ただ、呟いただけ(言えるはずがない) 佐々山を亡くして以来、狡噛は人が変わってしまった。潜在犯堕ちして執行官になったのもそうだが、彼はあのお人好しな男を、猟犬として有用だった男をトレースするようになってしまった。煙草も酒も、もしかしたら女も。それでも俺が落ち着いていられるのは、彼とまだ寝ているからだった。もし寝ていなかったら、全てを共有していなかったら、それこそ発狂していたかもしれない。そんなものにすがるなんて、馬鹿げているのかもしれないけれど。
セックスを終えて狡噛の部屋を持する時、俺は何も言わない。狡噛は俺に何も言わないし、これまでのように甘い言葉もくれない。それどころか俺を突き放そうとする。なのに俺を抱く。執行官は不自由な身柄だからかもしれない。理由などないのかもしれない。これまでの地続きで抱いてくれているだけなのかもしれない。それでも、俺は狡噛が寝てくれていることに救われていた。
831