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    fuki_yagen

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    fuki_yagen

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    同居初日のロナドラと数年経って住居部分を引っ越したロナドラです 後半はショッさんとサテくんもいます
    ロナくんはひとりで勝手に一方的にドちゃんにほだされてしまった

    #ロナドラ
    Rona x Dra

    棺の場所を教えてください「わあ、見てジョン! このキッチンなんにもないぞ」
    「勝手に入んじゃねえ!!」
     お玉もない、いやさすがにあるよなどこ、と引き出しを開けたり戸棚を開けたりしている吸血鬼を蹴り殺し、ちりとりでキッチンから掃き出すと冷蔵庫の前で蘇ったドラルクは泣いて飛び付いたジョンを抱き留め撫でながら不満げな顔をした。
    「どうせ使ってないんだろう。使わせてくれてもいいじゃないか」
    「オメーら飯食わねえだろ!!」
    「あーでも調理器具がなさ過ぎる……城に取りに行くか……キッチンの中身残ってるかなぁ」
     粉々なんだよなぁ、とぶつぶつと言っているドラルクにうるせえ出てけ、ともう一度蹴り出し砂にして、ロナルドは開けっぱなしの引き出しと戸を閉めた。
    「大体なんでキッチンなんだよ」
    「いや、料理が趣味の一つでね」
    「テメーのクソマズ料理なんか誰が食うんだよ」
    「失敬なことを言うな食ったこともないくせに。趣味もあるが、そもそもジョンにごはんやおやつを作らないといけないからな」
    「えっ、ジョン」
     なに、と抱いたアルマジロを撫でながら吸血鬼はきょとんとロナルドを見た。
    「使い魔も食事をしないと思っていたのか?」
    「いや……、……食うの?」
    「三食食べるぞ。私は三食牛乳でいいけど」
    「吸血鬼なんだから人間襲って血飲んでるとか言え」
    「退治人が言うセリフじゃないが? ともあれ、ジョンは今日はまだ夕食食べてないしなにかないかなって思ったけど、この調子じゃ冷蔵庫も空っぽだろう。調理器具も薬缶しかないし、外食に行こうか、ジョン」
    「ヌー」
    「やっすいタイプのレトルトカレーあったけど、もしかして薬缶であっためてるの?」
    「どうでもいいだろ早く行け!」
     はいはい、と肩を竦め、ドラルクはドアへ足を向けすぐにあ、そうだ、と振り向いた。
    「ロナルド君。棺桶こっちに入れておいてくれない?」
    「どこに置くんだよワンルームだぞ!」
    「事務所に置くの差し障りがないか? 別に私はそれでもいいけど」
    「早く出てけっつってんだよ! ジョンはおいてけ!!」
    「レトルトカレーしかない家になんでジョンをおいてくと思ってるんだ。あ、それからちょっと出掛けるから明日の夜まで戻らないよ」
    「そのまま戻ってくんな」
    「城に戻って持てる分の調理器具とってくるよ。残りは送ろうかな」
    「俺の事務所にものを増やすな」
    「まあまあ、器具が揃ったら君にも料理を振る舞ってあげるから」
    「なんでそれで俺がうんと言うと思ってんだ」
     おやいらないのか、と目を丸くして、まあいいや、とドラルクはジョンと揃って片手をひらひらとさせた。
    「じゃあ行ってくるね。棺、乱暴に扱うなよ。高いんだからな」
    「うるせえ朝日で死ね!」
    「君朝日で死んだ私を放置したよな」
    「なんで蒸し返すんだよ」
    「誤解で不法侵入して、同じく不法侵入してた子供を攫ったと濡れ衣着せた上に小児性愛まででっち上げて、城を爆破した上に朝日を浴びた私を放置したよな」
    「……………だからなに」
     ドラルクはふん、と目を細めて嫌味な笑顔を浮かべた。
    「あの子が同情心を起こして助けてくれなければ君の希望通り私は消滅しただろうし、ジョンも命尽きたんだよね。それをもう一回やれってことかね」
     ぎりぎりと歯を食いしばり全身に力を込めて、警戒しているのかドラルクの腕の中でばっと両腕を広げてガードしたジョンと変わりなくのほほんと立っている吸血鬼と暫し睨み合い、ロナルドははー、と息を吐いて力を抜いた。腰に手を当て額を抱えて不承不承わかった、と頷く。
    「棺桶はこっち入れとくからさっさと行ってこい。昼の間待避するとこは確保出来てんだろうな?」
    「ま、ホテルとかもあるしな。なんとかなるよ」
    「あのあたりなんもなかったと思うけど?」
    「ラブホがあるよ」
    「吸血鬼とマジロでラブホは無理だろ!?」
    「いや、ラブホって窓ない部屋多いし吸血鬼の待避先としてよく使われるから、今は吸血鬼プランあるんだよ。お一人様でもオーケー、朝から夕方までプランだな。使い魔も入室オッケーのところが多い」
     は、と今度はこちらが目を丸くして、ロナルドはへえ、と気の抜けた声を出した。
    「そういうのあるのか……」
    「吸血鬼の方向け、みたいなサービス結構多いんだぞ。まあ私引き籠もってたからあんまり知らないけど、ここに来るまででも結構見たな。人間の君には無関係だから気にしてないんだろうけど、気をつけて見てみるといいよ。吸血鬼の友達ができたときに役に立つかもよ」
    「そんなもんできるわけねえだろ俺は退治人なんだぞ」
     あははは、とドラルクは朗らかに笑った。
    「視野が狭い」
    「ディスんな!」
    「昔の有名な退治人だって吸血鬼と親友だったりしたのにな」
    「ハ? 知らねえ。誰だよ」
    「知らんなら言ってもわからんだろ。電車終わっちゃったら困るから行くね」
    「あー……ジョン、気を付けてな」
    「ヌ! ヌヌヌヌヌヌヌ、ヌンヌヌヌヌヌ!」
    「え、なに?」
    「ドラルク様はジョンが守るから任せてって」
    「オメーはどうでもいいんだわ」
    「ジョンにはどうでもよくないんだよ」
     じゃあね、とひらとマントを揺らした吸血鬼は、ぬるりと潜り込んできたときと同様にぬるりと出て行ってしまった。急にしんとした部屋に光度まで下がった気がして蛍光灯を確認し、棺桶移動しねえと依頼人入れられねえ、と考えて、ロナルドはまた深々と溜息を吐いた。






    「ドラ公ー。棺桶寝室でいいのかよ」
     せっかく地下室あるのに、と身の丈よりも大きな棺を担いで現われたロナルドに、家具の配置の指示をしていたドラルクは呆れ顔で振り向いた。
    「ここの地下室、どう見ても貯蔵庫だろうが。換気は悪くないが内装がよくない」
    「我が儘言うな。換気と空調がついてるとこ探したんだぞ俺は」
    「だーから物件決めるときは一旦持ち帰って私に相談しろっつっただろうが!」
    「俺が家賃出すんだからいいだろ別に……」
    「8000円じゃないのは評価するけども」
    「え、8000円てなに」
     事務所の家賃、と声を揃えて言ったふたりと一匹に、えええ、とテーブルを運んでいたショットとサテツが引いた。
    「嘘だろマジか……」
    「ろ、ロナルド。事務所もこの際だから引っ越したら?」
    「ンー……あのビルのテナントうちしか入ってないようなものだし、それで取り壊さずにいてくれるみたいだからなあ」
    「そういう義理を勝手に感じるのよくないぞ」
    「家賃収入月8000円であのビル維持するの大変じゃないか? 出てけって言われない?」
    「むしろいてくれって言われる」
     これは、とドラルクを見た二組の瞳に吸血鬼は肩を竦め、掌を上へと向けてくるりと踵を返した。裾が花びらのように割れた長いマントがひらひらときれいに靡く。
    「まっ、あそこに事務所構えて長いし、地域住民の皆さんにも認知されてるからな。困りごとが起きたときに飛び込むにはまあまあちょうどいい場所にあるし、いいんじゃないの。それはそれとして住むには狭すぎるからね。住居をようやく分けられた、というわけだ。あっちに寝泊まりすることも多いだろうが……特に締め切り抱える大先生はな」
     ははあ、と様々な疑問からいち速く立ち直ったのかにやりとして、ショットがロナルドへと軽く顎を上げて笑んだ目を向ける。
    「引っ越しまでには締め切り上げる、とか言ってたけど、終わってないのか、先生」
    「ショットまで先生って言うな! も、もう少しなんだよ! でかい家具だけ配置したらすぐ取りかかるしそしたら」
    「オータム式引っ越し術でお願いすれば一瞬だったんじゃないかね」
    「フクマさんが来るじゃん!!」
    「声デカ」
    「ととと、とにかく、間に合う、間に合わせる、大丈夫! いけるいける! 俺は出来る子!」
    「毎度毎度締め切りのたびにちんちんの心配してる男の発言は信用できないな」
    「なんだちんちんの心配って」
    「なんかわからんけどロナルド君、私がシンヨコに来た頃からずっと原稿落としたらちんちんちょん切られてロナル子になっちゃう妄想に取り憑かれてんだよな」
    「妄想じゃねえよ!?」
    「別にフクマさんがちんちんちょん切りますとか言ったわけじゃないだろうに、その強迫観念はなんなんだ。まあそれはそれとしてロナル子面白そうだから一回くらいちょん切られてもいいと思うけどね私は」
    「生えてこねえんだよ一回ちょん切られたら!!」
    「なあ、おい、いいんだけど、サテツ引いてるからやめてやって」
    「ごめんサテツ!!」
     いやうん大丈夫、と引き攣った笑いを浮かべ、サテツはダイニングテーブルを置いた。
    「ドラルクさん。書棚組み立てちゃいますか?」
    「お願いできるかね? ロナルド君に頼むと力任せにネジぶっ壊しかねないからな」
    「家具の組み立てくらいはできるわ!」
    「ていうかロナルドお前、事務所戻って原稿していいぞ。やっとくから」
     えっ、と棺を担いだままロナルドは戸惑った顔をした。
    「で、でも悪いぜそんな……」
    「いいって。終わったらドラルクに飯奢ってもらうことになってるし、それで充分」
    「えっ、俺は?」
    「君は事務所に作り置きあるだろうが」
    「俺だけ作り置き!?」
    「原稿終わってないのが悪い。ほら、ご厚意に甘えてさっさと戻れ」
     預かるよ、と手を出したサテツにもいやでも、と棺を離す素振りを見せず、ロナルドはちらとドラルクへと視線を向けた。その困り果てたような目に仲間はずれが嫌だとか飯作ってくれねえのかよといった不満ではないものを見て、ドラルクはひとつ瞬く。
    「どうした、ロナルド君。腕の人のほうが君より力持ちなんだし、壊したりしないよ」
    「………いや、そうじゃなくてお前、いいのかよ……」
    「いいのかって?」
     首を傾げたドラルクと同時に、あ、と退治人二人が声を上げてサテツが手を引っ込める。
    「うん、そうだな。ロナルドが置いてこいよ」
    「そ、それがいいよ。ごめん、触ろうとしちゃって」
    「いや俺は別にどうでもいいんだけど、……あー、まあ、置いてきたら事務所戻るわ。悪いな、ショット、サテツ」
     よいしょ、と棺を抱え直しドアにぶつからないよう慎重に奥の部屋へと去って行ったロナルドに、ドラルクはまた首を傾げた。
    「寝室に置いてくるだけなのにねえ?」
    「いや、ドラルクお前、人間に馴染みすぎだろ」
    「なになに、私のほうがどうかしてるのかね」
    「だから、吸血鬼にとって棺の場所ってセンシティブなもんだろ。まー寝室に置く、って今聞いちゃったけどさ。でもワンルームでもないしわざわざここんちで寝室に足入れることもないし、俺たちが見ることはねえから」
    「家族以外にあんまり知られないほうがいいですよ、ドラルクさん。いや、今更だし、ロナルドも一緒にいるから大丈夫だとは思うけど」
    「…………ふむ。ショットさんはセンシティブなことを気にしてくれてて、サテツさんは防犯の意味で気にしてくれてるわけだ」
    「ま、どっちもなんだけどな」
    「すみません、聞いちゃって」
    「マジで今更なんだが!」
     思わず真顔で言い、ドラルクはジョンと顔を見合わせた。
    「大体私の棺、あのゴリラが勝手に侵入して寝てたり事務所で宴会になれば酔っ払ってこじ開けようとするやつがいたり椅子がわりにされたり好き放題されてるんだぞ。場所がどうのとかそういう問題じゃないだろうが。大体、隠すような場所がないだろう。日本の住宅事情の狭さならよくわかっとるつもりだが」
    「だからわざわざ地下室ある家探してきたんじゃないですかね……?」
    「地下室ある家に吸血鬼が住んでたら地下室に棺がありますって言ってるようなもんだろ!」
     それもそうか、とてきぱきと書棚の包みを開けていたショットが首を傾げる。
    「そういやドラルク、引っ越すなら城だとか昔言ってなかったか」
    「できなかないよ。でもこのシンヨコに城建てていいの?」
    「新しいランドマークになりますかね」
    「いやラブホと間違われるな」
    「日本人なんで城みるとラブホだと思っちゃうの? 全国結構あちこちに吸血鬼の城とか屋敷建ってんだろうが」
    「屋敷はさすがにラブホだとは思わねえけど、ラブホってなんか城の形してるヤツ多いよな」
    「ショットさん行ったことあるの」
    「ない」
     キリッとイケメン顔で答えた退治人にほーん、とからかう様子なく頷き、ドラルクはジョンをちょいちょいと擽って、それからうーん、と唸った。
    「じゃあ今度私と行こう」
    「───ハ?」
    「突然出てきてなんじゃ怖い声出すな!」
     スナァ、と死んだ砂の山にぷんすこと叱られて、奥の廊下への潜り戸の前に立っていたロナルドが険しい顔をしている。何故かショットが慌てて両腕を振った。
    「いやっ、行かねえ! 行かねえから、ロナルド!」
    「……そもそもドラルクさん、なんでショットと?」
    「別にメイキングラブとかそういう話じゃないわ。ラブホって吸血鬼プランや女子会プランがあるだろ。パーティプランもあるの。男子会ができるの。だから手が空いてるみんなで遊びに行って、どういうもんが置いてあるのかとかどういう造りなのかとか後学のために見てもいいんじゃない、って思ったんだけど、ロナ造はこなくていいぞ」
    「ハ!?」
    「そんなこっわい顔するくらい反対なんだろ。君相変わらずラブホに夢見てんだな。いやラブホにそんなもん見るな」
     いい年してなんなんだ、と溜息を吐いて蘇ったドラルクに、過剰反応した自覚はあったのだろう。ロナルドはもごもごと何か言いたげな顔をして、それからリビングに入ってきた。
    「ベッド脇に棺桶おいといたけど、俺の寝室遮光カーテンじゃないからな。気をつけろよ」
    「全部遮光カーテンにしろっつっただろうが!」
    「俺しか使わないならいらねえかと思って……お前地下室で寝ると思ってたから………」
    「掃除誰がすると思ってんだ! 君がするのか!? 一人でシーツ替えられまちゅかねー!?」
    「ま、まあまあ……足りないものとか出てきたら買いに行くから、そのときついでに買ってきてやるよ、な?」
    「……地下室の内装どうにかしたらそっちに移ってもいいし、ロナルド君の寝室のことまではどうでもいいけども」
     ショットとサテツが微妙な顔をした。ちらと視線を合わせ、二人揃って手をTの形にする。
    「タイム!」
    「はい」
    「ロナルドちょっと!」
     すみっこに固まってごにょごにょとなにか話している退治人たちを見ながら、ショットさんはそんなに大きくないけどやっぱ三人揃うと圧がすごいな、と考えながらまだ位置を決めていなかったソファに座り、ドラルクはジョンの腹毛をこしょこしょとした。ヌヒヒ、とこそばゆいのか使い魔が笑う。
    「…………ルド、お前結婚キメたら引っ越すって言ってたよな……?」
    「なんか話が違うような……」
    「なんだ、ロナルド君結婚考えてる相手なんかいたの?」
     ふと耳に入った会話に反応すると、青ざめた退治人三人がばっと振り向いた。ドラルクはジョンと共に首を傾げる。
    「まあ君のことだから、告白もまだなのにプロポーズの準備してたりするんだろ。先に家まで借りちゃってさあ。それとももうオッケーもらってるのかね? だったら私とジョン、邪魔じゃない?」
    「でででで、出てくとか言うなよ!?」
    「いや事務所に戻ればいいだけだろうが。私狭いとこもまあまあ好きだし、ゴリラがいなけりゃあのワンルームだってそう手狭でもないわ」
    「ここに俺一人で住むの!?」
    「プロポーズ上手くいくまではいてもいいけど。せっかくいいキッチンついてるし、配信も君に邪魔されずにできそうだし」
    「ど、ドラルク、待ってくれ、タイム続行!」
     何故か半泣きのロナルドを庇うように前へ出たショットに請われ、まあいいよ、と頷いてドラルクは腰を上げた。
    「配置考えながら部屋見て回ってくるから、密談ならさっさと済ませてくれたまえよ」
    「そう言ってそのへんで立ち聞きするんじゃねえだろうな!?」
    「立ち聞きしてほしいのならそうするがブェーッ!!」
    「殺した」
    「バカ殺すな!!」
     がし、とサテツの両手で頭を掴まれたロナルドが悶絶している隙にすすすと離れて復活し、ドラルクはジョンを抱き上げそそくさとリビングを出た。
    「お前それだから通じてないんじゃないのか!?」
    「ちげーよ鈍いんだよ致命的に!!」
    「………というより脈がないというか」
     なんでそんなひどいこというの、と泣いているロナルドの声を背に聞きながら、脈のない相手なのか、どんな美人だろうねジョン、と使い魔の鼻先を撫でて、ドラルクはヌー……と微妙な返事をもらい首を傾げた。
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    fuki_yagen

    PROGRESS7/30の新刊の冒頭です。前に準備号として出した部分だけなのでイベント前にはまた別にサンプルが出せたらいいなと思うけどわかんない…時間があるかによる…。
    取り敢えず応援してくれるとうれしいです。
    つるみか準備号だった部分 とんとんと床暖房の張り巡らされた温かな階段を素足で踏んで降りてくると、のんびりとした鼻歌が聞こえた。いい匂いが漂う、というほどではないが、玉ねぎやスパイスの香りがする。
     鶴丸は階段を降りきり、リビングと一続きになった対面式キッチンをひょいを覗いた。ボウルの中に手を入れて、恋刀が何かを捏ねている。
    「何作ってるんだい? 肉種?」
    「ハンバーグだぞ。大侵寇のあとしばらく出陣も止められて暇だっただろう。あのとき燭台切にな、教えてもらった」
    「きみ、和食ならいくつかレパートリーがあるだろう。わざわざ洋食を? そんなに好んでいたか?」
    「美味いものならなんでも好きだ。それにな、」
     三日月は調理用の使い捨て手袋をぴちりと嵌めた手をテレビドラマで見た執刀医のように示してなんだか得意げな顔をした。さらさらと落ちてくる長い横髪は、乱にもらったという可愛らしい髪留めで止めてある。淡い水色のリボンの形をした、きっと乱とお揃いなのだろうな、と察せられる代物だ。
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    PROGRESSロナドラ♀里帰り出産の続きです。ノスのお城に着きました。
    ちょっと短めですが、続きのノス視点はそれなりに長めです。
    というかノスの名前のスペルが分からなくてちょっと困ってます。
    冷えた指先とチェリーボーイ Draluc ノースディンの城に着いた途端、あまりの冷気にまず足の先から砂になった。まだ形にもなっていないロナルド君との赤ちゃんにどんな影響が出てしまうのか分からず、根性でどうにか手足だけに留めていればしっかりと暖房の効いた部屋に連れていかれ、ベッドに上に降ろされた。まあ、幼い私が少しでも死ぬようなことがあれば同じように殊更丁寧に扱われていたので、少しの懐かしさを感じてしまう。
    「……少し、待っていなさい」
     普段よりずっと固い声がそう言って扉を開けて部屋から出て行ってしまった。扉が閉まるまでのほんの僅かな時間であったのに冷たい空気が廊下から流れ込んできてしまい、それに驚いて耳の先が少し砂になってしまった。
     私を置いていったあの人はとにかく不機嫌だったのだろう。部屋を出る前はとにかく無言で、私を寒さで死なせないために事前に用意していたらしい毛布で私を包んでから、真っ白いそれなりの大きさのテディベアを私に抱かせていったのだ。
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    チンスキー淀川

    MENU10/30新刊サンプル①です。現パロ軸寄りの金バニ。まだドラルクが出てこない冒頭部です。大丈夫そうでしたらR18サンプルありの②にどうぞ。
    10/30新刊ロナドラ小説「うさぎの添い寝屋さん」サンプル①うさぎの添い寝屋さん
    淀川

    ペン立ての中からボールペンを取り出して、端を人差し指と親指で挟む。目の高さまで持ち上げたボールペンを横にして小刻みに上下に揺らすと、真っ直ぐなボールペンがだんだんウニャウニャと歪んで見えてくる。
    会社に出入りしている保険屋のお姉さんが年金積立のパンフレットとポケットティッシュと一緒に置いていったそのボールペンは側面に保険会社の名前が印字されている以外、取り立てて変わったものじゃない。だいぶ前にもらったものだけど、ほとんど使っていないので芯にはまだたっぷり黒いインクが詰まっている。ゼロ、テン、ゴ、ジェルインク。小さな文字を目でなぞる。多分、日本で一番売れている油性ボールペン。一日に何本くらい売れるんだろうなぁ。一万本、いや、十万本くらいか? ボールペンって使い切る前に無くしたりするしいっぱい売れそう。カチカチと意味もなくペンの頭を数回ノックして、手元の書類には一文字も書かないまま俺はボールペンを元の場所に戻した。ペン立ての隣にある時計は、とっくに定時をまわっている。
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