6/3azm冬のある日「調子はどうだ?」
ある朝、私と准尉が道場で魔術の訓練をしてたら、アミィ様が様子を見に来た。そして私の手元のホワイトボードを見て、顔をしかめる。
「呪物か何かか?」
途端に准尉が吹き出す。
「水華草です」
「すっ……?」
水華草は攻撃されると水を吐き出す花だ。だから火災現場でよく使われるって、准尉に教わった。
種に魔力を注いで育ててみようってことで、准尉が育てた水華草を見ながら、イメージしやすいように絵に描いてたわけ。
完成したのは、アミィ様曰く『呪物』だったけど……。
「こんなんですけど、結果はそんなに悪くないですよ。ほれ、やってみ?」
「はい……」
渡された鉢に魔力を込める。土がふわっと温かくなって、芽が出て、あっという間に葉が茂って薄青の花が咲く。
「確かに……悪くないな。むしろ、この絵からこれだけ立派な花を咲かせられるのは、すごいな……?」
アミィ様が鉢を手にして、呆然とする。
「そうなんすよね。こいつ、絵がド下手糞なんですけど、出てくる魔術はちゃんとしてて……。しかも、絵に描いてからのほうが魔術の精度はあがってるんですよ。だから、こんなド下手な絵でも描いたほうがいいらしいです」
「ド下手ですみません……」
ふてくされながら謝ったら、准尉はまた笑うし、アミィ様は同情の目で見てきた……つらい……。
アミィ様はすぐに真顔になると、私の肩にそっと手を乗せる。
「貴様の才能はわかっている。悪魔には得手不得手というものがある」
「ちょ、慰めないでくださいよ! ……でも、お気遣いありがとうございます……」
「この駄作については正直どうしようもないが、貴様の魔術の才と体力、それに根性は認めている。これからも精進せよ」
「えっ、あっ、ありがとうございます……?」
頭をわしゃわしゃと撫でられて、顔が熱くなった。駄作って言われたのは聞かなかったことにしよう。
横から半笑いの准尉に覗き込まれた。
「俺もいるよ?」
「わっ、はいっ。す、すみません……!」
アミィ様は手を離して、すっと立ち上がった。
「准尉、引き続きそれの面倒を見ろ。お前は准尉に従え」
「イエッサー」
アミィ様の背中を見送る。
「……何しにいらしたのでしょうか」
「え、それ聞く? ……お前を甘やかしに来たんでしょ……」
准尉はまた薄く笑って、私に向き直った。
「ほれ、続けるよ。期待に応えな」
「はい! 頑張りますっ!」