色物三撰・相談 case2/玉道の場合「道徳よ。楊戩の、運動競技の相手をしてやってはくれないか」
「やあ、玉鼎! スポーツとあらば、喜んで!」
「助かるよ。私にも付き合える部分はあるのだが、あの子が今研鑽したいのは、どうも、天然道士レベルの身体能力の再現らしくてね」
そんなやりとりをしながら、思い出すのは遠い日の出来事。今も続くその習慣は、記憶共々褪せることはない。
その日も玉鼎は、道徳のもとを訪ねた。頼まれたのは、こんなこと。
『…何か、幼い弟子と一緒に親しめる運動など、知ってはいないか』
彼のもとに最近幼子が弟子として迎えられたらしい、ということだけは知っていた。どんな子でどんな名か、子細は聞かされていないけれど、道徳にとって必要な情報は三つだけ。一つ、玉鼎が自分を頼ってきた。二つ、彼には幼い弟子がいる。三つ、彼は、その幼弟子と親交を深めたいらしい。これだけで、じゅうぶんだ。
『そうだね…音楽に合わせて行なう体操なんかはどうだい』
『音楽に?』
『ああ! 私も、弟子とやっている! 太乙の開発した音声再生機・ラヂカセくんのしらべに、私と雲中子とで効率的で楽しい動きをあてた、というわけさっ!』
スポーツ科学!!という文字が彼の背後にどーんと現れる気配を肌にぴーんと感じて、玉鼎は眼を少し擦る。なるほど、ものは試しという。
『では、その体操を、教えてはくれないか』
『もちろん、喜んで!』
それじゃあ、スイッチオン! 筋トレのマーチ!
道徳のその声とグローブ越しの指に応えるように軽快な音楽が流れ出す。道徳が動きながら説明をしてくれる。
『行進曲に合わせて楽しく大きく足踏みをしながら、だんだんダイナミックに、体を動かしていくよ!
回って回って大きく回って、逆に回って回って回る。それからバランス。ぴーんと伸ばしてストップ!
どうだいっ、体を動かす楽しさが、弟子に伝わりそうだろう!』
それじゃあオイッチニ、サンシ。♪筋肉は 歩いてこない だから作って行くんだぞ~
歌いながら心底楽しそうに動く道徳のさまに、玉鼎は観て覚えるだけのつもりが思わず、体を動かしていた。回って、回って…回って回る。バランス。なるほど、これは、楊戩との良い交流になりそうだ。
『ラストっ! ゆっくり深呼吸をして、ふうっと、脱力~ ぴーんと手を伸ばして、良い背筋で、おしまいっ。
…うん、いい背筋だねっ、相変わらず! きみの背筋が、人柄そのままで、私はとても好きだ』
満面の笑みから一転、はにかみ。どきんと、跳ねた心臓は、いつだって冷静な呼吸をわずか速めるのだ。
『…そうか。私も、お前が好きだよ』
ありがとう、道徳。そんなことばが、今再び、よみがえっては日常として放たれる。
終