なんだか上手く行かないなって日は生きていれば何日かはあるわけで自分にとってそれが今日だったというだけの話なのだが
「キースは居ないかぁ」
会いたいと思った人にも会えない日らしく肩を落とす。
なんだかどっと疲れが襲ってきてキースの家の前に座り込む
「はぁ…」
本来であれば目的の人物が居ないと分かった時点で帰るべきなのだろう
頭では理解していても疲れた体と心は言う事を聞いてくれない。今日は本当に上手く行かなかった。イクリプス部隊に配属され既に数ヶ月は経つが未だ慣れきる事ができない決まりや仲間達とのコミュニケーションの問題が突きつけられ、失敗ではないが胸を張って成功とも言えないような結果だった
いつでも仲間たちと笑っていたいと願っているが今日はあまり笑えない
友人の家の前で膝を抱えて1人反省会をしているうちに考えすぎたせいか睡魔まで襲ってきた
「ダメだ…帰ら…ないと…」
任務が終わってすぐにこちらに来てしまったせいで食事も入浴もまだだ。自分を育ててくれたメンターの常に清潔にという教えも今日は守れそうも無い
「ちょっと…だけ、すぐ帰ろう…」
そう呟いて意識が途切れた
「お…ろ!おい!な………ディ… 」
焦ったような聞き慣れた声が聞こえる
「おい!ディノ起きろ!なんかあったのか!?おい!」
強く揺さぶられて意識が浮上してくる
「……ん…んん」
「ディノ!コラ寝んな!起きろ」
軽く顔をはたかれようやく目が覚める
「あれ?キースなんで?」
「なんでじゃねぇよ…お前なんだってこんなとこで寝てんだつか今何時だと思ってんだよ」
「わ!こんな時間!?嘘、俺結局あのまま寝ちゃったのか…」
失敗した ただでさえ上手く行かない日だと思っていたのに更に下があったらしい
「はぁ……とりあえずウチ入れ 近所迷惑になっちまう……まぁもう遅いかもしんねーけど」
「うっ…ごめんなキース」
時間的に2時間ぐらい寝ていたようで確かに近所の人達は驚かせたし怖かっただろうなとまた落ち込む
「とりあえずそこ座っとけ、体冷えてんなら掛けるもんでも出すか?」
「いや掛けるものは大丈夫、ごめんなありがとう」
とりあえず置いてあるソファに座って待つ
久しぶりにきたキースの家は相変わらず物があまり多くない。散らかるものも少ないと言った感じで自分の部屋と比べると少し寂しようにも感じる
「とりあえず水でいいか?」
奥に行っていたキースが戻ってくるとミネラルウォーターを差し出してくれた 相変わらずの優しさは弱った心に良く染みた
「あ、ありがとう…本当にごめんな色々と」
申し訳なさと恥ずかしさで穴があったらはいりたい
「別に急に来るのはいつもの事だからいいけどよ、こんな時間にしかも治安悪ぃ場所で呑気に寝るんじゃねぇ」
「うぐ…返す言葉もない……」
「はぁ……理由ぐらいは聞いてもいいよな?」
「……なんでかなぁ絶対にコレって理由はないんだ。でもどうしても顔が見たくなっちゃって」
きっかけは確かにあった。色んな事が重なって上手く行かなくて…終わった後にキースに会いたくなった。会って顔を見て話をして安心したかった なんで…と言われたら自分でもよくわからないけれど
「多分安心したかったんだと思う。キースはいつも俺が悩んでる時に傍にいてくれたから今回もって」
「…………」
「キース?」
答えた後反応がなく流石に呆れられたかと不安になってキースを見ると何故か顔を赤くして色んな感情が入り混じった表情をしていた
「……理由は分かった…ような分からねぇようなだがまぁいい。ようは凹むことがあったから聞いて欲しくてきた、と」
「うん、まぁそんな感じ」
直球で言われるとなんだか小さい子どもみたいな理由で間違ってはいない分恥ずかしさが込み上げてきた
「それじゃあ電話なりメッセージなりしてくればよかったのによ」
「あ」
確かに。 そんな事全く頭に無かった
「あ、じゃねーよ!本当に思いついてすぐ行動したのか? ったく危なっかしいなお前は」
「ごめんなさい……」
「お前が強いのはよーーく知ってるけどさなんかあってからじゃ遅ぇんだからもうちょい気をつけて行動しろ」
「はい…気をつけます…」
なんだかブラッドみたいな事をキースに言われてしまったなぁなんて反省しつつ面白くなってしまった
「あーヤダヤダこういうのはブラッドの役目だっての」
「ふふ…」
キースも同じようなことを思ったようで嬉しい
心配してくれてるしやっぱり優しいなぁ
「まぁいいや、そういえばディノお前メシは?」
「え?そういえば食べてないや 任務終わって直ぐにここに来たから」
「…しょうがねーな簡単なの作ってやるから待ってろ」
「いやいや悪いよ!流石に今日は迷惑かけた自覚もあるし!」
「うるせぇ、テレビでも見てろ あ、テレビショッピングはやめろ また余計なもんが増える」
「え?えぇ?」
困惑した俺を置いてキースは料理を作りはじめてしまった
「いいのかなぁ…」
なんだか甘やかされすぎて罪悪感が凄い
何度も思うが彼は優しいのだ。出会ったばかりの頃も自分と仲良くしていると他人から変な目で見られるぞと言葉にはされなかったがこちらのことを案じてくれていたし、仲良くなってからもヒーローになってからも自分やブラッドのことさらにはジェイの家庭の心配までしていた
回りくどいけど誰よりも傍にいる人のことを大切にするそんな彼が誇らしくて大好きだった
「カッコイイなぁ…キースは」
「んー?なんか言ったか?」
「んーん!なんでもない!」
ここまで考えてようやく分かった
自分は彼が大好きなのだ。友人としても1人の人としても だから今日落ち込んだ時も会いたくなった会って自分が満たされたかったのだ
まさかこんなことで気づくなんて、いや今まで気が付かなかったなんてと自分に驚いた
「あー」
自覚すると途端に恥ずかしくなってくる
落ち込んだから好きな人に会って満たされたいなんて、しかも自分の気持ちにも気づかず親友だと思っていた人間にだ。恥ずかしすぎる
耐えられなくて前に自分が持ち込んだピンク色のゲームキャラのクッションに顔を埋める
こういうのまでちゃんとっといてくれるんだもんなぁズルいよキース!
「なんだまた眠くなってきたのか」
1人悶えていると料理を終えたキースがこちらに戻ってきた
「いや眠くはないよ、ただなんかすごい恥ずかしくなってきちゃいまして」
「なんで敬語なんだよ」
ふっと優しく笑うキースに俺今までこんな顔されて平然としてたのか!?と動揺を隠せない
普通にしなきゃと思いはするが自覚した今普通が全く分からなくなってしまった
「流石に深夜にピザは重すぎるからなしな」
そう言って出してくれたのは温かいミネストローネと具材が色々と入ったオムレツだった
「うわぁ!美味しそう!ありがとうキース!」
「足りなきゃパンでも出すから言えよ」
「本当にありがとな、あキースは食べなくて大丈夫なのか?」
「オレは帰ってくる前に食ったからいらねー気にせず食べろよ」
自宅の前で寝ていた友人にここまでしてくれるなんてと申し訳なさと感謝と久しぶりのキースの料理に興奮した俺はとんでもないことを口走ってしまった
「う…カッコよすぎる…惚れちゃいそうだ」
やってしまった
「は?」
うわぁー!!引かれたかな?ヤバイヤバイ疲れて自制が効かなくなってる!俺が1人脳内でパニックをおこしている間にキースはなにかを考えているような素振りだがそれどころではない
「…………惚れてもらわねぇと困る」
「え!?キース今なんか言った??」
「なんでもねぇよ。ほら冷めちまうから早く食べろ」
「そ、そうだな!いただきます」
久しぶりのキースの料理は相変わらず美味しくて本人の性格を表したかのように優しい味がする。さっきまでのパニックは何処へやら思わず頬が緩んでしまう
──そんなこんなで料理を満喫した後キースの家にお泊まりすることになった
最初は断ったのだが時間も遅いし今から帰って自分の部屋から明日の任務の集合場所に向かうよりもキースの家の方が近いという話になり結局好意に甘えさせて貰うことにした
「本当に今日はごめんなキース色々迷惑かけて」
「さっきからずっとそれだな。別にいいって言ってんだろお前が色々巻き込んでくるのは今に始まった話じゃねーし放って置くのも気分悪いだろ」
「今度なんでも!……いやある程度まではお願い聞くからな!」
「ほーそりゃ楽しみだ…何を聞いてもらおうかねぇ」
「ある程度!ある程度までだからな!サボりたいとかはダメだぞ」
「へいへい、ある程度、な 考えとくよ。てか疲れてんだろ?さっさと寝るぞー」
よくあるじゃれあいをしながら電気が消される。来客用(と言ってもほとんど俺とブラッド用になっている)の布団を敷いて眠りにつく
「おやすみ。本当に今日はありがとうなキース」
「……おやすみディノ」
次の日なかなか起きないキースを叩き起し2人でそれぞれの任務に向かうため歩いている時キースが大変なサプライズを仕掛けてきた
「え!?なんで!いいのか俺に渡しちゃって!」
そうキースが俺に自分の家の合鍵を預けるといい出したのだ
「いいんだよ今回みたいな事があったら俺の心臓がもたねぇし。それなら家にいた方が驚かねぇ」
「確かに玄関先に人が居たらビックリするかもしれないけど!……付き合ってる人とか出来たら困るだろ?」
そうだ今はいいかもしれないけど後々お付き合いした人がいるから鍵を返せと言われたら俺がもたない。返したくなくなってしまう
「しばらくそういうのはいいから別に困んねぇよ…めんどくせーからお願い使うか」
「ダメダメ!俺が得するだけじゃないかそのお願い!」
「じゃあ素直に受け取れよ」
「むむむ……」
嬉しいが受け取っていいか悩んでいると急かすようにキースが話しかけてくる
「ほら、さっさとしねーと任務遅れるぞ」
「んーー!後悔しても知らないぞ!」
そうして鍵を受け取って俺は全力で走って任務先へ向かう
「後悔するぐらいいっぱい遊びに行ってやるからなー!」
なんて捨て台詞を吐きながらキースを置いていった 嬉しさとドキドキと混ぜこぜになって赤らんだ頬を隠しながら走る なんだか今日は昨日と違ってなんでも上手く行くような気がする
受け取った鍵を握りしめてそんなふうに思った