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    shi_na_17

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    shi_na_17

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    バレンタインの付き合ってないドラロナ→付き合ってるドラロナと厄介オタク達のはなし。バレンタインって何でしたっけ?ってくらいにノンシュガー。

    #ドラロナ
    drarona

    バレンタインのドラロナ2024 買い物帰りのるんるん気分で、事務所のあるビルの入り口を潜る。明日はバレンタインである。バレンタインにチョコレートなんて日本でしかやってない土着的な風習ではあるけれど、祭りには全力で乗っかるのが吸血鬼たるものの使命である。
     というか、そんな美味しいイベント乗っからない訳がないじゃないか。
     こちとら同居ゴリラに絶賛片思い中なんだから。
    「ん……なんか届いてるな」
     ポストから覗くいくつかの包み。見た感じ、既製品ではなさそうだけども……っていうかこれ、なんか……。
     買い物帰りのるんるんなんてそこらに投げ捨てても良いと思うくらいの嫌な予感。しかし買い物した物の中身もそこらに捨てる訳にはいかないものなのは間違いないため、とりあえず投げ捨てはしないけれど。
     ポストからはみ出す一番手前の箱を抜き取って、手に取る。包装はそこそこ綺麗に出来てはいるものの、決して店で施された物ではない。リボンを解き────そこで鼻先を掠める慣れた匂い──いや、臭いに、顔を顰める。
    「これ…………」
     ぱかり、と箱の蓋を開ける。ひとつひとつ、包装を解いていくにつれ、濃くなっていった臭いは、この時点で最高潮に達している。
    「こんなもの……」
     この箱に丁寧に並べられたチョコレートから漂うのは、血液の臭い。しかも、女性の。
     宛先は、ロナルド様だって。なんか普段からロナルド様とか呼んでそうな感じだ。消印や宛先がないところから見て、手投函だろう。事務所として住所の公開義務があるから仕方がないが、自伝小説なんか書いててそこそこの人気がある割にロナルド君はそのあたりほんとガバガバだ。事務所と家が同じってところがその最たる例である。
     HPとか市役所で配るパンフレットとかに住所があけっぴろげに載ってるところに住んでるってセキュリティのセの字も無いだろ。なんて話を本人にしたら、住所がわからないと仕事来ないだろって言われたけどそれは事務所の話であって住居の話ではない。これ幸いとばかりに転がり込んできた吸血鬼の言えた話ではないが。まぁ、それに関してはもう何をどう言ったところで平行線なので何も言わないけれども。
    「っ、出遅れたか……!!」
    「半田君? 君、どうして」
     焦った声は、紛う事なく半田君のものだ。
     彼はいつものように何かしらが入った袋を片手に、ズカズカと大股でこっちに向かって歩いてくる。その勢いだけで砂りそうになる私の手から、箱を取り上げた。
    「え」
     呆気に取られる私の目の前で、半田君は何の躊躇もなく事務所のポストの暗証番号を合わせて蓋を開き、よくあるマンション備え付けのそれよりも大きめなポストの中から、数個の箱を取り出して袋の中に放り込んでいく。
    「もしかして、それ」
     指差すと、半田君は袋に突っ込んだ数個の箱に目をやって、それから小さく息を吐く。
    「あのバカは昔から自衛に関心がない。いくら事務所と家を一緒にするなと言っても聞かないのだ。それに加えて、手作りのもののリスクになんかまるで想像もしていない」
     異物混入など、相手の事務所兼自宅のポストに手投函するような輩にとっては何の疑問もなく行える程度の所業である。そうでなくても手作りというものはリスクが高い。私は気を付けて作ってるし、そもそも作って時間が経たないうちに平らげられてるし、常備菜だって家庭で気を付けられる程度の配慮はしてるけども、作った環境も作られた日時すらわからない、誰が作ったかもよくわからないものなど、口にしないに越した事はない。
    「君、毎年こんな事してるの?」
    「たまたまポストの中にあった邪魔なものを回収するだけだ」
     そんな事を言いながら、半田君は別の袋から取り出した紙袋をポストの中に突っ込もうとして、それからちらりと私に視線を向ける。
    「ロナルドに渡してくれるのなら、預ける」
    「あ〜……ロナ造にはポストで見つけたって言っとこうか」
     半田君が作ったものなら、きっと衛生管理はしっかりとされているのだろう。いや、どうせセロリだからロナルド君の胃には入らないだろうけど。
    「毎年恒例なのだが…………場合によっては、来年からは辞める事にする」
     そんな事を言う半田君の表情は無表情だった。その裏側に、どんな感情が渦巻いてるか走る由もない。しかし。
    「良いんじゃないのかね。毎年恒例なのだろう?」
     そこに関しては、私が関与する事ではなかろうよ。私もどうこう言うつもりはないし、気にもしないつもりだ。なんせ、君達との関係を含めてのロナルド君なのだ。彼を形成する程に、深く彼という存在に深く関与しているということは、嫉妬しちゃうけどもね。
    「まぁな」
     そう言ってひらりと手を振った半田君を見送って、事務所へ帰った。
     帰った先で事務仕事やってたロナルド君に半田君のチョコを渡したら、予想通りわくわくした顔で開けた後中身を見て悲鳴を上げながら天井まで飛び上がったし、後日呪いのチョコの類は最初から食べ物お断りを謳っているオータムの方にも届いていて、フクマさんやオータムの皆さんの方で然るべき処置をしていてくれていた事を知った私はショックで死んだ。

     なんてのは、どのくらい前の話だったっけ。ロナルド君と付き合う前で、事務所に転がり込んでからで、ロナルド君が私のご飯をもりもり食べるようになった頃。真面目に考えればすぐに答えは出そうだけど、ちょっとめんどくさくなったから考えるのはやめた。どうせ何年前だったか思い出したところで、労力程の意味はないから。
    「喜ぶべきか……怒るべきか……」
     あの頃の毒チョコの生産者である厄介ストーカー達は、あわよくばロナルド君と付き合いたいとかいう下心が透けるどころかモロ見えだった訳だが。
     写真フレームやペアルックのアクセサリーに始まり、ウェディング雑誌、結婚式場や結婚指輪のカタログ……なんかはまだマシな方かな。チョコレートフレーバーのローションとか、コンドームとか。逆によく買えたな、と感心するレベルだ。
     当時の健康を害する可能性の高い食べ物よりかはまだマシと思うべきなんだろうけど、それはそれとしてこれもどうかと思うけども。
     ファン層が変わったのか、それともあのストーカー達がそのままジョブチェンジしたのか。厄介さ加減は変わってないな。あの半田君に『俺はもう知らん』と言わしめただけの事はある。
     ヌーチューブ配信での匂わせとか街中での厄介ファンへの牽制だとか、私もまぁそこそここの事態に加担しているようにも思うが、言って全体の1割から2割くらいじゃないの? 多分。わかんないけど。だからまぁ、そこはもう良いとして。
    「ディスられるよりかはマシかなぁ……」
     バレンタイン当日、エゴサした訳でもないのに嫌な気分になるのは困る。ちょっと気持ち悪いけど。普通なら下手すると盗聴器とか盗撮とかありそうだと考えるところであるが、そこに関しては優秀な公務員がチェックしてるだろうし、何よりあんなに優秀な門番がいる以上下手な真似は出来ないだろう。
    「ドラ公? 何してんの?」
     聞こえた声は、ロナルド君のものだった。チンチンタラタラとしている内にパトロールから帰ってくる時間になってしまったらしい。私とした事が。
    「いや、半田君からのプレゼントが無いかどうか確認しようと思って」
    「ヒィッ?!?! んな危険物持って帰ってくんなよ!! 俺先行ってるから!!」
     限りなく壁際を平べったくなって風のように通り抜け、ロナルド君はエレベーターに駆け込む。まぁ実際のところは半田君のプレゼントはここには無いけれども。部屋の中は知らない。私も買い物から帰ってきた所だし。
    「あ、ドラ公」
     さて、このレディー達からのプレゼントはどうしたもんかと考え始めた私に、ロナルド君の声が届く。呼ばれはしたが、顔を出すつもりはないらしい。多分エレベーターの中で開くボタンを押し続けてるのであろうロナルド君は、そのまま顔を出さないで、問う。
    「今日の飯なに?」
    「君の好きな唐揚げだよ。ちゃんとチョコレートケーキも用意してるから、安心して」
     エレベーターの中から、がったん! と何かしらがぶつかったような音がする。あんま暴れるとエレベーター壊れるぞ。
    「なっ、なななな、んっっっ?!?! そっ、んなのっ……べ、別に!! 心配してねぇよクソ砂ァっっっ!!!!!!」
     心配じゃなくて期待してたんでしょ、なんて言おうものなら本当にエレベーターを壊しかねんからな、あのゴリラ。付き合って直ぐの初心な頃でもあるまいに、いつまで経っても慣れやしないんだから。
     本当、いつまで経っても可愛らしいんだから。
    「じゃ、じゃあ……手、洗って……待ってる」
     だから、早くしろよ。
     そんな声を漏らしながら、エレベーターのドアが閉まっていく。今頃、彼はきっと頬を真っ赤に染めて、蹲りでもしているだろう。
     可愛らしい恋人の姿を思い浮かべながら、取り出した荷物の詰め込まれたゴミ袋の口を締めながら呟く。
    「結婚式関係のパンフレットだけはもらっておいた方が良いかな……」
     その独り言は、誰にも届かなかった……はず、なのに。
     一ヶ月後、何故か大量に届いた結婚式場のパンフレットの山を前に、真っ赤になってわたわたするロナルド君を見て、思った。

    ──少なくともあのタイミングであんな事は言わない方が良かったな……今度から気をつけよ。

     それからしばらく、結婚式場のパンフレットがポストを埋め尽くす事になるのを、その時の私は、まだ知らなかった。
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