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    kisasu2612

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    kisasu2612

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    明日でラストかな。
    南泉くん…

    南さに 一歩前へ「ほお、これはこれは。」
     振袖を着た私を見て、御前が笑う。
     扇子の上から出た片目は笑っているように思えたけど、本当のところはわからない。
    「馬子にも衣装だな。」
     そう続いた言葉にうっと言葉が詰まる。
    「褒めてないじゃないですか。」
     自分の格好を見下ろして、再び御前を見れば先ほどとは違った優しい顔で笑っていた。
    「うんうん。坊主に見せてやれんのが申し訳ないくらいだな。」
     そんな御前の言葉に、あの子が今の私を見たらどんな反応をするんだろうと想像してみる。
     顔を赤くしてくれる?それともふぅんとそっけない態度だろうか。
     いつもとあまりにも違いすぎるからドン引きするされる可能性もあるな。それが速攻逃げられる。
     いくつも想像できるあの子の顔を思い出して思わず笑ってしまう。すると御前が一歩前へと進み、私の頭をそっと撫でた。
     撫でたというより…
    「これを…。」
     スッと頭に刺されたものを手探りで触る。
     しゃらりと揺れる飾り。髪に刺されたのは一本の簪だった。
    「あぁ…美しいな。」
     それは簪に対しての褒め言葉か、それとも私に対してのものなのか。しみじみと呟かれた言葉に恥ずかしくなる。
    「本当に坊主には見せてやらないつもりなのかい?」
    「はい。お見合いは昼過ぎまでの予定ですから、夕方までには戻って来られるはずですし。こんな格好で出迎えたら、南泉くんびっくりしちゃう。」
    「うはは。それも一興だと思うがなぁ。」
     南泉くんが帰ってくるまでには全てにカタをつけてくるつもりだ。そしてあの子にもっときちんと向き合うんだ。
     まあ振られちゃったらそれまでだけど。
    「御前、今日はよろしくお願いします。」
    「あぁ。護衛役、喜んで務めよう。」
     差し出された手に手を重ね部屋を出る。久しぶりの着物で少し動きにくいが、そこは呉服屋の娘。すぐに昔を思い出した。
    「いってきます。夕方には帰ると思うけど、留守の間頼みますね。」
     見送りにきてくれた初期刀に告げて、御前と二人転送ゲートを潜った。

     久方ぶりの両親は相変わらずだった。転送された場所は会場に指定された清楚なホテルに程近い場所で、すぐに着いた。
     フロントで声を掛ければ、静謐な空気漂う庭園に案内される。
     そこに私の両親はいた。
     背後にいる金髪の麗人に驚く様子もなく淡々と案内してくれたホテルの従業員とは違い、私を見て顔を綻ばせた両親の顔が一瞬で凍りつく。
    「…こちらの方は?」
     久しぶりに会う娘への言葉もそこそこに、後ろにいる御前をチラチラと見ながら言葉を発した母親は戸惑いを隠しきれないと言った様子だった。
    「前にも話した通り、私の仕事は特殊なの。彼は私の護衛として付いてきてもらいました。それに会っておいて欲しかったので。」
     最後にそう付け加えれば、母親の顔色がスッと変わる。
    「初めまして御両所様。今回はお会いできて光栄です。」
     恭しく頭を下げた御前に、両親が引き攣った笑みとともに頭を下げる。
     見合いの席だというのに男性を連れてくることに向こうへどう取り繕うかを考えてでもいるのだろう。
     それでも何とか顔色を取り戻した両親は、こっちよと私たちを案内してくれる。
     庭園の隅に建てられた離れ。そこが見合い会場だった。
    「先に大事なお話があってね、もう来られているの。ほら貴女も上がって、粗相の無いようにね。」
     予想通り、全くもってこちらの話を聞く気はないらしい。私が自分たちの思い通りに動くと思い込んでいる両親らしいスケジュールだ。
    「護衛の方もここまでで大丈夫ですよ。この後はお相手と会うだけですから。」
     後ろにいる御前にそう声をかけ、私たちを離そうとする。けれどそこは私が止めた。
    「彼は私の護衛です。目の届くところにいてもらわないと困ります。これも職場の決まりですから。」
     そう両親に強く言って、御前を呼び寄せる。そして御前の手を取り、場所へと入った。
     ここで見せつけておくのも作戦の内だ。
     純和風の室内にはすでに相手方が控えていた。といっても座っているのは男性一人。年齢不詳の顔のいい男を見慣れすぎているせいではっきりとはわからないが、40後半から50代といったところだろうか。
     私は男の正面に。私の隣には両親。
     そして御前は部屋の隅へと座る。
     男はちらりと一瞬御前を見ただけで、何も言わなかった。
    「初めまして、今は仕事柄こういった場で名を名乗ることができないこと申し訳ありません。両親から聞き及んでいると思いますが。」
     畳に膝をつき、頭を下げてからそう告げる。
     相手の男は表情を変える事なくこちらを見据えると、まるで体を検分するように上から下まで不躾に眺め回した。
     鳥肌が立つような心地を覚えながらもそれを受け止める。
    「初めましてお嬢さん。今回の縁談、受けてくださって大変ありがたい。そちらの希望通り、ご両親の事は心配なさらずお任せください。」
     口の片側だけをあげる歪の笑みを浮かべて男が言った。
    「さて、今後の事だが…。」
     早速本題と言わんばかりに口を開かれ、咄嗟に両手を向ける。
    「っこの縁談ですが!」
     言いかけたところに、襖の外から控えめな声がかけられた。
    「お食事をお持ちしました。」
     という仲居さんらしき人の声だ。
    「まあ時間はたっぷりある。今後に事は食事をとりながらにしましょうか。」
     出鼻を挫かれた形になりながらも、今はそれに従うしかない。言葉を喉の奥へととどめながら、運ばれてきた食事をみやる。
     さすが。高級料亭のような料理が運ばれてきて、輝きそうになってしまう目を瞳を閉じて落ち着かせ箸を取る。
     そんな私に気がついたのか、ふふふと笑う男の人はだいぶ良い人のように見えた。
     皆で箸を進めながらほぼ一方的に両親が私の良さを語っている。
     学生時代は成績が良かっただの、少しお転婆なところはあるが躾だけはしっかりしてあるだの。
     セールストークかよとげんなりするような内容にも関わらず、ニコニコとそれを受け入れている男性を見て正直驚いていた。もっと小汚い(失礼)、もっと偉そうな男だと勝手に思っていたから。
     滞りなく食事が終わり、
    「それではこの後は二人で」
    と両親が部屋を後にする。そして同時に御前に対してもせめて部屋の外へと両親に懇願され承諾せざるを得なかった。
    「主。」
     部屋を出る直前に呼んだ御前に近づけば、耳元で一つ囁かれると同時に、帯締めの隙間に扇子を突っ込まれる。
     背中に感じるじっとりと視線。それに冷や汗をかきながら耳元で囁かれた「しっかりやれよ。」との言葉に頷いた。
     二人きりにされた部屋。
     私はまずこの結婚に関して両親と交わされたと思われる契約のことを聞き出した。
     一つは融資。この先もうちの店を守ための。
     そしてもう一つは私の身柄。
     子を生す存在として。伴侶として事業の為に尽くしてもらうため。
     やはりこれは既にほとんど決定されたお見合いだったのだ。両親は自分たちの利益の為に私を売ったのだ。
     おそらくそうだろうとわかってはいた。だがやはりそれが真実だという事実は私の心を重くする。
     ぎゅっと握りしめた拳。その下でくしゃりとなった着物。
     赤と白。金色の。
     そして腰に刺された御前の扇子。
     ここで踏ん張らなければ、私は皆を失ってしまう。両親には悪いが、今の私には私を産んでくれた家族以上に大切なものがあるのだ。
    「申し訳ありませんが、このお話うけることはできません。」
     しっかりと顔を上げて告げる。
    「はて、お嬢さんは了承済みだと聞いておりましたが。」
     首を傾げた男に、ぐっと言葉がつまる。やはりそう嘘を付いていたのだと。
    「今の仕事は容易く辞めることができるものでもありませんし、辞める気もありません。両親が貴方にしている借金は私が後日一括でお返ししましょう。
     そして融資ですが、必要ありません。
     このご時世でも貴社のように成功している会社もある。うちの店が赤字なのは両親の経営が悪いだけ、潰れてしまうのならそこまでです。」
     言い切った私に男が目を細める。
    「ほう…では貴女はどうあっても私の元にくる気は無い、と。」
     両親がどうなってもいいのか。という脅しにも似た圧を感じる。
     だがお金の問題なら私だけで返せる額だし、子供に関してはそれこそ私のしったことではないだろう。あくまでそちらの家の問題のはずだ。
    「はい。私はどうなってもそちらには参りません。」
     さらに言い募り、じっとこちらを見つめてくる目を見つめ返す。
     数秒に沈黙の後、彼の口から大きなため息が漏れた。
    「そうですか、お話はわかりました。貴女はこちらにくる気は無い。ならば仕方がない。ここまでですな。」
     交渉の余地なしと判断したのだろう、彼が肩を落とす。それにホッとしたのも束の間だった。彼が机の下から出した腕。その手には光るものが握られていた。
    「っ!何のつもりですか。」
     言葉を発すれば、机に膝を乗り上げた男が首元にグッとその先端を突きつけてくる。
     短刀だ。
    「なあに心配はいらない。君はここで息絶え、残った彼は僕らが存分に使ってやろうというのだからな。」
     言った瞬間男の姿がぐにゃりと歪んだ気がした。今までとは明らかに違う異様な空気が男から立ち上る。
    「ーーー主!」
     声と同時に開かれた隙間から飛び込んできた御前が刀を抜いた。
     こちらへと伸びてきた手を即座に切り落とし、私の肩を抱き寄せる。
    「いったい…これは…。」
    「時間遡行軍だな。」
     腕を切られたはずの男は声をあげることもなく、床に落ちた手を不思議そうに手に取った。
     その不気味な姿にぞっとしながらも、審神者としてこの窮地を脱しなければと思考を動かし始めた。
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