6/1azm秋の終わりの話 戦場帰りの研修生を寮まで送り届け、牙隊の執務室へ戻った。引き出しから、彼女の研修報告書を取り出す。
報告書に並んだ成果と、先ほど肩を震わせていた彼女の姿が、どうにも一致しない。
思い返せば、それは研修初期からその傾向は見られた。実技訓練時の勇ましい背中と、教室に入ってくる際の花のような笑顔。
試験時に物怖じせずにキマリスに挑んだ彼女と、医務室から出てきた際の頼りなげな彼女。
この落差は、何なのだ。
どちらが、彼女の本質に近いのか。
不安を覚える一方で、その姿をもっと見ていたくもなる。彼女をどのような悪魔に育てようか。魔関署の悪魔として、力強く羽ばたかせたい。それを、見守ることができるだろうか。
考えに耽っていたところ、突然執務室の扉が開いた。
「あれ、アザミ様、まだいらしたんですか?」
顔を出したのは准尉で、今週は犯罪魔の拠点の調査をしていたはずだ。
「何かあったのか?」
「見張ってた犯罪魔のアジトで違法な魔植物見つけたんで、そっちで検挙しちまいました。今から聞き取りするで、書類取りに来たんですよ。……それ、研修生の評価資料ですか?」
准尉は自席から数枚の書類を手に取り、私の元へと歩み寄った。
「ああ。爪隊での研修報告書だ」
准尉は一瞥をくれたのち、興味なさげに肩をすくめた。
「エリーリほどうるさくなければ、どうでもいいですよ。担当、俺じゃありませんし」
「教育担当は曹長だが、貴様にも指導を任せる」
「ええ……嫌ですよ。頭が悪いんでしょう?」
一瞬でそこまで読み取ったらしい。それだから、自分が任されるとは思っていないのだろう。
「ああ。今年の研修生の中では、座学の成績は最下位だ。ただ、嗅覚が鋭そうだ。素質があるかどうか、貴様が確かめろ」
「……面倒になったら、俺は放り出しますよ」
「ああ、承知している。貴様はアレの面倒を最後まで見る」
そう言い切ると、准尉は嫌な顔をして、一礼して出ていった。
「さて……どのように育てるべきか」
自信の欠如が目立つ。まずは姿勢を正すところから始めよう。
彼女が羽ばたくその時までは、私の手の内に置いておこう。いかなる過酷な任務に臨んでも、帰る場所を与えよう。
報告書に目を通しながら、育成計画に静かにペンを走らせる。