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    airiku_h

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    airiku_h

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    ch4のエンディングから少し日数が経った🍎と🍆のお話。

    ***



    「じゃあな、ラルセイ」

    「あ、ちょ、ちょっと待って スージィ!」

    いつものように眩しく光る柱から帰ろうとするスージィをラルセイは慌てて掴んで引き留めた。
    普段なら笑顔で手を振る流れだが今日は違う行動を取ったラルセイにスージィもなんだなんだと足を止める。

    しかしその状況に気づいてなかったのか、後ろでクリスは先に光の中へと入って向こうの世界へと戻ってしまったようだ。

    「クリスの野郎、先に行きやがったな……まぁいいや。
    んで、お前はどうしたんだよ。 オレ忘れ物でもしてたっけ?」

    「ううん、そうじゃなくて……最近クリスの元気が無いから心配で……」

    「あぁ……」

    その事か、と気まずそうにスージィは目を逸らす。


    少し前に外の暗く静まり返った雰囲気とは正反対に家で酔っ払ったトリエルとサンズが陽気な音楽にノリながら楽しげに踊る姿を見てからというもの、クリスは今まで以上に無口で過ごす事が多くなった。

    それどころか心ここに在らずといった感じで、ぼーっと一点を見つめて何にも反応もせず動かなくなる時もある。(その度に痺れを切らしたスージィの蹴りが入る)

    しかし、あの時のトリエルを見て正直スージィも言葉にするには難しい複雑な感情もあったが、自分の母親が父以外の別の男と夜更けに仲睦まじく過ごしているのを目の前にしたクリスの方がダメージが大きいのもスージィは理解していた。


    「家に帰るのが遅くてトリエルさんに怒られたからいつまでもいじけてるだけだよ、気にすんな」

    嘘をつきたかったわけではないが、友達の事とはいえ他所の家庭のことをクリス本人が今この場に居ない状況で勝手にべらべらと話すのは憚られたので、それっぽい内容で心配性なラルセイの不安を取っ払ってやる事にした。

    ラルセイはきょとんとした顔で一瞬間を置くと、くすくすと口元を手で隠しながら笑った。

    「ふふっ、クリスも子供っぽいところあるんだね」

    「いやむしろガキみてぇな事しかしねーだろ、アイツ……」






    闇の世界から戻ってくると窓の外から夕陽が差しており、それをクリスは眩しそうに目を細めながら眺めていた。
    スージィはフン、と鼻を鳴らし「行こうぜ」と一声かけて廊下を歩き出す。

    「ケーキあんだけ食ったのにやっぱり腹減るな……」とぶつぶつ呟きながら腹を摩っていると後ろから服の裾を軽く引っ張られる感覚に気づいた。

    (今日はやけに引っ張られる日だな……)

    そんな事を思いながら振り返るとクリスが俯いた状態で立っている。
    リンゴのシャンプーの香りについ腹がぐう、と鳴った。

    「なんだよ、クリス。お前も腹減ってんの? 早く帰ってママのメシ食わせてもらえよ」

    茶色い髪が横にふるふると揺れる。

    「ハハッ、じゃあラルセイ達と離れてもう寂しくなったか?また明日も行けばいいじゃねーか」

    また髪が横に揺れる。
    リンゴの香りに再度腹が反応してしまい、空腹といつまでも喋ろうとしない事にいい加減腹が立ち、服を掴んでたクリスの手を払う。

    「っだーーー!クソッ!! 黙ってても分かんねーだろ!? もう置いて帰るからな!」

    「あ、スージィ…!」

    放って帰ろうとすると今度は慌てた様子で腕にしがみつかれた。
    じとりとした目で振り向くとクリスのどこか不安そうな顔にスージィはため息を溢し、体ごとクリスの方へと向き直す。

    そうするとまた俯いてしまったので軽く腰を曲げて目線を合わせてやると、長い前髪の隙間から恐る恐るこちらへ目を合わせてきた。

    いつもの深く赤い瞳に窓から差す茜色が混ざる。

    「……」

    「……ぁ、えっと、」

    「………………よし!!!!」

    曲げた腰を起こして急に大きな声を出すスージィにクリスは体をびくつかせた。
    何事かと固まっていると、いきなり腕を掴まれ見上げればスージィがニィッと口角を上げて笑っている。

    「とりあえず腹減ったからメシ!! ダイナー行こうぜ!」

    「え、ちょ、」

    クリスは静止の声を上げる前に廊下を走り出したスージィに半ば引き摺られるようにして学校を後にした。



    ーーーー



    「あー、美味かった!」

    ようやく腹が膨れて満足げなスージィの向かいではまだクリスがハンバーガーをちまちまと食べていた。
    いつもならとっくに平らげているが今日は食欲が無いのか食べるスピードが遅い。

    夕暮れから完全に陽が落ちて暗くなった窓の外を頬杖をついて眺めていると携帯の着信音が漏れ聞こえてきた。
    相手はもちろんトリエルだろう。

    苦虫を噛み潰したような顔でポケットから携帯を取り出すクリスの手から、待ってましたと言わんばかりの顔で取り上げるとスージィは勝手に電話に出てしまった。

    「もしもし! クリスママ?」

    『あら、その声はスージィ? じゃあクリスはあなたと一緒なのね』

    「うす! 学校の課題やってたらこんな時間になっちまって……あ!そうだ、今日クリスをウチに泊めてもいいっすか?」

    「は!?!?」

    予想だにしなかった言葉に思わず大きい声が出てしまった。

    滅多に出さない大声に食べてたハンバーガーが喉の変なところに入ってしまいげほげほと咽せるが、そんなクリスに構う事なくスージィはトリエルとの電話を楽しそうに続けている。

    暫くして「はーい!」と明るい声で電話を切ると雑に投げ返してきた。

    「……あ? お前まだ食い終わってねーのかよ!? いくら何でも時間かかり過ぎだろ!!」

    「キミのせいで食べるどころじゃなくなったんだよ!」

    「はぁ? んだそれ。 食わねぇならもーらいっ!」

    残り半分ほど残っていた食べかけのハンバーガーを一口で食べてしまうと「ほら、行くぞ」と席を立ったスージィの後ろをクリスも慌てて追いかける。

    店を出て左に曲がりひたすら真っ直ぐ進む途中、サンズの店の前を通る時だけは下を向いて歩いた。






    「あ〜〜…悪ぃ、泊まらせるっつったけどウチにゲームもテレビも無ぇんだよな……」

    初めて入るスージィの家は家具が殆どなく、ラルセイの部屋に似た寂しさを感じた。……口には出せなかったが。

    「それは全然いいんだけど……本当に泊まって大丈夫なの?」

    「いいよ、別に。 どうせ誰も帰ってこねーし」

    吐き捨てるように言いながらスージィが窓を開けると涼しく優しい風が赤茶色の髪を揺らす。
    そう言った彼女の顔がどんな表情をしているのかは敢えて目を逸らして見ないふりをした。

    いつまでも立ったままのクリスに、ベッドに座ったスージィは「来いよ」と自分の左隣をぽんぽんと叩く。
    言われるがままに隣に座るとスージィの手がクリスの目を撫ぜた。

    「お前、ちゃんと寝てんのか? 目の下に隈出来てるぞ」

    「……寝れてない。 あの日からサンズは来てないしママもお酒飲んで踊ったりしてないのに、目を閉じるとずっとあの時の音楽が頭から離れなくてうるさいんだ」

    両耳を押さえ眉を顰めるクリスにスージィはぐ、と拳を握った。

    両手を広げて抱き寄せるとすっぽり収まった腕の中から「スージィ!?」と驚いた声が聞こえる。
    いつもなら自分からハグなんてしないが、あまりにも苦しそうなクリスを見ていると体がつい動いてしまっていた。

    「ど、どうしたの? キミがハグしてくれるなんて……ラルセイに教えたら驚いてメガネ割れちゃうかも」

    「いちいちうっせーな!!! お前が教える前にオレが先に割ってやるよ!!」

    「割らないで!」と怒るラルセイを想像して思わず笑ってしまった。

    久しぶりに見る笑顔にスージィはホッと胸を撫で下ろし、離れようと手を離すとクリスがあたふたしながら抱きしめ返してきて今度はスージィがぎょっとする。

    「オイ! もういいだろ!?」

    「ま、待って、もう少しだけ…! スージィの心臓の音聞いてると落ち着くから……」

    手を震わせながらそう言われてしまったらスージィとしても断るに断れない。
    小さく舌打ちしてまた抱きしめてやると、安心したのかクリスの体からふっ、と力が抜けるのを感じた。
    目もとろんとして久しぶりの眠気に今にも落ちそうだ。

    スージィは力加減を誤らないように気をつけながら先程よりも少しだけ強く抱きしめ、そのままゆっくりと一緒にベッドへと倒れ込む。

    「ん…、せっかく一緒に居るのに…寝るの、もったいない…」

    「眠そうな顔して何言ってんだ。 いいから寝とけ。んで朝になったらミルク飲みに行こうぜ」

    「うん……また泊まっても、いい…?」

    「こんなつまんねー部屋でもいいんならな。 明日でも明後日でも好きなだけ居ろよ」

    「んん……」

    顔を擦り寄せてくるクリスの背中をぽん、ぽん、と一定のリズムで叩いてやるとそのまますうっと眠りについた。

    「赤ん坊かよ」

    思わずふ、と笑いが溢れる。
    そしてスージィもクリスの温かさを感じながらゆっくりと瞼を閉じた。



    家具も何も無い、何の音もしないこの殺風景な部屋で2人の鼓動の音だけが聴こえていた。








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