変わらない愛を誓う 死体の山の上に一脚の玉座がある。そこに座って上を見上げれば屍を柱にして立つ祖国が見えた。豊かで綺麗な祖国は数々の犠牲によって変革し今があるのだとわかる構図にウィリアムは今度は下見る。
己の血濡れた手と恨めしそうに見上げる顔の数々……
「あ……」
思わず息を呑んで目を逸らす。自分が殺してきた人々だ。向き合わねばならない命なのだと分かっている。けれども彼らの顔を見るのが怖い。彼らは悪魔だ。けれど道を間違えただけの人間でもある。命を奪い国を変革するための犠牲として選んだだけにすぎない。
「ごめんなさい……」
視線が恐ろしくてそうつぶやく。すると後ろから声がかかった。
「ちょっと○○○○! なんで兄さんとルイスが死んでるのさ」
その声に慌てて振り返るとルイスとアルバートが倒れている側に彼が立っていた。
「ウィリアム、様……」
「ふん、今は君の名前だろ? ところでさ、なんで兄さんとルイスが死んでんの? 君、僕だけじゃなく実の弟や優しくしてくれた義兄さんまで殺しちゃったの?」
あの日の姿で現れたウィリアム。彼はじっと倒れている二人を見つめて自分に問いかけた。
「殺してない……」
「本当に? じゃあなんでみんな死んじゃったの?」
彼の周りにはルイスやアルバートだけではない、モランやフレッドも倒れていたのだ。
「モランっフレッド!」
「ねぇ、どうやってこの状況を説明するの?」
ふわりとウィリアムが両手を広げるとそこには仲間達、シャーロック、大切な人たちが死んでいた。
「本当にこれでも自分が殺してないって言うの?」
「っつ!? 僕は……殺してない」
「ウソツキ……真っ赤な手だね」
恐る恐る視線を手の方に向ければ、更に赤く染まった自分の手と仕込み杖が握られていた。
「はぁっ、はぁっ……っあ」
四月一日、この日恒例の悪夢……今年はシャーロックと相棒のワトソンまで出てくる始末。
ウィリアムは長く長く息を吐いて起き上がる。状況を整理しよう。まずここはニューヨークのアパート。現在暮らしている住居はここで英国ではない。シャーロックと二人で住んでいて、仲間たちは全員祖国でそれぞれ、贖罪の道を歩み出したとビリーから聞いている。ワトソンはシャーロックが文通していて昨日も手紙が届いていた。みんな生きてる。死んでなどいない。
ホッとした所で肌寒さを感じてシーツを引き上げる。そういえば、この夢を見るのが嫌でシャーロックに激しく抱くように頼んだのを思い出した。くるりと寝室を見渡すが、シャーロックの姿はない。ベッドマッドに触れるが既に冷たくなっていた。おそらく先に起きてコーヒーでも淹れにいったのだろう。
「セックスも効果なし……か。激しく疲れれば見なくなるかと思ったけれど」
そう呟いて、来年悪夢を回避する方法を考え始める。来年までの課題だ。とりあえず着る物を探そうとシーツを羽織る。ベッドを降りようと足を下ろした所で寝室のドアが開いた。
「シャーリー」
「おはよ……リアム。誕生日、おめでとう」
持っていたコーヒーをウィリアムに手渡してシャーロックは額にキスをした。
「ありがと……でも、知っているでしょう。本当は」
「でも、リアムがリアムになった日、なんだろ?」
そう、最初に罪を犯した日。今のウィリアムがウィリアムになった日だ。
「うん……」
「じゃあ誕生日でいいんじゃねぇの? ……一緒に償うって言ったろ」
「うん」
隣に腰掛けシャーロックはスラックスのポケットから藍色のベルベットに小ぶりなガーネットがついたチョーカーを取り出した。とろりと溶けた視線を向けてシャーロックは微笑む。
「シャーリー、それ……」
「付けっから、ちょっと首こっちに向けてくれ」
ぽかんとしたまま言われた通り頸を晒す。金具がヒヤリとして、首にチョーカーが付けられた。頸にキスを落とされ、肩が震える。チョーカーと新しい赤い花をつけて満足したのか、シャーロックは後ろから抱きしめて来た。
「似合ってる」
「ふふ、正面から見てないのに変なの……これ、素敵だね。すごく嬉しい」
「リアムはなにをプレゼントされたって嬉しいって言って笑うだろ?」
「君から貰えるものはなんでも嬉しいよ」
そっとチョーカーを撫でて微笑む。すると首筋あたりでくつくつとシャーロックは笑い、耳元で甘く囁いた。
「そう言うと思ったから、俺のものだってわかりやすく主張できるもんにしておいた」
「じゃあこれは君の独占欲の主張なんだね。本当嬉しい……ありがとうシャーリー」
抱き締められる力が弱まり、ウィリアムはシャーロックと向かい合う。惹かれるように唇を重ねて、シャーロックはキスの合間にこう言った。
「リアム、俺と出会ってくれてありがとう。生まれて来てくれてありがとう」
ウィリアムは困った様に微笑んで、こう返す。
「それを言うのは僕の方だよ、シャーリー……本当にありがとう」