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「飲み物とおやつ用意するから二階で待ってて」
「おう! 」
放課後ウチに遊びに来たスージィはご機嫌な様子で2階へと上がるのを目で見送ってから、冷蔵庫で冷やしておいたオレンジジュースのペットボトルとコップを2つをトレーに乗せる。
おやつは何かないかと棚を漁っていると2つ積まれたチョコレートの箱を見つけた。初めて見たパッケージだったがチョコレートとあれば見逃すわけにはいかない。
それらもトレーに乗せ、二階へと上がった。
部屋へ入るとスージィはクリスのベッドに寝転がっていた。
「お待たせ。 チョコレートあったから食べよう」
「チョコ!? 食う食う!」
嬉しそうに飛び起きてあぐらをかいて床に座る。
その表情にくすりと笑い、箱を開けて渡すと爪で器用にチョコをつまんで自身の口へと放り投げた。
クリスもそれに続くように一つ食べる。
口に入れた瞬間丸かった固形が口内の熱でゆっくりと溶け出し、甘さが広がる。 しかしチョコの中に何か入っていたのか、どろりとした食感と不思議な味に首を傾げたがこれはこれで美味しいので気にせず次々と食べていった。
「あー、美味かった! でもこれチョコん中に何か入ってたよな?」
全部平らげたスージィも気にはなっていたらしく、共感を求めて隣のクリスへと視線を移す。
しかし、この距離で話しかけられた事に気づかないわけがないのだが返事がない。 ただゆらりゆらりと上半身が揺れている。
俯いていて表情は窺えないが寝ているようには見えない。
……………様子がおかしい。
片眉を吊り上げたスージィはクリスの肩を掴んでゆすってみた。
「オイ、大丈夫か? なんかお前ーー」
「ーーふふっ」
小さな笑い声が聞こえる。
そしてクリスがゆっくりと顔を上げると、何故か頬が染まりうっとりとした甘い表情になっていた。
いつもとは違う雰囲気に戸惑い、思わず肩を掴んでいた手をそっと離す。
「ク、クリス……?」
「すーじぃ」
白い粉をまぶしたような声で名前を呼ばれ、どきりと胸が高鳴る。
そんなスージィにクリスはまたくすりと笑うと、何を思ったのかゆったりとした妖艶さを感じる動きで迫ってくる。
「すーじぃ、かわいい」
「は……? な、何言って……」
「すきだよ」
そう言って小さくリップ音が聞こえる程度の軽く触れるだけのキスをしたクリスは、スージィの膝の上へ座り両頬に手を添えるとまた唇を重ねる。
「ん…♡ ちゅっ、ン…、すーじぃ…♡ んっ♡」
その後も何度も繰り返されるキスに思考停止していたスージィは漸く我に帰り、クリスの肩を掴んで引き剥がした。
「な、にしてんだテメェ……ッッ!!!」
「あははっ、すーじぃのかお まっか」
「テメェに言われたくねーよ!! そっちこそ顔赤ぇくせにーー」
ーーそこでハッと気づいた。
どうしてコイツの顔は赤くなった?
人の膝の上でいつまでもへにゃへにゃ笑っているクリスはそのままに、床に転がっているチョコレートの空き箱へと手を伸ばす。
そしてパッケージをよく見てみるとアルコール度数の文字が。
「オ、オイ! クリスこれ…酒入ってんじゃねーか!!」
「ん〜〜?」
「ん〜〜?じゃねぇよ!! よく考えたらこれトリエルさん用のチョコだろ!? ………あれ、そういやオレも同じチョコ食ったのにな……こんなチョコでここまで酔うって事はニンゲンって酒に弱ぇのか…?」
箱を片手に思考を巡らせているとクリスが首元にすりすりと頭をすり寄せて甘えてきた。まるで大きな猫だ。
「こら、いい加減離れろよ…!」
「いやだ。 ……すーじぃはおれのこと きらいなの?」
悲しそうな目で見つめられながらそう聞かれ「ゔ、」と言葉に詰まる。
「いや嫌いじゃねーけど……」
「じゃあ すき? おれはすきだよ、すーじぃのこと」
「す、好きとか嫌いとかの話じゃねーだろうが…!」
「すき。 だいすき」
とろけた表情と声で愛を告げられ、スージィは頭がくらくらしてきた。 今更酒が回ってきたのかそれともクリスの熱に当てられたのか。
もうこの際どちらでもいい。
スージィはクリスの顎に手を添え噛み付くようなキスをした。