5/29azm四月も終わりの話 魔関署のグラウンドから、私……アミィ・アザミは空を見上げた。遥か高いところで、キマリスが研修生を率いて周回コースを飛んでいる。
とはいえ、ついていけてるのは、ほんの数名。その筆頭は小柄な少女、その次は大柄な少年。今期の研修生の実技において、この二人が抜きん出ている。
「……やはり、あの馬鹿が早いか」
少女はほぼキマリスの真後ろ、少年はやや離れて追いかけている。
他の研修生は周回遅れがほとんどであることを考えれば、キマリスが視界に入っていれば上出来で、ぴったり付いていく少女がおかしい。
やがて、規定の周回を終えたキマリスが降りてきた。私の横で、キマリスの部下がタオルを差し出しつつ、研修生の成績を記録している。
「や、アミィくん。どうかした?」
「研修生の実技の様子を見に来た。やはり、あの二人が抜きん出ているな」
「ね。かなりスピード出したから、ついてくるとは思わなかったな」
汗一つかいていないキマリスの視線の先では、少女が肩で息をし、少年は汗だくで倒れ込んでいた。他の者たちもようやく周回を終えて下りてくる。
「あ、アミィ様!」
パッと顔を上げた少女が、笑顔で駆け寄ってきた。
「お疲れ様です!」
「……ああ」
「俺と態度違くない?」
キマリスが苦笑する。少女は口をへの字にしてキマリスを睨んだ。
「だって付いて行くの大変だったんですよ!? アミィ様、見てました? 羽が千切れるかと思いました……」
「付いていけていれば、上等だ」
「えへへ、頑張りました」
「午後の座学もその調子でしっかりしてくれ」
そう言うと、少女はわかりやすく目を逸らす。
顔は気まずげだ。
「……あの、頑張るので、授業前に昨日のわからなかったとこ、教えてください」
「わからない箇所があれば、その日のうちに確認しろと、あれだけ言っただろうが」
少女は肩を落とす。キマリスが笑ってから、手を叩いた。散らばっていた研修生たちが集まる。
キマリスが午前の訓練の終了を告げる。
私はトボトボと歩く少女の隣に並んだ。
「授業開始の三十分前から、教室にいる」
少女は先ほどと同じように、パッと顔を上げた。
「ありがとうございます! ごはん食べたら、うかがいます!」
「急いで食べてきます!」そう言って彼女は走っていった。
……あれだけの速度で飛んで、すぐに駆け回れる体力は評価に値する。それに、わからずとも食らいつこうとする根性も、評価してやらなくも、ない。