謎のメモ「初めてのキスはレモン味らしいよ」
そう言った声は粟田口の子だったか、それとも加州の坊主だったか、何振りかが集まっていた部屋の横を通った時にたまたま聞こえてきた言葉。それがやけに耳について離れなかったのだ。
「……ッ…は…ん…っ…」
息苦しさに涙が溢れる。
何度も離れようとして、それでも執拗に追いかけてくる唇から逃れきれずに呼吸を失う。必死に鼻から酸素を取り込もうとすれば漏れる声に、羞恥心が煽られる。
それをわかっているのか、うっすらと開けた目が、ニヤリと笑んだ薄青とかち合って咄嗟に目を閉じた。
「……はっ…も…」
僅かに離れた瞬間に紡ぎ出した言葉が食べられて、ちゅくちゅくといやらしい音を立てて吸われた舌にもう堪らず歯を立てた。
髪に差し込まれた手が緩んでようやく解放される。
はあはあと息を切らしながら、彼の胸に身体を預ければようやく満足な酸素が身体に行き渡った。
「……もう…どう、したんですか?」
腹いせに前に垂れていた金糸の髪を引っ張って言えば、上からふっと溜息にも似た吐息が落ちてくる。
柔らかな髪を指に絡ませながら、恐る恐る顔を上げる。
何度となく触れ合ったせいで常より赤くなった唇。自分のものもそうなっているのかと思うと恥ずかしい気もしながら彼を見上げる。