Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    Either619

    @Either619

    @Either619

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 ☺ 🙏 💙
    POIPOI 8

    Either619

    ☆quiet follow

    月彦とぎゆゆが擬似親子になる話 めちゃくちゃ途中 暗い

    #鬼滅
    DemonSlayer
    #二次創作小説
    secondaryCreativeFiction
    #冨岡義勇
    yoshiyukiTomioka

    信号機の画像をすべて選択してください叔父について、私が覚えていることはそう多くない。もっとも克明に思い出せるのは食事をしている姿だった。あの人は特別料理上手というわけではなかったので、当時二人が座る食卓には素朴な品が並んでいた。一汁三菜。一般的で教科書どおりの献立。ただ時々、彼の仕事が忙しくなる時期などは、出来合いの料理が並ぶことも珍しくなかった。私はなぜか、そういう時の叔父の様子ばかり覚えている。
    くたびれて毛玉だらけのセーターに、寝癖や後れ毛が目立つ髪、印象よりも意外に大きな体を炬燵に押し込んで、背中を丸めたままインスタントのコーンスープを不味そうに飲んでいる姿を、今でも鮮明に思い出すことができる。
    それと、ラーメンを啜っている姿。叔父とラーメンを食べたことなど、一生のうちに数えるほどしかなかったが、私はそのわずかな数回を、自分でも滑稽なほど完璧に記憶していた。無造作に流しただけの前髪を、小さなゴムで丁髷のように一括りにして、無心に麺をすする叔父は、その時だけ年相応な青年だったからだ。
    突然姉夫婦を失った遺族の顔でも、小さな甥を押し付けられて働きながら子育てに身を削る苦労人の顔でもない彼は、たとえ前髪がちょんまげでも美しかった。その顔に見惚れるあまり箸が動かなくなった私のどんぶりに目をつけて、もういらないなら貰う、と宣言する叔父は、その時ばかりはまるで同世代の友人のように気安かった。私はいつも慌ててどんぶりを手元に引き寄せながら、この人がずっとこのようであればいいのに、と胸の内で呟いていた。
    叔父と私が暮らすようになったのは、私が13歳、叔父が26歳の頃だった。
    私たちは当時ほとんど交流がなく、特に叔父がアメリカの大学へ進学してからというもの、数える程しか顔を合わせたことがなかった。なのでお互いたまに会っても誰かわからず、近くの親族に誰か尋ねては呆れられることを繰り返していた。一度、母と叔父がスカイプでビデオ通話をしている所に出会したことがある。母の肩越しに、やけに顔の綺麗な若い男が見えて子供心にギョッとしてしまった。どうも叔父も同じだったようで、液晶に映る表情があきらかに強張ったのを奇妙に思った母が、背後に立つ私に気付いて笑っていた。
    「ねえ、ちょっと見ない間に大きくなったでしょう。誰かと思っちゃった?」
    「ああ。……あんな顔だったろうか」
    「ええ?やあね失礼しちゃう。自分だってそっくりな顔してるくせに」
    「まさか」
    「本当よ。あの人なんか、自分より貴方に似てるってこの前拗ねたんだから。中学生になったらグングン背が伸びちゃって、そんなところまで本当に、義勇にそっくりだわ」
    でも月彦のほうが貴方より愛想がいいわね、と笑う母の向こうで、叔父がどんな表情をしていたのか、私は二十歳を迎えた今も思い出せない。
    次に叔父に出会ったのは空港だ。天候の影響でフライトが遅れ、肉親の出棺すら間に合わなかった彼を、私は喪服のまま出迎えた。数年ぶりに再会した叔父の目には、確かに私に対する明確な憎悪が宿っていた。

    空港で所在なさげに立ちすくんでいた子供は、こちらに気づくとその表情を強張らせた。画面越しに何度か見ただけの甥は、自分が生まれるよりも昔に確かに殺したはずの、人食い鬼と空恐ろしいまでに似ている。
    姉夫婦の訃報を聞いたとき、恐れていたことが現実になったのだと思った。
    あの子供は鬼だ。少なくとも鬼だったことを覚えている。殺しておくべきだったのだ。フライトの間、子供を殺す方法を寝る間も惜しんで考えた。いくつかの方法と、いくつかの顔を思い浮かべて、一番確実で迅速で周囲に影響のない計画を練っていた。
    それなのに。
    それなのに空港で自分を待っていた子供は、あまりにもあどけない顔をしていた。甥の進学祝いを国際便で贈ったのは今年のことだったと、その時にようやく思い出した。
    自分の顔をみるなり泣き出した子供を前に、決心が鈍った。詳細まで練ったはずの計画は綻びだらけに思えた。目の前の子供が、鬼に見えなくなった。

    姉夫婦の死因は交通事故だと聞いている。飲酒運転をしていたトラックに轢かれて、他にも何人かの被害者が出たという。犯人は既に捕まっていて、市内に設置されていたカメラにも証拠があり、自供にも矛盾はなく、不審なところは一つもない。
    繰り返し事件の詳細を聞きたがる遺族は珍しくないのか、事故の検証を担当した交通課の職員は辛抱強く質問に答えてくれた。甥はその日、普段と変わらず授業を受けていた。
    懐かしい実家のソファに深く腰掛けて、これからのことを一つずつ考える。
    両親は高齢で、まだ中学生の甥を養育するのは大変だろう。特に父は心臓に疾患を抱えていて、入退院を繰り返している。母は父の世話で手一杯のはずだ。親戚は多くないし、折り合いもあまり良くはない。数年前に勃発した祖父の遺産争いの遺恨は消えていなかった。自分はといえばアメリカで大学を卒業したあと、そのまま向こうで就職した。単純に研究職の待遇が日本よりも良かったからだ。それなりに激務で、恋人を作る余裕はない。金銭的な余裕はある方だ。順当に考えれば自分が甥を引き取るべきだろう。
    甥には空港で再会して以降、少しだけ避けられている。最初は思春期ということもあって距離を測りかねているのかと思ったが、そうではない。あの子供は賢い。自分の叔父が、両親を殺したのは自分ではないかと疑っていることに気づいている。
    まだ中学生になったばかりの子供が、自分が頼れる数少ない大人にそんなことを疑われたら当然傷つくだろう。まして、事実無根なのだ。理由もなく突然憎まれれば、相手を避けたくなるのは自然なことだった。頑是ない人を傷つけた事実に、強い罪悪感を覚えて息が詰まった。
    そう思う反面、その賢さがまた新しい不安を呼び起こした。後ろめたいことがあるから気づくのではないか。その賢さはかつて鬼の首魁だったころの名残ではないのか。子供がそんなことに思い至るものだろうか。
    考えれば考えるほど疑わしく、同時に彼はなんの罪もないただの子供に見えた。毎朝カーテンを開けて朝日を浴びる子供の姿に、泣き出したいほど途方に暮れた。
    結局、甥は自分が引き取ることにした。両親とも話し合った結果、自分が帰国して日本で新しく職を見つけるべきだということになったが、それに反対したのは意外なことに甥本人だった。
    はじめは自分に引き取られることが嫌なのかと思ったが、彼は自分と一緒にアメリカへ行くと言う。
    「お前、簡単に言うがアメリカだぞ。わかってるだろうが言葉とか、カリキュラムとか、生活も全然違うんだからな。大変どころの騒ぎじゃないんだぞ」
    そう両親と説得したが、正直な事情を言えばありがたい申し出だった。今の職場は待遇もいいし、自分の評価も悪くない。手放すのは勿体ない実績もそれなりにあって、同じことができる環境を国内で探すのは砂漠で米粒をみつけるようなものだった。
    古今東西、子供の都合というのは大人の事情の前には無力である。社会的な手続きの全ては大人の都合で作られている。月彦をアメリカの学校に通わせる方が面倒がないことも確かだった。
    何度目かの親族会議の結果、甥とアメリカで二人暮らしすることが決まった。
    転校手続きの最中、月彦の担任からそっと、学校での彼の様子を教えられた。
    「とても優秀で、頭のいい子です。明るくて、他の生徒からも好かれていました。化学の授業が一番好きだと、」
    担任の女性はそこで一度言葉を切って、目元を柔らかくした。
    「おじさんが研究者で、カッコ良くて憧れるんだそうです」
    あの子にもう私の授業を受けてもらえないのかと思うと、少しだけ残念です。
    「毎回授業後に“珠代先生”って質問にくるの、楽しみにしていたんですよ、私」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works