千空と三匹の猫黒千ちゃんが過ごす七夕の話「せんくー。それなんだ?」
「七夕用の竹だ。願い事を書いた短冊を吊るすやつだな」
職場の同僚に運んでもらったったというそれを見て興味津々に近づく三匹のクロ達。
「願い事?」
「てめぇらも平仮名くらい書ける様になったし書いてみるか?」
「書くー!!」
「紙ならそこのダンボールに入ってるから好きなだけ持ってけ」
「はーい」
三時間後
「せんくーできたー!」
「ふはは、随分たくさん書いたじゃねぇか」
大量の短冊を吊るした竹が、くの字にしなっている。
「願い事いっぱいあるからなっ!」
「しかし、こんだけ重いと普通に飾るのは難しいか」
「竹折れちゃうのか?」
「竹は丈夫だ。だからてめぇらの願い事は一つたりとも折れたりしねぇよ」
心配そうに見上げる三匹に優しく微笑むと竹をベランダへと運ぶ。
物干し竿を下ろしてかわりに竹を通す。
出来上がった短冊のカーテンに三匹は歓声を上げた。
しばらく、あの願い事だどうだこうだと騒いでいた三匹だったが気がつけば静かになっていた。
見ればリビングの絨毯の上で三匹とも丸くなって眠っている。それぞれにタオルを掛けて、千空も出来上がった短冊をゆっくりと眺めた。
『おかし』
『にくたべる』
『じゅーす』
『すてーきすき』
『さんま』
『おもちゃ』
欲しい物リストと化している短冊に自然と笑いが込み上げてくる。
その中に少し長い文を見つけ千空の口元から笑みが消えた。
『まいにち ごはん うれしい』
『あめ あたらないうち うれしい』
さらに奥の方に隠すように掛けられた短冊を見つける。
『せんくー』
「なんだ、欲しい物ですらねえな」
『せんくーすき』
「おありがてぇ」
『せんくーすてないで』
「………」
『だんぼうるいや』
そういえば短冊用の紙をダンボールから取れと言った。
三匹を拾った時のことを思い出し、迂闊だったなと千空はガシガシと頭を掻き俯く。
足下に落ちていた短冊に気づき、それを拾うとじっと見つめ、それから丁寧に付け直した。
***
くんくん。くんくんくん。
「なんかいー匂いする!!!」
「お腹空いた!!!」
「肉だ!魚の匂いもする!」
涼しくなってきたからとクロ達を運び入れた寝室から大きな声が聞こえ、続いてバタバタと足音が響くと三匹がリビングに現れた。
「うわぁ!ご馳走だ!」
「これ短冊に書いたやつだ!全部ある!」
「いっただきまぁす」
騒がしい三匹に目を細めた千空は早速料理に手を出そうとした一匹をひょいと抱えるとベランダへと出た。
「飯の前に星見るぞ」
短冊カーテンの下で三匹と一人で空を見上げる。
「あれが天の川な」
「せんくーの好きな宇宙!」
「そうだ」
「夏に見える白いモヤ」
「まあ、見えにくいだけで冬もあるんだがな」
「願いを叶えてくれる星?」
「それは流れ星な」
「で、これが俺たちがいる銀河だ」
「どら焼きー!」
千空が取り出したものを見て三匹が声を上げる。
「銀河ってのは、こんな形してんだ」
「銀河おいしそう!」
「で、この辺で割ってっと…。ほら、この豆がある辺りが太陽系。つまりこの豆の中にこの地球があるってわけだ」
「地球あんこの中ー!」
「そうだな。で、この大きい方の断面が今見えてる天の川で、こっちの小さい方が冬に見える天の川だ。ってわけで小さくて薄いから冬は見えづらいってこった」
千空の話に元気よく「はーい」と返事をした三匹はキラキラとした目で千空の手の中を見ていた。
クククと笑った千空は二つに割れたどら焼きをそのまま三匹に渡した。
三匹はどら焼きを手で割り四つにするとその一つを千空に突き付けた。
「いや、俺は……」
いらないからと断りかけて。
「一緒」
と差し出された笑顔に目を閉じた。
「おありがてぇ」
三匹と一人で分けたどら焼きは、何故かとても美味しく感じた。
風に揺られた短冊が一つ。
『みんな ずっと いっしょだよ』