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    saku_0_35

    散文の供養とかメモ

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    saku_0_35

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    いただいたお題③
    CP 行秋とタルタリヤ
    一言セリフ 「なんでこれ入れた?」
    シチュ   お昼ご飯中   
    関係性   お友達  
    制限時間  1時間30分

    舌先寸分「…公子殿、本当に大丈夫なのかい?」

    行秋は普段こそあまり動揺を見せることのない筈の顔を僅かに歪めながら、目の前の男にそう問うた。

    「ハハッ、心配しなくても、これでも俺は料理だって結構得意なんだよ。」
    不安そうな行秋をよそに、問われた方の男といえば「楽しみにしていてくれ」などと言ってからりと笑う。
    手には持参した調理用のお玉を持ち、さらにその目の前、行秋との間にはグツグツと小気味の良い音をたてる鍋がある。
    眉を歪めたままの行秋が恐々と身を乗り出し鍋の中を覗き込めば、良く煮立った鍋の中にはあらゆる食材が見え隠れしていた。
    「獣肉、玉ねぎ、トマト…と、この見え隠れしている水色のものは…ミントかい?」
    「あぁ。モンドや璃月でも料理に良く使うだろう?本当は違う香草があれば良いんだけどね、無いなら代用するしかない。」
    「代用して成り立つなら、いいと思うけど…。」
    本当に美味しいものができるのかが些か不安だとばかりに、しかし昼食を作ってもらっている手前これ以上ケチをつける様な真似はできないと行秋は大人しく居住いを正す。
    出会って間もない彼、タルタリヤもとい公子のことではあるが、お世辞にも料理が得意という印象は今のところ持ち合わせてはいない。そんな彼が意気揚々と食事を作ると聞いた半刻前にはついぞ目を丸くしてしまったが、手慣れた様子で鍋に食材を投入していく様は普段の姿よろしく自身に満ち溢れていた。
    ただ気になる点は璃月や隣国モンドの料理ではあまり馴染みのないレシピであるという事だが、舌が肥えてこそ居れ行秋だって別に料理が一際得意な訳ではない。
    今はただ彼が異国の料理を調理し終えるのを大人しく待つほかなかった。

    「おっと、忘れてた。」

    行秋が受容の体制を整えたと同時、頓狂な声が上がる。
    それに何か、と小首を傾げると公子はいそいそと適当な食材の詰まった麻袋をごそごそと漁ったかと思えば、嬉々としてあるものを取り出した。
    それを視界に収めた行秋はそれまでとは比にならない、ギョッとした様相で目を剥くことになる。
    「こ、公子殿!それはだめっ!だめだよ!」
    中腰になりながら慌てる行秋には目も暮れず、公子が手早くそれを刻んでそのまま鍋に投入すれば「あぁっ!」と大きな声が響いた。
    「ちょっと!なんでこれを入れたのさ!」
    「何言ってるんだ。これだって欠かせない食材の一つだよ。」
    「でも、でも…!」
    「君も剣を振るう戦士である以上、好き嫌いはいけないと思うなぁ。」
    飄々と云いのけるの公子の言葉に、ぐっ、と行秋は喉を詰めるとチラリと鍋の中に視線を落とす。
    旋回する食材の中にチラチラと見える、橙色のもの、代表的な野菜の一つであるが、同時に行秋が最も苦手なものでもあるそれに急速に食欲が減退していく。
    露骨に顔色の優れなくなった様子に、公子は悪いと思いながらも堪らず小さく吹き出した。
    「ごめんごめん、まさか君がそこまでニンジン嫌いだとは思わなかった。」
    「…知ってたら入れなかったのかい?」
    「それとこれとは別問題さ。」
    なんとも性根の悪い、行秋は恨みがましげに笑う顔を見上げる。
    確かに好き嫌いは良くないとは思うけれど、行秋にとってだってそれが得意になるかどうかは別問題なのだ。
    「…出来上がったら、僕の分は自分で取り分けるよ。」
    「そう言って好きな食材しか入れないのなら、却下だよ。」
    「うっ…」
    難しい顔で固まる行秋はどう反論したものかと、ぐるぐると鍋をかき混ぜる公子を見遣るが、そんなのどこ吹く風と彼は鼻歌すら溢している始末だ。
    出来上がったら、どうにか隙を見て回避しなければと出来の良い頭で思考を巡らしていると「まぁまぁ」と穏やかに声が落ちる。
    「何事も挑戦さ。案外、平気だったりするかも知れない。」
    「…自身家だね、実に貴方らしいよ。」
    「ハハッ!ありがとう。」
    褒めたわけじゃない、と口を尖らせ不貞腐れる行秋の前にすいと差し出されたのはいつの間によそったのやら、少量のスープが入った器だ。
    「できたの?」
    「まだだよ。味見用さ。」
    憮然とした態度でそれを受け取る。ほんのりと温かい器からは空いた胃を刺激する良い匂いと湯気が立ち上っており、思わず喉が鳴ってしまう。

    火傷しないように、そっと器に口をつけ、静かに口内に含むと野菜と肉の出汁が効いた旨味が広がった。
    「…美味しい。」
    素直にそう感想を溢すと、公子は柔く微笑んだまま何も言わず、また鍋を掻き回し始める。
    それがなんだか、聞かん坊の子供扱いされているみたいだと行秋は文句の一つも言えないまま口を一文字に結び、手の中で器を弄ぶしかできなくなった。


    それから料理ができあがるまでの数十分。沈黙を貫き通した二人であったが、出来上がった異国の味に行秋がつい顔を輝かせて彼を褒めたのと、結局器に大量に盛られた野菜に眉をしかめながら飲み込むのを公子がけらけらと笑いながら見届けた、そんなとある日の一幕であった。

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