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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ゴムドフ乗船if
    ⚠オリジナル設定、世界観過多
    👒🦩コ●トコ回
    ロ💐ンお姉様回でもある。

    ホール・セール・クラブへようこそ!白い靄が晴れゆく早朝。
    眩しい朝日が朝露に濡れた甲板をキラキラと照らす。
    いつもと同じ時間に起き出したニコ・ロビンは、明るい甲板へ顔を出した。

    「あら、相変わらず早起きね。おはよう。"天夜叉さん"」

    船の縁に座る、大きな男の寝癖も、欠伸も見たことは無い。
    その、眠りの気配を持たない彼は、ゆっくりと首を捻りロビンの顔を見る。
    「"敵船"で呑気に寝ちゃァいられねェからなァ」
    本気で言っているとも見えない顔で、口を開いた"居候"ドンキホーテ・ドフラミンゴは、喉に絡むような声音で言った。
    インペルダウンから脱獄した、その稀代の悪党は、この船に乗った理由を、未だ"成り行き"の一言で片付ける。

    「よォ。ご苦労さん。一部くれ」

    その時、小さな影がロビンの頬を通り過ぎ、目敏い男は長い腕を上げた。
    ゆっくりと降下してきた海鳥は、ドフラミンゴの手のひらに新聞を落とす。
    「"敵船"で眠れないのは分かるけど……そろそろアクアリウムで寝るのは止めた方がいいんじゃない?体が休まらないわ。とっても窮屈そう……」
    「オーオー、"悪魔の子"が聞いて呆れるぜ。まるで聖母だ」
    「どうかしら。悪魔かもね」
    呑気に笑ったロビンの足がドフラミンゴの隣で止まり、少し強く吹いた風が美しい黒髪を攫う。
    その、"反逆国家"の"生き残り"は、この世の悲しみなど、何も知らないかのように笑った。

    「貴方がどういうつもりでこの船に乗ったのかは知らないけれど……"彼"は貴方を拒まなかった。それが私の答えになるの」

    それは、カルトじみた熱狂なのか、はたまた、無責任の成れの果てか。
    どちらとも違うような気がして首を捻ったドフラミンゴの足元に、広げた新聞の間からひらりと一枚の紙が落ちた。
    「フフフフッ……!こりゃァ良い!航海士のネーチャンに教えてやれよ。きっと好きだぜ」
    「チラシかしら……?」
    インパクトに重きを置いた、派手な紙切れ。価格に最も目が行くデザイン。その場に有った、最も安い紙に印刷されたようなそれは、"セール"の"チラシ"。

    「このチラシが入ってるってこたァ、次の島は、船乗り達の"生命線"」

    この海の多くを知る男は、貼り付けたような顔で笑いながら口を開いた。
    ロビンは朝日に照らされた水平線に、薄っすらと浮かぶ島の輪郭を見る。

    「"ホール・セール・クラブ"のお出ましだ」

    ******

    「おおー!!スゲーな!!倉庫!!!!!」
    個性の無い、長方形の建物が整然と並ぶ倉庫街。
    広大な港にゆっくりと入ったサニー号の"特等席"で、"船長"麦わらのルフィは嬉しそうに大声を上げた。
    「フフフフッ……!日用品から保存食、武器弾薬の類までこの島で全て揃うぜ。各海から運ばれてくる商品は船乗り達の補給の要だ」
    「商品を保管しながら倉庫で売ってるってわけか……。そりゃ確かに効率的だな」
    「とっても繁盛してますねェ。流石は大海賊時代」
    港を埋め尽くす商船や輸送船の狭間から、何十棟も並ぶ倉庫を見回して、麦わらの一味も感嘆を上げる。
    倉庫街は多くの人が入り乱れ、活気ある空気が読み取れた。
    「陳列も商品管理も要らないもんね……。その分安いのかしら」
    「あァ。まとめ買いが基本だが、その分商品単体で見れば破格だぜ」
    「いーじゃない!しばらく補給しなくても良いように必要な物を揃えましょ!」
    ドフラミンゴの予想通り、嬉しそうに気合いを入れたナミは、早速予算分配の為に家計簿らしきノートを取り出す。
    遠くまで見渡したいのか、ドフラミンゴの肩に掛かるファーコートをよじ登っていたチョッパーを肩車してやりながら、ドフラミンゴは行き交う人々を眺めた。
    「……」
    その時、平和とも見紛うその雰囲気に、水を差すような"嫌な気配"を感じドフラミンゴは瞳を細める。
    雑踏の中で翻る、白いコートの裾を確かに捉え、うんざりと息を吐いた。
    「なぁなぁミンゴ!本はあるのか?!おれ、欲しい本が有るんだ!」
    「フフフフッ……!あァ、書籍だけを集めた倉庫がある。お前好みの医学書も下手な本屋より揃ってるぞ、ドクター」
    「そうなのか!楽しみだなあ!」
    その思考に割り込んだ、頭の上のチョッパーを見上げ、ドフラミンゴは上機嫌に口角を上げる。
    今まで何かと船長のお守りを押し付けられてきたが、今日こそは、勤勉で優秀なトナカイに本でも買ってやろうと思った。
    (……目障りな奴らだ)
    確かに感じた"嫌な予感"を振り払うように、喉の奥に纏わりついた笑い声を飲み込んで、ドフラミンゴは既に消えたその背中から目を逸らさない。
    逃した大罪人が、容易に手を出せない輩の船に乗るなど、"彼ら"にとっては前代未聞の"由々しき事態"だ。
    (まァ、良い。全ては……無意味だ)
    世界最強を謳われた大物が、次々と息を引き取る大波乱。旧世代に喰らいつく"新時代"の脅威。
    ドフラミンゴが薄く開けた瞳の中で、揺れる、麦わら帽子を掻き消すように、金色の睫毛に縁取られた瞼はゆっくりと閉じていった。

    ******

    「うっひょー!楽しそうなところだなァー!」
    「ヘェ……酒が樽ごと買えんのか。悪くねェな」
    「……どうしてこうなる」
    たくさんの人が行き交う倉庫街を前に、嬉しそうな声を上げた青年二人をドフラミンゴは心底具合が悪そうに見る。
    一棟ごとにカテゴリ分けされた倉庫と、自分の役割と目的、趣味嗜好を照らし合わせながら散っていった一味を見送っていたら、いつの間にかドフラミンゴ史上最悪のチームが完成していた。

    『おれ、先に薬見てくるよ。ミンゴ!後で本屋行こうな!』

    そう言って去った心のオアシスに付いていけば良かったと思うが、それは既に後の祭り。
    ドフラミンゴは目の前でキョロキョロとする、ミスター理解不能達をうんざりと眺めた。
    「お!何か美味そうなモンある!!」
    「ちょっと待て麦わらァ!!こんな広いところで逸れたら面倒だろうが!!」
    「ミンゴの言う通りだ。おいルフィ!面倒事はゴメンだぞ」
    「そう言いながらテメェは何故そっちに行くんだ!見えてんじゃねェか!!目的地が!!!!」
    幸先があまりにも悪過ぎる。
    ドフラミンゴは飛び出して行きかけたルフィの体を糸で引き寄せ、何故か倉庫街とは反対の方向に歩き出そうとしていたゾロの襟首を掴んだ。
    「いいか。食料品の倉庫に行きたいなら連れて行ってやる。その代わり、絶対に逸れるなよ」
    「「分かった分かった」」
    「適当な返事はやめろ……!」
    三人で倉庫と倉庫の間に作られた道を進むと、一際賑わいを見せている食料品の倉庫に辿り着いた。
    コンテナで入荷した商品をパレットのまま並べただけの、色気の無い空間に足を踏み入れる。
    「おれもあれ使いたい!!!!!」
    「あ?」
    一様に、巨大なカートを押して歩く客を見たルフィの腕が人混みの合間を縫うように伸びた。
    フリーのカートを掴むと、元の長さに戻る腕に引かれたカートが他人を跳ね除けながら、勢いよくドフラミンゴに突っ込んでくる。

    「麦わらァアアア!!周りをよく見ろ!!!!!」
    「え?なははは!ごめん」

    ******

    「いいか。麦わら。ホール・セール・クラブは海軍本部や世界政府も御用達の補給場だ。あまり派手に動くと面倒な事になる。分かるか?」
    「分かる分かる」
    「適当な返事はやめろ」
    何とかカートを手に入れたルフィは、当たり前のように上段のカゴに乗った。
    ゾロに至ってはいつの間にか下段のカゴに器用に収まり惰眠を貪っている。
    何の疑問もなく、二人を乗せたカートを押すドフラミンゴは、既に、目の前の麦わら帽子に毒されているのだ。
    「大体お前、買いたいモンなんかねェんだろう」
    「おう!おれはブラブラしたいだけだ!」
    「じゃあもっと大人しくしててくれ……」
    「何だそれ?!美味そうだなー!!」
    「聞けよ」
    カラカラと軽い音を立てるカートの上で、配られている試食に顔を輝かせたルフィに、愛想の良い従業員がカップを渡す。
    「試食です〜。お父さんもどうぞ」
    「…………………そう見えるか?」
    「うめェ!!」
    聞き捨てならない台詞にドフラミンゴが心底嫌そうな顔をしている横で、伸びる腕が次々に試食のカップを取っていく。
    呆気に取られる従業員に、伸びた腕をドフラミンゴの手のひらが掴んだ。
    「はずかしいからやめろ。ブチ殺すぞ」
    「美味いぞ!ミンゴも食えよ」
    目の前の少年が、自分の食べ物を人に渡すこと自体、一味からすれば驚きの行動であるが、それを知らないドフラミンゴは呆れたようにため息を吐く。
    こういう時は食べてやる方が良いという、子どもと過ごしていた時の経験則に則って、ドフラミンゴは差し出された試食に食いついた。
    「美味いだろ!!!」
    「……普通」
    大き過ぎる価値観の違いが奇跡的に合致を生み出すその瞬間を、当事者達は気付きもしない。
    要は、毒されているのだ。この、全て壊した"麦わら"の少年に。
    (……いつか)
    いつか、きっと、許してしまう。
    その危機感すら喰い尽くす、全てを奪った仇敵にしてはどうにも眩い謎の生き物。
    ドフラミンゴが僅かに全てを諦めた瞬間、その瞳に入り込む、麦わら帽子の後ろでこちらを見ている"白いコート"の人影が三つ。

    「……」

    目が合ったと思った瞬間、踵を返したその背中に、ドフラミンゴは少しの安堵を感じてしまう。
    輪郭のぼやけた憎悪の類が薄れるのを止めるように、ドフラミンゴはゆっくりと口角を上げた。
    「お!!何だあれ!!おれちょっと見てくる!!」
    察しの悪い麦わら帽子が、カートの上から腕を伸ばして飛び立つ。
    その背中を眺めたドフラミンゴは、それとは反対方向に一歩、足を踏み出した。

    ******

    「あれ?おいゾロー!お前まだ寝てんのかよ。ミンゴは???」
    「あー?シラネ」
    相変わらずカートの下段に収まったまま、眠りこけていたゾロの瞳が緩慢に開く。
    その瞳を覗き込んでいた船長は、どこで手に入れたのか、大量のホットドッグを抱えていた。
    カートを押していた筈のドフラミンゴの姿は見えず、人混みの中にポツリと残されていたカートを、行き交う客は迷惑そうに避けている。
    「たくしょうがねー奴だな!あんなにはぐれんなって言ってたのによ!!」
    「……お前がそれを言うか」
    モグモグと動く頬を眺め、ゾロは欠伸をしてからカートを降りた。
    そして、キョロキョロと辺りを見回すルフィに視線を向ける。
    「もっと都合の良い"船"でも見つけたんじゃねーのか。あいつは別に、仲間になった訳じゃねェんだ。船を降りるのにお前の許可は必要ねェだろ」
    居候の名を借りて、サニー号に乗り込んだあの男は同じ未来を見据えてはいない。
    彼の行く末に大して興味の無いゾロは、呑気に大きな伸びをした。

    「いーや、」

    あっという間に抱えていたホットドッグの最後の一つを飲み込んで、麦わら帽子を被り直したルフィはニィ、と、得体の知れない顔で笑う。
    その顔に、どこか懐かしさを感じたゾロは、そういえば、"自分の時"もそうだったと思った。

    「あいつは、おれの仲間だ」

    ******

    「……久しぶりだなァ、犬共。おれが脱獄して、飼い主は困ってるか?」
    灰色の壁に囲まれた倉庫には、物は何も入っていなかった。
    建て替え予定のその廃倉庫は、人の気配がパタリと消える、島の外れに位置している。
    その入口で、光に背を向けて立ったドフラミンゴの前に、長い影が落ちた。
    「世界的大犯罪者のお前が脱獄すれば……"聖地"以外も多少なりうねる。インペルダウンは大目玉だ」
    その影の先に並ぶは、サイファーポールの0番目。
    "イージス"の名を持つ天竜人の傀儡達は、現れたドフラミンゴを仮面の奥で眺めていた。
    「フフフフッ……!マゼランに代わっておれを連れ戻しに来たってのか」
    仮面越しでも分かる、苦虫を噛み潰したような気配。
    害意の無い呼び出しは、口にした台詞とは別件なのだろう。
    ドフラミンゴの思考通り、"違う"と言った仮面の下は言い淀むように一度口を閉じた。

    「これは、聖地からの任務ではない。我々の"本拠地"世界政府から託された任務だ。……ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

    仰々しい口振りで、再び言葉を紡いだ男の右目は、相変わらず光を放つ。
    その先に続く台詞を、ドフラミンゴは既に分かっていた。
    爆発的に増えた、海賊などという悪辣なミーハー共がのさばるこの海で、世界政府と海軍本部がある程度の権力を持ち続けられた理由の一つ。
    「今後、更に激化するであろう海賊達の覇権争いに、政府が取れる対抗措置は"徹底抗戦"のみ。そうなれば……必要なのは武器だ」
    驚きはしない。そうなるように仕組んだからだ。
    ドフラミンゴというブローカーを無くした正義側は、海楼石製の武器や拘束具をワノ国から調達できない。

    「ドンキホーテ・ドフラミンゴ」

    自ら固めたその地盤に、ドフラミンゴの口角が上がった。
    奴らは結局、
    (このおれを、)
    "聖地"へ戻さなかった事で被る不利益を、今更悔いているのだ。

    「……必要なものがあれば、"国"でも"金"でも用意できる。……再び我々と取引をするつもりはないか」

    その時、脳裏をよぎる"麦わら帽子"と、芝生の甲板。
    否定される生涯と原点。
    奴らは何も、この男を救った訳では無い。
    (ただ、全て、壊しただけだ)
    無意味に上がる口角を、隠すように手のひらで覆う。
    人間に誑かされ、この手で殺めた肉親が二人。
    ずっと、彼らの羨望が理解できないのだ。
    (人間に成りたがれば、不幸になる)
    積み上げた価値観が、グラグラと揺れて崩れる感覚を確かに覚え、ドフラミンゴはサングラスの奥で瞳を閉じる。
    こんな、地獄のような海に、"居たい"場所など無い。

    (全て、壊す)

    その激情に、例外など無いのだ。

    ******

    「ルフィ……!」
    一方、消えたドフラミンゴを探していたルフィとゾロに、駆け寄る細い背中。
    売り場でピンク色のクッションを引っ張り出していたルフィ達は、ロビンの声に同じタイミングで顔を向けた。
    「おおー!ロビン!なあなあミンゴ知らねーか?!」
    「一緒じゃなかったの……?ルフィ、少し気になることが……」
    少しだけ、不安そうな顔で言ったロビンは一度、口を噤んで細い顎を撫でる。
    雑踏の中で"見た"のは、翻る、白い装束。
    そういえば、ドレスローザであの男は、世界政府とも取引をしていた筈だ。

    『"敵船"で呑気に寝ちゃァいられねェからなァ』

    あの男にとって、この船が"敵"ならば、あの白い服の彼らは一体、何だろうか。
    ロビンは長いまつ毛に縁取られた瞳で瞬き、ルフィの顔を見た。
    「……ルフィ、ゾロ。貴方達は天夜叉さんを探してくれる?」
    この海で"悪党"をやるには血も涙もない方がよっぽど楽だと知っている。
    魑魅魍魎が跋扈するこの海で、巧みに生き永らえていた"彼"だって、そんな事は百も承知だろう。
    「ロビンはどうすんだ?」
    「私は少し、気になる事があるからそっちへ。ルフィ、ゾロから目を離しちゃ駄目よ」
    「ガキかおれは……」
    嫌そうに唇を歪めたゾロに一度笑い、ロビンはぐるりと踵を返した。
    (……ただ、)
    数ある海賊船の中から、よりによってこの船を選んだ理由は、きっと、本人の意図しないところにある。

    (貴方も……私と"同じ"なら。……全ては、無意味よ)

    その楽な生き方を、あの麦わら帽子はいとも容易く破壊するのだ。

    ******

    「フフフフッ……!とうとう見境が無くなったなァ……!藤虎が怒り狂うぜ」
    「海軍本部は謂わば……我々の下請けに過ぎない。いち海兵が何を思おうと関係はないのだ」
    まるで、枷が嵌まったように動かない足を誤魔化すように、ドフラミンゴはゆっくりと口を開く。
    壊したいのは、奴らが頂点にのさばるこの海の構造と、人間という愚かな生き物達の平穏。
    その為に、生涯全てを使い誰にも脅かされない筈の地位を掴んだのだ。
    (……奴が、現れるまでは)
    また、裏の権力者に返り咲ける絶好の機会。
    それを、ドフラミンゴは思考の隅で歓迎してはいなかった。
    何となく気分が乗らない、その理由を、拒むように瞳を閉じる。

    「……おれァ今、"休暇中"なんだ。仕事の話は全て断っている」

    手持無沙汰に額を撫でた手のひらの下で、凶暴に光を上げる双眸が開く。
    その答えを、分かっていたように身構えたサイファーポールの姿が一瞬で消えた。

    「……断るようなら、」

    瞬きの間に眼前に現れた男の指先がドフラミンゴの喉笛を捕らえた瞬間、男の腕に絡まる糸がその動きを止める。
    至近距離でぶつかる視線に、ドフラミンゴは笑い声を上げた。
    「断るようなら……インペルダウンへ連れ戻せと命令を受けている」
    「オーオー、色々命令されてて大変だな。同情するぜ」
    ギリギリと張り詰めていた糸と腕の間を見えない刃が通り過ぎ、糸が千切れる反動で、ドフラミンゴの腕が跳ね上がる。
    その開いた胴体に潜り込んだ男の名前は、確か"ゲルニカ"だったかと、ドフラミンゴは呑気に思った。

    「あの"麦わら帽子"は不可解な男だ……。お前も奴に、"喰われたか"」

    男の指先がドフラミンゴの腹を貫く瞬間、言われた台詞にドフラミンゴの顔が苦しそうに歪む。
    (……違う)
    人間に成りたがり、身を滅ぼした男を知っている。
    そんな事を、他でもない自分が望む筈が無いのだ。

    「"六輪咲き"」

    その時、ゲルニカの体に六本の腕が咲き乱れ、その背中がミシミシと不穏な音を立てる。
    振り返った倉庫の入口には、美しい黒髪を揺らす女が立っていた。
    「……ニコ・ロビンか。お前もこいつらに追われる身じゃァねェのか」
    鉄塊で防がれ不発に終わった関節技に、無数の腕が散るように消える。
    距離を取るように後退したドフラミンゴは、隣に歩み寄るロビンを呆れたように見下ろした。
    「仲間のピンチだもの」
    「仲間じゃねェよ」
    「……断って良かったの?いいお話だったのに」
    見上げてくるその大きな瞳を直視はできないドフラミンゴが、視線を前に向ける。
    探るというよりは、からかっているようにも見えたその台詞に、ドフラミンゴは笑い声を上げた。
    「やっぱり"悪魔"だな。底意地の悪ィ聞き方だ」
    「悪魔にだってなるわ。私には……守りたい物がある」
    その、守りたい物の為に、態々一人で此処へ現れたであろうその女に、ドフラミンゴはため息を吐く。
    そして、額を一度撫でてからゆっくりと口を開いた。
    「奴らはおれを裏切った。おれァ裏切り者を許しやしねェのさ」
    「……ふふふ。そういうことにしておくわ」
    用意した言い訳を、消費し続けあの船に乗っている。
    それを見透かすように笑ったロビンの顔に目を瞑り、ドフラミンゴは無意味に首筋を撫でた。
    「……ルフィは、ああ見えて仲間の"本音"や"願望"には敏感なの。居候だと言い張る貴方を……しつこく仲間だと呼ぶ彼は、一体何を感じたのかしら」
    「……知らねェな」
    その時、僅かに揺れる空気を感じ、ドフラミンゴは諦めたように瞳を細める。
    その気配を同じく掴み、身構えたサイファーポールの三人に視線を向けて、やはり、どこか苦しそうに口角を上げた。

    「……"ギア2"」

    ドフラミンゴとロビンの立つ入口の向かい、サイファーポールの背後に位置するシャッターが勢い良く吹き飛び、鮮烈な赤い炎が揺らぐ。
    転がり込んできたその少年は、トレードマークの麦わら帽子を被り直して顔を上げた。

    「悪ィなァ、"イージス"。全ては……無意味だ」

    生涯全てを賭けた計画だけでは飽き足らず、少年は、この激情すらも破壊するつもりなのか。
    ドフラミンゴは瞳に映る麦わら帽子に目眩を感じて、手のひらで視界を覆った。

    「おれが、どこで何をしようと……奴が全部壊しちまう」

    いつか、全て喰われてしまう。
    それすらも、ドフラミンゴの願望だとでも言うかのように、"麦わら"のルフィは、誰かの死に際と同じ顔で笑うのだ。
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    kgkgjyujyu

    INFOマロ返信(03/26)
    ※禪院恵の野薔薇ちゃんについて
    このお話の野薔薇ちゃんは、禪院家の圧により高専には通わず、地元の高校に通っている設定なので、呪術師界隈のどす黒い風習や御三家の存在を知らぬまま、知らない男の嫁になりました。(恵との約束を思い出すのは暫く先です)

    最初の数ヶ月はおそらく死ぬほど暴れたし、離れからの脱走も何度も実行しておりましたが、離れの周りには恵が待機させた式神が野薔薇ちゃんの存在を感知した際に、即座に知らせる為、野薔薇ちゃんが離れから逃げられた試しはないです。
    なので、恵が訪ねてきても口はきかないし、おそらく目も合わせなかったとは思います。
    恵は、自分が愛を与え続けていれば、いずれは伝わるものと、思っている為、まったく動じません。

    ★幽閉〜1年くらいは
    恵に対する愛はない。けれど、野薔薇ちゃんが顔を合わせるのは恵だけなので、次第にどんどん諦めが生まれていきます。ちなみにRのやつは4年後なのでこの段階では身体に触れてすらいない。毎日、任務のない日は顔を見せて一緒に過ごす。最低限の会話もするし、寝る場所は一緒です。時間があるときは必ず野薔薇ちゃんの傍を離れません。


    2回目の春を迎えても、変わらない状況に野薔薇ちゃん 1202