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    ななし

    @nanashi_180331

    最終回後に金カムに沼ったオタク。右杉、特に尾杉派。主にすけべ置場に使う予定。

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    ななし

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    書きたいとこだけ書きなぐったホラーです。
    まだ出来てない尾形と杉元の尾杉。二人の感情に関しては未満どこじゃなくドライ。多分紆余曲折を経てくっつくはず。続きはご想像にお任せします。
    設定としては、鶴見から振られる依頼を祓い師的なことをしてる尾形が請負い、杉元を助手として雇いながら一緒に解決する話。
    結構しっかりホラーっぽく書けたので苦手な人はご注意ください。

     薄暗い部屋の中、体をベッドに横たえた。時刻は丑三つ時に近い。部屋の中は薄い月明かりが頼りなく差し込む程度。外では草木が風で揺れる音と、蛙のかしましく喚く声が響いていた。けれど杉元がいる部屋はこの暑さの中締め切っていて、外界の音は遮断されている。森閑しんかんとしている部屋の中で、寝返りをうつ音だけが静寂を破る。
     眠れないかと思っていた杉元だが、何度かそうしているうちに睡魔がやってきた。ひたひたと足元から侵食して、胴体、腕、瞼と重くなる。
     意識が遠のいて、あと少しで眠りに滑落しようかというときだった。どこからか水滴の音が聞こえる。沈みゆく意識は滴り落ちる水の音で僅かに浮上した。
     ――蛇口の閉め方が甘かったか。
     杉元は瞼を持ち上げた。
     水音は徐々に杉元のいる部屋に近づいている。しかしそれは杉元が想像していた音とは違う。
     最初こそ、凪いだ水面に小さな波紋を作るような水音だと錯覚した。けれど近づいて来る音は、乾いた床に水分が滴り落ちる些か硬質な音。
     ――何が来ている?
     杉元は瞼を持ち上げ部屋の出入口を注視する。ぱた、ぱた、と断続的に水滴が落ちる音が近づくが、逃げ場は無い。杉元は月明かりに照らされるサイドテーブルに視線を向けた。
    『いざという時は使え』
     いつもと変わらない、無愛想な態度の尾形に渡された札がそこに鎮座している。効果があるかは甚だ疑問だ。眉唾物の可能性はあるが、今、頼れるのはこれだけ。そうしている間にも音は近づいてくる。今すぐ閉め切っている窓から逃げ出したいが、そうすれば依頼は失敗。今月の収入も大きく減るだろう。杉元は大きな溜息を吐いて、悄然しょうぜんと肩を落とした。逡巡しゅんじゅんした挙句、悩ましげに後頭部を搔いて姿勢を正す。もとより逃げ出すという選択肢は無いが、腹を決めて再び出入口を睨んだ。
     いつの間にかすぐ近くまで忍び寄っていた水音は、耳をそばだてなくてもはっきりと聞こえる。だからこそ、杉元はそこに混じる異分子に気付いた。
     ――足音だ。
     ぱた、ぱた、と床を叩く平坦な音の間に床を擦る音が潜んでいる。それは人が足を引きずる音に酷似していた。音は杉元の部屋の前で止まる。
     剣呑な空気を感じ取った杉元は、咄嗟にサイドテーブルへ手を伸ばした。けれど相手のほうが早かったために杉元の動きが止まる。いつの間に入り込んだのか――そもそも最初から部屋の中にいたのか――"それ"は背後に立っていた。
     全身から嫌な汗が吹き出た。杉元の脳裏に尾形の忠告が過ぎる。
    『依頼主の話とやつの調査に当たった担当の話をまとめると、今回は大アタリ物件だ。なかなか手強い相手らしい。せいぜい取り込まれないように気を付けろ』
     ――動け。
     腕に力を込める。
     ――動け。
     見えない力で体が後方に引っ張られる。
     ――俺の体だろうが。
     杉元の粘り強さが勝ったのか、人差し指が僅かに跳ねた。さらに力を込めて前腕から肩まで一気に動かす。伸ばした指先が札を掠めた。
     ――頼む。
     札はその手に握られた。杉元は目的のものを手にした安堵から表情を緩ませると、引きずり込もうとする力に抗うことなく身を任せた。マットレスに沈んだ体は、あろうことかベッドの枠を超え、床を突き抜け地の底へ落下する。地上は遠ざかり、自身が貫通したはずの穴が塞がれていく。その穴が塞がれる動きに連動するように、この異様な空間も連綿と蠢くと、徐々に杉元自身を圧迫するように迫った。
     "それ"は杉元の体に触れると、殺意をもって力を強める。足、胴体、腕、指、首――全身をあらぬ方向にたわめられた。杉元は痛みと息苦しさで呻き声を上げたつもりだったが、舌が口腔に貼り付き息を吐くことすら能わない。
     遠のき始めた意識の中で杉元は、高熱に苛まれた時に見る夢のようだ――とどこか冷えきった頭で自嘲する。
     杉元の思考を読んだかのように、"それ"は更に力を強めた。まるで未だ耐えて生きていることが不愉快であると表明しているようだ。
    「わ、るいが……そう……簡単、に……オレは……死、なねぇ」
     ――そいつの使い方は簡単だ。破け。それだけでいい。猿でも使えるぜ。
     恣意的しいてきな男の声が内耳に木霊する。
     杉元は"それ"を嘲笑うと、残った力を振り絞って札を破いた。小口から噎せ返るほどの白檀の香りが漂い、辺りに充満する。
     "それ"は鼓膜が破れんばかりの咆哮を上げて逃げを打つも、札の効果か上手く地上に這い上がれない。のたうち回り、藻掻き苦しみ、叫喚すら上げられなくなった頃にようやっと"それ"は弾けるように消えた。
     全身の圧迫感と窒息感から解放された杉元は、緊張の糸が緩んだのかそのまま意識を手放した。



     暗がりの中を男が一人歩いてくる。照明は一切点けず、手元の懐中電灯が頼りなく足元を照らしていた。
     男は室内にもかかわらず、堂々と土足でフローリングを踏みしめる。年季の入った煤けた木材は、耳障りな音を鳴らした。薄暗い廊下の突き当たりを曲がると、それまで歩んできた経路より遥かに空気が澱んでいる。酷い残穢がへばりつき、一寸先すらよく見えない有り様だ。
    「しくじったのか上手くいったのか分かんねぇな」
     杉元の雇い主――名目上ではあるが――の尾形はポケットを弄ると、シガレットケースを取り出した。煙草のように見える何かを咥え火を灯す。煙を吸い込み、肺に入れずそのまま吐き出すと、白煙は重力に逆らうことなく落下した。床にぶつかった煙はさざなみのように波紋を作り、その場に輪を広げる。
     足元からは煙草の臭気ではなく、香のような香りが立ち上った。あたり一帯はまるで神聖な領域にでも変化したかのように、空気が澄んでいく。
     尾形は一連の様子を確認すると、再びフィルターに口をつけながら歩き出した。
     経年劣化したフローリングが戦慄く声を聞きながら、煙を吸っては吐くを繰り返す。尾形が通った場所には白煙の残痕が漂い、廊下や天井の隅の至る所に蓄積した残穢が灑掃さいそうされていく。
     紙巻きの葉がほとんど燃え尽き、フィルターだけになった頃、尾形はとある一室の前で足を止めた。溜息を一つ吐き、フィルターを携帯灰皿に仕舞うとドアノブを回した。
     錆びた蝶番が不快な音を立てる。扉を開け放ち中の様子を窺うと、先程までの廊下と違って空気が異様に澄んでいた。それもそのはず、床には尾形が杉元に渡した札が落ちており、部屋には白檀の香りが満ちている。
    「使ったのか」
     尾形は感情の読めない声音で呟くと、無遠慮に室内へと足を踏み入れた。部屋の隅に置かれたベッドまで歩みを進める。見下ろす先には、意識を失ったままの杉元が月光の薄明かりに照らされていた。
    「生きてるか」
     尾形は杉元の肩を何度か揺さぶる。杉元の瞼が徐々に持ち上がり、泳ぐ視線を尾形に向けた。
    「ぉ……がた……?」
    「言っとくがまだ地獄じゃねえぞ」
    「また生き残ったかよ」
     杉元は幾分か嗄れた声で不服を口にして体を起こす。剛毅ごうきな性格の男だ。そう簡単に死ぬことは無いし、まだ死なれては困ると尾形は胸中でぼやく。
     伸びを一つした杉元は、凝り固まっていたのか肩を回した。
    「あれ?どこも折れてねぇな」
     杉元は己の体を触診するかのように触れて確認する。
    「あ?何の話だ」
    「いや、こっちの話」
    「それで、獲物は見たのか?」
     釈然としない表情の杉元から視線は外さず、尾形は再度シガレットケースを取り出す。今度は本物だ。
    「見てない。というか、姿を見せないようにしていたな。今回マジで大アタリ」
     尾形は咥えた煙草に火をつけて、溜息と共に紫煙を吐き出した。稜線を描く煙は清潔な香りを阻害していく。
    「振り出しか」
     ――見てないなら人か動物霊かも見当つかねえな。
    「俺もう疲れたから、さっさと帰っていいか?」
     憔悴した表情を見せる杉元が、サイドテーブルに備え付けてあるライトのスイッチを入れる。漫然とその様子を眺めていた尾形が、光に照らされた杉元を見て双眸を見開いた。
    「なに?」
     その視線に気が付いた杉元が問いかけると、尾形は弾かれたように立ち上がり、ベッドへ乗り上げ杉元を押し倒した。通常であればそう簡単に力で負けない杉元も、不意の出来事と消耗戦の後では容易く寝具に縫い付けられる。
    「おい!なにすん――」
    「これどうした」
    「――は?」
     尾形の節くれだつ指が杉元の首に触れる。息を飲む動きがその指に伝わった。
    「これ、ってなんだよ」
     訳も分からず押し倒されて、動揺したのか杉元の声が僅かに震える。
    「見えねえのか――って言っても首じゃあな……」
     尾形の視線が今度は杉元の手首に移った。次いで、その手首を掴んで彼自身の目の前に晒す。
    「これだよ。しっかり付いてんじゃねぇか。痣が」
    「な――」
     照明の柔らかな光に照らされた杉元の手首には、くっきりと人の指の痣が浮かぶ。それは先程までの出来事を思い出させるに十分な効果をもたらした。
    「やつの正体を暴く証拠の一つとしてはまずまずだな」
    「は?暴く?アレはさっきので消えたんじゃねぇのかよ」
     杉元は訳が分からないといったふうに尾形を睨めつけた。
    「あの札は一時的に怪異を弾き出す道具だ。祓ったワケじゃない」
    「じゃあ……」
     杉元の顔が明らかに憮然とした表情に塗りつぶされていく。
    「依頼は続行だ」
     薄明かりに照らされた尾形の目が、口が、愉悦で撓められた。
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