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    shi_na_17

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    shi_na_17

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    たい! ですね!!)
    8/7〜8/8にぴくすぺにて開催されるwebオンリー、「赤い退治人をねらい撃ち!2」にて頒布予定の全年齢ドロ新刊サンプルになります。と言いつつ、渾身のミスでもう既に予約開始されてまーす♡ 取り扱いはフロマージュ様にて。
    届くのはイベント後です。ほんとばか。すいません。

    #ドラロナ
    drarona

    【赤い退治人をねらい撃ち!2】quem di diligunt juvenis moritur. 【文庫サイズ/本文48p/全年齢
    通頒価格700円
    https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.phpproduct_id=1565336

    当日は平日だという事を忘れていて仕事なので、8/8はほぼ日中不在と思われます。が、ちょいちょい出没しては買い物をしていると思いますので、見かけたらよろしくお願いいたします!
    予約早くなっちゃったので、展示とかお題企画とかなんか……出来たらいいなって……思ってます。あとなんか普段会場でしか頒布してないコピー本の自家通販とかする予定ですがいかんせんコピー本なので送料のが高くなっちまうな……それでも良ければどうぞ……もう一冊コピ本作ればとんとんだぜ! って思ってたけど間に合う気がしないので期待しないでください。
    それでは、ぜひ当日覗きに来てやってくださいm(_ _)m

    ↓以下、サンプル(支部と同じ)↓


     なんでもない夜のこと。
     いつもと同じ、変わらない夜の筈だった。いつものように、この広大な城の一室で、ジョンと一人と一匹、なんの不自由もなく、ゲームをして、朝になる。そうしたら棺桶に入って、やっていたゲームの続きに想いを馳せつつ、また次の夜を待つのだ。
     幾度となく繰り返した毎日を、また同じように繰り返す…………そのはずの、夜だった。
     見上げる城は半壊で、ちょっと突っついたらそのままジェンガみたいに崩れちゃいそうだった。そりゃまぁ、そうだよね。だって、爆発したんだから。尖塔なんてもうあった事さえわからないくらいに粉々だ。
     胸に抱いたジョンが、私の顔をじっと見上げている。私はというと、空に見える銀色に輝く満月をじっと見つめていた。
     稲妻のように、鮮烈だった。銀の髪、蒼い瞳、翻る赤い外套。
     見目は大変良いのに、喋り出したらどこかのチンピラみたいに口が悪くて、肝心なところで抜けている。その上、ちょっと油断したら自伝小説なんか売り込んでくる癖に、人の良さと気の弱さがそこここから滲み出るような人間だった。変なやつだった。本当に。
    「人間って不思議だねぇ、ジョン」
     偶にこの城にも、観光ツアーの人とか来るけどさ。そういった人とは、全く違う。見目麗しく、まるで作り物のような外見にそぐわないような、酷く人間らしいヒト。まるで嵐のようだった。一瞬のうちに、私の日常を粉々に、破壊して。
    「ヌヌヌヌヌヌ?」
     こてん。可愛らしく世界の何より丸くて硬い使い魔は、首を傾げる。
    「うん………………そうだね……」
     お父様とお祖父様に土下座して城を直してもらうのは簡単だ。お母様に泣きついて訴えてもらってもいいだろう。
     だけれども、そうしたくない、自分がいる。破壊されたままでも良いと思う、自分がいる。ゆっくりと崩れないように、吹き飛んで半壊の扉を潜る。空がよく見えた。
     このままではここに住めない事は明白だった。なんせ私はか弱い吸血鬼なもので。
     カツ、カツ、カツ。見るも無惨な城のエントランスを真っ直ぐに歩く。そして、床にひっくり返っていた一冊の本を手に取った。
     ハードカバーの単行本。裏表紙に記載された出版社はオータム書店。砂っぽくなった表紙を軽く叩き、くるりと表を向ける。颯爽と赤い外套を翻し、銀のリボルバーを構えた姿。
    「ロナルドウォー戦記……そういえば彼、自分のことをロナルド様って、言ってたっけね」
     あの退治人君……ロナルド、ロナルド……ロナルド君、ね。スマホにぽちぽちと名前を入力して、と。
    「あ、ホームページがある。ロナルド吸血鬼退治事務所……へぇ……」
     新横浜。神奈川県だっけ? ここは埼玉だから……同じ関東だ。とはいえ、微妙に距離がある。
    「わざわざ依頼を受けて、こんなとこまで来たんだねぇ……彼」
     スマホで事務所の最寄りである新横浜駅までの乗り換えを調べて、ぽつりと呟く。新幹線停まるんだ。なるほど。久しぶりに、騒がしい賑やかな夜だったな。城爆破も、花火とか爆竹みたいなものだと思えばまぁそれなりに趣があるような、ないような。
     颯爽として美しく、それでいてころころと感情豊かに揺れる表情。あまりまじまじと見る機会の無い青空は、きっとこんな色をしているのだろうと思わせるような綺麗な瞳。目が覚めるほど、鮮烈な────。
    「ジョン……そうだ! 行っちゃおうか!!」
     何が必要だろうか。棺桶とゲームの燃え残りは必須だよね。あとはメビヤツを記念に一個くらい持って行こうかな。
    「あぁ、楽しい……うん、楽しいね、ジョン!!」
     私を見上げるジョンが、数回目を瞬く。それから、愛しの使い魔は輝くような笑顔で、ヌー!! と歓声をあげて、バンザイする。
    「うん、そうだね! それがいいよね! さすが私!! よし、そうとなったらジョン、荷造り急がないとね」
     何十年……いや、百何年ぶりだろう、こんなに楽しいのは!! それに引き換えだと思えば、城の一つや二つ惜しくは無いね。お祖父様やお父様に言ったら多少は怒られそうだから、まだ言わないでおこう。
     そんな事を思いつつ、ジョンと一人と一匹、廃城と化したドラルク城を、闇夜を踊るように駆け回る。
     粗暴で感情豊かで、そして、夜の世界の何よりも美しい退治人と過ごす、新横浜での日々を夢想しながら。
     思うに、あれはきっと、一目惚れってやつだったのだ。


     ぐらり。視界が揺れた。眠い……眠い、ような気はするけど、もしかしたら、違うのかもしれない。もうよくわかんねぇ。わかんねぇけど、ぐらぐるする。
     なんて、ぼんやり考えつつ廊下をずるずる足を引き摺って歩き、事務所の扉を開く。
    「おかえ………………うわぁ」
     そういえば、こいつ今日はずっと事務所に居るって言ってたな。あんまりにぼんやりして、忘れてた。
     そういえば外から見る事務所の窓が明るかったかもしれない。それすら、確認する余裕が無かった。もうとにかく、ぐらぐらして、目元がなんだか定かでない。
    「ちょっと引くくらいボロボロなんだけど、どうしたの?」
     なんてガチで引いた顔するドラ公がこっちに来るのより、ジョンが駆け寄ってくれる方が早かった。
     ジョン!! 心配してくれるの~~? 
     うーん元気だったら飛びついて腹毛をモフりたいところだけど、ちょっとそんな余裕も無さそう。
     メビヤツに帽子を預けたら、ふらふらと揺れる視界と身体を引き摺って、事務所のソファに崩れ落ちるようにどかっと座り込んだ。
    「なんか……あんま見たことない下等吸血鬼がバカみたいに……わらわら……わらわらわらわら……山みたいに……」
     応援要請に応じて向かった先に群れていたのは、吸血百足だった。愛用のハエ叩きで叩いても叩いても湧いてくる吸血百足のせいで、遂にハエ叩きが折れた。スプレーもその時点でもう残が尽きていて、仕方ないから拳で殴って殴って殴りまくった。
     だって、銃を使うには勿体ないと思ってしまったのだ。悲しい個人事業主のサガだ。だって……弾も火薬もオイルもタダじゃないから。経費だけど。
    「つかれた………………」
     俺が疲れてんだからみんな疲れてんだろう。だから俺だけ泣き言言ってらんねぇ、なんて思う気持ちもあるにはあるんだけど、なんていうか、それどころじゃないくらいに疲れた。
     だっていっぱいの吸血百足って、それだけでちょっと気持ち悪ぃし。集合体恐怖症の人とか、軽くトラウマ案件だし、なんならちょっと噛まれたし。
    「珍しいね、ロナルド君がそこまで言うなんて」
     ソファの背もたれの後ろに立ったドラ公が、心底驚いた風にそう言ったけど、その表情は全然見えない。
    「そんなところで寝たら、起きた時絶対後悔するよ」
    「寝てねぇ」
    「はぁ……そういうのは目を開けてから言いなさいよ。遊び疲れてそこらで寝ちゃう5歳児か」
     ちげぇし俺そういうんじゃねぇし、と思ってそこで漸く気付いた。目ぇ瞑ってたわ。
    「やべぇ寝る……向こう行くわ」
     危ねぇ。本気で寝るとこだった。
     気合で瞼を持ち上げて、ソファに歩いて行った時と同じように、ずるずると足を引き摺って、居住スペースの扉を開く。
     ブーツを脱ぐのすらめんどくさいけど、脱がないと脱がないで汚れる。ドラ公が掃除するけど。それに、足臭くなりそうだし、窮屈だし寝れないしで、どうしたって脱がざるを得ない。
    「お風呂は?」
    「今はむり……沈む……溺死する……起きたら………………入る…………」
     もう今にも寝そう、というか、もう半分寝てる。外套が皺になりそうだけど、それを脱ぐのすら面倒臭い。どうせしわしわになっても、ドラ公が二百年で培われた謎に高レベルな家事スキルで新品みたいにするし。
    「ファーーーーー!! 後で入るって? 汗臭ゴリルド」
    「殺した」
     声を頼りに拳を振るったら、さらさらしたから無事殺せたんだろう。ったく、余計な体力使わせんな、こっちはマジで疲れてんだよこのクソ砂……あ、本気で寝そう…………。
    「じゃあ起きたら夜食食べなさいよ。レンチンで食べられるもの用意しとくから」
    「おう…………」
     ずむずむと、意識が沈んでいく。身体が泥みたいだ。手袋すら外してねぇけど、もうどうでもいい。とにかく、寝れれば。
    「ねぇ、吸血された?」
     足元からうかがうような声。なんでそんなとこにいるんだよ、足臭いかもしんねぇだろ。まぁ臭くて苦しむのは俺じゃなくてドラ公だから知ったこっちゃないと言えばそうだけど。
    「された…………かも……」
     噛まれたことは覚えてる。足首んとことか、ふくらはぎとか。あ、だから、痒いのか。明日起きたら薬塗っとこ。
    「う~~~~ん…………」
     ドラ公が遠くの方ですごく不満そうに唸ってる。なんでお前が不満そうなんだよ。意味がわからん。
    「同じとこ、噛んでもいいかな……」
     ぽそりと、小さな声が聞こえた。
     考えること、数秒。
    「あ? 良い訳ねぇだろ足の臭さで死ね」
     半分寝てたせいで反応が遅くなったが、雰囲気で声のした辺りを蹴っ飛ばしたら、ドラ公が塵になった気配がした。
    「嘘だよ…………噛まないから」
    「当たり前だわボケ」
     そこまで言って、蹴られたせいで死んだと思いたいけど本当は死ぬほど足が臭かったから死んだんじゃねぇだろうな、と心配になった。
     が、しかし。それを深く考えるより先に今度こそ本当に眠気が限界で、ぶつりと電源を消すみたいに意識が途切れた。


     やっっっっっっっっっっば。
     未だバクバクと大騒ぎ遊ばせる心臓が口から出そう。うわ…………うわぁ。
     寝たと思って、油断した。いや油断したというか、私も私にびっくり発言だったんだけど。いやまさか、私そんな風に思ってたなんて…………いや確かにちょっと、思わなくもなかったけどまさかのまさかで……。
    「ヌヌヌヌヌヌ、ヌイヌーヌ?」
    「大丈夫だよ……ただ、ちょっと……いやだいぶ、びっくりしただけ」
     胸に手を当てて、深呼吸。
    「ゲッホゲホゲホゲホあ痛ッ!!」
     深呼吸しすぎて咽せ込んだ挙句舌噛んで死んだ。
    「ヌーーーーー!!!!」
    「あぁごめんごめん」
     泣かせてしまった。素早く復活して、ジョンを抱き上げて頭を撫でてあげる。でも、一回死んでちょっと落ち着いたかな。何がって……私の心臓が。
     でも、ほんとに。
     すぅ、すぅ、すぅ。普段の煩さが嘘みたいに、静かに寝ているロナルド君の寝顔。綺麗な、作り物めいた完璧さを携えたそれ。
     見た目だけが好みなら、これを手元に置いておけば良いんだろうけど……それは決して、できない。だって、そうしたら私の好きな彼の殆どが損なわれてしまう。そう考えると、私は、彼の全部を愛してしまったのだろう。
     そんな事、初めて会った時から知ってるけども、知れば知るほど、共にいればいるほど、愛しくなる。この粗暴な5歳児もとい毛深いゴリラの事が。
    「ロナルド君、本当に疲れてたんだなぁ……寝かしておいてあげようね」
    「ヌン!」
     小声でジョンと微笑み合う。それから、ジョンを頭の上に乗せてから、ロナルド君に上掛けをかけてあげる。寝てる間に落とすかもしれんが。とか思ってるうちに、足元がもぞもぞ動いて、ぴらりと上掛けが捲れた。
    「この寝相の悪い5歳児め……」
     ぶつくさ言いながら、捲れた上掛けの端を摘んだ瞬間、意図せずして足首からふくらはぎまでが視界に入り──喉の奥が、苦しくなる。
     下等吸血鬼に噛まれたという、吸血痕。こんなもの付けて来おって、このおバカ。攻撃力に全振りした脳筋か??
     誰とも知らない、いや、誰などという自己を持たない何かに、こんな。
     イライラしつつ、とりあえず常備薬の虫刺され用の塗り薬をこれでもかってくらい塗ってやる。
    「私の気も知らないで……」
     私の洗った、皺のない綺麗な服を着て。私の作った、ロナルド君の好きな料理を食べて。私が綺麗に洗ったお風呂で身体を洗い、私の用意したシャンプーとトリートメントでつやつやの髪を靡かせて。
     世の中の綺麗を詰め込んだ男が、私の手によって作られて、闇夜に駆ける姿はそれはもう素晴らしいものだった。
     それだっていうのに、彼が仕事に出れば私じゃない誰かの付けた傷を負って帰ってくる。それだけでも不愉快なのだけれど、見ず知らずの誰か、彼の愛するこの街のために身を張るのは、彼の彼たる所以だ。そこを損なう事は、たとえ自分自身だとしても許せそうにない。
     だから……仕方ない。そう分かってはいる。いるのだが、気持ちとか想いとかというのはなんでこうもままならないのだろうか。それでも相反する気持ちは矛盾しつつもなんとか今の形に落ち着いて、それで良いと思ってはいる……の、だが。
     それでも偶に。偶に、だ。いつもじゃない。偶に。思ってしまう。彼の全部が全部、私のものになれば良いのに。この虫刺されのような吸血痕すら許せない。こんな狭量じゃないはずなのに。
     退治人としてのロナルド君もロナルド君の大切な一面で、それがなければ私の認識するロナルド君という同一性は損なわれてしまうと、わかっているのに。
    「えーーーっと…………そうだ」
     だめだ。この思考は、ダメだ。これはきっと、じくじくと蝕む毒のようなものだ。籠の中のリンゴの内、一つが腐ったら全部が腐ってしまうようなものだ。
     別のことを考えなければ。そう例えば、献立とか。
    「ロナルド君に、レンチン出来るご飯を作ってあげなきゃいけないんだった」
     そう軽い調子でポンと手を叩くと、頭の上のジョンがソファの背もたれの上に降りて、びしっと右手を上げた。
    「ヌンヌ!!」
    「ジョンも手伝ってくれるのかい? ありがとう……きっと青二才も喜んでくれるだろうね」
     ジョンの肉球マークでもつけて、ジョンと作った旨をメモで残して。そうしたら、単純な5歳児のことだから狂喜乱舞するんだろう。本当にロナルド君は、感情に素直だから。
    「じゃあ、一緒に作っちゃおうか」
     そう笑いかけて、嬉しそうなジョンと共に、キッチンへと向かうのだった。
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