「──ねぇ。知ってた? 月の裏側にあるクレーターのこと」
「……?」
「知らないなら教えてあげる。そこにはね、たくさんの死体があるんだってさ。月では人がたくさん死ぬんだけど、それは決まって満月の夜なんだ。しかもみんな同じ死に方らしいよ。それがどんなものかっていうとね……」
月明かりに照らされた夜の海をぼんやり眺めている風間に向け、隣に立った迅は聞いてもいないのにつらつらと言葉を紡ぎ続けた。
「首を切られたり内臓を貫かれたり……あとはまぁ、食べられたりするんだって。月じゃ人をよく食べるから、そうやって処理しないとなって話だけど。でもそういう時に限っていつも新月が来るんだ。満ち欠けを繰り返す地球と違って月は常に満ちていて、月にとっての栄養補給だから、いくら死んでもその死体はすぐに再生して次の餌を待つだけ。永遠に終わらないんだってさ。だから裏側に行くことはできないし、ましてやそこに行ったところで何も見つからない。あるとしたらきっと、昔の人間の死体くらいだよ」
18013