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    かつみぽいぴく

    @katsumi_kitk
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    かつみぽいぴく

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    トップ2の恋愛事情は〜 続きの冒頭ぶぶん。
    今回はホが炎さんをカメラで撮影しにいくデートをしたりヒーローぽく捕物したりする予定です。

    #炎ホ
    flameHoop

    カシャッ、とシャッターを切る小気味よい音と手応え。
    少しおいて背面に映し出されたそれを確認した俺の口の中に、しゅわりとメレンゲが溶けたみたいな嬉しさが広がった。
    「エンデヴァーさん、またいいの撮れちゃいましたよ。ほら」
    すぐさま共有したくて被写体であるあなたに小走りで駆け寄る。
    穏やかな陽気、空模様は薄曇りで光の加減がころころと変わらないのがビギナーには有難い撮影日和だ。ここに立ってくださいとリクエストした七分咲きの桜並木の下、俺を待っているエンデヴァーさんの顔の前をふわりと薄桃の花弁がそよぎ通っていった。

    ――俺とエンデヴァーさんがお互いに肌を教え合った記念すべき一回目からちょうど一ヶ月後。俺はまた彼の管轄である静岡に来ている。

    エンデヴァーさんのすぐ傍にくると、あなたのすぐ近くだけほんのりと他所よりあたたかいのが分かって、どうしたってお忍びの為のマスクの下では顔が笑んでしまう。
    一つの画面を一緒に見る為に肩を寄せ合うようにすれば、あなたのに届かない俺の肩はスプリングコートの胸元をやんわりと押した。
    「どうですこれ」と差し出した一眼レフの背面液晶に映るのは、今しがた撮った恋人の姿。
    大きく枝を広げて春を満喫しようとする桜の下、コートを羽織ったエンデヴァーさんがホットのコンビニコーヒーを片手に佇んでいるのを少し横から切り取った構図だ。
    大きな手に包まれている紙のカップは手元が心もとないと言うこの人に渡してあげた俺の飲みかけ。No.1にそんなことするの、この国で俺くらいのものでしょ。
    いやそれにしても、桜の薄桃色を後ろに添えると恋人の臙脂色をした髪は普段よりも赤が際立ってよく映える。
    「俺ばかりでなくもっと桜を撮れ」
    「エー、エンデヴァーさん今日の趣旨わかってます?」
    そう――今日の俺は春の陽気のなか、あなたを連れ出して写真に収めるなんて贅沢をしている。
    「いや俺才能あるかもしれません。被写体いっこ限定ですけど」
    「今日初めて触った割に随分な大口だな」
    俺の軽口にそう返してくるくせ、伸びてきた手は優しい。
    ファインダー覗くのに夢中になっていたからかマスクについていたらしい花びらを摘み取ってくれるのだから、そういうところだ。
    太く無骨な指は柔らかいそれを捕まえるのに難儀したのか柔らかいガーゼがあなたに押されて、唇にもその感触が届く。マスク越しに指でキスされた心地だ。
    ガーゼの下で少し大きく口を開けてやんわり指を食んだら、こら、と叱られた。
    あなたの方こそ、こら、でしょ。人通りもないとはいえ外でそんな柔らかい声だして。あなたの甘い叱り声、堪らないんですから。
    「花か食い気かどちらかにしろ」
    「ふふ、ドーモ」
    一度捕まえた指からそっと口を離してあげれば口の開きに凹んだマスクをささっと直して撮影に戻るべく離れる。
    行きよりもゆったりとした足取りで元の焦点距離まで戻り振り返れば――エンデヴァーさんの手がまだ、俺に食べられた通りの形で持ち上がったままで。
    それがおかしくってついシャッターを切る。
    おい、とあなたが声をあげるけどもう撮っちゃいました。これ誰が見ても何のポーズか分からないですよね。
    現像して誰が見れるようになったって、この場にいた俺とあなたにしか分かりやしない。
    それがどうしようもなく俺の胸をあたためる。
    焼き付ける為に一度瞬きしたシャッターが目を開ければ、グリッド線とピント位置の表示されたモニタの向こうであなたが口を尖らせていて。ほんとに治りませんねその癖。突き出してるのを啄みに行ってあげたくなる。外なので辛抱しますから、後でさせてくださいよ。
    これ以上この姿で撮られて堪るかとばかりにフンと鼻を鳴らしてその手をポケットにしまうのがおかしくて、それでも顔を背けようとはしないでくれるところが愛しくて。
    俺はまた片目を瞑って、あなたにピントを合わせたのだった。




    ーーーー




    自己プロデュースも印象操作も慣れたもの。圧倒的に撮られる側でいた俺が、エンデヴァーさんをしっかりとしたカメラで撮影するなんて新鮮な機会に恵まれたそもそもの始まりは、モドかしいあの日から二日後のこと。
    けど折角なので帰り際から振り返ろうと思います。

    「先に下りているぞ」
    「あ、もうチョット。あなた吸っておかんと」
    「吸う……?」
     見送ってくれるという恋人と一緒に身支度をして、先に降りてラウンジで一杯コーヒーを飲んで待っていてもらってからのチェックアウト。少しは暇になったとはいえ多忙なのに空港まで来てくれるってんだからまー大事にされてると思う。
    ホテルの部屋でさんざあなたを吸っておいたのでさらっと帰ろうと思っていたのだけど。
    外に出て、さっきまでゼロだった距離をちゃんと俺とあなたの間に置いてしまえば、かえって意識してしまう。
    剛翼がうっかりあなたに触れないように右だけぎゅっと折り畳まれていたので、後ろから見たらおかしいことこの上なかったろう。
    隣に立ち陽の光にいる精悍な顔立ちを見上げると、ああ俺、この人と少し前まですごいことしてたんだ。とかえって突きつけられる心地で。
    タクシーの中でも口は忙しなくあれやこれやと些細な話題を振るものの、頭の中では「ああ」とか「そうか」と口数少なくも答えてくれるあなたを脱がせたままだ。
    「じゃあまた、エンデヴァーさん」
    「ああ、またな」
    到着してしまえば別れ際はいつもあっさり。そのまま振り返らずにゲートを通ろうとしたところで――今日に限ってはちょっとだけ悪戯心が湧いた。
    踵を返した俺に、静かな目をして見送ってくれようとしていたエンデヴァーさんが目を丸くして、駆け戻りだすと何事かと眉を寄せてみせる。その姿がおっきくなって、間近まで辿り着けば俺は潜め声で爪先立つ。
    「エンデヴァーさん、チョット」
    「どうした?何か忘れたか」
    「念のため確認しておきたいんですけど……」
    「うむ」
    ひそひそと真剣な内緒話のトーンで口許に手を添えた俺につられて、背を屈めてくれたエンデヴァーさんの、
    「結構すごいことしちゃいましたけど……俺まだ処女ですよね……?」
    その太い喉がぐう、と唸った。あなた、迂闊に耳なんて差し出してくれちゃうからですよ。
    「貴様…っ無事なうちにとっとと帰れ!」
    「アッハハ!じゃあまた!」
    やっぱりあなたの発火したお怒り顔を最後に貰って帰らないと!
    お見送りにあなたの炎を貰ったら今度こそ発つ鳥濁さず。笑いながら駆け去って、チケットと一緒に大事に握ってはスムーズにビジネスクラスへと乗り込んだ。
    これでまた、あなたと会わない時間も頑張れそうですよ、ホークスは。
    さて。 
    落ち着いた空間に見合う様に嬉しさの上から常の不遜なポーカーフェイスを被せる。さっきまで大きめに開いてはいっぱいに恋人を映そうとしていた目は、重たげにやや据わる。
    あなたがいないところでの俺はこんなものだ。
    フライト中は時間を削るのが惜しいビジネスマンにとっては一時の休憩時間なのだろう、ホークスかい?なんて話しかけてくる客もまず当たらないのでまずまず快適な空の旅だ。
    ニュースでも観るかとモニターを点ければ、ヒーローとして炎を纏う鋭い横顔、映し出されてしまうさっきまで俺の隣にいたひと。不意を突かれて心臓が子供みたいに喜ぶのがわかった。
    「……やー……ハハ……」
    思わず押さえた口許から殺しきれなかった困り笑いを漏らしてしまう。柔らかなシートにずるりとだらしない一歩手前まで沈んでしまう俺を叱る人は今この場にいない。
    ーーさっきエンデヴァーさんに問いかけたのはからかい半分、本当にあれ?と思ったのがもう半分だ。
    だって。
    俺あんなにされたんですよ。
    こんなにも気持ち的にはすっかりあなたのなのに、身体ももう清いと言い切れないほどのことをされてはいるのに、でもまだ遂げていない。
    足の裏がふわふわする様な、おぼつかない様な心地だ。
    ……それにしても、昨日のエンデヴァーさんすごかったな……
    思い出すと尻の付け根がびりびりと痺れるようにして、ずりずりと擦りつけられてマーキングされたあの熱を思い出してしまう。
    あなた、練習が必要だなとか、言ってたじゃないですか。うそつき。すごかった。四十五歳の本気ピストン。求めてくれる情のあまりの激しさに途中からされるがままで。あれは、俺に触って我を忘れんでおく練習、ってことだったんだろうか。
    余韻をつい食んでいると、座席のあいだの通路をなめらかに歩いてくる人の気配を剛翼が感知した。
    脳内で広げていためくるめく余韻を閉じて、後ろからやってきた上品なCAさんにドリンクを尋ねられると流暢な受け答えをする。
    支度してもらったカップをファンサ用笑顔で受け取ると苦味のある香りが鼻を擽った。カップの縁やミルクの渦巻く水面からふわりふわりと、湯気がたって。
    湯気、が。
    うわ。
    俺の視線は一礼して去っていく女性的な腰のラインには向けられることなく、薄茶色の水面に注がれて、動かせなくて。テーブルになんとか置いて、それから両手で顔を覆って、呻いた。
    「……あー……」
    誰だミルクと砂糖頼んだの。俺だよ。ブラックじゃないのがより駄目だった。あの人の肌の色に近かったから。
    しゅうしゅう、俺に覆い被さった大きな身体から立ちこめる、あなたの熱がつくった白煙。
    悩まし気に寄せられた眉のそばに浮かんだ汗が頬へ落ちる途中で灼けて湯気に変わって。その薄煙の向こうから俺を静かな興奮で、理性の手綱をぎゅっと握ったまま見下ろす澄んだアイスブルーの眼光。どこまでも炎のひとなのに、瞳の色にだけ氷を冠すひと。それが、怒りじみた獣の欲に浸されると今度は熱と湿度によって色を青く染めた炎の様にも見えるのをーー昨日、初めて知った。
    「……うわーマジか……」
    ホットドリンクから立ちのぼる湯気にすらあの人の肌を思い出してしまう。
    公安仕込みのポーカーフェイスで顔には出ない分、首から下が真っ赤になってる自信がある。俺の身体がこんなにも嘘つけないなんて、あなたに初めて教えてもらったよ。

    まあ、これだけならね。
    エピソードとして可愛いもんですけどね。
    地元着いた帰りにどうしても食べたくなって寄った博多ラーメンの店の、麺を湯がく巨大な寸胴でも同じことが起きたのは結構に馬鹿でしょ。湯気に対して判定がガバガバ過ぎる。
    いや迂闊だろウイングヒーローホークス。
    でもラーメン食いたかったんやもん。
    会話もなく麺を豪快にすする男性客しかいない店内で話しかけられることは少ないのだが、思わずカウンターに突っ伏しかけてしまえば流石に隣の同い年かちょい年上だろうサラリーマンが声をかけてきた。
    「なんばしよっとホークス?お疲れ?静岡で息抜きしとったろ。向こうでヤんことでもあったと?」
    「いや……どっちかっていうと逆ッスわ……」
    その俺の答えに、聞き耳を立てていただろう店内の客が何故か一斉に立ち上がる。全員が俺の席へやって来るのだが、その手には一様にどんぶり。
    「めでたかね、味玉あげよ」
    「じゃあ俺はメンマ」
    「チャーシュー持ってき」
    「ギョーザここ置いとくよ」
    「辛もやしも乗せたろ」
    「おまえそれタダんやつばい」
    「マー豪華」
    右から左から、ひっくり返した箸の頭で掴んだ具を俺のチャーシュー麺に乗せてくる。わー。市民の皆さんからの祝福全部のせ。
    「麺が伸びるだろ!散れ散れ!」
    湯切りのてぼを振り上げながら怒鳴る初老の店主に皆蜘蛛の子を散らす様にして元の席に座り細麺をすすりだす。あー怒られるやつかなと心で構えていれば、俺のまだ口をつけてない一杯を見て舌打ちする。
    「ったく、伸びちまったろうが。替え玉つけてやる、声かけろよヒーロー」
    「アザース……」


    「所長お帰りんしゃい」
    「ちゃんと飛行機使いました?」
    「子供のお使いじゃないんですからそーゆーのいらんです。報告お願いします」
    帰ったその足で事務所に顔を出せばサイドキック二人が気遣い露わに寄ってくる。それを遮るように土産の紙袋を渡すと受け取った向こうは軽さに中を覗く。
    その傍ではもう、剛翼が自分の持って来た土産の包みを空中でバリバリ剥いて箱を開けては一つ取り出して俺のところへ持ってくるところだ。
    「所長、お行儀悪か」
    「お茶クダサーイ」
    サイドキックが箱を受け取る頃にはもう口に放り込んだ。
    黄色い小さな蒸しケーキのふんわりかつしっとりとした食感に、まろいミルククリームがこぼれ出てきて絡む。黄色のパッケージ、そこにひよこが沢山描かれた静岡銘菓だ。こっこ。俺のセレクトじゃないですよ念の為。
    そういや忘れてたと空港の土産屋に立ち寄った際、エンデヴァーさんが少し離れたかと思うと「これにしろ」と悪戯気味に口の端っこで笑いながら持って来た時には、この人どうしてくれようと思ったものだ。
    大きな身体して子供っぽいことするのやめてくれませんかね。かわいいので。
    俺はもうでっかいこっこ一羽で手一杯なんですから。いちご味ですかあなた。
    「エー」とか言いながらお買い上げですよ、もう。
    いつか、スーパーで急にいなくなったと思ったらこんなの見つけたぞとアレコレ持ってくるこの人に「元あった場所に返してきなさい」って言う日がくるかもしれない。
    違う。土産一個でこんなんしてたら話が進まないでしょ。
    「大きな事件はこれといってなし。書類まとめておいたからちょっと目通してほしいです」
    「了解です、…ん?」
    デスクにつこうとぞんざいに引いた所長椅子へ腰を下ろした途端、柔らかな感触に違和感を覚える。
    ふわっふわだ。
    椅子の座面の固さが遠のくくらいに柔らかなクッションが据えられていた。お陰でちょっと座高が高くなってしまう程。
    こんなの敷いてた覚えは勿論ない。
    「何スかこれ」
    「え…」
    「何って…」
    思わず尻を見てしまう俺の問いに、サイドキックの二人が顔を見合わせてから答える。
    「辛いかなぁと思って…」
    「買っといたばい……」
    「はい?」
    再び顔見合わせたところから、二人してちょっと見上げがちになる。まるでそこに何かを思い浮かべているかの様な沈黙の後で、また俺の方を揃って見ながら次を呟いた。
    「プロミネンス……」
    「バーンしたんやなかと……?」
    「ちょっ、上司にド直球セクハラします!?」
    逞しい恋人のプライベートなサイズを想像されたのがわかって二人が見上げた空間を羽根でぐしゃぐしゃ搔き消した。
    思わず座ったばかりの所長椅子から勢いよく立ち上がる。「未バーンですけどっ?!」と口から出なかったのは奇跡だ。いや、いやいや。静岡から帰ってきただけで尻の心配をされてるんですが俺。今まで何度か管轄行き来してるの知ってるだろうにこんな真似されたの初めてなんですけど。
    「ばってん労っとるだけやんね、なあ」
    「ホークス……一段と気合い入れとったし……見とれば丸分かりたい……」
    「前の日インスタにも浮かれて上げとったとね」
    「メンズエステの会社からプロモ起用したいってメールの『日頃のご愛顧』を見ない振りするのも限界なんよ」
    「ちょっと……止めてくれません……俺の努力をつまびらかにするの……」
    嘘だろ。いや、三か月でしたし。今回こそは一歩進むのではとちょっと意気込んで行きましたけどそりゃ。
    そういえばと思考が立ち止まる。静岡行きの朝、あちこちでやたらと微笑ましそうに行ってらっしゃいと見送られたのはそれか…?
    そして帰ってきても何だか遠巻きにお帰りと労われるだけでファンサ求めて凸られないのはそれか…?
    市民の皆さんが俺とあの人の恋愛事情に前向きすぎる…
    今度エンデヴァーさんが来るってなったら空港に『福岡はツートップヒーローの恋を応援しています』って横断幕でもでかでかと掲げられてしまいそうな勢いだ。
    その下をくぐりながら手を振る俺の引き攣ったアルカイックスマイルを易々と想像できてしまい、よろめいて立ち上がったばかりの所長椅子へと座り込んでしまう。わーふかふか。酷使されただろう尻を柔らかく受け止め包んでくれる。いやだから未バーンなんですって。なんだ未バーンって。
    「…………書類どれです?この山ですか?」
    「そそ、それが一番優先の山たい」
    「でもしんどかったら早めに上がってもらって」
    「ドーモ……」
    気遣われ過ぎて尻の座りが悪過ぎる。まさか、大事にされてるんでまだ処女ですお気遣いなく、なんて言う訳にもいかない俺は、そのまま大人しくふわっふわの上に尻を預ける他なかったのである。


    ―――――


    まあ。
    そんな取り乱した反応も一日経てば元通りのふてぶてしさですよ。
    サイドキックの優しさと労りで出来てるクッションは折角なのでそのまま使わせてもらっていますけどね。
    「エンデヴァー事務所から依頼がきとるとね」
    「現場向こうですか?詳細ください」
    あれからメッセージ一つのやりとりも無いうちに本業での連絡とは、あの人らしい。
    とは思いつつも全く顔には出さずギアをローに入れたままで返す。「エンデヴァーさんから!?」みたいな、そういうのは、無いです。残念ながら俺がかわいいのはあの人の前でだけなので。サイドキックの前でそういうのはないし、そこになかったら無いですね。
    「ほぼ一月後、日程は二日ほど。エンデヴァー事務所との合同演習と、あと別件が一つ」
    「別件?」
    「撮影依頼やね」
    「2トップで宣材てとこですか。向こうさんがOK出したならいいですよ。インタビューありなら記者の名前教えてください対策します」
    ハイエンドとの死闘からこっち、メディアに両雄と書き称えられてからというもの、二人揃っての撮影がしたいと取材の申し込みが毎朝沢山来ていてそれをまとめるところから事務方の作業は始まるらしい。
    殺到するのも訳がある。俺が隣にいると近寄りがたいNo.1が表情を変えることにもう皆気付き始めているからだ。
    それでも変に新しいNo.1をつつこうとするマスコミもまだ少なからずいる。これまで邪険にして恨みを買った相手も少なくない。先回りであの人の分も受け答えの対応を備えておければ重畳だ。
    まあ、エンデヴァーさんが承諾するのだから古くから馴染みのある企業かもしれないが。詳細が聞ければ分かることだろう。
    しかし――サイドキックの口からは予想外の続きが出た。
    「や、それが俺もそう思っとったけど、どうも違うみたい」
    「はあ」
    「なんでも、ホークスに撮影してほしい、って依頼なんよ」








    「エンデヴァーさんの好感度と写真映え向上作戦! それで俺に白羽の矢が立ったと。なるほどです」
    ここは一ヶ月後のエンデヴァー事務所。初日の合同演習を終えて二日目の朝だ。既に内容は書面でもらっていたが、直接こちらのサイドキックより依頼の説明を聞き俺はいつもの態度で続けた。
    「や、でも俺でいいんですかね?エンデヴァーさんの怒った顔ばっかりになっちゃいません?」
    「ホークスあのね」
    「俺らの前で不遜ポーズしたって今更なんだよなぁ」
    先に声をかけてきたのがキドウさん、次いでオニマーさんが苦笑いで言葉を引き継いで返してくる。どちらもエンデヴァーさん事務所の勝手知ったる古株サイドキックだ。その勝手には色んな意味を含む。
    「……これは失礼シマシタ。いつもお気遣いいただいて。コレつまらないものですが」
    「ご丁寧にどうもどうも」
    「こちらこそ情緒生まれたてをありがとうね」
    「三人して何をしとる」
    古株サイドキックの二人と頭を下げ合っていると、内容はいまいちわかっていないが座りが悪いとだけは感じているのだろうエンデヴァーさんがデスクにかけたまま顰め面で釘を刺してくる。
    一ヶ月前に貰った依頼はさっき俺が口にしたそのままだ。
    エンデヴァーさんのマスコミ、それが転じてカメラ嫌いはヒーローエンデヴァーを推している者だけでなく大抵の国民は既知であることだ。
    オールマイト相手に焚き付けられ比べられ何かと悪し様にマスコミから扱われてきた彼が、向けられるあのレンズを嫌っていても道理だろうというもの。
    ただでさえ愛想を振り撒くこともなく世に出る広告も睨みを効かせるか横目で一瞥するものばかり。
    それが男性層には媚びずに渋いと支持を受けているし、宣伝かつ防犯ポスターには覿面なのだが、今までの近寄りがたいイメージを作り出すのもそんな日常で見かける広告が一役買っている。
    そこからイメージを和らげるべく、まずはカメラへの嫌な経験を薄めるべく気心知れた相手をカメラマンに立てて被写体慣れしようという話だった。成程、なるほど。
    「で、お聞きしたいんですけど。このご依頼は広報担当さんが?」
    しれっと口にした、少し目を細めた俺の質問にその場の空気がほんのりとヒリつく。分かってる。わざとそうさせた。
    広報担当から路線変更を交渉されたのだろうか。渋る恋人を宥めながら撮ることも俺ならできるだろうが、当の本人にその意志がないなら考えさせてもらわないといけない。
    「いや」
    少し張り詰めたその空気を破ったのはエンデヴァーさん自身だった。
    「お前に打診したのはサイドキックだが、俺も了承している。それに元は俺が言い出したことだ」
    「エンデヴァーさんがです?」
    「ああ」
    ホラ行って行ってと揃ってジェスチャーするサイドキック二人に促され、声の主の方へと歩み寄ると重厚感のある所長机に手をついて、今は根っからNo.1ヒーローであるエンデヴァーさんと相対する。
    「写真は得意ではない」
    「はい」
    「だがお前と受けた取材は評判がいいと聞いている。確かに、よく撮れているだろうよ」
    机の上には俺と受けたツートップヒーローの取材ページが広げられていた。背中合わせの写真、あったなーこれ。バストアップだからって俺ハコ乗って撮りましたもんね。慣れん高さにいるなってあなたが言って、新鮮でしょって俺が返して。ぬかせ、って答えてからあなたの表情がぐっと良くなった時の写真だ。バディ感というものがよく表れている。
    「だがそれはお前が隣にいるからだ」
    「おや高く買ってもらって。四月に雪でも降りますかね?」
    「からかうな。事実を言っている。それに、取材対象の方が記者をよっぽど調べ上げているとも分かっているぞ」
    「…………やだなぁ。ソーユーの気付いても言わないのが華でしょ」
    肩を竦めて両手を上げれば鋭くこちらを見据えたままフンと鼻を鳴らしてみせる、俺のNo.1。だけれど、ふとその視線が和らいだ。
    「お前とやれば上手くいく。だがこれから先もそうであってはならんだろう。誰かに立てられずとも一人でこなせんで何がNo.1か」
    どうあっても越えられない男の背中だけがずっと焼き付いていたエンデヴァーさんの青い目は今、澄んで、未来を見据えている色をしていた。
    「今回は頼る形にはなるが、これからもおぶられている気はない。……どうした」
    「イーエ……」
    手で制止ながら思わず口許を襟で覆ってしまった。
    いや……好きだな……もう……
    歳を取る程、ひとは変化を恐れるという。自分の今までが間違っていたと認めたくなくて、凝り固まって、意固地になってしまう。
    人生の半分以上そうやって生きてきて、そこから踏み外そうとしても、まず足の裏を浮かせることだって普通は難しいのに。
    それでも一歩踏み出そうとする、努力を名前にかざしたヒーロー。たった一歩でも大きな足が進む距離は確かだ。
    染み渡っていく嬉しさや高揚につい口を噤んでしまえば、逆の意味にとったエンデヴァーさんがフ、と珍しい自嘲がちな薄笑みを溢した。生え揃った剛翼がカーテンの様にあなたを他から隠しているから、俺にしか見えないその表情にうっかり見惚れてしまいそうになった。
    「……らしくないと言うか。エンデヴァーはそんなことはと」
    「イヤ言いませんよそんな!」
    思ったより大きな声をあげてしまった。けれど仕方ない。
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    かつみぽいぴく

    PROGRESS12/12炎ホプチの新刊の冒頭らへんを進捗上げです。
    ホ視点と炎視点バトンタッチ文体。
    ホちゃにテディベア扱いされて焦らしプレイされる炎さんのさらっと読めるイチャイチャすけべ本の予定。
    前半は焦らしプレイ、後半はケダモノセッ気味のいつものやつです。
    全年齢部分は終わったのですけべを呻きながら書いてます。
    3万字ちょい、文庫70~80P予定。通販もあるよ!
    【12/12新刊全年齢部分】カワイイのはオレだけにして?

    今日の俺たちのパワーバランスはこちら。

    「エンデヴァーさん。俺、まだ怒ってますから」
    「……」
    「理由、わかってますよね?」
    「ヌ……」
    あなたが恋人羽毛の触り心地を追い求めて買った高級クッションを我が物顔で抱き締めつつ、俺は唇をツンと突き出した。
    ソファに陣取り足まで乗せてる俺と、そばに立ったままのあなた。
    こうまでしたら分かるでしょ? ヒーローとしては異音一つ見落とさないのに、恋人の扱いにはまだまだ疎い雛鳥さんへ、『ご機嫌ナナメですよ』のサインを贈る。
    爪先でエンデヴァーさんの脛をつんつんと柔くつっつくのもオマケだ。
    叱られる子供みたいに佇むエンデヴァーさんも、「何だその口は」とか「足を乗せるな」とか言わない。居心地悪そうに唸るだけ。ここあなたの家なのに。
    16801

    かつみぽいぴく

    PROGRESSトップ2の恋愛事情はデートひとつもセワしない!後編その1
    ベッドで恋人撮影会する炎ホ すけべの導入のムード作り頑張りました
    以前Upした書きかけ進捗の改訂版です~
    もうちょっと先まで続けてぽいぴく投げます
    「フム……」
    大きな親指がやさしく俺の下瞼を引き下げる。
    俺はされるまま、それに合わせて見上げていたあなたの顔よりも視線をもっと上へと飛ばした。
    まず右目、そしたら次は左目。
    終わると今度は顎をとられるので、分かってますよと促されるより先に舌を伸ばして差し出した。
    でもキスする為じゃない。
    口のなかの粘膜の色を確かめる用だ。
    ――個性増強剤〝トリガー〟を摂取した者は舌が黒く変色する特徴があるから。ヒーローとして当然だ。だけど、ですけど。
    あなた、ついさっき事務所でもおんなじことしたのに。
    あれから三十分も経ってませんよ。
    俺のとった部屋に入って初めてするのがキスじゃなくてこれなのだから、もうこの人はって呆れる様なあなたホント裏切らないなぁって笑ってしまう様な心地になる。


    エンデヴァー事務所に戻りホテル並みの来客用宿泊室をお借りして、きっちり二時間経過観察。結果は良好問題なし。
    シャワーも浴びて、現場からちゃんと回収したカメラで今日撮った桜とあなたを見返していれば二時間なんてあっという間だった。
    肩にカメラを提げて所長室に顔を出せば、もう私服に着替えたエンデヴァーさんが帰り支度をして 9962

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