いってきます!修行道具に旅装束、そして手紙一式。
修行の申し出をしてきた男士達に必ず手渡す一式を、ついさっき同じように手渡してその背を見送った。
ゆっくりと障子の向こうに消えていった背中が見えなくなるまで見送って、自分の部屋を振り返る。
執務室の隣。自室の布団の上でピカピカと光っているだろう端末を扉越しに睨みつけ、手をぎゅっと握った。
南泉くんは何も知らない。
何も知らせない。
そう決めて修行に送り出す事を決めたのに、私の心はまだ未練がましく奥底で喚いてる。
それに従うわけではないけれど、やっぱり少しだけ勇気が欲しい。彼が頑張っている間、私も頑張れるように。
立ち上がって障子を開ける。
「廊下は走るな」と雅な初期刀の声が聞こえてくる前に自室前の廊下を走り抜け、本丸母屋へ。急カーブを右に曲がり、もうすぐ一文字の部屋というところでその背中を捕まえた。
「南泉くん…」
背中の服を掴み引けば「なんだぁ?」と振り返ろうとしてくる彼の背中にしがみついた。
「南泉くん、帰ってきてね。」
額をぐりぐりと背中に押し付けて呟いた。
「私も頑張るから。待ってるから。」
ーーー………
これは独り言のようなもの。彼の耳に届かないように口の中だけで呟いて、彼の香りを忘れないようにスンと息を吸う。
「ん。帰ってくるに決まってる……にゃ。だから待ってろよ。」
振り返る事なく言った南泉くんの背中に顔を押しつけて、コクコクと頷く。きっとそれだけで伝わってる。
「よし!行ってこい!南泉一文字!」
顔を上げて、バシンとその背を叩いた。
「んだよ、いってーな…」
と僅かに振り返った南泉くんにニッっと笑った。
「この後の見送りはしません!用意ができたら好きな時間に行くように!転送ゲートの鍵は一文字の誰かに預けてあるので、行けばわかります!」
一気に伝えれば、大きな目をパチパチとさせた南泉くんがすぐにげんなりと肩を落とす。
「一文字の誰かって…」
「長義くんのがよかった?」
「……んなことは、ねえけどよぉ…」
唇を尖らせた南泉くんにくるりと背を向けてひらひらと手を振る。
「無茶すんなよー」
と告げた南泉くんの声に、えっ!と振り返りそうになりながらも、私は足を止めずに歩き出した。
真っ直ぐに前を見つめて。