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    saku_0_35

    散文の供養とかメモ

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    saku_0_35

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    いただいたお題②
    CP 魈とガイア
    一言セリフ 「下がっていろ!」
    シチュ   ボス戦
    関係性   知り合いの知り合い
    制限時間  1時間

    揺れる大地、響く咆哮、対峙した巨躯は全身からその怒りで空間を震わせている。

    「やれやれ、聞き分けのない奴には困ったもんだぜ。」
    ガイアは呆れを交えた声音でそう呟くと、自身の獲物をスラリと片手に構えた。
    その細身の体と比べ何十倍もの大きさを誇る眼前の魔物をその片眼に捉えても表情に怯えや緊張などは感じられない。

    「ガイア!オレは右から行くよ!」
    「了解だ、栄誉騎士。怪我するなよ。」

    そう言うや否や、同じ様に武器を構えていた旅人と逆方向に駆け出したガイアは即座に魔物の左中腹に回り込むと躊躇いなく剣先を振り上げた。
    魔物は一瞬身を捩ったが、次には硬い身の一部である大樹のような尻尾をガイアに向けて叩きつけようと勢いをつける。緩く笑みを浮かべたガイアがそれを後方に飛ぶことで避け、そのまま距離を取るとふむ、と小首を傾げた。

    「手応え、は有るが…これは時間がかかりそうだなぁ。」
    誰に聞かせるわけでもない呟きは魔物の雄叫びによって掻き消される。力はあるがスピードは自身の方が上だ、面倒だが地道に体力を削っていくしかないかと溜め息を吐きかけたガイアの横を一刃の風が通り過ぎた。

    「お?」

    なんだ、と目を丸くしたガイアが直後に見たのは、天を向き、一際大きな声を上げている魔物の姿だった。
    グオオオオ、と先ほどまでとは違う何処か苦しげな鳴き声を発するその姿をポカンと見上げたガイアはその原因をすぐにその視線に収めることになる。
    一体いつの間に、ちょっとした富裕層の屋敷よりもはるか巨大な魔物の頭部には恐らく人間が立っていた。
    恐らく、と称したのはその人間が深い緑に光を放つ、それこそ魔物のような仮面をつけた少年だったからだ。
    決して神々しいとは云えないオーラを身に纏うその少年は傍目から見ても細い腕に持った槍をあろうことか魔物の頭部に突き刺しているではないか。
    「魈!」
    ガイアとは反対の位置で魔物を牽制していた旅人の嬉々とした叫びが聞こえた。
    魈、旅人が連れてきた者だ。決して愛想がいいとは云えない第一印象しかなかったが、これはまた、予想外だ。
    思わずガイアが口元に薄く笑みを浮かべるのと同時に、魔物の頭上に立ったままの魈は彼の方をゆっくりと振り向いた。

    「    」

    何かを言った様だが、仮面と、魔物の咆哮によりその口元はガイアには計りかねない。
    訝しがる表情のガイアとは他所に、自身に乗る人物と痛みを振り払うかの如く大きく身をくねらせた魔物が砂煙を上げる。咄嗟に顔を覆ったが、一瞬目を閉じた刹那、開いた時には魈の姿はすでに魔物の上からは消えていた。

    「おい、凡人。」

    耳を突く低い声にハッと振り返る。先ほどまで遥か先にいたはずの少年をが真後ろに立っていた。
    こいつは、多分、人間じゃないな。口と表情には出さないまま思考を巡らせるガイアには構わず、魈はゆっくりと仮面を外すと現れた金色の眼光でガイアを、睨みつけた。
    疑う余地もなく、怒っているその顔にガイアは目を細める。

    「やる気がないなら下がっていろ。邪魔だ。」
    「…おっと、ご挨拶だな。」
    「事実だ。戦いの最中に余計なことを考えているお前の実力など、知れたことだろう?」
    「へぇ。」
    これはこれは。やはり第一印象というものバカにならない。あからさまな煽り言葉にガイアは表情こそ崩さないが、売り言葉に買い言葉だとばかりにふんと鼻を鳴らす。
    「そういうお前さん自身、オレの様な小物を相手にしているってことは戦いに集中していない証拠なんじゃないのか?」
    金色が細くなる。ガイアとは正反対に露骨に不快そうな表情を浮かべた少年に、相手と自身の子供じみた行動に胸中で苦笑を浮かべながらも、心なしか気分を良くしたガイアはひらりと片手を振る。
    「まぁ、お前のいう通りだ。戦闘の最中に余所見は良くないな。」
    仲良く行こうじゃないか。そう言って剣を構えた手とは逆の方を差し出したが、案の定それに返ってくるものはなく、代わりに寄越されたのは忌々しげに慣らされた舌打ちだった。

    「調子に乗るなよ、凡人。」
    「ハハ、肝に銘じておくぜ。」

    そんな睨み合う獣のような雰囲気を醸し出す二人をの間を遮ったのは、「ちょっとー!二人とも!!」と悲痛な声を上げる旅人の声だ。
    二人が視線を向けるとすっかり怒りが頂点を越してしまっている魔物の攻撃を身軽な動きで交わしながら剣を振るっている。旅人の肩にしがみついているパイモンに至っては殆ど半泣きだ。
    「喧嘩してないでっ真面目にやって!!」
    「そうだぞぉっ!!おまえら真面目にやれぇっ!!」

    それに、ガイアは苦笑を浮かべる。そうだ、今はお互いの好感度を勢いよく下げるための時間ではない。
    同じことを思ったのだろうか、魈も小さく咳払いを溢すと槍を構え直す。

    「…せいぜい、足を引っ張らないことだな。」
    「ご心配どうも。」

    チッ、とまたもや舌打ちが聞こえたかと思えばその姿はすでに風となっていた。
    やはり、早い。ガイアの俊足を持ってしても到底及ばないその速さは改めて彼が人間ではないということを物語っているかのようだ。しかし、いけ好かないのは事実だが、あそこまでこけ下ろされてはガイアも一国を守る組織の一員の主格として黙ってはいられない。
    それに、と、ガイアは握った剣に冷気を纏わせる。急降下していく自身を包む温度とは逆に、にっと笑みを浮かべたその顔は実に楽しげで、不敵だ。

    「何にせよ、今日という日を楽しむに越したことはないからな。」

    言い終わるや否や、彼もまた、風のように駆け出した。


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