6/2azm冬のはじめの話「あ、エリーリだ。おつかれー」
「おー、おつかれ」
昼に食堂でごはんを食べてたら、エリーリが向かいに座ってきた。トレーには山盛りのごはん。やっぱ男子って食べる量が違うよね。
……でもアミィ様は、そんなに山ほど食べるイメージないんだよね。
「お前、今アミィ様のことを考えたろ」
エリーリが苦笑しながらフォークを向けてきた。
「えっ、なんで」
「顔に思いっきり出てたぞ」
「そんなことないよ」
「ある」
そんなことないと思うけど、当てられてる時点で説得力ゼロだよね。
「ねえ、もしかして、顔緩んでた?」
「うん。ゆるゆる」
「……やっぱり」
アミィ様だけ変身魔術がうまくできないって話をしたら、めっちゃ笑われた。
「ある意味仕方ない気もするけど……」
「なんか悔しいじゃん。アミィ様かっこいいのに」
「ちょっとやってみせろよ」
言われて指をパチンと鳴らす。その瞬間にエリーリが崩れ落ちた。鏡がないから確認できないけど、たぶんまた、ゆるゆるのアミィ様だ。
悔しい!
もう一回パチンと鳴らして、元に戻った。
「そんな笑わなくても」
「いや、ゆるすぎて、言われなきゃアミィ様だって気づかねえって」
「むー」
ムカついてエリーリの皿からデビリンゴをつまんだら、「飯、足りてねえの?」って皿ごとくれた。なんか、私だけ子供みたい……。
「僕には、なんでお前がそんなにアミィ様好きなのかわかんないからな」
「誰にも、わかってもらえたことなんかないよ」
つい拗ねた言い方しちゃったけど、エリーリは気にせず、ごはんをかきこんでた。
「別に僕が理解する必要ないからな」
「……うん、そだね」
アミィ様が、わかっててくれればそれでいい。……もしかしたら、アミィ様にすら理解されなくてもいいのかも。
「少なくとも、アミィ様はわかってそうだけど」
「そうかな」
「……お前、あれだけ構われてんのに、そっちは自覚ねえの?」
……ほんとに? 私の出来が悪いから手間かけてるだけじゃない? それって、私がアミィ様に向けてる気持ちとは、きっと違う。
私は……あの悪魔に、何を向けているのだろう。
「もー、ほんとなんにもわかんない!」
「お前、バカだもんなー」
「うん……バカだから」
エリーリが皿を空にして立ち上がる。私も最後のデビリンゴを口に放り込んだ。
「まー、バカだけど、せめてアミィ様の足は引っ張らないようにしたいな」
「それは僕も同じ。実技はお前のほうが上なんだし」
「……ありがと」
エリーリと別れて、牙隊の執務室に戻った。
「ただいま戻りましたー」
「ああ。来週の基礎訓練の説明をするからこい」
アミィ様に呼ばれる。机越しに向かいに立つと、手招きされたので椅子の横まで行く。
「お呼びでしょうか」
「デビリンゴは美味かったか?」
「えっ……?」
アミィ様の指が私の口元に触れて、デビリンゴのかけらがそのままアミィ様の口に消えた。呆然と見つめながら、エリーリの「あれだけ構われてんのに」って言葉を思い出す。
いやいやいや。
「放火魔の動きがあるまで、こちらの違法植物について確認を――」
アミィ様は何事もなかったかのように話し出す。私は、どうしたらいいの……?
必死で、手元の書類に目を落とした。