その口閉じて死んでくれ「あの子は役目をはたしたよ」
穏やかに告げる羊飼いに、真実はどうあれ誇らしさのようなものを見つけられなくて良かったと思った。きっと、殺していたから。
ロマニ・アーキマン。カルデア医療セクションのトップ。所長代理。司令官。甘党。ヘタレ。チキン。テンパりがち。そのくせたまに冷徹。慈愛深いひと。合理主義。どこかずれててでも思いやりのある人だった。カルデアの、私たちの王さま。
私たちが燃やした、羊のあなた。
忌々しい探偵の言うとおり、コラージュした個性など本質には程遠い。
あの時間神殿から帰って、ずっと頭の隅がチカチカと痛かった。
医務室には行かなかった。誰にも言わなかった。罪悪感の幻痛だと誰より自分がわかっていた。
あの人の努力を見ないふりしていた。あの人の笑顔に甘えていた。暖かな眼差し、明るい声、愛していたのに貪るように奪うばかりだった自分。
サーヴァントたちに嫌われているのを知っていた。何度も何度も彼をこき下ろす言葉を耳にした。自身の耳目ではなく経験値の高いだけの初対面の影法師たちを重んじたのは確かに私の罪だった。
毎日、毎秒、憎しみに目が眩む。涙の一つも出ないくせ、乾くばかりの眼球はひどく痛んだ。
少し寂しくなったカルデアは都合が良かった。この目は、耳は、手当りしだいに憎んでしまいそうだったから。
一年半。己の始まってさして経っていない人生のうちですら僅かな、そんな時間があの人と過ごした全てだった。ここにいる誰よりも短い時間が。
祭壇に、歩むあの人を幻視する。
私たちは寄ってたかってその背を押す。祭壇に火を焚べるのは私であり、20人の大人であり、全ての人類だった。
神とは縁遠い人生を歩んできた。もしも自分が敬虔なる信徒だったなら、聖書を諳んじることが出来たなら、あの死を、いと高き主の望みを、尊いものだと思えただろうかと夢想する。しようとする度、脳髄が憎しみに焼かれた。
くだらない。くだらない。くだらない。あんなものが尊きものなら、天国はさぞおぞましい国だろう。口もとが引き攣れるのを、見るものがいないのは本当に喜ばしいことだった。
慰めは耳障りで、嘆きすら胸を引き絞られるように痛んだ。
ああ、どうかどうか聖人どもよ。その口閉じて死んでくれ。