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    BORA99_

    🦩関連の長い小説を上げます
    @BORA99_

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    BORA99_

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    ドフ鰐
    頂上戦争から再生するまでの一週間。
    ⚠永遠に付き合わないドフ鰐
    ⚠鰐→白要素若干あります

    セブン デイズ ヘヴン鉄のフライパンで油が跳ねる音がした。
    卵を二つ、フライパンの上で慎重に割ると綺麗な円形で着地する。
    得意でも好きでも無いが、見様見真似で人並みにできる。
    この男の殆どがそうであるように、料理も結局、やろうと思えばそこそこできるのだ。
    卵が焼けていくのをぼんやりと眺めていると、暖炉の上に置いておいたヤカンが耳障りな音を立てる。
    長い指が波打つように動くと、暖炉の上のヤカンはまるで、御伽話のように浮き上がり、カウンターの鍋敷きの上に収まった。
    それを待っていたかのように、一人でに開く戸棚の中から、コーヒー豆の瓶が落ちてくる。
    大きな手のひらがそれを受け止め背後のカウンターに向くと、目玉焼きのフライパンが付いてきて、ヤカンの隣に収まった。
    コーヒーはあまり飲まないが、この家にはミネラルウォーターと酒類とコーヒーしか無い。
    ガリガリとコーヒー豆を挽きながら、沸き立つ香りは悪く無いと思う。

    「目玉焼き、何かけるんだ」

    視界の端で動く気配を感じ、そちらを見もせずに口を開く。
    それでも問題無いのは、この家には自分と、もう一人しかいないからだ。
    「……塩と、胡椒」
    「フフフフッ……!とことん気が合わねェなァ……!」
    ダイニングテーブルに置きっぱなしにしていたパン切り包丁が、ガタガタと震え、弾かれたように飛んで来る。
    軌道上にある艶やかな黒髪は、包丁が刺さる瞬間、砂が弾けてさらさらと崩れた。
    飛んできた勢いのまま、包丁がまな板に刺さる軽い音が響く。
    「普通に取れ、殺すぞ」
    「怒るなよ。ウチじゃこれが普通だ」
    目玉焼きが焼ける小気味の良い音。コーヒーの香り。
    二人と世界を取り巻く大きなうねりの中にしては、随分と平穏で生ぬるい。
    「ああ、そうだ。……ワニ野郎」
    「……何だ」
    旧時代の大物が死んで、五日。
    それなのに、まだ、時代の最中にいるような気がしていた。

    「おはよう」
    「……死ね」

    ******

    マリンフォードから逃げ仰せて、五日。
    クロコダイルがいくつか保有する、隠れ家のうちの一つ。無人島に建てられたログハウスに潜伏してからも同じだけ時が経った。
    連れてきた部下は使いに出している。
    悠々自適に自堕落な生活を満喫する筈だったのに、土足で上がり込んで来たのは、あの戦争を敵側で戦った男だった。
    「寒ィ島だな。もっと気候の良い所を紹介しようか」
    「文句があるなら出て行け」
    「オーオー、怖い怖い。ずっとご機嫌斜めじゃねェか」
    この島で快晴の空を見た事は無い。
    四六時中、重たい曇天が広がっているが、気温が低くて湿気が少ない。
    多少寒くても暖炉があれば心地よく過ごせるこの島を、クロコダイルは気に入っていた。
    「今日は鍋にしろ」
    「……あ?鍋?」
    朝食の片付けもしないまま、コーヒーを飲みながら雑誌を読んでいたクロコダイルは唐突に言う。
    そして、"鍋特集"と銘打ったページをドフラミンゴの鼻先に突き付けた。
    「お前意外と庶民的だよな」
    「広い知見を持っているのさ。テメェと違ってな」
    つまらなそうに雑誌を放り投げ、葉巻に火を着けると、クロコダイルはゆっくりとドフラミンゴに視線を向ける。
    センスを疑うピンク色のファーコートを脱いできたドフラミンゴは、紫色の羽織を肩に掛けているだけで、随分と寒そうだと思う。
    「マァ、何でも良いが。作り方知らねェぞ」
    「鍋で煮れば良いだけだろ」
    「お前意外とガサツだよな」
    この男が、何故目の前に現れたのかは知らない。
    未だ王下七武海に籍を置くこの男が、クロコダイルの首を取りに来ていたとしてもおかしくは無い。

    「お前、いつまでここに居るつもりだ」

    そうだとしても、どうでも良かった。
    興味が湧かないのだ、この世の全ての動向に。
    一つの時代が死んだ今、この場所に留まることができないのは分かっていたが、思考に靄が掛かって覚束無い。
    (些か、疲れた)
    額に落ちてきた、セットしていない黒髪を無造作に掻き上げて、ナンセンスな台詞を吐くドフラミンゴを眺めた。
    目の前に座り、頬杖を付くその男のサングラスの奥の瞳は相変わらずよく見えない。
    「……」
    ダイニングテーブルを超えて伸びた大きな手のひらが、クロコダイルの後頭部を掴んだ。
    引き寄せられて近付いた視線がぶつかるが、驚く程その情緒は動きを見せない。
    噛み付くようにその唇が重なる刹那、まるで、心配するような視線を寄越したドフラミンゴを見ないように瞳を閉じる。
    (……寒いからだ)
    全てをその気候のせいにして、クロコダイルはこの沈没を享受する。
    浮上するのか、海底の亡霊に成り果てるのか、そんな事は今、重要では無い。
    手首から先の無い腕が、ドフラミンゴの手のひらを撫でる。
    これは、そうだ。どうせ、
    (どうせ、お遊びだ)

    ******

    「……あ?」
    「え?」
    日の傾きかけた夕暮れの中、ダイニングに現れたクロコダイルは、カウンターに並ぶレモンを見て低い声を洩らす。
    大きな鍋を戸棚から取り出していたドフラミンゴは、思わず間抜けに聞き返した。
    「鍋にレモン入れる気か?」
    「塩レモン鍋。美味そうだろ」
    「舐めてんのか糸屑野郎。水炊きにしろ」
    「……横暴過ぎる」
    何もかも合わない価値観。それなのに、一つだけ合致する、愛や恋に関わる認識と位置付け。
    だからきっと、クロコダイルはこの男と、いつまでも続くお遊びに興じていられるのだ。
    「お前、何しに来たんだ」
    クロコダイルの問いかけに、ドフラミンゴは曖昧に笑いその頬に手のひらを伸ばす。
    親指で顔の傷を緩慢に撫でた後、滑るように移動した手のひらが、クロコダイルの顎を掴んだ。
    「それを、」
    サングラスの隙間から覗く瞳を、クロコダイルは見たくないと思う。
    ここへ来た理由を悟られたくないのなら、もっと上手く隠すべきなのだ。
    「それを、教えてやっても良いが……。そうしたら、取り返しが付かなくなる気がするんだよなァ」
    「……そうか。じゃあ、言うな」
    危惧している。この男は、クロコダイルがこの薄ら寒い島で永遠、隠居紛いの生活を続ける事を。
    それを、クロコダイルに勘付かれている時点で、このお遊びは既に、取り返しの付かない事態。
    「おい、」
    何者かで在る事を強要されない、誰もいないお誂え向きの箱庭。
    クロコダイルは左腕をドフラミンゴの首に掛けて引いた。
    カウンターに手を付き、覆いかぶさる大きな男は、不服そうに口角を下げるが、諦めたようにクロコダイルの首筋に顔を埋める。

    『新時代に……おれの乗り込む船はねェ……!』

    『この時代の名が、白ひげだ!』

    (あんな、ガキに、やるくらいなら……おれに、)

    つまらなそうに息を吐いて、あやすようにその黒髪を撫でた手のひらを、クロコダイルは見逃してはいない。
    きっと、この男は、利用される為にここへ来ている。
    それを、理解しようとしないのは、それこそ取り返しの付かない事態を招くからだ。
    「テメェが来ると、話がややこしくなるんだよ」
    「フフフフッ!だから来たんだ。気に入らねェなら、とっととこんな島から出たらどうだ」
    シャツの裾から入り込む手のひらは、いつだって人形のように冷たい。
    クロコダイルはドフラミンゴの口元に噛み付いて、その話題を放棄した。

    ******

    「あー、七武海の招集とでも言っとけ。あァ?もうそれは使った?……じゃァ」
    相変わらず晴れない曇天。
    勝手に上がり込んだログハウスの一室を、これまた勝手に自室としているドフラミンゴは、持ち込んだ電伝虫の受話器を握っていた。
    『カイドウもそろそろ怪しんでるぜ、ドフィ』
    不在の言い訳が尽きた最高幹部達が泣きつくように掛けてきたのは、六日目の朝だった。
    ベッドで自堕落に過ごすうち、そういえば鍋の実施が有耶無耶になってしまったと、ドフラミンゴはぼんやりと思う。
    『大体、いつ戻るつもりなんだ』
    「……」
    ディアマンテの顔を真似た電伝虫を眺め、ドフラミンゴは口を噤んだ。
    自分の仕事も、立場も、そのリミットも把握しているドフラミンゴは、ガリガリと後頭部を掻いて背もたれに深く凭れる。
    「あと……二、三日だ。そういう約束だからな」
    『というかドフィ、お前、どこで何してる』
    どこで、何をしているかなど、それこそ自分が聞きたいくらいだ。
    特に、この家に足を踏み入れてから、どうにも目的の在り処が怪しい。
    「……つまらん男に、」
    『……あ?』
    ディアマンテの怪訝そうな顔を、そのまま真似た電伝虫を困ったように眺めてドフラミンゴは足を組み直す。
    「つまらん男に、成り下がるようならいっそ殺してやろうかと思っていたんだが……。別に、そうでも良いかと思い始めちまった」
    ポカンとした顔を見せた電伝虫は、一瞬の間をあけて大きな声で笑い出した。
    予想外の反応に、今度はドフラミンゴの方が呆けた顔を見せる。
    『何だそりゃァ……!羨ましいねェ……!』
    「……うるせェな」
    言語化すれば、途端に安価となるその情緒をドフラミンゴはうんざりだと思った。
    体の良いお遊びが、取り返しの付かない事態を呼び込む気配。
    対立する理由が無いから殺していないに過ぎない両者の立ち位置が、少しずつ変わるような気がした。
    『だったら、とっとと帰って来いよ、ドフィ。そこに居たってなんの意味も無ェ』
    ディアマンテの台詞に、心底、そうだと思う。
    ドフラミンゴはゆっくり瞳を閉じて、額を撫でた。
    「ああ、そうだな」

    ******

    『つまらん男に、成り下がるようならいっそ殺してやろうかと思っていたんだが……』

    『別に、そうでも良いかと思い始めちまった』

    ああ、聞かなければ良かった。
    廊下で漏れ聞こえたその台詞に、クロコダイルは思う。
    再生を、望まれた方がまだシンプルだったのに。
    (あと……何日だ)
    そして、いまだはっきりとしない頭で必死に、今日が何日だったかを思い起こす。

    あの戦争から、六日。

    明日にでも、使いにやったダズ・ボーネスは戻ってくる。
    そうなるように仕組んだのは、他でもない自分自身だ。
    何者にもならず、何も成さない男になるなど、自分が自分に許す筈が無い。

    『新時代に……おれの乗り込む船はねェ……!』

    自分の為に用意された食事。暖かい暖炉の炎。手の届く体温。
    それを、心地良いなどと錯覚する前に、目を覚ます必要があった。
    「うるせェなァ……分かったよ」
    一度自分の両目を手のひらで覆うと、クロコダイルは低く呟く。
    新時代に、船を用意しなかったあの男は負けたのだ。
    時代と共に心中するつもりも毛頭ない。
    だったら、もう、目を開けるしか手立ては無いのだ。

    (……言われなくても、分かっている)

    ******

    「おい、直箸やめろ。菜箸使え」
    「あ?面倒臭ェ男だな。煮沸消毒されてるから変わんねェよ」
    グツグツと煮える鍋の音と、出汁の香り。
    移動式のコンロがある程、このログハウスの設備は整っていない為、備え付けのコンロで鍋を煮るしか無い。
    各々コンロの前に椅子を持ってきたドフラミンゴとクロコダイルは、いつも通りの剣呑さで鍋を囲んでいた。
    「つくね食え。旨いだろ」
    「……旨い」
    何故か突然凝りだしたクロコダイルお手製のつくねを、クロコダイルが自らドフラミンゴの器に勝手に入れる。
    大人しく食べたドフラミンゴは、一応素直に言ってやった。
    「オイ、グラス出せ」
    クロコダイルがドフラミンゴの横の棚に並んでいるグラスを指差し、本来なら指図される事を嫌う筈の男はナチュラルに二つ、グラスを取る。
    それをどこか満足気に眺めたクロコダイルは、右手で掴んだボトルをドフラミンゴに向けた。
    「開けろ」
    「ハイハイ」
    素直に従うドフラミンゴは、受け取ったボトルのラベルを見て思わず肩を震わせる。
    その酒の値打ちは、敵対する男に振る舞うような金額の酒では無いのだ。
    「どうしたワニ野郎。気色悪ィなァ」
    「クハハハ!君にはまだはやいかな」
    突然、光の入ったその眼球を、サングラスの奥で寂しそうに眺め、ドフラミンゴは口元だけで笑う。
    その再生を望み、この家の敷居をまたいだ筈なのに。
    「これからどうするつもりだ」
    聞かない方が良いに決まっているのに、ドフラミンゴはボトルの封を切りながら言った。
    再生を見せたこの男が、今後、自分の手のひらで踊ることは無いのだろう。

    「この海の、勢力図をひっくり返す」

    グラスに注がれる酒を見ながら、ドフラミンゴは白菜と長ネギを鍋に追加していく。
    明らかに、この場にそぐわぬ事を言ったクロコダイルは、楽しそうな顔を向けた。

    「テメェの後ろ盾、足場、全部、」

    「全部崩れるぜ、フラミンゴ野郎」

    ああ、再生してしまったのか。
    この世の終わりのようなこの場所で、ずっと、このお遊びが続くなどとは思っていなかった。
    それなのに、僅かな引っ掛かりを覚えるドフラミンゴは、それを消し去るように瞳を閉じる。
    「フフフフッ……!そうか、なら、」
    きっと、曖昧だった立ち位置が、はっきりと別れる瞬間が来るのだ。
    ドフラミンゴは離れ行くその距離を、引き戻すようにその後頭部に手のひらを伸ばす。
    黙って引き寄せられたクロコダイルの額に、ドフラミンゴの乾いた唇が触れた。

    「……いずれ、」

    従う勝者と、従わない敗者。
    それしかないドフラミンゴの価値観を超えるなら、それこそ取り返しの付かない事態だ。
    それを理解しているかのような、曖昧な顔で笑うクロコダイルの黒髪を、ドフラミンゴは名残惜しそうに撫でる。
    (結局、)
    お互いの一番にはなり得ない。だから、遊びだと言えるのだ。

    「いずれ、殺してやる」

    ******

    太陽はまだ、顔を出さない。
    早朝ではあるが、曇天が基本のこの島の日の出を悠長に待っていられる程暇では無いのだ。
    アスコットタイ、金釦のベスト、上質なコート。
    随分と久しぶりに袖を通したその出で立ちは、まだ、様になっていて安心した。
    クロコダイルは寝室の扉を開けて、さっきまで横たわっていたベッドを見下ろすと、そこで未だ眠る男の金髪を撫でる。
    閉じた瞼を親指で撫でて、その額にゆっくりと口付けを落とす。
    (馬鹿な男だ)
    十中八九起きている筈のドフラミンゴが、この腕を掴む事は無い。
    そうすれば、変わる何かがあるかもしれないのに。
    足元から崩れるように砂へと変わるクロコダイルを、止められる程、シンプルな男ではないのだ。
    「……いずれ、」
    全て、捨てられないのなら、本気にしてやる事も無い。
    死んだ一つの時代と共に、その愚かな願望を叶える好機はもう、七日の間にゆっくりと死んだのだ。
    クロコダイルは砂と化す刹那、一瞬そのベッドを振り返る。

    「いずれ、殺してやるよ……フラミンゴ野郎」
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