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    ti_zuke_ki1111

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    人魚パロサマイチ

    どうしても続きが書けない。ラストシーンの構想はあるので、頑張って書きたいと長年思ってはいる。

    「兄ちゃん!!」
    「いち兄!!」

    最後に聴いた弟達の声が耳にこびり付いて離れない。
    サブローが陸地を見てみたいと言ったので浅瀬で泳いだのがいけなかった。夜は人間が眠っている時間だから。その油断が俺ら兄弟を引き裂いた原因だ。
    もう少しで水面というところで、俺と弟二人の間に網が広がった。そう思ったらすぐ様弟達に網が絡まりそのまま水面へと上がっていった。
    必死に網の隙間から手を伸ばし、弟達の手を掴もうとした。しかし網の紐に触れた箇所からビリビリと激痛が走った。咄嗟に網から離れた。それは弟達も同じのようで悲鳴を上げながら網から離れていった。
    どうやら、導線が仕組まれている網を使っているようで、網から電気を流して感電させているらしい。
    それでも俺は必死に弟達に手を伸ばした。網に触れて激痛が走ったが、悲鳴をあげながらも無我夢中で弟達を救おうと手を伸ばした。何度も電流によって網から弾き飛ばされたが、それでも果敢に食らいついた。
    しかし、何度目かの電流を食らった時、フッと意識が遠のいていった。力が抜けていく。あぁ、弟達が俺を呼んでる。行かなきゃ、行かなきゃ…


    目が覚めた時、イチローは海底に沈んでいた。魚達が心配そうにイチローの周りを囲んでいた。大丈夫だ、心配してくれてありがとう。そう言って魚達の群れから抜け出した。
    イチロー達の様な人魚は海の中では珍しい存在で、海の生き物達は人魚達に好意的な印象を抱いている。もとより、人魚は汚染された海水を浄化する機能が備わっており、人魚が通った後の軌道は綺麗な海水になる。
    また、人魚は魔力を持っている。特にイチロー達の種族は強い魔力を持っており、唯一人型に変体が出来、人間のように陸地で生活が出来る。
    イチロー達の種族は争いを好まない温厚な性格だが、その強すぎる魔力の故に迫害の対象となっている。そのため、一つの場所に拠点をおき、文化的に繁栄する他の人魚の種族に対して、イチロー達は転々と住処を移し、家族単位の少人数で生活をしている。
    イチロー達も数年前までは、両親と3兄弟の5人で広い大海原の中を転々としながら暮らしていた。
     しかし、出かけると言ったきり、両親は戻ってくることはなかった。それから数日後に両親の気配が完全に消えたのでイチローは両親の死を悟った。
    イチロー達家族は強い繋がりを持っているため、どんなに遠くにいてもお互いの気配を感じることが出来る。
     人魚の死因は様々だが、恐らく、海流に飲み込まれて亡くなったのだとイチローは思うことにした。せめてここ一体を拠点にしている人魚達に襲われた、ということであってくれとイチローは願った。もう一つの可能性はあるがそれは考えたくない。それは人間に捕らわれ殺されたというものだ。
    人間は人魚を嗜好品として売り捌く。それは観賞用として生きたままであったり、鱗や髪、血肉を、不老不死の薬などと謳って売り出したりするそうだ。その薬の為には生きたままの方が効果的であると勝手に人間達は決めつけて、生きた人魚から無理矢理剥ぎ落とす。余りにも残酷だ。せめて死に場所はこの大海原であって欲しい。人間達によって作られた小さな水槽の中で死んで欲しくはない。それはイチローのささやかな祈りだった。
    人間は残酷な生き物なのだ。そんな人間達に捕らえられた弟達はどうなるのだろうか…考えただけで震えが止まらなくなる。イチローは立ち止まって自分を守る様に両腕で自身を包み込んだ。大丈夫だ。まだ希望はある。ジローとサブローの気配が薄っすらだが感じる。まだ生きている。兎に角一刻も早く助けに行かなくては。
     イチローはすぐ様弟達の気配の感じる方へと向かった。
     
    「ジロー、サブロー、待っててくれよ。兄ちゃんが絶対助けてやるからな」

     イチローが放った小さな決意表明は、広い海の中に消えていった。

    -------


    「おお〜、こりゃまた綺麗な人魚ちゃんじゃねーか。若くて肌艶はいいし、何よりも綺麗な目ん玉してやがる。こりゃ高く売れっぞ」
    「へへ、絶対にあの王様の好みですぜ、兄者!」


     狭い水槽越しに、下卑た笑いをしている二人組の男達をイチローは見ていた。
     今のところ順調だ。イチローはオークション会場の控え室で、オークションに出品されるのを待った。

    -------

     イチローが弟達の気配を辿って辿り着いたのは、とある国の王宮だった。
     イチローは人間に変態し、通行人から追い剥ぎをした服を着て、王宮の周りを偵察をしていた。
     やはり王宮とあって警備は厳重で武器を持った警備員があらゆる門という門に複数人付いている。それだけではなく、監視カメラや、センサーらしきものもあり、セキュリティが張り巡らせている。王宮の一部は観光用に開放されているが、その入り口を見ると、チケット、身分証の提示と手荷物検査が観光客に義務付けられている様だった。
     追い剥ぎした観光客から金と身分証を盗めば良かったとも思ったが、流石にそこまでするのは良心が痛んだ。それに、弟達の気配は王宮の中枢部、この国の王が生活をしている場所に感じるのだ。とてもその様なプライベートな空間を、観光用に開放しているとは思えない。イチローは早々と観光客を装って潜入するのを諦めた。
     イチローは王宮の情報を集める為に観光客のふりをして街の人から聞き込みをした。何か王宮に潜入する糸口を見つけようと小さな事でもいいから知りたかった。
     

     聞き込みを進めると、この王宮の事が大体分かってきた。
     まず、この王宮の主、つまりこの国の王はサマトキと言うらしい。歳は25。王になったのは23の時。若くして王になったのは、不幸にも両親の死だと言う。
     王になった時はその若さ故に反発する者も多かった。しかし、銀髪の眉目秀麗で長身の容姿から放たれる威圧に、周りが慄き、反発する声は少なくなっていった。それに、サマトキの統治は素晴らしく、外交で国の経済を栄えさせ、民の税もそれに伴って減らして理想的な政治を行った。
     サマトキの政治的な才能を民衆は認め、あっという間にサマトキの人気は高まった。今では、サマトキの非公式ファンクラブが存在し、それなりの会員数を誇っているらしい。
     サマトキの容姿の良さからサマトキの写真やグッズが蔓延している様だが、本人は気づいてないだろうと飲み屋の店主は言っていた。
     余談だが、サマトキは幼少期に警備の目を掻い潜って王宮の外へ出て行ったらしい。それも頻繁に。それだけ脱出スキルが高かったらしく、サマトキが若くして王になった今、前以上に警備体制を強化していると言う。それを聞いて少し笑った。この厳重な警備が、外部から侵入ではなく王様の逃亡防止が目的なんて。勿論、実際はその両方の役目を果たしているのだろうけれど。
     しかしそんな英雄の様な王様にも、黒い噂がある。それは人魚のコレクト癖だ。
     それを聞いた一郎は、虫唾が走り、サマトキに対する憎悪が増した。やはりこの王様が弟達を苦しめているのだ。
     噂によると、サマトキ自らオークション会場に訪れ、人魚を落札していると言う。その落札した人魚の鱗で美しくなれる薬を作って飲んでいるのだろうと。だからあんなに端正な容姿なのだろうと。
     後者は王様の容姿に嫉妬したものが作り上げた出鱈目だろう。何故なら人魚の鱗に美しくしたり若返ったりする成分なんてない。人間の世界では科学が進んでいるようだが、人魚の研究は進んでいないのだろう。人間に対して人魚の数は少なく、人魚も人間に対しての警戒心が強くなかなか捕まらない。また、その希少性から信仰の対象にする地域もあり、人魚を捕獲する事を反発されて、研究が進んでいないと昔聞いた事がある。
     ん?誰に聞いたのだろうか?なんとなく両親ではない気がするが…まあいいか。
     しかし、鱗で薬を作っている可能性はある。人魚は人間からすると謎めいた存在であり、その神秘性から、根拠の無い出鱈目を鵜呑みする輩がいるからだ。そいつらに若返りの薬と謳って売れば、高値で売れるだろう。
     この噂を聞くと吐き気がしたが、イチローはその噂について聞き回った。弟達の救出の作戦を思いついたからだ。その作戦は自分がワザと捕まって、サマトキに落札され、王宮に連れて行かれた時に、弟達を助け出して一緒に脱出すると言うもので、所謂囮作戦だ。
     その作戦を練るべく、イチローはオークション会場の場所と人魚を捕獲している組織について聞き回った。
     結果として、人魚を捕獲している組織に関しての情報は出なかった。だが、オークション会場の場所は分かった。この街の最西端にある海沿いの広場だ。そこにサーカス隊の様なテントを貼り、夜中にひっそりと行われている。そこでは人魚や絶滅危惧種の動物、時には人間もオークションにかけられる、外道なものだった。だが最近は人間や人魚がオークションにかけられるらしい。何故なら王様がこの会場だけで人間や人魚を高値で買い、その為オークションに出品する業者も、この会場には人間や人魚を出品するらしい。
     ならば人魚であるイチローは、サマトキのいるオークション会場に斡旋されると言う訳だ。闇オークションの会場は世界中に沢山ある。サマトキに落札されないと意味がないため、サマトキがよく利用する会場とその会場を利用する組織についての情報を集めようと思ったが、組織を限定する必要が無いため、組織の情報収集は早々に打ち切った。本当は聞き込みの裏付けを取った方が良いのだろうが、弟達の命が掛かっている。事は一刻を争うのだ。


     イチローは情報収集を行った夜に、捕獲される為に、ジローとサブローが攫われた浅瀬の海を泳いだ。きっと此処が奴らのテリトリーだろう。時間は掛かるかもしれないがきっと奴らは来るだろう。
     イチローの思惑通り、弟達を攫ったのと全く同じ船が現れ、イチローを捕獲した。あの時と同じく電流の流れる網を使って。海面から揚げられる時、いやでも網が体につく。その時電流が流れると身構えていたが、電流は流れる事はなかった。ジロー達は痛い思いをせずに済んだのかと思うとホッとした。どうやら奴らには商品という自覚があるらしく、極力傷物にはしたくないらしい。つくづく胸くそ悪い。
     そして捕獲された次の日にはイチローはオークション会場にいた。


     どうやら、今日はイチロー以外の出品はないらしい。人魚一匹でオークションの採算が取れるほど人魚の価格は高いと言うことか。まあ、早くサマトキに落札されるのだから好都合だ。
     控え室にいるイチローでも分かるくらい、会場が騒めいていて大人数がいる事がわかった。
     そして司会の男の声が聞こえた。いよいよだ。そう思っているとイチローがいる水槽に黒い布が被せられ、会場の方へ進んだ。
     司会者の合図で黒い布が剥がされると同時に会場から感嘆の声が響き渡った。
     その声に自分が商品として見世物にされている事を自覚させられ、気持ち悪いと思いつつ、目的の男を探した。その男はすぐ見つかった。会場の奥の方に見えやすい様高くされたテラスの上に男はいた。高そうな椅子も用意されているにも関わらず、椅子の前に黒のスラックスのポケットに手を入れて立っていた。
     オークションに通っている噂は本当だった様だ。だからそんなVIP対応されているのだろう。
     王様というのに、アロハシャツにスラックスという服装も気になった。変装のつもりだろうか。それならその銀髪と綺麗なお顔を隠さないと意味がないだろうと勝手に思う。
     ふと王様と視線があった。吸い込まれそうな赤色に思わず身体が引きつった。しかし数瞬後にふわりとその赤色が優しく微笑むので、ドキッと心臓が脈打った。
     ふいっと視線を逸らす。ずっと見つめていると頭が可笑しくなりそうだ。それにその瞳に既視感を感じて混乱している。自分はサマトキを初めて見たはずなのに、その優しい眼差しはずっと前にも見ていたような気がする。
     自分の尾びれを見ながら、混乱を落ち着かせようとすると司会者がイチローの説明を始めた。その間ずっと尾びれを見つめていた。

    「さあ、ではお待たせしました。オークションを始めましょう。まずは1000万から…」
    「10億」

     司会者の声を遮ってサマトキの声が会場に響き渡った。サマトキが現実離れした高額を提示したため会場の者達はそれより高値を言う事が出来ず静まりかえっている。

    「…じゅ、10億と出ました!これより高値で落札される方はいませんか?」
    『…』

     司会者の声にだれも反応せず、いや反応出来ずに沈黙が続いた。

    「…で、では誰もいないと言う事で、10億を提示された番号札31番さんに、この人魚は落札されます!おめでとうございます!以上をもちまして本日のオークションは終了いたします!ありがとうございました!」

     そう司会者が言うと会場は騒めいた。おそらく史上最速で最高額のオークションだったのだろう。サマトキの様子が気になり、顔を上げるとサマトキの姿はなかった。
     それに動揺していると、会場の脇からバタバタと走る音が聞こえてきた。

    「イチロー!!」

     顔を上げて会場の脇を見ると息を荒げた左馬刻が愛おしそうにイチローを見つめていた。
     そして一歩一歩近づき、イチローの目の前で立ち止まった。イチローは客に見えやすい様に、高い台車の上に置かれた水槽の中にいた。その為サマトキと同じ目線で至近距離で見つめられて思わずドキドキした。するとサマトキは嬉しそうに水槽に額を擦り付けた。

    「やっと会えた…」

     そう万感の思いを吐き出す様に左馬刻は呟いた。
     イチローは動揺していた。初対面である筈のサマトキに自分の名前を呼ばれたこと。その優しい赤い瞳に覚えがあること。その瞳が大好きだったと頭の何処かから訴えてくる。もしかして、サマトキと会ったことがあるのか…?

     するとサマトキは、イチローに近づいてきたスタッフの者を睨みつけた。

    「おい、コイツは俺のモンだ。さわんじゃねー」

     地を這う様な声にスタッフは慄き、ヒッと小さく声をもらした。サマトキが合図すると控えていた数人の黒服の男達がイチローの水槽の周りについて、ゆっくりと台車を動かした。

    「すまねぇ、揺れるぞ」

     いつの間にか隣に来ていたサマトキが申し訳なさそうに言った。先程まで威圧を出していた男とは思えない態度に動揺した。サマトキに優しくされると心臓のそこからぽわぽわと暖かくなってしまう。

    「ハハ、そんな顔、俺以外がいる時にすんじゃねーよ。妬いちまうだろ」

     どんな顔をしているかイチローには分からなかったが、サマトキの優しい赤色を見つめた。



    ーーーーーーーーーーーー


     一人になりたいと思う事が多かった。王宮の中は退屈だし、何より父と母の喧嘩でうるさいのだ。王宮の使用人達が気を遣って、サマトキと妹のネムを両親から遠い部屋に連れて行くが、その気遣いがかえってサマトキの居心地を悪くさせた。両親は毎晩のように喧嘩を繰り返して、屋敷の空気が重なっていき、それに伴い屋敷の者全員が疲弊していった。
     勿論サマトキだってその一人だ。両親の不機嫌な顔、使用人達のやつれた顔。もううんざりだった。
     だからこうやって、屋敷の者達の目を掻い潜り、王宮を抜け出して誰もいない浜辺に足を運んでいた。

     海は好きだ。穏やかな波の音を聴きながら水平線を眺めていると嫌な事も忘れられる。
     今日も父と母が喧嘩して、屋敷の雰囲気は最悪だった。だから忘れようと思ってここに来た。両親の怒鳴り声も、無理に笑う使用人の顔も。
     水面に浮かぶ月が綺麗で、その歪んだ輪郭を眺めていた。今日は満月で風が殆どなく静かな夜だった。ゆっくりとした波音はサマトキを慰めている様に思えた。
     ボーと水面を見つめているとポチャンという音と共に月影の輪郭の中から、自分より小さな子供の人影が現れた。
     綺麗だと思った。
     身体が勝手に子供の方へ進んで行った。自ずと手を伸ばしながら。
     するとまたポチャンと音を立てて子供は海の中に潜っていった。
     ああ、綺麗だったのに。取り残された気分になって伸ばした手をゆっくり下ろした。気づいたら波打ち際へ近づいていた。

    「ねぇ、何してるの?」
    「うわああ!?」

     ザバーンと音を立てて、いきなり目の前に妹くらいの背丈の少年が立っていた。しかも全裸で。

    「そんなにビックリしなくてもいいのに」
    「いや、ビックリって…てかお前なんで裸なんだ?!」
    「だって人間の姿になったら裸になるもん」
    「人間の姿…?」
    「うん。俺人魚だし」
    「人魚?人魚って人間に化けられるのか?」
    「化ける?まぁ、俺たちは人間になれるぜ」
    「…初めて知った」

     どうやら目の前の少年は人魚のようだ。サマトキは生で人魚を初めて見たが、サマトキの周りの大人が人魚がそれは美しい事を語っていたので知っていた。この国では人魚を見たものは幸福になれるという言い伝えがある。しかし、人魚が人間の姿になると言うのは聞いた事が無かった。

    「オレ、人間の男の子を見るのはじめてなんだ!だから、友達になろうよ!」
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