鋼鉄の悪魔と番犬鋼鉄の悪魔と番犬
「アザミ大佐、今から出るから留守は任せるっすよ」
「承知しました、フェンリル様」
背の高い白髪の悪魔が、私の横にいたアミィ様にひらひらと手を振った。アミィ様はかしこまりましたと頭を下げて、反対の隣にいたキマリス様も同じように腰を折るので私も真似をする。
「そだ、キリエライト大佐。アンリさんから頼まれてた件なんすけど」
フェンリルと呼ばれた悪魔がキマリス様と話し始める。私はアミィ様のコートを引いた。
「ねえ、アミィ様。このイケメンはどなたですか?」
「……こちらはフェンリル様。ナルニア様、アンリ様に次ぐ魔関署の3番手……ということになっているが」
「はじめまして、お嬢さん。アザミ大佐、この娘は? こんな娘牙隊にいたっけ?」
アミィ様を遮ってフェンリル様が私の顔を覗き込んだ。……アミィ様はそういうの嫌うのに、珍しく怒らずに頷いている。
「バビルスから引き受けている研修生です。戦闘成績が良いので先月まで爪隊で研修をしていて、一昨日から牙隊で引き受けています」
「へえ、成績良いんすね。俺ともやってみてほしいな」
「……戦闘だけです。事務能力が無きに等しいのでどうしたものかと」
アミィ様にジロリと睨まれたのでテヘッとウィンクしたら引っ叩かれた。フェンリル様はまたマジマジと私を見る。
「アザミ大佐がここまで気安くするなんて珍しいっすね。ところで俺のことイケメンって言った? 魔関署で誰が一番イケメンすか?」
ニターっと笑うフェンリル様に私は一瞬言葉が出ない。右ではキマリス様が同じようにニヤーっと笑っていて、左ではアミィ様がめちゃくちゃ嫌そうな顔をしていた。
「本人を目の前にして言うのは気恥ずかしいので遠慮させていただいても?」
「なるほど?」
フェンリル様の口が耳元に寄る。
「右? 左?」
「ひ、ひだり」
「だよね」
すいっとフェンリル様が離れた。というか、私の腕が引かれた。腕を引いたのはアミィ様で、キマリス様は顔を抑えてヒーヒー笑っている。
「失礼します。フェンリル様。この無礼な小娘の躾をしなくてはなりませんので」
「今のは俺の方が無礼だったよ。ごめんね、急に」
「い、いえ。大丈夫です」
言いながらアミィ様の斜め後ろへと下がる。わたくし統計で一番ではないにしろ、フェンリル様も顔がいい。あまり近付かれると緊張するのでご遠慮願いたい。普通に偉い方過ぎて緊張するし。
「じゃあ、後はよろ」
フェンリル様は足取り軽く去って行った。うーん。よくわかんない方だな。後ろ姿を眺めていたらアミィ様がポツリと呟いた。
「……見惚れているのか」
「いえ、よくわからない方だなと」
「そうか。まあいい。行くぞ」
アミィ様がスタスタと歩き出すので私はその後を追いかけた。まだ笑っているキマリス様を置いて。