南さに 一歩前へ「おおっ、これは壮観だな。」
感嘆の声をあげて部屋を見回した御前…一文字則宗に部屋の隅っこに追いやられていた座布団を差し出す。
「散らかっていてごめんなさい。あの人たちが送りつけてきたんです。」
開いた扇子で口元を隠し、彼独特の笑いを溢した御前に苦笑いして、向き直る。
「して、僕に用とは何かな。主直々の願い。何でも聞き届けるぞ。」
そう言ってくれた彼に少しだけホッとする。
「明日の現世に帯同してもらえませんか。」
そう勢いよく言って頭をさげる。一文字派の祖である彼はいわば南泉くんの身内。明日ともに現世に行くことが許される刀剣は一振りのみ。ならば南泉くんのお身内にお願いしたかったのだ。
まあ…その見た目を含めての理由なんだけど。だって彼ら、見た目がヤ…げふんげふん。
幸いというか何というか、うちの両親は審神者の仕事についてはよく理解していない。守秘義務という事もあるけれど、こちらのことを知ろうともしないのだ。自分たちの都合の良い時に都合の良いように使えれば、子供が何をしていようとも関心を抱かないそんな人たちだ。
だから娘の職業をただのちょっと秘密の多い国家公務員だと思っている。
だからそんな娘が堅気かどうかわからないような者を連れているだけで驚くだろうし、むこうの印象も悪くなるはずだ。
「まるで御前たちが怖いって言ってるみたいですみません。」
正直に全てを話して今回の現世行きの理由諸共お話しすると、御前の目がにんまりと三日月に変化した。
「うはははっ。面白いじゃないか。存分に僕を使ってくれていいぞ。見た目なら山鳥毛の方が良いのではないか?」
「あ…いえ…流石にちょっと威嚇しすぎではと思いまして。」
その言葉に怒りを買わないだろうかと若干ビクビクしながらも御前を見ていれば、確かになぁと頷いていた。
「まあ僕はもう隠居の身だが、それ故に自由に動ける部分もあるからな。なあにお前さんのためだ。存分に働かせてもらおう。」
そう言ってもらえてホッとする。
よろしくお願いします。伝えれば、その話はもう良いなとばかりに彼の視線が部屋に散らばる物たちへと移った。
部屋の床を埋め尽くしているのは色とりどりの着物だ。
緑に紺、黒に赤。意匠を凝らした美しいデザインが施された着物が並んでいる。生地やデザインから察するに、今持っているものの中でもかなり高かな部類のものだけを送ってきたようだ。当然と言えば当然だけども。
この中から一つ選んできてこいということらしい。一着にしなかったのはせめてのものご機嫌窺いといったところだろう。
「どれ、着物は決まったのかな?」
じっと着物たちを見つめていた御前が聞いてきた。
「はい。これです。」
それに一つを指し示す。
それは赤地に白い花の刺繍がふんだんに施された振袖。帯は黒地に金色の刺繍だ。
この中から選ばなければいけないというならせめて。と彼の印象をもつ色を選びたかった。少しだけ彼の力を借りるつもりで。
「そうか。」
私の選んだ着物を見て目を細めた御前は、ニコニコとしながら私の頭を撫でた。
「明日は思い切りやってやれ。僕がお前さんを守ろう。」
そう言って部屋を出て行った。
頼もしい味方ができたところで勝負服となった着物を睨みつける。
決戦の時は明日だ。