消すように、再びドフラミンゴの唇に噛み付くヴェルゴの眼球が、獰猛な獣のそれを映す。
    総毛立つような冷たい高揚に、ドフラミンゴの喉が強請るように鳴った。
    「ずっと、全部、欲しかったんだ……許してくれ、ドフィ」
    苦しそうに絞り出された低い声が、ドフラミンゴの琴線を揺らす。

    自分の為に死ねる。それを、愛の秤としていたこの男にとって、それは一種の破戒だ。
    今後彼は、ドフラミンゴの為に死ぬことを、他でもないドフラミンゴの為に躊躇する。
    それでも、"無意味"よりかはいくらかマシなのだ。

    「……馬鹿野郎。全部、お前のだ……ヴェルゴ」

    ******

    「何でこのおれがァアアアア……!人の命を救わなきゃならねぇんだァアアアア……!!!!」
    「うるさいわよ。クズ野郎。はやくしなさい」
    「そもそもこんなことになったのは貴様のせいだ。落とし前はつけろよ。若の時間を奪った罪は重い」

    世界の目を掻い潜り、一つの節目を迎えた地下の国。
    "10番"ゲートの先、牢屋街で起きた暴動は、地上への渇望を動力に、血の呪縛を棄て去る大きな反乱へと引火した。
    寝返った国王軍の一部と、吸血病を患う国民で組織された反乱軍は、治療薬を狙うドンキホーテファミリーの横槍を受け、治療薬のレシピ奪取に成功した。
    首を落とされた元国王が、自分の吸血病すら治療していなかった事実に、彼らはその思想の根深さを知る。
    政府の目を掻い潜り、生存を隠し続けなければならないこの島の民は、地下の街に変わらず住み続けるらしいが、吸血病の縛りが無くなった今、外の世界を歩くことも叶うだろう。
    「ウハハハ!そう言うな、グラディウス。良いこともあった」
    「……良いこと?」
    助太刀の御礼として、治療薬のレシピの写しを手に入れたドンキホーテファミリーは、それをパンクハザードに持ち帰り、割りと手荒い交渉の後、シーザーに治療薬の量産をさせたところである。
    川の水に溶かせるよう改良した治療薬をディアマンテ達がノーマンズランドへ持ち込んだのは、ドフラミンゴの気まぐれだ。

    『久しぶりに、良いモンが見れた』

    そう言った王様は、現在、幹部達すら知らない"別荘"で相棒と二人、静かに過ごしている。

    『……まずは、一日くれないか』

    治療薬を投与され、快方に向かっていたヴェルゴが、朝食の席にスーツを着込んで現れたのは、長期休暇終了の二日前だった。
    吸血病と一緒に快方へ向かった、ある種、病とも呼べるあの男の我儘。

    「あの面倒な思い込みを、どうやら奴は、改めたらしい」

    ディアマンテが軽快に笑い声を上げながら、シーザーの作った薬を川に流す。
    この島を巡る川の水に治療薬を撒くのはシーザーのアイディアだった。
    やがて巡る、この川の水は吸血病に罹った動物達を癒やすだろう。
    そうなれば、国民達を脅かす、伝染の経路は断ち切れる筈だ。
    「そういえば。何でヴェルゴさんは今朝スーツ着てたのかしら?病み上がりなのに……何かお仕事?」
    事情を知らないベビー5が煙草の煙を吐き出しながら言った台詞に、ディアマンテは大きな声を上げて笑う。
    三十年あまり、湧いては棄ててきたその欲望の、記念すべき最初の一つとしては随分と控えめだ。

    「馬鹿野郎、デートにゃァ一張羅が定石だろ……!」





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    最近トライガンの新しい奴がやってるので、島の名前がそのままノーマンズランドになりました。
    トライガンはいいぞ!!!
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    recommended works

    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202